同棲したのに!


第十三話  闘争の本能
 
         
 

まったく直江のヤロー、どんな手を使っても全然ダメじゃん!なんで落ちねーんだろ?
なんかいいアイデアないかな〜?どうしたらいいんだろ〜な〜。

って、思いながら久しぶりにひとりで繁華街を歩いてみた。直江がムカつくからちょっと心配もさせてやろうってこともあって夕方過ぎてもゲーセンに入ったりしてウロウロしてた。
そしたら意外な人物に再開した。

「景虎じゃないか!久しぶりだねえ!」

道で背後から背中をバチンと叩かれて怒りマーク全開で振り向いてみたら。

「らららら蘭丸!!!」
「ハロー!」

ハロー!って、なんで蘭丸がここに。こいつ信長にくっついてアメリカに行ったんじゃなかったのか?!

「なんでこんなとこにいるんだよ!」
「殿がさ〜、日本公演やるからちょっとだけ戻ってきたんだ」

そーいえば信長が東京ドームでライブやるってテレビで言ってたような気がしなくもない。

オレと蘭丸はまあイザコザもあったけど、信長が音楽に路線変更して蘭丸が謝りに来た時から今までのことはスッパリ忘れて仲良くしようってことになったんだ。
今までのことを忘れて、って言われても、どうせオレは何も覚えちゃいないんだからどうでもいいんだけど。

「謝りに行ってからだから、2年ぶりぐらい?」
「そうだな。あ、立ち話もなんだからそこらで茶でもしねー?」
「うん、いいね!」

手近にあったコーヒーショップで1杯180円のコーヒーを飲みながら蘭丸と同窓会だ。

「景虎は相変わらず直江と付き合ってんの?」
「まあな。そっちはどうなんだよ。この前、週刊誌に信長の恋人は男の子!って見出しが出てたけど、やっぱ付き合ってんだ?」
「うん。でもあの殿だからさ、アメリカ行ってから色々と浮気してたんだ。けど、グラミー賞取ったあたりで『今までやってこれたのはお蘭のおかげじゃ』とか言って全然浮気しなくなって、今はラブラブなんだ〜」

いいなあ。ラブラブか〜。オレの方は相変わらずエッチできないってのに…。その前にラブラブもありゃしねえ。

「景虎もラブラブなんじゃないの?」
「え?!ああ。うーんと…ラブラブってゆーか、同棲はしてるんだけど…」
「ホント?!同棲してんの?!じゃあもう結婚してるようなもんじゃん!良かったね〜!」

本当は良かないんだけどな〜。

「来週一杯までいるからさ、景虎んちに遊びに行ってもいいかな?」
「うん、いいけど。でも蘭丸が普段信長に食わせてもらってるようなメシとかないぞ?」
「そんなのいいよ〜。じゃあ何かお土産持って行くね!」

そんなわけで今度の土曜日は蘭丸が遊びにくることになった。


 

「蘭丸ですか?ええ、かまいませんけど」

それが直江の回答だった。直江は信長には警戒してるけど蘭丸にはそうでもないらしい。「あいつはオマケですし」だって。
昼飯をウチで一緒に食おうってことになってたから散らし寿司とマツタケのお吸い物と鶏の唐揚げを作って待っていた。
蘭丸は約束の昼12時ピッタリにやってきた。

直江と二人で玄関まで出迎えに行ってドアを開けると、そこにケーキ屋の箱を持った蘭丸が立っていた。
だけどメインもついてきた。

「の……信長〜〜〜〜!!!」
「ええ?!蘭丸だけじゃなかったのか?!」
「うん。景虎んち行くって言ったら殿も来たいって言うから」
「おう、久しぶりじゃの、景虎。直江」

直江は蘭丸には寛大だけど、信長だけはダメだそうだ。今まで何度も信長の悪口を聞かされた。
あいつは変態です。うつけです。人情なんて持ち合わせてないんだ。きっと血は緑色です。など。
その信長が来ちまったもんだから直江はおでこの中心に血管を一筋浮かせて鬼のように目を吊り上がらせてる。

「あ、とにかく入って。信長も直江のことは気にしなくていいから」
「気にするわけがなかろう、こんな犬など。わしが会いたかったのは景虎じゃ。元気なようで何より」

スリッパを勧めて中に入ってもらった。すると玄関で一言、信長がこう言った。

「狭い家じゃのう…まるでウサギ小屋じゃ」
「殿。それを言ってはいけないと申し上げたでしょう。日本の住宅事情なんですし、これでも直江は景虎のために一生懸命働いてるんですから。そりゃ殿のビバリーヒルズの屋敷に比べたらウサギ小屋ですが…可哀想ですよ」

言いたい放題だな。けど確かに信長が住んでる家なんかに比べたらそうだし、気にすることないか。

「景虎も可哀想にのう。こんな甲斐性のない男なんぞと暮らすはめになるとは。のう、お蘭。お蘭はわしの小姓で良かったのう」
「はい

信長と蘭丸は玄関先でチューし始めた。アメリカンナイズドってやつか?
それにしてもマジでラブラブなんだな。見てるこっちが恥ずかしいよ。

「私たちは慎ましくとも幸せ満載な生活をしてるんです、ねえ、高耶さん」
「え?」

直江が久しぶりに闘争心をむき出しにした。番犬みたいに厳しい目をして信長を睨んでる。

「ほう、そうか。そりゃ良かったの」

その信長の気のない返事にムッとした直江が急にオレの肩を抱いてチューしてきた!

「んー!!」(急に何するんだよ!)

チュポンと音を立てて離れた直江はニヤリと信長に向かって笑ってからオレをムギューっと抱きしめた。
こんな直江久しぶり!つーか初めて?!

「こうやって毎日毎日高耶さんとの愛を確認しあって暮らしてるんだ。信長殿にはこういった温かみのある抱擁はないでしょう?」
「いいや、あるぞ。お蘭とは毎日ラブラブじゃ」

そんでまた蘭丸とチューし始めた。でぃーぷなやつを。ぶちゅうぅぅぅっと。いいな〜。そんなチューしたことないぞ。
って思って羨ましそうに見てたら直江がキレた。でぃーぷなチューをしてきた!
うわ〜!!ちょー嬉しい!
で、オレたちはそのまま5分間も玄関でチュー競争をしてた。

先にバカバカしくなったのは信長たちの方で、いい加減腹が減ったから早くメシを食わせろって。
ダイニングで4人で食ったんだけど、その間も直江と信長は火花バチバチ状態だった。

「高耶さんが作った料理は美味しいでしょう?心のこもった愛情料理ですからね。蘭丸は食事は作ってるんですか?」
「僕も一応作りますよ」
「そうじゃ、そうじゃ。お蘭の料理は豪華で美しい盛り付けが特徴での、景虎の料理にも負けないぞ」
「そうですか。だけど高耶さんの料理は…」
「もうやめろ、直江。アホくさい」
「はい……」

そしておかしな昼食は終わり、オレと蘭丸で片付け物をしていた。
リビングでは直江と信長の攻防が続いている。

「しかし何だの。お蘭からは景虎と直江がラブラブだと聞いておったが、実はそうでもなさそうじゃのう」
「なぜそんなことを言い出すんだ」
「景虎がよそよそしいではないか」
「そんなことはない」
「さっきのチューだって景虎は戸惑ってたように見えたが?」
「違う」

貰ったケーキとコーヒーを持ってリビングへ行くと向かい合って座った信長と直江はデッドヒートの真っ最中だった。

「いや〜、やはりお蘭が一番いいのう。アメリカで浮名を流してはみたものの、結局はお蘭が一番だと思い知らされた」
「それはそれは」
「あのボーンチャイナのような白い肌がのう、わしにはしっくりくる。景虎は痩せすぎてケツが硬そうじゃの」
「そんなことはない。可愛らしい桃のお尻だ。肌だって白くはないがキメの細かいなめらかで手触りの良いどこの誰よりも美しい肌だ」
「なにを。お蘭の色香を知らぬからそんなことが言えるのじゃ」
「貴様だって高耶さんの凄絶な色気を知らんだろうが」

マジかよ!直江ったらいつのまにオレを観察してたんだ!しかも凄絶な色気だなんて!そんな風に思ってたなんて〜!
やっぱ本音はオレとしたいんじゃないかよ!

「高耶さん、こちらへどうぞ」

直江がオレを隣りに座らせて腰を抱いた。ひー!こんなカッコしたことないってば!

「ケーキ、食べますか?」
「あ、うん」
「じゃあ、あーんして」

直江にあーんしてもらえるのか?!ああ!何度これを夢みたことか!!何度ってたぶん5000回ぐらいは確実に!!

「あーん」
「はい、どうぞ」

うわ〜!!やったー!!オレの人生捨てたもんじゃねえな!これがラブラブってやつか!!

「なんの、お蘭。こちらへ来い」
「はい」
「わしに食べさせてくれんか?」
「もう、殿ったらァ

ああー!!いいな、いいな!そうゆうのもやりたいんだよ!「もう、直江ったらァ」って!!

「なおえ〜」
「じゃあ私にも食べさせてくださいな」
「うん!はい、あーん」

直江が食べた後に、オレの口の端っこについたクリームを掬って舐めた。
それを見た信長は「お蘭。ここについておるぞ」って言って、クリームなんか付いてないのにチューして舐めた。

「おのれ、信長……高耶さん、このイチゴ、半分こにしましょう」
「ん?いいけど、どうやって?」
「こうして」

オレの口にイチゴを半分だけ入れて、残りの半分を直江がチューする要領で半分かじった。

「甘くて美味しいですね」
「……もう、直江ったらァ!!」

そうそう!これがやりたかったんだよな〜!!いい響きだ〜!!

「お蘭よ。今夜はおまえのイチゴを食べてやるからのう。期待して待っておれよ?」
「はい、殿

おまえのイチゴって何?!もしかしてアソコのことか?!そっかー、信長たちはラブラブなんだもんな〜。
エッチだってしてるよな〜。それに引き換え、オレたちは……。

チラっと直江を見たら硬直してた。どうやってこの信長に攻撃を仕掛けていいかわからなくなったようだ。

「高耶さん……」
「……いいなぁ……」

グッと目を瞑って直江が搾り出すように言った。

「あなたのサクランボを……私に下さいね……」

……サクランボってなんだよ!!直江!!

聞きたかったけど聞いたら信長と蘭丸にオレたちがエッチしてないことがバレそうでやめた。

 

 

ケーキを食べ終わった信長は直江を見て「勝った」って顔をした。
それで満足したらしくて蘭丸と肩を組んで帰っていってしまった。何しに来たんだ?見せつけに来ただけか?

「はあ……疲れた……」

直江はいつもの余裕綽綽な状態はどこへやら、見るからに疲れたオジサンになってた。

「疲れたか?オレはけっこう楽しかったけど」
「もう二度と来て欲しくない人間ナンバーワンですよ」

そう言ってソファの背もたれに寄りかかって目を閉じた。疲れたオジサンぽい直江も色気があって好きだな〜。

「なおえ?」
「はい?」
「……サクランボって、なに?」
「なんの話ですか?」
「さっき言ってたじゃん。オレのサクランボがどうとかって」

ガバッと体を起こして目を見開いてオレを見た。
サクランボってちくびのことかな?それとも……それともチェリーボーイをくれってことか?!
ええ?!だったらオレとうとうドーテー脱出なわけ?!

「直江!」
「あれは売り言葉に買い言葉ってやつでして!!」
「男に二言はないんだぞ!しかもおまえ、元々は武士だったんだろ!だったら二言は絶対にないはずだ!」
「ダメですよ!」
「おまえだってホントはオレとやりたいくせに!凄絶な色気とかって言ってたじゃんか!」
「あなたがいつ私にそんな色気を見せました?!あんなの嘘に決まってるじゃないですか!」

くっそー!もう限界だ!襲ってやる襲ってやる襲ってやる〜〜〜!!

「あんなことされたらオレだってその気になっちまうだろうが!」
「あれは信長への攻撃だっただけです!」
「うるさい、黙れ〜!!」

 

 

そして……そしてオレは直江とのめくるめく快楽に身を委ね……って、ダメだった!!
またもや失敗したんだ!
襲ったはいいものの体格でかなうわけがない。一捻りで降参しちゃった。

「な〜、本当はいつもあんなふうにラブラブしたいんじゃねえの〜?」
「……信長の姿を冷静に思い浮かべると、あんなみっともない姿はありませんね」
「よく言うよ。自分でもしたくせに」
「そうですね……じゃあ、折衷案といきましょうか。エッチはない代わりにラブラブならしてもいいですよ」

ぃやったー!!どうせラブラブしてるうちにしたくなってくるもんだよな、男なんて!

「ただし」
「ただし?」
「二度とお誘いをしない、と約束できるなら」
「え〜!」

そんなの!オレのライフワークなのに!

「どうします?ラブラブを取るか、今までと同じか」
「…オレのライフワークを奪う気だな……わかった。だったら正々堂々勝負を申し込む!ラブラブなんかいらねえ!オレの目標は
エッチなんだ!お誘いは毎日してやっから覚悟しろ!」
「ええ。じゃあ勝負といきましょう」

 

だけど一日で後悔した。やっぱラブラブにしておけば良かった……。
いつもの直江との攻防をやりとりしてたらさ、あの一瞬のラブラブライフはオレにとって幸せだったんだと後から気付いちゃってさ…。あ〜あ。

でももう勝負は始まってるんだ!オレのよりでかい後悔をさせてやるぞ、直江!
見てろよ〜!!

 

 

 

END

 

 
   

あとがき

壁紙がサクランボなのは
そーゆー意味です。
サクランボ壁紙のうちは
チェリーから脱出できないと
思ってもらえれば
よろしいかと。