同棲したのに!


第八話  恥辱の隻影
 
         
 

「びえっくし!」
「朝っぱらからオッサンくしゃみなんかしないで下さいよ。高耶さん」
「うっせー!おまえのいーでぃーを治そうとして頑張った結果がコレなんだぞ!少しはいたわりやがれ!」

オレは直江のいーでぃーを治そうと思って毎晩誘惑してやったのだ。
ある時はリビングで、またある時は寝室で、さらにまたある時はキッチンで。
コスチュームも考えて嫌いじゃないって言ってた裸エプだとか、タンクトップにパンツ一丁とか、猫耳&毛皮パンツだとか。

直江が『理性をふっ飛ばせばヒットです』と言うよーな格好したのに。
だのに理性を飛ばしたってペレのまま。こりゃ本物だってわかった。

そしたら常にハダカみたいな格好だったオレは風邪を引いてしまったのだ。
まだ5月。暖かいとは言え、まだ5月。うかつだったとしか言えない。

「今日は病院へ行って、ちゃんと薬を貰ってくださいね」
「そーする」

直江から病院代を貰って、送り出した。チューは風邪がうつるからダメだってさ。
こーゆー時は『あなたの風邪がうつってもいいからキスさせて下さい!』『ダメだって、直江〜』ってのが普通なんじゃないのか?

 

 

そして近所の病院にやってきた。『イカルガカムイ医院』という女医さんの病院だ。
仰木さんどうぞ〜って能天気な女の声がして、中に入って行った。

「どうしたんですか〜?」

カルテを見ながらオレに聞くのは、髪の毛を後ろでひとまとめにした、全体的に小柄な女医さんだった。
どう見ても怪しい顔つきをしてるのが気になるけど、これでも開業医なんだしいいとしよう。

「なんか風邪を引いたようなんですけど」
「はいはい、それが風邪かどーかは私が決めることだから〜。余計なことは言わないでいいのよ〜。あれ?あんた橘さんとこの居候じゃないの」
「え?なんで知ってるんですか?」
「この前橘さんが来てね、ちょっと長話しちゃってね〜。あんたが高耶さんなわけね」

感じ悪いな、こいつ…。でも直江が来たって…?

「はい、とりあえず口開けて。あー、喉が赤くなってるわね。ただの風邪だわよ」

だからさっき『風邪引いたみたいだ』って言ったじゃねーかよ!!このクソ女医!

「テキトーに風邪薬の処方箋出しておくから。で?橘さんのいーでぃーは治った?」
「えええ?!」

あいつ、この病院でいーでぃーの診察受けたんか!!

「あんな男前なのにいーでぃーなんて可哀想にね〜。あっはっは。女遊びばっかやってる天罰に違いないわ。なんかムカつくから
バイ●グラ渡すのやめちった♪まずはこれを、って精神安定剤を処方したのよね〜。それじゃますますおっ立つわけねーっての!
だっはっは!」

どっかで見たキャラだと思ったら千秋に似てる。どーりで感じ悪いわけだ…。
それにしても直江にバイ●グラを渡さないなんて!だからオレがコスで迫ってもおっ立たなかったわけだ!

「医者がそんなことでいいのかよ!」
「いいのよ〜。だって処方も診断も間違ってないもーん。精神的な問題はまず向精神薬から!」
「いーでぃーにはまずバイ●グラだろうが!てめえ、ヤブ医者で訴えるぞ!」
「どうぞ〜。あんたに勝ち目はないからね〜。それにしても橘さんていいモノ持ってるわね〜」

見たんか!!
オレだってこのごろ全然見てないのに!つか、直江のハダカなんてそうそうお目にかかれるようなもんでもないんだぞ!
それを…それをこの女ァ!!

「てめえが見ていいようなシロモノじゃねーんだぞ!」
「あら?ヤケに悔しそうなお顔」
「オレのモノはオレのモノ!あいつのモノはオレのモノだ!」
「ふーん、そう。おねいさんモーホーとかに理解あるからどうでもいいけど、あんたがいーでぃーの原因なんでしょ?そんなに激しく
毎晩お願いしたら健康な男子でもいーでぃーにもなりますわよ」

ぎくーり。
そうか、直江はここでこのクソ女医に相談しやがったのか。
そうだ…原因はオレかも…そーいや直江がいーでぃー宣言したのは、橘兄さんが来た日だった。
もしかしてあの日、オレが兄さんに余計なことを言ったとか?(←そうだよ)
それを気に病んだ直江はいーでぃーに?(←だからそうだってば)

「どうしたらいいんだ、オレ!!」
「そんな時はおねいさんを頼りなさい。今からチョコチョコっとあんたのカルテを改ざんしてバイ●グラを処方してやっても良くって
よ?」
「オレのカルテを?」
「そう。あんたの病名をいーでぃーにして、処方箋を出すの。あんたのはただの風邪なんだから、マツ●ヨとかでどうでもいい風邪薬買っておけばいいのよ。どうする?」

背に腹は代えられん!

「お願いしまっす!」
「まいどあり〜」


そしてオレは大失敗したのだ。処方箋…それは院外薬局で買うもの。

「仰木さ〜ん」

じいさん、ばあさんがタムロってる薬局で数分待たされ、名前を呼ばれてカウンターへ行った。

「仰木さんですね。ではこちらが今回のお薬になります。心臓疾患とかはないですね?」
「はい」
(たぶん直江にもないはず…)
「じゃ、これがバイ●グラです」

なんとも静かな薬局の中、その声は大きく響いた。何人かが振り返る気配がする…。
オレは凍り付いて白衣のお姉さんの話を遠くに聞いていた。

「毎日の服用は避けてください。性交の前に一錠飲んでくださいね。一晩で一錠が限界ですから、続けて飲まないようにお願いしま
す」

せいこうのまえにいちじょうのむ。

背中からクスクス笑うオバサンの声。哀れむように見つめるオッサンの視線。うんうん頷くジイサンの首が動く音。
え?ちょっと待って。もしかしてオレがいーでぃーだと思われてるわけ?花も恥らう19歳なのに?
ドーテー街道まっしぐらのこのオレが?

「仰木さん?聞いてます?」

聞いてます。聞いてますけどオレの名前を言わないでください。

「…ではお大事に」

返事も出来ずにバイ●グラが入った袋を取ってドーテー街道へ…じゃなかった、出口にまっしぐら。

 

 

「なんですか、これ」
「風邪薬…」
「だって風邪薬はこれでしょう?コン●ック」
「直江のバカバカバカ!!」
「はあ?」

仕事から戻った直江はリビングのテーブルに置いてあった薬局の袋を持ち上げて中を見た。

「これ、風邪薬なんですか?」
「バイ●グラだー!!」
「なんでそんなものを」
「かくかくしかじかで〜」

………………………………2分経過。

「ああ、あの病院へ行ったんですか…あそこの女医さんは診断は正しいんですが頭がおかしいんですよ。あんな病院へ行く方が悪かったと諦めてください」
「そもそもおまえが行ったのが悪いんだろうに!」
「そもそも高耶さんが私をいーでぃーにしたんじゃないですか」
「直江がいつまでたってもエッチしないからだ!」
「もうしてあげたい気持ちはやまやまなんですけど、こうなってしまった以上はガマンしてください」
「それ飲め」
「これですか?」
「それ飲んでギンギンにおっ立てろ。それで万事解決じゃねーか」

しばらくバイ●グラと処方箋の説明書きを眺めていた直江がおもむろに飲んだ。
おお!これは!いいぞ、直江!!

 

 

「イタタタタ…」

今は直江のベッド。ハダカで二人で寝てるとこ。横の直江はギンギンにおっ立てて顔や首からたくさん汗をかいている。

「なあ、直江…」
「…はい…」
「しねーの?」
「できません…すきっ腹にあんなものを飲んだせいか胃が痛くて…」

せっかくバイ●グラを飲んだのに、それのせいで胃を壊してしまったらしい。
だからって胃薬なんか飲ませて飲み合わせが悪かったら大変なことになっちまう。夕飯の後に飲ませれば良かった…。

「おまえは本物の大バカだ」
「ギンギンなのにできないのは辛いんですよ〜…なのにあなたは〜…」
「こっちだって辛いんだよ!いつになったらできるんだ!」
「さあ…」
「ちくしょー!」
「ハダカのあなたが横にいるのに〜…!」
「直江のバカー!」

 

もしかしたらオレ、一生ドーテー街道まっしぐら?

 

 

END

 

 
   

あとがき

バイ●グラの処方&服用の仕方も、
診断の仕方もテキトーに書いてますから
本気にしないように 。
カムイが女医さんで登場しました。
一回登場してみたかったのよ!
直江が(あの声で) 「ギンギン」て
言うのが今回のポイントでげす。