同棲したのに!


第十二話  魅惑の幻想
 
         
 

 

「高耶さん、約束のお誕生日ですが、どこに旅行に行きますか?」

よっしゃ!!これで落ちたも同然だ!

直江が駅前の旅行会社で貰ってきたパンフを山のようにテーブルに積み上げた。
前々から「誕生日は旅行に連れてって〜」と甘えておねだりしてた甲斐があったぜ!

「SLの旅なんてどうです?」

直江は他にもあるたくさんのパンフを開いてはオレに見せる。
しかしそうは問屋が卸さない!オレにはとっても、と〜ってもナイスなプランがあるのだ!

「なあ、なおえ?」

ちょっぴり甘ったれた声で上目遣いで直江を見る。これをやると直江はメロメロになるからおねだりの際はこれを使うことにしてる。

「なんですか?」
「車で旅行に行こう」
「車?ええ、かまいませんけど、どこへ?」
「んーとなー…何も考えないで車を走らせて、そんで行った先で楽しむ、みたいなミステリーツアーっぽいの、どうかな?」

ふっふっふ。オレの罠に嵌まれ、直江!

「いいですね。地方都市じゃなくて、高原なんかに出たら楽しいかもしれませんね」
「だろ?地図は道に迷ったりとか、帰り道でしか見ない、ってのはどうだ?」
「面白そうです。そうしましょうか」

男ってのはこうゆう無計画な旅が案外好きだったりする。例に漏れず直江もそうみたいだ。よーし!
あくまでも自然に?どうしても仕方ないから、って感じにしなきゃオレのヒミツのプランに直江は承諾しそうにないからな!

 

 

んで、とうとう計画なしの、実のところはオレの計画満載の旅行の日になった。
車に着替えやら、遭難?した時のための食料をちょっとだけ積んでウィンダムを出す。

「おっしゃ!しゅっぱ〜つ!」
「ところで、どっちに出ましょうか?」
「んーと、とりあえずジャンケンで直江が勝ったら右!オレが勝ったら左!」

ジャンケンはオレの勝ちで、左へ。そのまま東京の道を知らないオレがあっちこっちと指図して走らせていたら郊外まで出た。
渋滞もなくて、長い信号待ちにも引っかからなくて済んで、いつのまにか峠道になってて、ちょっと腹が減ったから今度ファミレスか何かがあったらそこに入ろうと話した。

「あ、あった!そこのファミレスに入るぞ!」
「わかりました」

そのファミレスには知らない地名の看板があったけど、あえてそこが何県のどこなのかは考えないようにした。二人で喫煙席に座り、周りを見回すとカップルだらけだった。田舎の国道沿いにある駐車場がでかいファミレスにはなぜカップルばかりなのかいつも不思議に思ってたけど、よく考えたら民家が少ない場所に家族連れがちょくちょく来るわけがない。

「カップルだらけですね」
「そりゃな。オレみたく暇な学生のカップルが多いよな」
「私たちもカップルに見えますかね?」
「見えるって、見える!」
「そ〜ですか〜あ?」

なんだ、その気のない返事は。くそ、相変わらずクールすぎてムカつくぜ。

直江っていっつもクールで面白くない。そんな直江に惚れたオレもオレなんだけどさ。
一応恋人やってるんだぞ?なのにこれじゃつまんないっての。オレが行きたい場所にも絶対に連れてってくれない。
前に誘ってみたんだけど「何言ってるんです!」って言って断ったんだ。大事で可愛くて愛しい恋人であるオレの頼みを断ったんだ
ぞ!有り得ね〜!!

悔しさ紛れにファミレスでたらふく食って満腹になったオレと直江はまた車に乗り込んだ。ここはどのあたりなんだろう?って考えがすぐに浮かぶんだけど、それはオレも直江も考えないようにして道の看板も見ないようにして走った。
そうしたら……夕方近くに軽井沢に出た。長野県かよ、おい。どうやらオレが選んだ道は国道17号線だったようだ。

「軽井沢ですか……」

直江の服装は軽井沢に馴染んでる感じのあるVネックのTシャツと綿のパンツで、なんてかっこいいんだろうって全開バリバリで思った。あ、ちょっと言葉がヤンキー風だった。言い直す。ちょー思った。

「どうしましょうか。浅間山の温泉にでも泊まりますか?今からだったら部屋が開いてるかもしれませんよね?」
「んー、ちょっと軽井沢で遊んでからにしねえ?商店街とか有名なんだよな?あと牧場アイスも食いたいし」
「しょうがないですね。少しですよ?宿が確保できなかったら車で寝泊りなんですからね」
「わかってるって!」

そんで軽井沢の有名な商店街でねーさんや千秋に渡す土産物とか買って、牧場アイスを食べて(直江にちょっと食われた)直江が見たいって言った美術館に入って、日が暮れ始めたころに出てきた。

「じゃあ、宿を探しましょう」
「うん」

直江がさっき言ったように浅間温泉まで行って観光協会の建物に入って開いてる宿を探してもらった。ところがどこも満室!
やったぜ、満室だよ、まーんーしーつー!!

「…別の町で探しますか?軽井沢に戻って、ペンションなら大丈夫かもしれませんよ」
「どこでもいいぜ、オレは」

直江の不安そうな顔を見ながら軽井沢に戻った。いや〜、不安そうな顔も色っぽくていい男!
しかし!ペンションもどこもかしこも満室だった!やったー!!これでオレの行きたいあそこに行ける!

「どうしましょうか…あなたを車で寝かせるなんて出来ませんよ…まさかこんなに満室だとは思わなくて…」
「んじゃ探すか」
「どこを?」
「いいから!」

適当に車を走らせてくれって指示して軽井沢から離れ、また少し遠くに行った。

「あ!あった!あそこ!」
「どこです?」
「あれあれあれ!」

オレが指差したそこは。

「……ラブホテル…ですか?」
「そうそう!あれでいいんじゃん?」

そのラブホはビルになってるやつじゃなくて、コンテナみたいな四角いプレハブの部屋がいくつも並んでるところだった。
そこなら男同士で入ってもエレベーターとかで誰にも会わずに済むし、フロントだって車で通るからオレが顔を伏せてれば暗くて女か男かなんてわからねーもんな。
直江はそのラブホの手前で車を止めた。

「もしかして…あなた」
「いや!仕方ないからココだ!決して邪な考えは持ってねえぞ!」
「…今回の旅行の計画って、このためだったのでは…」

ドキーリ。そうだけど…。

「高耶さん…?」
「だ、だって!おまえマジでエッチしてくんないし!」
「……は〜…」
「直江がしないから〜!!」
「するわけないでしょう?この前そういう約束しませんでしたっけ?」
「オレはしたいんだ〜!」

思いっきり呆れた直江がこめかみを押さえて何度も溜息を吐いた。

「なおえ〜…」
「わかりましたよ、入りましょう。…どっちにしろ宿を取らねばいけないんだし…」
「うん♪」
「でもしませんからね」

くっそー。やっぱダメか。
しかーし!そんなんでメゲる仰木高耶様じゃねーんだぞ!見てろ、直江!
回転するベッドだとか、エロい色のランプだとか、ブラックライトで光る絵だとか、そんなのの上や前にオレがいるんだ!
絶対に欲情させてやる!

部屋の中に入ったオレはまずその内装に驚いた。回転するベッドがない!普通のベッドだ!
けど風呂場はマジックミラーだった!ランプはピンクだ!壁の絵はないけど天井に星がたくさん光ってる!
ラブホってこんなエロいんだー!!

「ドラマで見たやつみたい!」
「……落ち着きませんね……」
「直江はこーゆーとこ来たことあんのか?」
「ありませんよ」
「んじゃ初体験てことだな!
「部屋は初体験ですが、あなたとエッチの初体験は絶対にありませんよ」

頑固な奴だ。チクショウ!
まずはこの頑固直江をリラックスさせてやらなきゃ!

「あ、カラオケ!なんか歌え!」
「イヤです」
「じゃあそこのゲーム」
「しません」
「チ」

釣れない直江をリラックスさせるのはちょっと小休止。
それからオレは部屋のあっちこっちを探検していろんな装置をいじったりしてた。直江は仏頂面でソファに座ってタバコを吸ってる。
いつもの旅行で連れて行かれるホテルとは違ってゴムがあったり、小さな販売機でエロいグッズが売ってたりして興味津々。
ピンクのランプの中の直江は……普段よりずーっとかっこよくて、色っぽくて、オレはやっぱりエッチしたくてたまらない。

「直江〜」
「甘えても今回ばかりは許しませんよ。これはあなたの計画に入ってたんでしょう?」
「む〜」
「まったく、くだらないことは本当にうまく計画しますよね。それを勉学に向けたらどうです」
「だって〜」
「さっさと持ってきた食料で夕飯にして、あのバカらしい風呂に入って寝てしまいましょう」

そう言って直江は持ってきたカップラーメンを出した。ポットでお湯を沸かして作って、ビールを冷蔵庫から出して飲む。
オレの分は作ってくれなかった。ケチー!!
しかたなく自分で作って食った。
で、風呂だ。マジックミラーだから直江の裸が見られるかも♪と、思いきや、ミラーのところにバスタオルで目隠しをして入りやがっ
た。
オレはもう直江に見せつける感じで入った。桃尻を見せたり、可愛い乳首を見せたり、イケナイ所も全開で。
きっと出たら直江は欲情してるに違いないって思ったんだけど、それは期待はずれで直江は静かな寝息を立てて眠っていた…。
なんだよ、くっそー!!

しかたないから同じベッドに入って直江にチューした。たくさんチューしてたら起きた。

「なおえ…」
「…高耶さん…」

直江からチューしてきたからうっとりしてしまった。んで、唇が離れると目を覗き込んできた。
ああ、ホント、マジでいい男。

「高耶さん…エッチしましょうね」
「うん…!」

大成功!!!努力が報われたぜ、オレ!偉いぞ、オレ!!

 

 

「あれ?」

目が覚めたら直江は浴衣を着て背中を向けて寝ていた。時計は朝8時。
しかし何か、どこか違う。
初めてのエッチの後はお尻が痛いとか、体がだるいとか、そんな予想をしてたんだけどまったくなかった。
いつものように快調だ。

「直江、直江」
「…おはようございます…」
「なあ、オレたち昨日、エッチしてから寝たよな?」
「…してませんよ」
「え〜?だって直江がエッチしましょうね、って言って〜、それから〜…うへへ♪」

昨夜の幸せなエッチを思い出してつい笑ってしまう。だって直江ったらあーんなことも、こーんなこともしてくれて…
直江は起き上がって、乱れのない浴衣姿でこう言った。

「あなたがしつこかったんで、申し訳ないとは思ったんですが催眠暗示を使いました。全部、あなたの妄想です」
「…えええええ?!」
「これがお誕生日のプレゼントってことでいいですか?旅行と、妄想。ね?」
「………………直江のバカー!!うわーん!!」

 

 

また惨敗だ。
くそー!オレが《力》を使えないからってバカにしやがって!!
でも妄想の中の直江はエロエロでオレのこと大好きで、理想のエッチが出来たからヨシとしよう…ってよくないじゃん!!
次こそは!次こそは〜〜〜!!!

 

 

END

 

 
   

あとがき

なんかラブホネタが連続だな・・・
まあいいや。
高耶さんはいつになったら
エッチできるんだろう?
なんだかかわいそうになってきた。
でもさせない。