ラブホでゴー


いりこ様キリ番リクエスト



 
   

直江とラブホに行きたい!これが当面のオレの目標だった。
それを実現するためにこう言ったら「イヤです」と一刀両断されてしまってケンカになって一晩家庭内別居状態だ。
こうなったら意地でも「うん」と言わせてやるぞー!!

 

「このまえ行ったラブホがさ〜、すっげえ変わってて〜」

ちょっと前の話だ。同じゼミの友達数人で昼飯の時に、そんな話題が出た。

「どんな?」
「竜宮城になってんの。ベッドが亀なんだよ。内装も竜宮城チックで柱とか赤くて、ちょー笑ったよ」
「あ、俺もこの前変なラブホに行ったぜ。ジャングルっぽくなってんだよ。天井からブランコとか吊ってあって」
「仰木はそーゆーのねえの?」

答えに詰まった。行ったことないから。

「あー、オレ、ラブホ行ったことねえんだよ」
「マジで?いつもどこでしてんの?」
「ウチとか、普通のシティホテルとか」

車の中とか、夜中の公園とか、ビルの屋上とか。って、なんだこれ、変態か、オレたちは!

「たまには気分変わっていいからラブホ行ってみれば?」
「そーだよ、彼女だって行きたいかもしれないし」
「あ、うん」

話を聞いてみたら面白そうだからすっげー行きたくなった。プールがある所もあるそうだ。
そんで直江に聞いてみた。しかし!!

「イヤです」
「なんで!」
「そんな誰が何を出したかわからないようなシーツや、何が落ちてるかわからない風呂なんかある所にあなたを行かせたいわけないでしょう?」
「いいじゃんか、そんなの。オレは気にしないし」
「私が気にするんです」
「ケチ!」
「そういう問題ではありません」

頑固な直江にムカついてケンカになった。そんで、家庭内別居したわけ。

 

 

家庭内別居翌日、オレは怒ってるふりして朝飯も弁当も作らずに、しかも顔を合わせないようにして大学へ行った。直江よりも先に家を出て、余った時間を構内のカフェで過ごしていたら売店の雑誌に目が行った。
娘さんが買うような雑誌でラブホ特集をやっている。いつもだったら恥ずかしくて買えないけど、今日はそれを平然と買って
テーブルで見ていた。

最近ではテレビゲームやカラオケが充実したラブホもあれば、コンセプトをちゃんと作って楽しめる部屋ばかりをそろえてる
ラブホもあるそうだ。
昔懐かしい回転ベッドだとか、開いた貝の中にあるベッドだとか、ちょっと趣向を変えてSM部屋なんてそんなのもある。

直江とエッチするならどんなのがいいかな〜って考えて、あのエロ魔人のことだから和風なんか燃えるんじゃねーかと探していたらあった。ありましたよ!
よく読んでみるとその部屋は赤い格子の小さな牢屋もあってあの変態野郎にはピッタリすぎて怖くなった。やっぱ却下。

そうやって時間を潰していたら直江からメールが入った。

『今朝はどうしたんですか?まだ昨日のことを怒ってるんですか?』

って。当たり前だ。オレがあんなに行きたい行きたいって言ったのに頑なに断り続けてたんだから。
こんなにワガママ言ったの初めてなのにさ。
メールを無視して時間になったから教室に向かった。家庭裁判所の調査官になるべく勉強しているオレは心理学の講義も受けている。
今日はひきこもりの拒否反応に関しての講義だった。

「というわけで、拒否とは肯定の裏返しでもあるわけです。一度肯定してしまったら二度と拒否できないから、という理由で拒否を続ける心理というものがあり、そしてそれと一見反対に見えますが同じ作用として、一度拒否したら肯定できなくなってしまうのも引きこもりの特徴です」

なるほどな。もしかしたら直江の心理状態を当てはめられるかもしれない。一度肯定させたらハマるってわけか。
だったら是非ともハマって頂かなくては!

 

 

この家庭内別居を利用して直江をビクビクさせることにした。オレを怒らせたらどうなるかあいつが一番わかってるはずなのにまだわかってないのか。駄犬め。
あれからメールが何件か来たけど全部無視して、夕飯も作らないことにして何も言わずに友達と居酒屋で飲んで帰った。
どうせ明日は土曜で直江もオレも休みだし、一晩ぐらい食わなくても直江も飢え死にしないだろう。
帰ったら直江がものすごく不機嫌そうにしてソファに座り、ローテーブルの上の灰皿にタバコを押し付けて消した。灰皿には
1箱分ぐらいのタバコの吸殻があった。
それすら無視して自分の部屋に入って着替えを出して、風呂場に行った。

「高耶さん」

風呂場に向かう途中で直江に呼び止められた。よし、ここで直江が謝るのを待って…

「どこに行ってたんですか。こんなに遅くまで」

まだ10時だけど。いつもオレは直江が帰るまでには家にいて夕飯を作って待ってるからそりゃ10時つったら遅いかもしれないけどちょっと心狭すぎねえ?

「どこだっていいじゃん」
「…もしかして、浮気してたんじゃ…ラブホテルに行きたいからって別の男と…!」

やっべー!グルグルしてやがったのか!ああ、忘れてた!直江はグルグル回転野郎だったんだっけ!
こいつ回転し始めるととんでもないことまで想像して妄想して最後には泣き出すこともあるからな〜!!んでオレがいっつも
苦労させられるんだよな〜!
てゆーか、なんで「別の男」なわけ?普通「女」じゃねえのか?

「高耶さん…!」
「あ、あの、直江…」
「だから帰ってすぐに風呂に入るんですか?!だからメールにも電話にも出なかったんですか?!」
「そうじゃなくて…」
「じゃあなんなんですか?!」

うわ〜、めんどくせえ!うぜえ!
こんな男の心理状態なんか誰がわかるってんだよ!もしこいつをカウンセリングできる医者がいたら会ってみてえ!
てか絶対いねえ!

「なんです、その顔は!俺に浮気がバレたのを失敗したって顔ですよ!」
「そうじゃないってば!」
「じゃあ証明してごらんなさい!」
「できるわけねーだろ!証明って何しろってんだよ!」

そしたら直江はオレの服を脱がせにかかった。バカじゃねーのか、こいつ!すぐコレだ!

「おい」
「…………」

オレは久しぶりに景虎様になった。おとなしくしてりゃいい気になりやがって。

「てめえ、どっちが主人かわかっててやってるんだろうな?」
「……申し訳ありませんでした……」

急に景虎様になったオレに気付いて、直江はシャツを脱がせようとしていた手を止めて固まった。

「いいか?おまえが浮気するのは許さないが、オレが何をしようがおまえが口出しする権利はないんだぞ」
「……ですが」
「面倒だから先に言っておくが、浮気はしてない。よく考えろ。おまえは主人を疑って、あまつさえ襲おうとした。これが意味するものはなんだ?」
「…反逆罪…でしょうか…?」
「そうだ。おまえには罰が必要だな?」
「はい…」

そこでオレは思いついた。直江への罰を。うっひっひ。

「だったら……そうだな…ラブホに連れていけ」
「はあ?!」
「黙れ」
「はい……」

よっしゃー!ラブホゲット!!
やっぱ直江には心理学よりも景虎様が一番有効だってこったな!!

「んじゃ決めようぜ。ほらほら、コレ」

購買部で買った雑誌をテーブルに広げてページをめくっていく。直江が好きそうな和風とSMはなるべく見せないようにして。
一緒に選んでるうちに直江も興味を持ってきたみたいで「へえ」とか「ふうん」とか言い出した。

「もしかしてラブホがどんなとこか知らなかったわけ?」
「ええ、行ったことありませんし」
「よく2時間ドラマとかで出るのに」
「見ませんから」

そういえば直江はオレが火サスとか見てても風呂に入ったり、隣りで本とか新聞とかオレとか見てるからドラマ自体はそう見てないんだな。
友達からもどんなのか教えられなかったのかって聞いたら、そうゆう話をする友達はいないんだって。
まあな〜、直江だもんな〜。

「ちょっと貸してください」

雑誌を取り上げられてしまった。どうやら興味津々になってきたみたいだ。やったね!

「ああ、ここなら行ってもいいですよ」

そう言って見せたページはやっぱり和風だった。

「この牢屋にあなたを閉じ込めて一晩見つめるだけっていうのもいいですね。もちろんあなたは全裸ですけど」
「…この変態が…一晩見つめるだけでガマンできるならやってみるか?」
「ええ、やってみましょうか」

その部屋は予約ができるとか書いてあったからさっそく直江が電話した。最近のラブホは進んでるな、ってオレは行った事ないけど!
でも予約は泊まりオンリーだった。今日はもう満室だから明日なら空いてるんだって。

「どうします?」
「行く!明日泊まる!」

そして決戦は明日に持ち越された。

 

 

決戦の土曜日、夜。チェックインは夜8時。
直江の運転で某駅前のラブホ街に着いた。車で入れるとこだけどフロントには行かなきゃいけない。最近は人に会わずに入れるラブホってのがあるようだけど、ここはそうではないらしい。男同士で入るのは禁止だったり、そうでなくても他のカップルと鉢合わせしたら気まずいから、それを見越して女装をした。気合を入れてねーさんに服を借りたのだ。
直江とラブホに行けるなら女装なんか屁の河童だ。

「なかなか似合いますね」

直江は家を出る前からクスクス笑ってやがる。気に入らないがそれでもラブホは魅力的なわけで!
ねーさんに借りた服は黒い綿のロングスカート。白いシャツとローファーは自前だ。ヅラ(ウィッグってゆうのか?)と帽子も貸してくれた。だいぶ笑われた。
ストレートのおかっぱ頭(ボブってのか?)のヅラに白いシャツに黒のロングタイトスカート、ローファーの組み合わせが一昔前の純情女教師みたいだと直江は腹を抱えて笑いを堪えていた。

フロントのオバちゃんをうまく誤魔化して(身長は直江のおかげで遠近感が出て気にされなかったようだ)部屋に到着。
純和風。
入ったところは旅館の茶の間みたいになってた。
そこでヅラを取ってスカートを脱いでシャツとパンツだけの姿になる。ああ、スッキリした!

「直江、茶入れろ」
「はいはい」

直江が茶を入れてる間に奥の部屋を探検した。襖を開けるとそこにはダブルの婚礼布団が敷いてあった。行灯タイプのランプがあってその光が赤ってゆーかピンクってゆーか、とにかくエロい色に灯ってた。
うわ〜!ちょーいかがわしい!
そしてその部屋の隅っこには。

「牢屋だ…マジであったんだな」
「なんですか?」
「牢屋。ほら」

その牢屋は雑誌で見たよりも小さくて男がひとりで座って入れる程度だった。で、かんぬきがかかってた。安全のために鍵は使ってないみたいだ。格子もかんぬきも赤くてエロい〜!!

「直江、直江、おまえここ入れ!」
「私がですか?!あなたが入るんじゃないんですか?!」
「いいから!」

無理矢理押し込んだら犬小屋みたいになった。まだ服を着てるから赤い牢屋に入っても滑稽なだけでエロくもなんともなかった。
しかも直江に赤い牢屋は似合わない。

「あっはっは!」
「もう出ていいですか?狭苦しくてたまりませんよ…」
「ダメ!なあなあ、今晩はコレもいいかもな。オレが直江をずっと見てんの」
「面白いんですか、そんなの…」
「ああ、笑える。一晩中笑えるかも」
「笑いに来たわけじゃないんでしょう?」
「いや、ラブホに入ってみたかっただけだから。もう全然OK!」

そしたら直江は内側からかんぬきを抜いて出てきてしまった。つまんないの〜。

「で、どうします?一晩中笑いますか?」
「いや、やることやるぞ!」
「そうですか…」

とりあえず雰囲気のあるヒノキの風呂に入ってシャツだけ着て戻った。次は直江。
直江が風呂に入ってしまって退屈だから内部を細かく観察することにした。
部屋と風呂場の間の壁に飾りかと思ってた木の雨戸みたいなやつがあって、飾りかと思いながらも取っ手がついてるのが気になって開けてみた。

「……コレは」

マジックミラーっつーやつだった。中で直江が裸んぼになって体を洗ってる。直江はコレに気付いてないようで鼻歌なんか歌いながら丹念に隅々まで洗ってた。
なんていい体してるんだろう!すっげーエロい!ああ、そんなとこ洗って、直江ってば…!
オレは窓にへばりついてずーっと見てた。オッサン丸出しなオレってどうよ?!

直江が風呂から出る時に慌てて雨戸っぽいのを閉めた。直江のシャワーシーンを見ちゃったもんだからもうやりたくってしょうがなくなって、オレは再び慌てて牢屋に入った。そこで直江を待つ!

「高耶さん?」

返事はしない。だって囚人だもん。色っぽく、悲哀に満ちた顔で囚人やってないと。

「どこですか?高耶…さん…」

ようやくオレを見つけた直江はビックリして目を丸くして頭を拭いてたタオルをハラリと落とした。いいぞ、いいぞ〜!

「なおえ…」
「…たッ…高耶さん!」

シャツだけ着てるからお尻丸出しで、牢屋に閉じ込められてるオレ。それを見た直江がどんな反応するのか楽しみだったんだけどオレの予想を上回ってエロモードに入ってくれたようだった。
突進してきてかんぬきを開けて(突進で腰のバスタオルが落ちて、エンジン全開の息子さんが見えた)狭い牢屋に上半身だけ入れて、そのまま押し倒されて格子の影の中で、硬い床の上で、した。
うっひっひ。

 

 

その後は布団の中だとか窓際だとか風呂場だとか玄関だとかでして(やっぱ変態みたいだ)大満足の週末が終わった。
オレの心理作戦はうまくいったわけだけど、困ったことが一個ある。
直江がラブホにハマりすぎてしまった。
毎週毎週どこかのラブホを調べては連れて行かれる。友達が話してた竜宮城にも行ったし、ジャングルにも行ったし、プール付きにも行ったし、あと残されてるのはSMだ。それだけは避けたい!が!

「今夜は六本木のあのホテルですよ♪無理言って銭掴ませて予約しちゃいました」

……もうイヤだ……。

 

 

END

 

あとがき

いりこさんからのリクエスト。
「みんな行ってるから!!」という理由で
ラブホに行きたがる仰木(ギャグ気味で)
というのを頂きポンチ。
こんなんで良かったですかね?