健康診断
BY OH!GIRLの千尋様
サイト開設記念の頂き物
「・・・私、明日はお供をすること叶いません!」
「は?」
真面目な顔でその場に佇む、直江を見上げて
高耶、千秋の両人は呆気に取られた。
良く見ると直江、涙ぐんでいる。
「大袈裟な・・・・」
「どうせ、坊主の方の仕事なんだろ?」
真剣な直江に対し、二人の反応は冷たい。
「いえ、“健康診断”なんです。」
「ふぅん・・・いいんじゃねぇの?」
「今ん所、平穏そのものだからなぁ。」
千秋は自分には関係のない話だと、先ほどまで読んでいた文庫本に目を落とす。
「丁度良い。お前一度脳波でも計ってもらえよ。」
「高耶さん・・・それは私がおかしいとでも?」
「そう思ってるから言ってるんだろ。」
「私はどこも悪くなんてありませんよ。今回も家族の勧めで、行くだけなんですから。」
「ああ、そうだろうな。症状ってのは自分ではわかんねぇんだろうからな。」
「私のどこが悪いと仰るんですか?」
「お前・・・わざとか?さっきも言っただろ?頭だよ、頭!」
「頭は悪いほうではないと思うんですが・・・伊達に生きてませんし・・・」
「お前と話してるとこっちが、おかしいんじゃないかって気になってくる。
いいから脳波計ってもらえ。・・・命令だ。」
「高耶さんの命令とあらば、聞くしかありませんね。」
「最初から素直に聞いとけっての。」
「はい。」
にっこり笑う直江を見て、気恥ずかしくなった高耶は向かいに座っている千秋を見る。
いつの間にやら、騒音妨害とでも言わんばかりに耳にはヘッドフォン。
「おい、千秋。」
「終ったか?」
「これ見よがしに耳栓なんてしてるんじゃねぇよ。」
「痴話喧嘩は聞くに堪えないからな。」
「やめろよ、気持ちワリィ。男同士で痴話喧嘩なんて。」
「違うのか?そこの犬は嬉しそうだぞ。」
千秋は顎で犬(直江)を示す。
高耶が目をやると、痴話喧嘩だなんて・・と頬染めている直江がいる。
「・・・・お前、絶対にどこかイカれてるぜ・・・」
・・・“健康診断”当日。
家族が勝手に予約を取った、大学病院に向う直江。
指定された服に着替えると
血液検査から始まり、MRIや胃カメラと検査をこなしていく。
「橘さん、検査の結果から言いますと異常は見当たりませんね。」
「そうですか。」
「ですが、気にかかる症状などあるようでしたら、お聞きしますよ。」
「私は異常は無いと思うんですが、友人が・・・」
「ご友人から見て、心配な点があると?」
「心配・・・?そうか、そうだったんですね。高耶さんったら。ふふふ・・・」
「・・・橘さん?」
「あ、すいません。いえ、友人が言うには一度脳波を計ってもらえと。」
「脳波・・・ですか?」
「はい。」
「・・・少し準備に時間がかかりますが、お待ちいただけますか?」
「待ちます。命令ですので。」
「・・・・・・命令・・・・そ、それじゃあ、一度待機していただいて・・・」
「承知しました。」
自分から脳波を計ってくれと言い出した上に、嬉しそうな顔をしている
直江を見て、医者は傍にいた看護師に囁いた。
「検査の手配を・・・それから、男性の看護師の応援も頼む。」
「それじゃあ、橘さん。」
「ここに横になればいいんですね?」
「はい。気持ちを楽にして・・・」
いろんな機械が並べられた横に置かれたベッド。
そこに横になると、直江は静かに目を閉じた。
“高耶さん、心配なされなくても私は正常ですよ。”
脳裏に高耶を思い浮かべて、思わず口の端が上がる。
看護師はそれを見逃さず、医者に報告する。
「機械を取り付けますね〜。じっとしてて下さいよ。」
どこか聞き覚えのある声だな・・・などと思いつつ
直江は脳内の高耶像へ集中を続ける。
「・・・こ、これは!」
「どうした?」
「尋常じゃありません!見てください、先生!」
「・・・確かに・・・・こんな波形見たことがないぞ。」
看護師と医者はひそひそと直江に聞こえない程度の声で会話する。
「これは・・・入院の・・・」
「橘さんの家族に連絡を・・・」
哀れみの目で、医者は直江を見るが
直江は脳内を満たす高耶で幸せいっぱい。
「男前なのに、気の毒ね・・・」
看護士たちの囁きも直江には届かない。
医者は直江を起こし、少し病室の方で休むように言った。
「疲れたわけでもないのに・・・変ですね?」
周りの看護士たちに、愛想を振りまいてから
案内された病室へと直江は消えていった。
「よぉ、千秋。今日は直江、まだ来てないのか?」
「心配か?」
薄笑いを浮かべて、千秋は高耶を見る。
「馬鹿か。そんなんじゃねぇよ。健康診断って昨日だけだろ?」
「・・・帰ってこれねぇかもなぁ・・・」
「どういう意味だ?」
「ほら、お前言ってただろ?脳波のこと。」
「・・・冗談だろ。まさか本当に引っかかったんじゃぁ・・・」
高耶の顔が青ざめるのを見て、千秋は辛抱たまらず笑い出した。
「な、なんだよ。いきなり。」
「その通りなんだよ!あいつ、異常な脳波で入院中だ。」
「そっか・・・。やっぱりおかしかったんだな。」
「その内、自力で出てくるさ。」
「まあ・・・・そうだろうな。じゃあ、放っておくか。」
何故、千秋が連絡も取れない病院に押し込められている
直江の状況を知っているのかには
疑問を持たない高耶。
お得意の暗示で、病院に潜り込んだ千秋によって
直江の脳波は乱されたと言うのに。
「おのれ・・・・長秀・・・・・」
その頃、直江は鍵のかかった病室で
検査中に聞いた、声を思い出すと千秋へ念波を送っていた。
もちろん、恨みの・・・・・
END
お礼の言葉
ありがとうございます、師匠。
ホントに直江、アホですね。
ここまで直江をアホに書けるように精進します。
なむ〜。