ラブ☆コメ |
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お母さんとオヤジは相変わらずラブラブで、毎月恒例のデートには欠かさず行ってる。 『せっかくの土曜で、しかも両親がいないっていうのに高耶さんとラブラブできないなんて!』 なんて言って嘆いてたのは誰にも内緒だ。 仕方なく土曜は留守番になった。だ〜れもいない家の中、オレはインスタントで簡単な食事を済ませたり、好きなテレビ番組をリビングでダラダラしながら見たり、オヤジが大事に飲んでるレミーマルタンを味見したりと好き勝手やってた。 せっかく親の目を気にしないで直江とエッチできたのに、と、思ったのもホントだけど、まあこれはこれで気ままでいいやって感じだった。 玄関ベルが鳴ったからドアを開けて見てみたら、初老のおばさんが立ってた。 「はい?」 今日はいないって聞いて、おばさんは少し残念そうな顔をした。 「あの〜、良かったら電話でもさせますけど……」 おばさんは何度もお辞儀をしてから帰ってった。 すぐに直江にメールをした。長尾さんておばさんが来たぞって。
翌日日曜、直江は午後になって帰ってきた。 「おかえり」 直江が家族4人分のきしめんを買ってきてくれた。それを見たお母さんが今夜はきしめんにしようって 「なあ、今日も長尾さん来ればいいな」 長尾って名前に反応したのは直江だけじゃなく、お母さんもだった。 「どしたの?」 そこで直江が割って入って、オレに見せたいものがあるって言って2階に連れてかれた。 「昨日、高耶さんが会った長尾さんて女性は……私の実の母です」 小さい頃の直江が子供ながらに傷ついていたのは本人から聞いて知ってたけど、まさか母親の浮気が原因だなんて思ってなかった。 「ここの住所はたぶん今の母が知らせたんだと思います。私が小さい頃に父と今の母で、何度も私を母親に会わせようとしてくれたんですが、当の私が会いたくないと拒否してたんです。だからきっと今も母同士で葉書のやりとりぐらいはあるんでしょうね」 それで直江はお母さんが大好きなんだな。オレだって大好きだもん。 「まさかこの家に来るとは思いませんでしたが……高耶さんやお父さんに迷惑かけたら申し訳ないです」 そっか。それでお母さんは悲しそうな顔したんだ。直江がこう言うって知ってたから。 「けど大事な用かもしれないじゃん?だから一回会ってみたらどうかな?お母さんなら住所も知ってそうだし。な?そうしろよ」 こいつ……なんでこう仕事以外じゃ情けないんだろ。 「今の暮らしに満足してるんですよ。高耶さんがいて、お父さんがいて、母がいて。家族で仲良く同じ屋根の下で暮らして、不自由もないし、ストレスもないし、親孝行できて……」 それっきり直江はもうその話をしたくないって言って不機嫌になった。 「お母さんだってさ〜、直江に本当の母親を……」 怒鳴った直江にビックリした。こんな大人なのに感情的に怒鳴ったりするなんて思わなかった。 「直江のガキ」 頑ななバカに腹を立てて、オレは直江の部屋を飛び出した。 大人のクセに意地っ張りでガキっぽくて、ホント、バカみたい。
それから家の中がギスギスしてた。お母さんは直江を心配そうに見ては悲しそうな顔して、直江はずっとムッツリしてるし、オレは直江がガキっぽいのが気に入らないし。 「な〜んか、家の中が暗いなあ」 オレは慣れたもんだけど、お母さんと直江はこの天然に慣れてない。だから二人でギクリとなった。 「せっかく義明くんのお土産のきしめんなのに、もっと楽しく食わなきゃきしめんに申し訳ないだろう」 原因は直江にあると読み取ったオヤジは、夕飯が終わると直江を呼んでリビングでお説教した。 「お父さん、ちゃんと義明を叱ってくれるかしら?」 たぶん直江も本心では母親に会いたいと思ってるはず。ただ会う勇気がないだけで。 しばらくオヤジに説教されてた直江が立ち上がって、無言で2階に行ってしまった。 「ダメだ。義明くんに話を聞いてみたが……ありゃ俺より一枚上手だ」 オヤジが言うことにゃ、仮にオヤジの離婚の原因が浮気だとして、そんで美弥に会わせる顔はあるのかと逆に質問されたらしい。 「さすがあの歳で課長になるだけあって、頭の回転が速い……」 あの石頭兄貴め!
直江の態度は悪いまま。会社でもずっと不機嫌で、『橘課長の反抗期』ってゆータイトルまで付けられた1週間だった。 オヤジが休みの日、ダイニングでお母さんとオヤジの喧嘩が勃発した。 「おまえが甘やかしすぎなんだ!」 大声に驚いてダイニングを見ると、オヤジとお母さんがものすごい形相で言い合いをしてて、オヤジは今にも物をブン投げそうな勢いで、お母さんは目を真っ赤にして泣きそうになってる。 「自分の母親の気持ちもわからない子供に育てたんじゃないか!」 その場面を見て帰ってきたばかりの直江は固まった。 「直江!どうにかしてくれ!」 直江が止めようとしたとたん、お母さんが言ってはならないことを言った。 「やっぱり子連れ同士の再婚なんて無理だったんだわ!」 そんなふうに思ってるなんて……。 「それでも納得して結婚したんだろう!」 初めて見たオヤジの醜態だった。オフクロとの離婚の時だってこんなに怒鳴ったりしなかったのに。 「自分が原因で親を離婚させる気分はどうだ、義明くん」 そう言い残してドスドス足音をさせて2階の寝室に行ってしまった。 「直江……」 その場で固まった直江は自分の足元を見つめて歯を食いしばってた。 「なあ、離婚なんて嘘だろ?」 お母さんを泣かせるなんて最低だ!オヤジも直江も! 「来い!!」 直江を引きずってオレの部屋に。 「どうすんだよ!離婚なんて話にまでなってるぞ!全部おまえが悪いんだ!」 やっと事態の深刻さがわかったらしい。 「親を離婚に追い込むような男をいつまでも好きでいられるわけがないだろう?」 ああ〜!イライラする!! 「いったい何がそんなに気に入らないんだ!前のお母さんに会うの、そんなに嫌か!今のお母さんを悲しませてまで会いたくないわけか!離婚させてまで会いたくないのか!」 オレはオフクロに捨てられたとは思ってない。オフクロに会うのは自由だし、美弥にだっていつでも会える。 「浮気したのは事実だろうが、息子を捨てたわけじゃない。単におまえを育てられないって判断したから親権がお父さん側に行っただけだ。それを捨てられたの何だのって。それに再婚した両親を大事にしようって言い出したのはおまえなんだぞ。それすら嘘だったってことか?両親の幸せよりも自分の思い込みの方が大事だってのか?」 直江が何か言いたそうに口を開いたけど、それすら無視して話し続けた。 「何でもいいからとにかく母親に会え。お母さんだってそうして欲しいから今まで連絡取り合ってたんだ。わかったな。これで会わないなんて言おうもんならオレの鉄拳制裁と三下り半が待ってるからそう思え」 ちょっと脅しの方法が姑息だったかと思うけど、こうでもしなきゃ直江は動かないからな。 「よし。じゃあ今すぐにお母さんとオヤジに報告しろ。母親に会うから離婚は待てって」 これでオヤジも納得してくれりゃいいけどな。
あれから直江はオヤジとお母さんに「母親に会いますから離婚だけはしないでください」と頭を下げた。 てのはオレからの目線で、実はそうじゃないってのを二人から聞いた。 「あれ演技なの」 オレ、いいように利用されてたってこと?マジで? 「ごめんなさいね?」 まったく直江もとんでもないヤツの息子になったもんだ。同情するぜ。
「高耶さんも一緒に来てくださいよ!」 日曜日、直江は産みの母に会うためにでかける準備をしてた。 「私が暴走しないように見張ってて欲しいんです」 不安げに出かけた直江をお母さんと見送った。気が利かない直江にアンゴラのカーディガンを持たせたのはお母さんで、この人の方がよっぽどわかってるんじゃないかって思った。 「ちゃんと自分からのプレゼントだって言って渡せるかしら?」 直江が帰ってきたら色々聞き出してみようかと思ったけど、ヤツのことだから意地が邪魔して話してくれないかもしれない。 「でも高耶くんがいてくれて助かったわ。私とお父さんだけじゃどうしようもなかったから」 好きって、好きって、えーと、どういう意味だ?! 「お兄さんとしてだと頼りないし、課長としてだと厳しくて嫌いかもしれないけど、悪い子じゃないでしょう?家族として好きでいてやって?」 なんだ……家族としてか……ああ、ビックリした。 「私も出来るだけしっかりお母さんをやるから、呆れずに付き合ってね?」 幸せそうな顔してお母さんは家に入ってった。
あれから直江は母親のことを教えてくれなかったけど、アンゴラのカーディガンも渡せたみたいだし、自分もネクタイとマフラーを貰ってたからうまく和解できたんだと思う。 最初は緊張して二人とも黙ってたらしいんだけど、母親が頭を下げて直江に謝ったところから会話が始まって、たくさんいろんなこと喋れたって。 「罪悪感でいっぱいになって、私に会わす顔がなかったそうです」 ギュッと抱かれてキスされて、あったかい頬ずりしてきた。 「高耶さんのおかげです」 殊勝な物言いのわりにベッドに押し倒して強引にエッチに持ち込もうとしてるんだけど。 「あんなに脅されたのも初めてでしたよ」 手がシャツの中に入ってきていろんなとこをまさぐってる。 「愛してます、高耶さん」 どうしようもないほど子供っぽいとこがあるお兄さんだけど、オレにとっては大事な恋人で家族だ。 「今日は夜遅くになるまで両親は帰ってきませんから、とことん励みますよ」 やっぱり優しいだけじゃなくて、とんでもないエロ兄貴だ。先行き不安、かも。
END
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あとがき |
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