ラブ☆コメ


直江家庭内不和



 
         
 

直江がうまそうにタバコを吸ってる。いつもみたくベランダじゃなくてベッドの上で。
エッチした後のタバコはうまいんだってさ。

「なあ、マジでなんで貯金してるのか教えてくんない?」
「……引っ越そうと思いまして」
「え?!」
「この近所にマンションを買おうかと」
「なんで?!そんなに窮屈?!親父のこと気に入らないとか?!」

そんな!直江が出てく?!せっかく家族仲良くやってると思ってたんだけど、オレの勘違いなのか?!

「そうじゃないんですよ。深夜に帰ってくることが多くて、生活が不規則になったりしてるでしょう?夜中に何か食べたり風呂に入るのが両親や高耶さんに申し訳なくて」
「そんなの気にすることじゃないのに」
「働き出してからずっと寮生活で、一人暮らしのようなものだったから気を使っても使ってもそれでいいと思えなくなってるんです。最初のうちは家族で暮らすのは楽しかったんです。でも忙しくなっていくとどうにも迷惑をかけているような気がしてきて……」

なんか……ショックだ。そんなふうに思ってたのか。

「……そりゃオレだってお母さんに気を使うことはあるけど、そーゆーもんじゃないのか?迷惑かけても許しあうとか、疲れてるのを察知してフォローするとか」
「ええ、そうなんですが……」

オレとお母さんは今となっては言いたいこと言い合って仲良くやってる。
けど直江は親父と一緒にいる時間が少ないからちょっと距離を感じてるのかもしれない。
それに直江はお母さんとも実の親子じゃないわけだし……。だけど……。

「……出てったら別れる」
「は?!」
「直江がどんな気持ちでいようが、オレたち家族を捨てたと見なすことにする」
「それとこれとは話が……」
「違くねえ。直江が思い直すまでもう話もしないから。ちっとはみんなの気持ちも考えろ」

脱ぎ捨てた服を拾って直江の部屋を出た。追いかけてきたけど突き放して自分の部屋にこもった。
直江がこの家からいなくなるなんて冗談じゃねえ。
勝手に気を使って、勝手に迷惑かけてると思い込んで。ムカつく。

 

 

 

夕方になって親父とお母さんがマツタケを持って帰ってきた。
今日の夕飯はマツタケご飯とお吸い物だって言ってお母さんは張り切ってる。親父も嬉しそうだ。

「義明は?」
「知んない。部屋にいるんじゃねえの?」
「また仕事かしらね」
「かもね」

親父は直江がいないことは気にしてないみたいで、風呂に入りに行った。
夕飯の前にサッパリしておきたいとか言いながら。この親父が直江のこと迷惑だなんて思うわけないのに。
典型的なO型なんだから。

「さてと、夕飯に取り掛かろうかしら。手伝う?」
「手伝う!マツタケなんか料理したことないからやってみたい!」

お母さんの料理を手伝いながら色々教えてもらって作った。
高耶くんはいいお婿さんになるわね〜とか言われたけど、今のところ結婚なんかするつもりはない。

「いい匂いがしますね」

そこに直江の登場だ。オレが台所にいるなんて思ってなかったらしくて一瞬固まった。

「まだしばらくかかるから、お父さんの後にお風呂に入っちゃいなさい」
「……はあ」

オレのこと見たけど無視してやった。料理に夢中なふりをして。
直江がいなくなってからお母さんに言ってみた。

「お兄さんてさあ、昔からあんなに家族にも気を使うタイプだったの?」
「そうねえ。前のお母さんとお父さんが仲悪かったから、小さい頃から気を使ってたんじゃないかしら?私にもまだそんなところあるわね。もしかして高耶くんにもおかしな気の使い方してる?」
「オレにはそうでもないみたい。お母さんと親父に使ってるみたいで、本人がちょっと疲れてるっぽいんだ」
「バカな子ねぇ……」
「そー思う」

親父が風呂から出て、キッチンに来て夕飯のつまみ食いしてお母さんに怒られて、仕方ないわねってお土産に買ってきた漬物を出してビールを飲ませておいてた。
夫婦ってよりも友達みたいな両親で、それでもお互いに大事にしてるのがよくわかる。
迷惑だとか、気遣いだとか、そーゆーの通り越してそばにいるのが当然のように仲良くて。
こういうのが家族なんじゃないか?

「高耶、おまえも飲め」
「え〜?」
「付き合ってあげれば?」
「だって親父、飲みだすと説教始まるんだもん」
「たまにはいいんじゃない?」

お母さんはオレの迷惑顧みず、オレにビールを持たせて親父のとこに行かせた。
本当はイヤなわけじゃない。いい意味でどっちでもいいんだ。だってオレたち親子だから。何も気にしない。
お母さんだって気を使って言ったわけじゃない。オレと同じでどっちでもいいんだ。気にしてない。

この家じゃ直江だけ、そう思えてないだけで。

 

 

夕飯を食べながら、親父が直江に「最近忙しいみたいだな」って言った。
そしたら直江がちょっと言いにくそうにしながら切り出した。

「なんだかお父さんにも迷惑をかけてしまっているようで……」
「何がだ?」
「夜中に帰ってきて風呂に入ったり、食事をしてますから。音なんかで起きてしまうでしょう?」
「残念ながらその程度じゃ起きたりしないよ。それにちっとも迷惑だなんて思ってない。なんたって家族なんだ。そのぐらいのことでいちいち怒ってられないだろう」
「ですが」
「義明くんは必要以上に考えすぎなんだな。高耶を見習ってもう少し迷惑をかけたらどうだ?」

親父は酔っ払ってるのも手伝って言いたい放題だった。

「ゲームやって深夜まで起きてるんだもんなあ?俺がトイレに起きてくるとだいたいそんなことばっかりやってるみたいで『おっしゃ!』とか『くそ〜』とか聞こえてるんだぞ」

知ってたのか……クソ親父め……。

「それにリビングで使った食器は流し台に置いておけばお母さんが洗ってくれると思ってそのままだし、風呂だって真夜中に平気でバシャバシャやってるし、階段だってドスドス足音立ててるしな。だからってそれが不快かと言えばそんなことはない。一緒に生活して、色んな音をさせて、たくさんやることあって。そんなもんだろ、家族ってのは」

酔っ払うと親父は恥ずかしげもなくこーゆーことを言って説教する。
そこが長所でもあり短所でもあり。

「もっと言ってやれば?」
「そうね。義明にはもうちょっとお父さんのお説教が必要みたいだし」
「そうか〜?」

いい気になった親父は食事しながら延々と直江に説教した。
夕飯が終わってからも場所を居間に移してビール片手に続行だ。
ちょっと直江が可哀想かもしれないけど、でも出てくとか抜かしやがったから助けてやんない。

「……いいわねえ、父親と息子って……」

お母さんはそんな親父にウットリだ。まだ新婚なだけにアバタもエクボとかいうやつなんだろう。
それに昔の直江のお父さんはこうして説教とかしなかったらしいし。
そして親父が眠くなるまで説教は続いた。

 

 

 

風呂から出たらもう居間には誰もいなくなってて、灯りも消えてた。
親父もお母さんももう寝たんだな。直江のとこ行ってみよう。んで考え直してたら許してやろう。

ドアをノックしたらすぐに開けてくれた。

「どう?考え直した?」
「とりあえず入ってください」
「ん」

パジャマ姿でベッドに座った直江はなんだか楽しそうだった。部屋にビールを持ち込んで飲んでる。

「とっても迷惑でした」
「だろうな」
「だけど不思議と心地よくて、ちっとも嫌な気分にならなくて、お父さんを可愛いと思いました」
「あの親父を?ちょっとキモくね?それ」
「でもそう思ったんです。なんというか……こうして家族って出来ていくんだなあ、としみじみ感じましたよ」

もう直江はこの家を出て行くなんて考えてなさそうだった。柔らかい笑顔で部屋の中を見てる。

「高耶さんのお父さんだから、母の旦那さんだから大事にしよう。そう思ってたんですけど違いました。ああしてお説教されて……自分のお父さんだから大事にしたいって、思ってる自分がいたんです。いくら迷惑をかけたってお父さんは私を嫌いになったりしないんだって、わかりました」

まあな、同じようなパンツ買ってくるぐらいだからな。

「それと同時に、私も何があってもお父さんを嫌いにはなれないんだと知りました」
「ふ〜ん、進歩したなあ」
「そうでしょう?あの母が選んだ人ですから、間違いはないと思っていたんですよ。でもまさか自分にとっても間違いがなかったとはね。私たちのお父さんは素晴らしいですね」
「じゃ、もう出てくとか言わない?」
「言いません。でもちょっと惜しかったです」
「何が?」
「自分のマンションだったらあなたと気兼ねなくイチャイチャできたな、と」

……そーいえば……そうかも。
ちょっとオレ、早まったかな?

「まあ、もう少し貯金してこの家のリフォームか何かすればいいですね。そのうち両親のためにバリアフリーにしなくてはいけませんし、床も軋んで音がしますし。あなたとエッチしてるのがバレる前に軋みをどうにかしないと。それに3階建てとはいかなくても、何をしててもふたりで気兼ねなく過ごせる部屋も欲しいですしね」
「う……うん……」

まあな。ちょっとボロい家だからな。なんたって爺さんが建てた家だからな。

「高耶さん」
「ん?」
「これからもよろしくお願いします」
「……おう」

カーテンがちゃんと閉まってるか横目で確認してからキスをした。
オレと直江は課長と部下で、お兄さんで弟で、恋人同士で。

ちょっと普通とは違うけど大事な家族だ。
一生これは変わらない。

「愛してます。ずっと一緒にいましょうね」
「うん」
「……別れるなんて言っても無駄なことですから」

ちょっと早まったな、オレ。

 

 

END

 

 
   

あとがき

単に思いつきで書きました。
なんとなく。
家族ってこんなもんだと
思うんですが。

   
   
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