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*~*喫茶直江*~*

 

 

「高耶さん、お店を手伝って下さるのはありがたいのですが、
あなたには学校があるんですから、どうか学業を優先して下さいね」

今日も午後の授業もそこそこに、働いている高耶である。
最近特にここにいる時間のほうが長くなってきているのを、
直江は心配していた。

「おまえ1人じゃ大変だろ」
「譲さんから聞きましたよ。明日数学のテストがあるんでしょう?」
「げっ、譲のヤツ余計な事を…」

思わず高耶が顔をしかめる。

「なんならお店が終わったら、勉強を見てあげましょうか?」
「おまえが?」

直江の顔をマジマジと見る。
そんな高耶に軽く微笑んで、

「はい。あなたさえよければ泊まり込みでも構わないんですよ」

その言葉に一瞬言葉を失って、

「それこそなんの勉強されられるか、わかんねーだろうが!」

思わず向きになって叫ぶと、

「おや、それはどういう意味でしょう?」

直江もワザと白々しく問い返す。

「お・ま・え・なー」

照れと怒りで高耶の顔は真っ赤になった。
すぐ感情が顔に出てしまう高耶の反応を見るのが、直江には楽しいようである。

そんな2人のやり取りに割って入るかのように、
ドアが開いた。
お客だと思って、

「いらっしゃいま……っ!」

応対しようとした直江の顔が急にこわばったので、高耶もドアに目をやる。

「高坂!」

黒い艶やかな髪を掻きあげて、美貌の青年が不敵に笑いながら立っていた。
思わず直江が高耶を背に隠すように立つ。

「直江…」
「武田の家臣が、わざわざこんなところへなんの用事だ?」

直江の問いには答えず、

「ほう、上杉はよほど余裕があると見える。まさかおまえにこんな趣味があったとはな」
「ひやかしにきたのかよ」

直江の背中越しから、高耶がキッと睨み付ける。

「これは景虎殿もご一緒ですか。ご主君までエプロンを付けてお茶汲みあそばされるとは」
「高耶さんへの侮辱は許さないぞ」

今までふてぶてしい態度を見せていた高坂が、急に何かを思い出したように、

「今日は貴様らと遊んでいる暇はないのだった」

そういうや否や、脇に抱えていた茶封筒やらファイルやらを
ドサドサテーブルに広げだして、

「しばしここを借りるからな」

そういうなり、いきなり何かカリカリ書き始めた。
思わず顔を見合わせる直江と高耶。

「もしかして、大学のレポートなのか?」

上から覗き込んで直江が聞く。

「なぜ分かった?」

驚いて高坂が振り向く。

「おまえも一応大学生だったなと思ってな、“新井公彦くん”」
「その呼び名はやめろ!」
「そんなの自分の家でやりゃいいじゃんか」
「ええい、貴様ら邪魔をするな。自分のアパートやお屋敷だと、
何かと用事を言いつけられて、ひとつもはかどらないんだ」
「だからといって、ここに来なくてもいいだろう」

呆れ顔の直江に、

「我が優秀な鵺も、よもやこんなところに来てるとは思わないであろう」

ところがそうでもないようである。
しばらくして、

「高坂様、お館様から至急お屋敷にお戻りになられますよう、仰せつかりました」

優秀すぎるのも、時に難点である。

「1時間、いや30分でいい。もう少し見つからないことにしておいてくれ」
「それは困ります、高坂様。すぐにお戻りを」
「だってさ、早く帰れよ高坂」
「主君の命には逆らえないだろう」
「このレポートを明日までに提出しないと、単位を落とすかもしれないんだ。
おまえたちもなんとか言ってくれ」
「あきらめるんだな、弾正」

ずるずる引きずられるように、店を後にした高阪を見送って、

「さあ、高耶さんも。今日は早くお店を閉めて勉強ですからね」
「ええーマジで!?」
「ああはなりたくないでしょう?」
「そうだけど、でもよ…」
「問題が解けなかったらおウチに帰してあげませんからね」
「そんなー」
「私はそれでも別に構わないんですけどね」
「絶対帰る!」
「ふふ」
「おまえ、顔がこわいぞ」
「そんなことありませんよ」
「げ…」

 

END

 



続く