どうあっても直江はオレとエッチする気はないらしい。
景虎と高耶の話は難しいから置いとくとして、直江のヤローはオレが何を言おうが何をしようがノーサンキューだってんだな。
どうしたもんか。
大学の食堂で後ろの席に座った男どもがこんな話をしてた。
「最近さ〜、俺、彼女とセックスレスなんだわ」
「へー、なんで?」
「うーん、たぶんお互いに飽きてきたんだろうな。浮気でもして新しい刺激を求めっかな〜」
オレは最近どころかずーっとセックスレスだ。
つーか一回もやったことない。羨ましい話じゃねえか。
「けどこの年でセックスレスなんて情けなくねえ?」
「童貞よりいいじゃんよ」
「有り得ねーだろ、童貞なんてさ」
ぎくーり。確かこいつらオレと同じゼミの奴らだ。同じ年だよな?それで童貞なんか有り得ないって言ってるわけだろ?
マズイじゃん、オレ!!
こ、ここは無理矢理でも童貞を捨てるしかねーってことじゃん!
(直江とエッチする場合でも童貞を捨てるってことになるのかどーかはわかんねーけど)
しかしこの年で童貞なのはマズイとオレも思う。
「おーぎー」
ゼミは違うがサークルで同じの竹中が、今日の合コンで人数が足りなくなったから来ないかって。
たまには行ってもいいだろう、と思って乗った。直江に電話しておかないと。
「もしもし?」
『どうかしたんですか?高耶さん。会社に電話なんて珍しいですね』
「今日さ、合コンだから遅くなる」
『はい、どうぞ楽しんでらっしゃい』
へ?合コンて言ったのに反応がないじゃんか。
ちっとぐらいヤキモチやいてもいいんじゃねえの?
「合コンだぜ?」
『ええ、聞いてますよ。どうぞ行ってください。忙しいので切りますよ。では』
…わかった。行ってやる。忙しいってだけでオレを無碍に扱うとはいい度胸だ。
合コンで可愛〜い女の子とお近づきになって浮気して童貞脱出してやっからな!くそー!それでもいいのか、直江〜!!
で、合コン会場だ。
もちろん可愛い女の子が勢ぞろい。オレだってなあ、直江じゃなかったら女の子の方が好きなんだよ。
「仰木くんてカッコいい〜!」
そんな声が聞こえる。モッテモテじゃん、オレ。
女の子が両脇に座って色っぽい視線を投げてくる。こりゃお持ち帰りのチャンスじゃねーの?!
二次会へ行こうってことになった時に、ずっとオレの隣りに座ってた女の子が袖を引っ張った。このまま消えてしまおうって。
…そうだな。直江があんな態度を取ったことだし、オレも童貞は捨てたいし。
もしこの子がいい子だったら直江と二股かけて、そのうち直江を捨ててもいいな…。
「じゃ、行きましょ♪」
言われるままホテル街へ。さて入りましょうって段階でオレは足が震えてきてしまった。もしかしたら浮気がバレて直江に激怒されて、ひどいことされるかも…
って!!!ヒドイこと?!ヒドイことっつったら!!
『なんてことしたんですか、高耶さん!』
『だって直江がエッチしてくんないから!』
『あなたは私のものだって思い知らせてあげましょうか?』
『え?直江?!あ!ダメだって!ああ、ヤメロ!直江…』
『もうガマンできません、高耶さん!』
なーんてことに!!いいんじゃねーの?!
「よし!行くか!」
「お、仰木くん?」
「オレさー、ラブホなんか初めてだからさ〜、よくわかんねーんだけど、どこがいい?」
「は?」
「どーゆーホテルがいい?やっぱベッドは回転とかすんのかな?」
「…あんた最低」
一発引っ叩かれて彼女は去ってしまった。なんで怒られたんだろう?
「手形が顔に付いてますけど」
「うそ!」
家に帰って初めての直江の言葉がコレだった。
「どうしたんですか?強引に女の子を誘って叩かれましたか?」
ちょっと違うけど、違うと言い切れないのが悔しい。それもこれも直江が悪いんだ!!
「おまえがエッチしないから!」
「話が飛躍してますね。さっぱりわかりませんけど」
「かくかくしかじかで、おまえがエッチしないのが悪いんだ」
「ああ、そういうことですか。で?高耶さんは浮気をしようとしたわけですね?」
「そうだ!」
「だとしたら黙ってはおけません」
「どーせおまえはオレのことなんか好きでもないんだろ。いいじゃねーか、そんぐらい」
「何度も言いましたよね?あなたを愛してますって。浮気は許しません、て」
「どーせ嘘だろ。おまえが好きなのは景虎だってオチなんだろ」
よし、いいぞ!『なんてことしたんですか、高耶さん!』の始まりだ!
そしてオレは嫉妬した直江の腕の中で、イヤがりながらも直江の攻めに耐え切れずに甘い一夜を…!
「そうですか。あなたがそう思うのならそういうことにしますか?」
え?
ちょっと風向きが違うんですけど、直江さん。
「その方があなたは楽なんでしょう?」
「ち、違う!オレは直江が好きなんだってば!直江もオレを好きじゃないと困る!」
「じゃあどうしますか?このままでいますか?それとも高耶さんは彼女を作って、私は景虎様だけを愛するってことにしますか?」
「えっと、景虎様だけをってことは…高耶はどーなるんだ?」
「私は景虎様だけを愛して、高耶さんのことは別にどうでもいいということになります」
「それじゃーイヤだ!!」
そんなのヤダ!直江がオレをどうでもいいなんてヤダ!!
「では今までどおりということで」
「うん」
「エッチは卒業してからですね」
「あ」
騙されたかも…。チクショー!!
「なー、本当は嫉妬したんじゃないのかー?」
「しましたよ」
「それに本当はエッチもしたいんじゃないのかー?」
「いえ、それは別に」
「浮気されたら困る?」
「そうですねえ…困りませんけど、どうせあなたのことだからホテルに入る直前で足が震えたりして、浮気も出来ないでしょう?」
バレてる…。
くそー。こうなったら面倒なことしないで襲ってやる!!覚えてろ、直江!!
END |