牡丹燈籠 5 |
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悲鳴が上がった。 「終わったのか…?」 高耶をゆっくり離し、障子まで行き耳を当て、目を眇め、気配を伺う。 「直江様ァァァ!!!」 直江の耳元で大音声が響いた。お船だった。同時に障子といい、畳といい、部屋中が激しく揺れ、直江は驚き、体を弾かせ引き下がる。 「直江!!」 部屋の片隅に高耶を抱いて蹲った。天井の梁から埃が落ちる。このまま天井も落ちてきてしまうのではないか。 「住職はどうしたんだ?!」 先の悲鳴は住職だったか。 「なぜ私に会ってくださらないのですか?!」 これ以上、高耶を恐怖に晒すわけにはいかぬと思った直江は、障子の外にいるお船に叫んだ。 「帰れ!二度と来るな!おまえには会わん!」 直江があの亡霊と交わったとの会話が、今の高耶には悔しくてたまらなんだ。 「直江はおまえのものなんかじゃない!オレの直江だ!!」 もうこのまま高耶といれば、高耶が危険に晒される。 「おまえが欲しいのは私だろう!景虎様には手を出すな!今からそちらへ行く!」 直江の決心は固かった。高耶を守るためであれば殺されてもかまわいない。 ところがそうは行くかと高耶が直江を引きとめた。その直江に高耶は妖艶な顔で接吻をした。 「高耶さん…、何を…」 揺れる寝所の畳の上に、直江は組み敷かれて仰向けになった。高耶が直江の袴を脱がせ、緩めた褌の脇から手を差し込んだ。 「どうせ呪い殺されるなら、おまえを体内に入れながら殺されたい」 高耶に扱かれながら、直江の男根は立ち上がる。 そうだった。札がいつ破れてお船が入ってこようが、もう迷わないと決めたのだ。 直江からも手を伸ばし、高耶の着物の裾を上げて、褌を外す。そこに見えたのはすでに大きく立ち上がった高耶の桃色の男根 「ああ、直江…いいぞ…」 欲情に頬を染める高耶の顔を見上げながら、空いた片手を菊門へ滑らせた。すると高耶は直江に覆いかぶさるようにして顔を直江の胸につける。 「指を…入れろ…おまえの摩羅が入るように、掻き回せ…」 指を男根から出る汁で濡らし、高耶の菊門にゆっくり入れた。苦痛で顔が歪もうが、尻の肉が強張ろうが、二人にはもう係わることではない。 「うう!は…もっとだ…おまえのが欲しい…」 高耶の喘ぎよりも大音声でお船の呪う声がするが、二人には聞こえていない。ただそこにあるだけだった。 「入れます…腰を、落として」 直江が高耶の細腰を両手で支えながら、我が摩羅めがけて落とす。きつい菊門が直江の男根の先を飲み込もうと押し開かされる。 「あああ!」 肉を引き裂く感触が、直江の男根にした。しかしそれでも腰を引き寄せ、根元まですべて収めた。 「動け…裂いていいから、オレの中で何度でも果てろ…」 高耶の血が滑りを与え、繋がりをいっそう深くした。何が現で、何が夢か、直江にも高耶にもわからない。 「出てこい、景虎ァ!」 外からはこの世のものではない女の、地の底から響く声がしているが、二人には聞こえない。 「あっ…ああ、なお…え…」 菊の花の奥に、湧き上がる源泉があった。そこをめがけて直江が腰を突き出す。 「はあ!」 最初の精が放たれ、高耶の菊の奥と、直江の胸に散った。 「おのれら許さん!景虎!直江様を返せ!!」 お船が二人の情事に気が付いたのだろう。燈籠の火が燃え上がり亡者の姿をより大きく浮かび上がらせた。 「もっとだ…直江のを、もっと」 高耶の眦から涙が一筋零れ落ちる。頬の涙を直江は唇で吸い、瞼まで這わせて睫を下唇で撫でる。 精と唾液と汗にまみれ、二人が現へ戻ってきたのはまばゆいばかりの光のせいだった。 「ああ…夜が、明けた」 直江に半身を支えられ、大刀を杖代わりにして立ち上がった。静寂だけが残っている庭先へ出ようと、二人で札を剥がし の、はずだった。 しかし朝日かと思った光は満月。障子を通して朝日だと思っていたものは、恨めしいほど明るい満月の光だった。 「景虎ァ――――!!!」 絶望の淵に目を凝らしていた高耶のその双眸に、襤褸の錦を纏った骸骨が空中から襲い掛かってきた。 「おのれらもろとも殺してくれようぞ!」 襲撃を失敗した髑髏の眼孔が禍々しい光を放ち、もう一度高耶に襲い掛かろうとした刹那。 高耶が大刀を、抜いた。 「うおおおおお!!」 渾身の力を込めて、大刀で髑髏のお船に斬りかかる。骨をぶつ斬る瞬間に、閃光が迸り、お船の断末魔とともに視界が、空間が歪んだ。 「高耶さん!」 刀にはまだ小さな青い炎がちろちろと燃えている。 「悪霊を、斬った…」 恨みの残骸のようなその炎が消え、直江が高耶をきつく抱きすくめる。 「あなたが、守ってくださった…」 抱擁する二人の耳に、長秀とお晴の声が届いた。走ってこちらへやってくる。 「大丈夫か?!」 高耶の体じゅうから力が抜け、直江に抱きとめられて、安堵の表情を浮かべる。 まだ信じられぬていの長秀とお晴が刀身を追い、目にしたものは。 牡丹燈籠。
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おわり |
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あとがき 長々とお付き合い頂きましてありがとうございました! |
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