パクリ小説
   
 
走れ直江

※メロス的な設定になっています


 
         
 

直江は激怒した。

メロス直江は末っ子である。直江の実家で婚礼の宴があるため、買出しからお手伝いの手配までの一切を押し付けられ、徒歩で半日もかかる町の市場にやってきたのだった。
家族には逆らえない直江、大人しく家を出て市場に入る手前でやっと激怒したのだった。
ちょっと遅すぎる。

「ああもう、どうして俺がひとりで買出しなんかを……」
「おい、直江じゃねえか」

ブツブツ言いながら買い物をしていると背後から声をかけられた。この声は!

「セリヌンティウス高耶さん!」
「……長ったらしいからセリヌンティウスって言わなくていい」
「高耶さん!」
「言い直さなくてもいい」

直江に声をかけたのは親友……ではなく、恋人……でもなく、単なる友人の高耶だった。
直江の片思いの相手でもある。

「どうしてこんなたくさん買い物してんだ?」
「実家で婚礼がありまして、その買い物なんですよ」
「ああ、そういえばそんな話を聞いたっけな。で?ひとりか?」
「ええ、非情な家族ですよ。私にだけ大変な用事を言いつけて、自分たちは実家で楽な仕事してるんですから。でもこうして高耶さんに会えたならザマアミロって感じですけどね」

直江は昔から高耶のことが好きだった。しかし高耶は直江なんぞに目もくれず、若い友人たちと青春を謳歌している。
1年ほど前、直江は高耶に告白をした。返事はなんとなく濁されてしまって今では無かったことになっているようだ。
しかし直江も百戦錬磨のプレイボーイ。告白の際にチューだけゲットしていた。

『キスしてからわかることもありますよ』

などと言って、まだ純情な高耶の唇を奪った。でも高耶は、

『わかることなんか特になかったぞ』

と言って家に帰ってしまったのだ。それ以降は何をするでもなく告白の話も立ち消えてしまった。

「高耶さんは何をしてるんですか?」
「オレは美弥の誕生日プレゼントを買いに来たんだ。来週だから」
「そうだったんですか、いや〜、偶然ですねえ」
「偶然てゆーか、市場はたまにしか立たないんだからみんな集まるだろ?会って当たり前じゃん」
「そうですけど……」

立ち話をしていたら、屈強な憲兵に目をつけられてしまった。最近このへんの取締りが厳しくなって、すこし怪しいだけでも調べられたりしてしまう。
特に市場などの賑わう場所は泥棒も多いのですぐに怪しまれる。

「こんなところで何をしているんだ」
「え、いやその、久しぶりに会ったのでつい立ち話を」
「怪しいやつ等め。引っ立てい!」

合図が出たと思ったら即座に囲まれてしまった。
この屈強な男どもに何をされるんだろうと不安に思いながら、直江は体を張って高耶を庇った。

「高耶さんに触るな!」
「直江、こいつらを思う存分やっちゃっていいかな?」
「……やっちゃうって、何を、ですか?」
「見てればわかる!」

高耶が飛び出して憲兵5人を一気に片付けてしまった。残りは一番偉そうな憲兵だ。

「どっからでもかかって来いよ!オラオラ!」
「……なんてステキな啖呵なんだろう……」

直江が見とれているうちに最後の一人がやられてしまった。高耶は今は更正したが、元々町の暴れん坊で、誰もケンカで勝てなかったほどの達人である。

「お見事!」
「ちょろいもんよ!」

さて行こう、という時になってどこからともなく憲兵が一人現れた。

「待ーてーよー」

高耶たちを引き止めようとするが、二人はおかまいなしに歩き出す。知らぬ存ぜぬを通すのが一番だ。

「待てっつってんだろ!この倒れてるやつらをやったのはおまえたちなんだろ!」

憲兵はまだ若い男で、眼鏡をかけた色男。

「俺様は超カッコイイ憲兵の千秋だ。ちなみにそれなりに偉くもある。で、どっちがこいつらをボコボコにしたんだ?」
「……高耶さん、逃げますよ」
「おう!」

逃げようと走り出した。しかし千秋もただの憲兵ではない。それなりに偉いのは伊達じゃない。

「よっ!」

千秋の掛け声とともに直江が転んだ。足首に何か巻きついている。ムチだ。

「なんだこれは!」
「俺のアダナはムチの貴公子ってんだ。逃げ切れると思ったら大間違いだぜ。じゃ官吏のとこまで来てもらおう」
「……く」

いつの間にかさっき倒したヤツらが復活していて直江を縄でグルグル巻きにした。
高耶だけでも逃げてくれたら、と思って振り向くと、もうそこには高耶の姿はなくなっていた。
残像すらない。

「高耶さん……薄情……いや、良かった……」

本音を押さえ込んで表面だけの言葉を言ってみた。それに千秋が気付いたらしく「可哀想に」と一言呟かれてしまった。
千秋に連れられ官吏のいる建物にやってきた。直江は憲兵をボコボコにした罪で死罪と決まった。

「そんな!たかがあれだけで!」

裁判もなく決まってしまった。なぜかというと高耶がボコボコにした憲兵の中にお偉いさんの愛人がいたそうで、その怒りを買ってしまったかららしい。

「もしこれで死罪になったら婚礼の買い物を届けられなかったということになり、死人にも追い討ちをかけるうちの家族は天国まで……いや、地獄かもしれないが、追いかけて私をシメあげるに違いない!」

直江が死よりも怖い家族を思い出して震えていると、千秋が伝言を持ってやってきた。

「偉いさんから伝言だ。どうやら愛人の浮気で悩んでたらしくてな、人を信用できないんだって。おまえが婚礼の買い物をして手伝いが終わるまで信頼している友人を人質に差し出すなら、3日間だけ家に帰ってもいいって」

3日間といえばギリギリの日数だ。

「……それは……」
「さっきおまえと一緒にいた男。あいつはどうだ?」
「高耶さんは……高耶さんは……。そりゃあ俺が一番信頼している人ではあるが……」
「そういう人間じゃないとダメなんだ。だっておまえが時間通りに帰って来なかったら、そいつが代わりに死罪になるんだからな」
「え!!」

とにかく直江は死罪が決定している。しかし婚礼の準備もしなくてはいけない。3日間の猶予を貰えればそれを済ませて戻ることができる。だがその間の人質が高耶。直江は悩んだ。

「悩む必要ないぞ」
「どうしてだ?」
「だってもう決定しちゃったから。あ、ほら、高耶だっけ?来たじゃん」

高耶が両脇を屈強で屈強でそりゃもう山のようにでかい憲兵数人に付き添われて建物に入ってきている。
高耶を警戒する必要性をやっと感じた憲兵もバカではないらしい。

「なんだってんだよ、これはぁ。おい直江ぇ」
「かくかくしかじかで高耶さんが人質になるそうです」
「……ヤダよ。なんでオレが」

元々は高耶が憲兵をのしてしまったのではないかと口に出しそうになったが堪えた。堪えないと死罪は高耶になってしまう。
そんな雰囲気を察したか、渋々高耶は承知した。

「時間内に戻ってこなかったら呪い殺すからな!」
「大丈夫です!ちゃっちゃとやっつけて戻ってきます!」

走れ、直江。

 

 

 

とりあえず買い物を済ませて婚礼の準備をした。出席はできないが準備だけはやらないと家族全員から殺されて高耶も死罪にさせてしまう。必死で準備を終わらせた。

「じゃあみなさん、私は天国か地獄かどっちかに旅立ちます。お世話になりました」
「あらそう?旅のお土産よろしくね」
「まんじゅうでいいからな」

家族は何も理解していない、というか直江の話など聞いていないのだからこの反応は当たり前。
なんとなく存在意義を疑ったが、高耶を救い出さないといけない。あと丸1日しかない。町まで走って半日以上だから、どうにか間に合うだろう。でも早目に家を出るに越したことはない。

直江は走った。途中で山賊のイチゾーに謎の笛を吹かれて強盗に遭いそうになったり、近道をしようとして崖から落ちたり、腹が減って山に生えていたキノコを食べて大笑いして死にそうになったり、おかしな英語の文が頭の中を駆け巡って動けなくなったり、高耶が磔にされている広場に着くころにはボロボロで服すら残っていない状態だったが、とりあえずはギリギリで間に合った。

「てめえ直江!おっせーんだよ!そろそろ足元に火ィつけられるとこだったんだぞ!」
「あなたを見捨てるわけないでしょう!私を信じてください!」
「……いやその……信じてたけど……直江は絶対来てくれるって」
「高耶さん……」

それを一部始終見ていたお偉いさんは信頼しあう二人に感動して無罪を言い渡した。
高耶はすぐに磔台から下ろされ、縛られていた手首をさすった。

「……高耶さん!無罪ですって!」
「おう!って、おまえなんで全裸なんだ!」
「原作に基いて服がボロボロになっていつの間にか全裸、ということです」
「寄るな!!」
「キスした仲じゃないですか!」
「おまえに騙されてしただけだ!」

広場は笑いに包まれ町は平和になった。
その後、直江はまた高耶に告白をし、二度と人前で全裸にならないことを約束して付き合うことになった。
それもこれも無実の罪で死罪になりかけた直江のバカさ加減と、自分がボコったのに知らん顔をして逃げた高耶の狡賢さのおかげであった。

めでたしめでたし。

 

 

 

END

 
         
   

めでたいのか?
ちょっと頭の中がおかしく
なってきています。
拍手用に作ったのに
長くなったのでこちらへ。