パクリ小説 |
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走れ直江 ※メロス的な設定になっています |
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直江は激怒した。 メロス直江は末っ子である。直江の実家で婚礼の宴があるため、買出しからお手伝いの手配までの一切を押し付けられ、徒歩で半日もかかる町の市場にやってきたのだった。 「ああもう、どうして俺がひとりで買出しなんかを……」 ブツブツ言いながら買い物をしていると背後から声をかけられた。この声は! 「セリヌンティウス高耶さん!」 直江に声をかけたのは親友……ではなく、恋人……でもなく、単なる友人の高耶だった。 「どうしてこんなたくさん買い物してんだ?」 直江は昔から高耶のことが好きだった。しかし高耶は直江なんぞに目もくれず、若い友人たちと青春を謳歌している。 『キスしてからわかることもありますよ』 などと言って、まだ純情な高耶の唇を奪った。でも高耶は、 『わかることなんか特になかったぞ』 と言って家に帰ってしまったのだ。それ以降は何をするでもなく告白の話も立ち消えてしまった。 「高耶さんは何をしてるんですか?」 立ち話をしていたら、屈強な憲兵に目をつけられてしまった。最近このへんの取締りが厳しくなって、すこし怪しいだけでも調べられたりしてしまう。 「こんなところで何をしているんだ」 合図が出たと思ったら即座に囲まれてしまった。 「高耶さんに触るな!」 高耶が飛び出して憲兵5人を一気に片付けてしまった。残りは一番偉そうな憲兵だ。 「どっからでもかかって来いよ!オラオラ!」 直江が見とれているうちに最後の一人がやられてしまった。高耶は今は更正したが、元々町の暴れん坊で、誰もケンカで勝てなかったほどの達人である。 「お見事!」 さて行こう、という時になってどこからともなく憲兵が一人現れた。 「待ーてーよー」 高耶たちを引き止めようとするが、二人はおかまいなしに歩き出す。知らぬ存ぜぬを通すのが一番だ。 「待てっつってんだろ!この倒れてるやつらをやったのはおまえたちなんだろ!」 憲兵はまだ若い男で、眼鏡をかけた色男。 「俺様は超カッコイイ憲兵の千秋だ。ちなみにそれなりに偉くもある。で、どっちがこいつらをボコボコにしたんだ?」 逃げようと走り出した。しかし千秋もただの憲兵ではない。それなりに偉いのは伊達じゃない。 「よっ!」 千秋の掛け声とともに直江が転んだ。足首に何か巻きついている。ムチだ。 「なんだこれは!」 いつの間にかさっき倒したヤツらが復活していて直江を縄でグルグル巻きにした。 「高耶さん……薄情……いや、良かった……」 本音を押さえ込んで表面だけの言葉を言ってみた。それに千秋が気付いたらしく「可哀想に」と一言呟かれてしまった。 「そんな!たかがあれだけで!」 裁判もなく決まってしまった。なぜかというと高耶がボコボコにした憲兵の中にお偉いさんの愛人がいたそうで、その怒りを買ってしまったかららしい。 「もしこれで死罪になったら婚礼の買い物を届けられなかったということになり、死人にも追い討ちをかけるうちの家族は天国まで……いや、地獄かもしれないが、追いかけて私をシメあげるに違いない!」 直江が死よりも怖い家族を思い出して震えていると、千秋が伝言を持ってやってきた。 「偉いさんから伝言だ。どうやら愛人の浮気で悩んでたらしくてな、人を信用できないんだって。おまえが婚礼の買い物をして手伝いが終わるまで信頼している友人を人質に差し出すなら、3日間だけ家に帰ってもいいって」 3日間といえばギリギリの日数だ。 「……それは……」 とにかく直江は死罪が決定している。しかし婚礼の準備もしなくてはいけない。3日間の猶予を貰えればそれを済ませて戻ることができる。だがその間の人質が高耶。直江は悩んだ。 「悩む必要ないぞ」 高耶が両脇を屈強で屈強でそりゃもう山のようにでかい憲兵数人に付き添われて建物に入ってきている。 「なんだってんだよ、これはぁ。おい直江ぇ」 元々は高耶が憲兵をのしてしまったのではないかと口に出しそうになったが堪えた。堪えないと死罪は高耶になってしまう。 「時間内に戻ってこなかったら呪い殺すからな!」 走れ、直江。
とりあえず買い物を済ませて婚礼の準備をした。出席はできないが準備だけはやらないと家族全員から殺されて高耶も死罪にさせてしまう。必死で準備を終わらせた。 「じゃあみなさん、私は天国か地獄かどっちかに旅立ちます。お世話になりました」 家族は何も理解していない、というか直江の話など聞いていないのだからこの反応は当たり前。 直江は走った。途中で山賊のイチゾーに謎の笛を吹かれて強盗に遭いそうになったり、近道をしようとして崖から落ちたり、腹が減って山に生えていたキノコを食べて大笑いして死にそうになったり、おかしな英語の文が頭の中を駆け巡って動けなくなったり、高耶が磔にされている広場に着くころにはボロボロで服すら残っていない状態だったが、とりあえずはギリギリで間に合った。 「てめえ直江!おっせーんだよ!そろそろ足元に火ィつけられるとこだったんだぞ!」 それを一部始終見ていたお偉いさんは信頼しあう二人に感動して無罪を言い渡した。 「……高耶さん!無罪ですって!」 広場は笑いに包まれ町は平和になった。 めでたしめでたし。
END |
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めでたいのか? |
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