直江の誕生日っつーものを聞いたのはお母さんからだ。
「お母さん、直……お兄さんの誕生日っていつ?」
「5月3日だけど。どうしたの?急に」
「いや、やっぱ家族だから知っておいた方がいいと思って」
お母さんはニコニコしながらオレが言った「家族」ってのを喜んでるみたいだった。
そりゃ家族だからってのもあるけど、好きな人、ましてや彼氏の誕生日を知りたいと思うのは当たり前で。
「そっか、5月3日か。ゴールデンウィーク真っ最中だな」
「今までは毎年旅行に行ってたけど、今度の誕生日はどうするのかしらね。何か聞いてない?」
「別に何も」
毎年旅行に行ってたのか。だったら今年も行くのかな?
もし行くんだとしたら、友達と?
オレとだったらいいんだけどな〜。
そんな話をしてたのは半年ぐらい前。
まだオレと直江がそーゆー関係になったぐらいのころだ。
で、今まで忘れてたわけじゃないけど、今年はどうするのかを直江の部屋に行って聞いてみた。
ちなみに今は4月の下旬だ。
「ゴールデンウィークってどっか行く?」
「いいえ。今年はどこへも行きませんよ。あなたといられる家が一番いいと思って」
恥ずかしいことを平気で言うのがこの直江、オレのお兄さんの特徴でもある。
「……どこも行かないのか……」
「何か不服そうじゃないですか。もしかして私がいない方が良かったとか言い出すんじゃないでしょうね」
「まさか。その逆」
仕事机の椅子に座ってた直江が、ヨーロッパ製のベッドにやってきてオレの隣りに座って肩を抱いた。
「一緒にどこか行きたかった?」
「う〜ん、まあ、そんなとこ」
「今から予約しましょうか。せっかく高耶さんが私と旅行したいって言ってくれるんですから」
「今からじゃどこも空いてねえよ。ったく、なんで連休なのにオレに何も相談しないんだかな!」
肩に置かれた手をペシペシ叩いて怒ったふりをした。
「もし早めに相談したとしたら、二人きりじゃなくて、家族旅行になりかねませんからね。両親と同じ部屋になんかなったら、あなたとキスもできないじゃないですか。だったら今からどこか探して、二人分しか予約できなかったってことにして出かければ……」
「おまえってけっこうズルイよな」
「そうですか?」
「もし、どこか予約できたら、二人で行く?」
「……いいんですか?!」
「ん」
だって直江の誕生日だもんな!少しズレたとしたってオレが直江の誕生日を二人きりで祝いたいって言えばきっと喜んでくれると思うんだ。
もちろん驚かせるために当日まで忘れたふりして、行った先でプレゼント渡すってことに決めてるけど。
喜んでる直江にチュッと音を立ててキスしてやった。
すかさず手がオレの太ももを触ってきたから、それはダメって意味で手の甲をつねった。
「ケチ」
「だってお母さんが階下にいるんだぞ?」
「今までだってそんなことあったでしょう?」
「今はダメ。まだ明るいし」
「暗くなったらいいの?」
う。こいつは〜!!最初のエッチの時からわかっちゃいたけど、なんでこういやらしいんだろう!!
「両親が寝静まってから?いつもみたいに、ここで?」
「バカ!」
頭突きをかましてオレは直江の部屋を出た。おでこを押さえた直江が追ってくる。
「すいませんでした!」
「もう知るか!旅行は一人で行け!」
「高耶さ〜ん!」
廊下でオレを捕まえて後ろから抱きしめて、ごめんなさいって謝ってくる。んで、そのままオレの部屋に連れ込まれた。
オレの部屋は直江の部屋の隣りで、ベランダで繋がってる。だから真夜中に直江の部屋とオレの部屋の行き来はだいたいベランダから。
だけど昼間はちゃんと廊下からだ。
「オレの部屋にはお母さんが急に入ってこないのわかってて連れ込んだんだろ」
「ええ。もちろん」
「なんでおまえはそんなにベタベタしたがるんだよ〜」
「いいじゃないですか。恋人同士なんですよ?」
「その前に、この家の中じゃ兄弟だ。ベタベタすんのはおかしいだろ」
もしお母さんや親父に見られたらどーすんだっての!!兄弟でじゃれてましたって年齢じゃねえんだぞ!!
「高耶さんは会社じゃ冷たいから。だから家の中ではせめて」
「……これはセクハラです、課長」
「セクハラなんかじゃありませんよ、仰木くん?スキンシップです」
オレのお兄さんはへこたれない性格してんだよな。基本的に暢気だからさ、あんまり気にしないっつーか、ちょっとすっとぼけてるっつーか。
「どうでもいいけど、とにかく離せ」
「嫌です」
困ったな〜。こいつ一回くっつくと離れないんだよな〜。
「旅行してくれるって言うまでは離れません」
「はあ……わかった、行くから」
パッと離れたのはいいけど、やっぱ手は繋ぐんだな……。
「どこに行きましょうか」
「嬉しそうな顔しやがって……」
「嬉しいんです」
オレの部屋のパソコンを使って空室があるホテルや旅館を優先に行き先を探した。
ゴールデンウィークのわりには空室ってけっこうあるんだな。
「ここはどうですか?3日から一泊ですけど、いい部屋が空いてますよ?」
直江が選んだのは箱根の各部屋露天風呂つき豪華旅館。
「……高すぎないか……?」
「だって高耶さんとの初めての二人旅なんですよ?いい部屋取らないともったいないですよ。それに部屋に露店風呂なんて、私たちにはもってこいじゃないですか」
「ま、まあ、そうだろうけど」
「あなたの裸を他の男に見られなくて済みますし?」
「……本音を言ってみろ……」
「部屋から一歩も出ないであなたとイチャイチャしたいんです。座敷でも、風呂でも、布団でも」
エロ兄貴め……。
「あなたは違う?」
「そりゃあ……気兼ねなくイチャイチャしたいとは思うけど……」
だっていつも家の中にいる誰か(お母さんと親父だけど)にバレないようにって気遣いながらイチャイチャしなきゃいけないもんな。
エッチなんか声出さないようにするの大変なんだから。こいつってばすっげー気持ちよくするし……。
「ここでいいですよね?」
「う……うん……」
直江はオレにキスをしてから、その旅館を予約した。
5月3日。
直江は自分の誕生日なんかキレイサッパリ忘れてるみたいだった。驚かせて喜ばせるにはちょうどいい!
オレと直江は予約でいっぱいのロマンスカーを諦めて、新宿駅から小田急線の急行に乗って箱根に来た。
時間はかかったけどのんびりと乗る小田急線から富士山が見えたりして楽しかった。
箱根湯元に付いてから登山鉄道に乗って、送迎バスに乗り継いで予約した旅館に着いた。
おかえりなさいと着物の美人女将に言われて通された玄関から、この部屋に辿り着くまでずーっとオレは感激しっぱなし。だってどこもかしこもキレイで心配りが行き届いてて最高なんだもん!
「部屋広い〜!掛け軸が渋い〜!それにお茶菓子がうまそう!庭もいい感じだ〜!」
「お茶菓子、どうぞお召し上がりくださいね」
おっと、まだ女将さんがいるのを忘れてた。
「橘様、このあたりの散策をなさるのでしたら帳場に案内図が御座いますので、そちらをお持ちくださいませ」
「ありがとうございます」
「ご兄弟でご旅行なんて、仲がおよろしいんですねえ」
「ええ、半年前に兄弟になったばかりなので、親睦会のようなものですけどね」
直江は予約を入れる際に『橘義明・高耶』で入れたそうだ。それを見てからオレたちを見たら誰だって兄弟だと思うわけで。
お母さんと親父にはもちろん「二人分しか予約が取れなかったから」と言ってある。どっちにしろ親父はゴールデンウィーク中に仕事が入ってたから旅行は無理だけどな。
女将さんが出て行くと、直江はすぐにオレを抱きしめた。
「もう、すぐコレかよ」
「ええ。これをしに来たんですからね」
この部屋は一階で、今いる座敷から見えるのは旅館の庭。しかもこの部屋専用の庭だ。
そんで奥にも部屋があって、そっちに布団を敷いて寝るようになってるっぽかった。部屋についてる風呂は座敷の縁側から行けるようになってて、内風呂に入ってからさらに奥のドアを開けると露天風呂がある。
そんな誰にも見られない、誰にも気を使わないでいい部屋だから、直江とイチャイチャするには好都合。
だけどさ、せっかくいい部屋なんだから、もうちょっとノビノビしたいな〜、なんて思うわけだ。
「まだ時間はあるんだからいいじゃん。お茶菓子でも食ってさ〜」
「一分一秒でも惜しいと思う私の気持ちをわかってくださいよ」
「でも〜」
「高耶さん」
「ん〜」
しょうがないからキスしてやった。
そしたら直江の野郎、調子に乗ってベロを入れてきた。
「おい!」
「……ダメですか?」
「もっとのんびりしようってば!そんなキスしたらおまえ、ガマンできなくなるだろ」
「ガマンする必要があるんですか?」
あるに決まってるだろって言いたかったけど、今の直江に何を言っても無駄だ。
この部屋の代金を払うのも直江なら、予約から何から何までやってくれたのも直江。
そう思うとサービスしなきゃいけないのかな〜と……って、サービスって何だ、サービスって!!
オレは直江の恋人であって、ホステスじゃねえんだぞ!!
「やっぱダメ。可愛い弟のワガママぐらい聞ける余裕が必要だぞ、お兄さん」
「……それは……可愛い弟のワガママだろうが、可愛い恋人のワガママだろうが聞きますが……だけど今日ぐらい私のワガママも聞いてくださいよ」
「……おまえ、もしかして……自分の誕生日に合わせてこの宿選んだな……?」
「う」
そうか。忘れた振りして、本当は覚えてたのかよ。
「高耶さんが私を驚かせようとしてるのがわかったので……きっと喜ばせたいんだな、と」
「そのつもりだったのに」
プレゼントだって用意してきたのに!驚かせたかったのに〜!!
「なんか興醒め。はいはい、離れて。オレはお茶菓子食ってから散歩に行く」
「ええ!」
「くそ〜。なんか悔しいな〜。悔しいから今回の旅行は課長に付き添ってきた部下っつーことにしよう」
「…………」
「だって本当だろ?じゃあ課長、オレは今からお茶を淹れますが、課長も飲みますか?」
直江は泣きそうな顔になった。
だけどオレの機嫌は直らない。
「いりませんか?飲むんだったら自分でやってくださいね、か・ちょ・う」
「高耶さん……」
「ふん」
そんで直江を無視してひとりでお茶を淹れてお茶菓子を食って散歩に出た。
だけど出かけたはいいんだけど、やっぱ寂しくて、つまんなくて。
1時間ぐらいブラブラしてから戻ったら、直江はさっきのままの位置で、さっきのままのポーズで落ち込んでた。
「……直江?」
「……私は、あなたとずっと一緒にいたいだけなのに……」
「え、と……」
「いくら考え直そうとしても、今日だけは高耶さんを部下だと思いたくないんです……」
そんなに楽しみにしてたのか……オレも楽しみにはしてたけど、直江は……そうだよな。誕生日なんだ。
「ごめん……」
「やっぱり課長と部下じゃないとダメですか?」
「いや、あの、もういい。ごめんな」
寂しそうな背中に抱きついて、ほっぺたにキスした。
ゆっくり振り返った直江は疑わしそうな目をして見たけど、オレが本気で謝ってるのがわかると向き直って抱いてくれた。つーか抱きついてきた。
「高耶さん、愛してます」
「ん」
「愛してください」
「うん」
そのまんまムードに流されて、キスして、直江の手がシャツの中に入って来るのも許して、乳首触るのも許して、シャツを脱がされるのも許して、ジーンズの前を開けられて引っ張り出されて触られるのも許して……。
「ん……なお……え」
「気持ちいい?」
「うん……でも、こん、なの……してたら……」
「何?」
「最後まで……したくなる……」
「しましょう?」
もう自分のがすっごく硬くなってるのがわかるんだよな。ガッチガチ。
だけど……もうすぐ夕飯の時間になるし……そしたら仲居さんが来ちゃうし……。
「なおえ……あ、んん……もう……やめ……」
「このままだと辛いでしょう?」
「で、も……も、夕飯……」
ようやく気が付いたのか、直江は手を止めた。
「もう?そんな時間?」
「うん……」
直江に組み敷かれた格好のまんまでいるってのに、ちょうど仲居さんが来ちまった。
襖を開けられる前に慌てて風呂場へ。ドアの向こうから仲居さんが「弟さんはお風呂ですか?」って言ってるのが聞こえる。
「ええ、先に入るとかで」
「うちのお風呂は湯当たりしませんから、何度でも入ってくださいね」
「わかりました。伝えておきます」
食事の支度をしてるのがわかる。だけどオレの体は全然収まらなくて、ガッチガチのまんまだ。
「な……!お兄さん!!ちょっと来て!!」
もうとにかくしてもらわないとダメかも!自分でするなんて無理!直江の手でいいから出したい!
「すいません、弟が呼んでるみたいで……何かあったんでしょうかね」
「ええ。もうお膳のしたくも終わりますから。お食事が終わったらお電話ください」
「はい」
そんな声が聞こえた。直江は縁側からドアを開けて風呂場の脱衣所に入ってきた。
「どうしたんですか?」
「……手でいいから、しろよ」
「……そんなこと?いいんですか?仲居さんがいますよ?」
「いいから!」
「これじゃ家にいるのと変わりませんね……」
オレの体を両手で触りながら、直江は床に膝をついて口で始めた。
「あ……ん……ん……」
「ふ……高耶さん……こんなに硬くして……爆発しそうですね……」
「いいから……もっと」
発射するまで直江は口でしてくれた。夕飯前だってのに、オレのを全部飲み込んで。
「はあ……」
「私のもして?」
「今?」
「あなたのそんな姿を見せられて、立ってないわけないでしょう?」
「ん……」
今度はオレが膝立ち。チノパンの前を開けて、直江のを取り出してすぐに口の中に入れた。
夕飯が冷めるけど、でも今はコッチの方が美味しそう。
「ん、ん、ん」
「いやらしい顔だ……」
どんなふうにいやらしい顔なんだろ?だけどいいんだ。したいもんはしたい。
「このままお風呂でしますか?」
「あふ……ダメ、それは……夕飯冷めるから……」
「じゃあ、早くいかせて?」
「ん。すぐ、いかせてやるよ」
お兄さんにエッチなことを仕込まれて半年。童貞だったオレはいつのまにか直江が満足する程度に技術を磨いた。
というか、磨かされた。
毎日夜にはキスを仕込まれて、週に最低1回は両親が寝静まってから直江の部屋でエッチして、両親がいない日があれば昼間からいろんな技を手取り足取り腰取り仕込まれた。
「上手ですよ……もうちょっと」
「ん……」
でかくてグロい直江のを必死で舐めた。
「た……高耶さん……」
直江にしては早い方だと思う。オレの顔を掴んで引き剥がしてからしゃがんで抱きしめて、自分で自分のをしごいて出した。
だから出たのはオレの体にかかった。
「す……すいません……」
「いいよ。体流してくるから、おまえは座敷に戻ってろ。オレもすぐ戻って夕飯食べるから」
簡単に体を洗ってから戻ると、ホカホカの夕飯が待ってた。まだ冷めてなくて良かった〜。
「お、直江も浴衣に着替えたんだ?」
「旅館と言えば浴衣ですから」
二人でゆっくりと豪華な夕飯を楽しんだ。山海の幸だらけでオレが食ったことないのばっかり。
小さい七輪みたいなやつでタケノコ焼きだの、鹿の刺身だの、さっきまでたぶん口をパクパクさせてたらしい刺身だの、やけに滑らかな茶碗蒸しだの……今までのオレのエンゲル係数はいったい何だったんだってぐらい豪華な食事だった。
「……こんな静かな旅館で二人きりで食事なんて……毎月来たいですねえ」
「おう、また来ようぜ。だけど毎月は無理だから、夏休みとか、正月とかだな」
「はい」
酒も少しだけ入ってほろ酔いになって、オレはまた風呂に入りたくなってきた。
お膳を仲居さんが片付けに来てくれてから直江と二人で一緒に風呂に。
水の流れる音しかしない静かな露天風呂に直江と浸かって、ちょっとだけ甘えて、ちょっとだけエッチなことをして、いい気分のまんま戻ったら奥の部屋に布団が敷かれてた。
オレたちが風呂に入ってる間に仲居さんが来て敷いてくれたんだろう。ほんの少しだけ離れた布団は兄弟の距離だった。
「どうする?」
「どうって、何がですか?」
「くっつける?」
「……いいんじゃないですか、このままで」
離れて寝るってこと?直江が?信じられない!
「こっちの、月明かりが入る布団に一緒に寝ましょう?」
「……そうゆうことか」
「月明かりの中のあなたは格別にキレイですからね」
もちろん直江もオレも目的は一緒。まだ寝るには早い時間から布団に入ってしたかったことをした。
家じゃできないこと。声を出してエッチすること。
「ん!!」
「気持ちいい?もっと声出してもいいですよ……」
「んっ、く、ああ……!直江……!」
「それじゃ足りない。もっと大きな声で」
でもいつもの癖で声が出せない。
「仕方ないですね……こうしたら?」
下に敷かれてたオレの体を起こして、直江の上に座らされた。直江と向き合って座ってる形。奥まで入る。
「覚えて。体面座位。今度、会社の椅子でやってみますか?」
「ん……資料室に椅子なんかない……ぞ……」
「じゃあ、二人で深夜残業しましょう?」
「バカ……課長がそんなことで……うああ!」
いきなり体を持ち上げられて落とされたもんだから、直江のが勢い良く奥まで入って驚いた。
「課長って言わないで。今夜はあなたの恋人なんだから」
「あ!ああ!直江!!も、もう少し、加減し……あああっ」
「加減なんかしませんよ。もったいない。ほら、もっと乱れてみせて」
膝で立つようにしてから、直江の腕がオレの膝裏を持ち上げた。バランスを崩して首に抱きつくしかなかった。
オレを支えてるのは自分の腕と、直江の腕と、繋がってるところだけ。その姿勢で直江は腰をガンガン動かす。
「う、あ!ああ!す……すごっ……いい!」
「その調子。大きな声を聞かせて。あなたがこんなに乱れる姿なんて、なかなか見られるものじゃありませんから」
「ば……か!……あっ……んん!」
何度も体位を変えて、何度もいかされて、声も枯れてきたころに、ようやく直江が満足した。
「こんなにたくさんしたの、初めてですね……」
「おまえ……ずるい……今までこんな絶倫だなんて言わなかったじゃんか……」
「高耶さんと、ふたりきりでいられるからですよ」
嘘っぽかったけど、オレも満足だからツッコミを入れるのはやめた。
それにきっとオレとふたりきりだから、こんなにたくさんできたんだろうし。
「もう離してやんないからな」
「こちらでお願いしたいところです」
「……なあ」
「はい?」
「オレのカバンに、小さい黒い紙袋が入ってる。それ持ってきて」
直江のプレゼント、日付が変わらないうちに渡さなきゃ。
直江がでかいアレをブラブラさせながら歩いて、カバンから紙袋を取ってきた。
「これ?」
「そう。開けていいぞ」
「……プレゼントですか?」
「うん」
紙袋から出てきたのはさらに小さい黒い布の巾着袋。そこから中身を取り出した直江はものすごく驚いた顔をしてオレを見た。
「指輪ですか?」
「うん。おまえに一番似合わなくて、一番しなさそうな若者がする指輪。たまには若い格好もしろってことで」
シルバーのアクセサリーで有名なショップの、大振りの指輪。モチーフは百合の紋章だ。けっこう高かったんだぞ。
「そんでオレのものだって主張してやるつもりで」
「……ありがとうございます!!ええ!あなたのものですとも、もちろん!!」
クタクタになったオレの体を痛いほど抱きしめて、直江は何度もキスをした。
「嬉しい?」
「このまま昇天しそうです!!」
良かった。思ったより驚いてくれたし、喜んでくれた。
最初の思惑とは違った誕生日だけど、それでも直江の驚く顔が見られたってことで、大成功かな。
出発まで直江はずーっとオレにくっついてたから、強制的にイチャイチャになった。
オレのお兄さんはかっこよくて、優しくて、可愛いとこもあって、暢気なのに強引なとこもあって、弟からしたら手がかかるお兄さんだと思う。
だけど本当はオレにメロメロの恋人だ。
「来年もふたりで旅行しましょうね!!」
「そーだな」
「ええと、高耶さんの誕生日と、夏休みと、正月休みと……あと連休がある時なんかはこうやって旅行しましょう」
連休ごとにコレかよ!冗談だろ!
「……たまには休ませろ……」
「ええ。だから、私の腕の中でゆっくり休んでください」
「おまえの腕の中じゃゆっくり休めねーつってんだよ!!」
ダメだ、こりゃ。
END |