ご都合小説 |
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GO TO HELL ※パラレルギャグです |
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「すまん!高耶、死んでくれ〜!」 オレはさっき親父に橋から突き落とされて死んだ。らしい。 橋の上でタバコを吸いたいっつって外に出て、しばらくしたら「おい、ちょっとこい!」なんて呼ばれて出てみりゃさ。これだろ。 そんなわけでオレは現在、死後の世界とやらにいるらしい。 上下左右ってもんがなくて、しかもどこもかしこも真っ白。 まあ、そんなこたどーでもいい。 死んだら死神とか天使とか案内人がいるもんだと思ってたんだけど、そんな奴等の姿はどこにもない。 なんて不親切なんだ、死後の世界。 案内人がいないなら、あそこで道を尋ねようと歩き出してはみたものの、歩けど歩けど辿りつかねえ。 「……直江ツーリスト……?」 観光会社?なんでこんな死後の世界に? 「こんちは〜」 受付にいた男は黒スーツを来たちょっとかっこいいオッサンだった。 「え?なんでオレのこと知ってんの?」 税関??? 「たまにまだ寿命でもないのに死んでしまう人がいるんですよ。そういう人は閻魔大王のところへ行く前に、ここへ来るようになっています。こことは死後の世界ver.3.0Jと呼ばれる所です」 しかし、と、その男は言った。しかしもかかしもねえ。今すぐ戻してもらおうじゃねえか! 「しかしですね、規定ですぐには戻れないようになっています。仮魂の貸し出しが2泊3日なので、それを過ぎてからなんですよ」 どうやら死後の世界バージョン3.0ジェイってとこは人間界の常識が通用しないわりに庶民的だ。 「それでですね、その期間がもったいないということで、我が社がハンパな死者のためのツアーをご提供しています。あ、代金は寿命を1年間貰いますのでご心配なく」 丁寧に教えてくれてるわりには、言ってることがメチャクチャなんだけど……身上書って何? 「ツアーが気に入って元の世界に戻らなかった人は今まで30%。戻った人は70%。ですがなぜか地獄ツアーが気に入って留まりたいと言った人は一人もいませんでした。なんででしょうねえ……」 なんでって……当たり前じゃねえか……地獄を気に入るやつがどこにいるってんだ。 「それで高耶さんの行き先なんですが、まだ決まってないんですよ。普通は税関の知らせと一緒に来るんですが」 そう言って男は電話を掛け始めた。この世界は空間も白いけど、他のものも白い。電話も真っ白、ボールペンも真っ白、インクも真っ白。男のスーツだけ黒だ。 「わかりました。ではお待ちしております」 受話器をコトンと置いた男はオレに向かってメモを見ながら説明を始めた。 「今すぐにファックスが来ますから、もうちょっと待っててください。申し遅れましたが、私は直江ツーリストの社長兼、社員の直江信綱と申します。よろしくお願いしますね」 ファックスを待つ間、オレは直江って男に今現在の人間界でのオレの様子を聞いた。 「高耶さんはお父さんに突き落とされてから、川を流れて夜釣りをしていた男性に救助されました。その人が救急車を呼んで現在は病院の一室で意識不明の状態です」 しばらく直江と話していたら、ファックスが来た。人間界のと同じ音がした。 「ああ、決定したようですよ。え〜……あなたは地獄ツアーですね」 真っ白で読めないんだけど……。 「閻魔大王のコメントが入ってますね『50.1:49.9で地獄ツアー決定。超ビミョー』だそうです」 そーゆーわけでオレは地獄ツアーに行かされるハメになった。
直江ツーリストを出たオレたちは白い道をテクテク歩いていた。 「さあ、こっちですよ。高耶さん。乗り遅れると迷惑をかけてしまいますから早く」 なんでジェットコースター?? 「乗り物からして怖くないと地獄に行く覚悟ができませんからね。亡者認定の皆さんのコースターに乗せてもらうんですから、礼儀正しくしてください」 白い道はどんどん赤黒くなっていって、コースター乗り場はもう阿鼻叫喚て感じの不気味さだった。 「あ!あれこないだ死んだ政治家だ!」 ひー!悪いことするとそーなるのか?! 「人には事情というものがありますから、閻魔大王も情状酌量をしてくれるんですが、彼の場合は酌量の余地もなかったということで23000年です」 ちょっと待て!なんだそりゃ! 「さ、乗りましょう。高耶さんはツアー客ですから特別に一番前を確保してあります」 コースターの一番前、オレは直江と並んで絶叫しながら地獄へ行った。
コースターが着いたそこは呻きや喚きや叫びがこだまするマジモンの地獄だった。 「さて、ツアーでは『死の番号』4種類の地獄が見られることになってますが、今回は私の厳選した地獄をお見せします。あ、言っておきますがプチ体験つきですから覚悟してください」 直江は『血の池地獄』と書かれた扉の前にオレを立たせた。 「ここはとても危険な地獄です」 危険じゃない地獄なんかあんのかよ、って言いたかったけど、たぶん言っても無駄だ。 「絶対に番人に逆らってはいけません。プチ体験と言っても相当な苦痛を伴うでしょう。私もガイドとして付き添いますが、あなたがどんな責め苦をおっても口出ししてはいけないことになっています」 重々しくて毒々しくていかにも地獄の扉って感じの扉を直江が開けた。 「はあ?!」 直江が受付の黒服に名前を告げると丁寧に対応してくれて、店(?)の奥に通された。 「紹介します。これが今回、あなたのプチ体験を担当する綾子です。こちらが高耶さんだ。綾子、あまり手ひどい真似をするんじゃないぞ。彼はプチ体験ツアーなんだからな」 そして……オレは血の池地獄と呼ばれるこのキャバクラの正体を知ったのだ。 「ほらほら、もっと飲んで〜!まだまだ飲み足りないんじゃないの〜?!」 血を吐くまで酒を飲まされるのだ。それが血の池地獄。 「うーい。もう飲めねえ……」 メタクソに酔っ払っても許されない。まさに地獄だ。 「ここから出るにはキャバ嬢と飲み比べをして勝たないといけないのよ」 綾子ねーさんの酒の強さは尋常じゃないみたいで、逆指名でまた別のテーブルへ行ってしまった。 「今日こそは綾子ちゃんに勝って地獄から脱出だ〜!」 オレ、生き返ったら酒で悪いことしないようにしよう……。
お次は叫喚地獄と書かれたプレートが貼ってある扉の前だった。 「ここは番人になじりやそしりを受けます。言い返すことは出来ますが、言い負かさなければ出られない決まりになっています。高耶さんはツアー客なので5分間と決められていますが……かなりの罵詈雑言を受けますから適度に落ち込んでください」 適度にってなんだ……オエ〜。 さっきと同じ毒々しい扉が開くと、今度は民家の男の部屋だった。 「さ、入って」 どこかの英会話教室みたいだな、おい……。 「お、直江。そいつか、体験ツアーの客は」 メガネをかけた地獄の番人はちょっと大人っぽい大学生みたいなやつだった。 「なんだ、てめえ。挨拶もろくにできねーのかよ。ったく。どうせ幼稚園も学校も行ってねえ山ザルなんだろうよ」 なるほど、これが叫喚地獄……。叫んで喚くってわけか。 「だいたいなんなんだよ、そのツラ!目つきわりーったらありゃしねえ!臆病者のくせに面構えだけはいっちょまえってか!ろくでもねえ生き方してきたんだろうなー!」 むむむ。言いたい放題じゃねえか!そんならこっちも遠慮はしねえ! 「うるせえ!このメガネ!エリートだかなんだか知らねーが、メガネかけてりゃ頭良く見えるとでも思ってんだろうが!てめえの頭振ったらカラカラ音がすんじゃねえのか?!干からびた脳みその音がよ!」 ピリピリピリ〜。笛の音。 「時間です。5分過ぎました。高耶さんの叫喚地獄体験は終了です」 ヘラヘラと勝利の笑顔を浮かべる長秀に手を振られ、オレは直江に引きずられながら外へ出た。
三番目の扉に辿り着くまでオレは悔し涙が溢れてきてしょうがなかった。 「さて、お次は針の筵地獄です。ここは今までよりもさらにきつい地獄になっています。ここについては高耶さんが耐えられないと判断した場合、私が助けていいことになっています」 そんなに……針の筵地獄……オレ、1分ももたないかも……。 「さあ、入りますよ。覚悟を決めて」 またもや毒々しい扉が開いた。しかし中は死後の世界バージョン3.0Jと同じ白い世界だった。 「……ここ……?」 やってきたのは温和な顔の少年。オレと同じくらいの年齢のやつだった。 「あれのどこが怖いんだ?」 オレが座った座布団の前にも同じ座布団があって、少年はそこに座った。 「こんにちは。俺、譲って言うんだ。本業は弥勒菩薩」 本業は、って……。じゃあこれはバイトか何かか?つーか、こいつが弥勒菩薩? 「きみは高耶だね。ねえ、高耶。なんで学校来ないの?」 譲はどんぐりまなこでオレをじーっと見つめた。 「どうしていつもそんなふうに突っ張ってんの?本当は寂しいくせに。いつか友達なくすよ?」 どんぐりまなこはオレの心を見透かしてるようにじーっとオレの目を覗き込む。 怖い…………確かにこりゃ針の筵だ……。 「譲さん、ストップです!もうこれ以上は高耶さんには耐え切れません!」 終わった……今までで一番単純だったけど、一番怖い地獄だった……。 「ふう……どうにか耐えましたね……さて、と。ここを出たら次は淫欲地獄です」 だけど切られる人を見なきゃいけないってこったろ?いやだ〜!痛いのなんか見たくない〜! 「それだけは!それだけは勘弁してくれ!痛いの見るの絶対やだ!」 ニヤリと笑った直江が怪しかったけど、そんな×××を切り落とされるシーンを見なくて済んだと思ったオレはあんまり気にしないで直江の後について行った。
「ここが淫欲地獄ver.5.0Jです」 ここで何を体験させられるんだ?切り取りよりももうちょっとソフトな……って、まさかSMを見せられるんじゃ! 「さあ、ここに寝て」 直江に言われたとーり、ベッドに寝るとポンポンポーンと服を脱がされてスッポンポンに。 「うわわわ!」 直江がオレの×××を咥えてしゃぶりだした!なんだこれ〜!! 「きもちいい?」 そしてオレは直江の熱い鬼の金棒をケツにぶち込まれて灼熱地獄も味わった。 「高耶さん!好きです!」 オレはとうとうこの地獄に負けて、何度も何度も発射して、直江と堕ちた。地獄に。たぶん。 「も、ダメ……!いくぅ!いく〜!!」
直江の絶倫で気絶してる間にどうやらオレは人間界に戻ってきてたようだ。 あれは夢だったのか?いや、それにしてはリアルすぎる。 だけどここは病院で、直江の姿もなくて、病室には親父がいて……。メチャクチャに後悔して謝ってきた親父がいる。 「仰木さん、面会の方がお見えですよ」 看護婦さんがドアをコンコンと叩いた。親父は見舞いのリンゴをむいてた手を止めて病室の外に挨拶へ行った。 「これはこれは……。ええ、その節はありがとうございました。おかげで助かりました」 ん?助けてくれたって、夜釣りしてたってオッサンか? 「金まで工面していただいて……これで借金も返せます。いや、そんな、お安い御用ですよ。高耶一人ぐらい」 は?なんだ?金の工面?お安い御用?高耶一人ぐらい? 「息子も元気になりまして。どうぞ、どうぞ。会ってやってください。これからお世話になるんですから」 親父のおかしなセリフと供に入って来たのは……なんと直江。 「な!なんでおまえがここにいるんだ!」 うぇ?って、ことは?もしかしてあの直江に似てるだけ? 「この方は橘さんと言って、おまえを助けてくれた恩人だ。趣味の釣りで話が合ってな、今は父さん、橘さんが経営してる旅行会社で部長として再就職したんだ。借金まで肩代わりしていただいてな。おまえも感謝しないか」 それで親父の顔が妙に明るかったわけか。再就職もできたし、借金も返せたし。 「それでだ。父さんの働きだけじゃ橘さんに借りた金は返せないんでな、高耶にも橘さんのところで働いてもらうことになったんだ」 住み込み?家政婦代わりにでもするんだろうか? 「よろしくお願いしますね、高耶さん。それほどつらい仕事はさせませんから安心してください」 親父は橘さんにコーヒーでも買ってくる、とか言って病室を出た。 「そんで、オレは橘さんとこで何して働けばいいの?」 直江だ〜〜〜!!! 「親父!親父ぃぃぃ!!」 誰か、助けてくれ〜〜〜〜!!!
END |
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勢いで書いたもの。 |
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