行間読み小説 |
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色 ※原作パラレルみたいな感じの設定 |
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直江の部屋の掃除をしてたらA4サイズの紙が机の上に置いてあったのを見つけた。
「来月の土日で社員旅行なんだって?」 夕飯の時にちょっと聞いてみた。 「どうしてって、机の上にお知らせの紙があったから」 そう言ったら直江は不思議そうな顔をしてオレを見た。 「行きませんけど?」 当然のように行かないって言った。まるで高耶さんなら知っていて当然でしょう、って感じの。 「行き先は見ましたか?」 そうだった。 「もう欠席って言ってあります。一日欠勤扱いになりますけど、傷を見られるよりいいですから」 なんか申し訳なくなって黙ってしまった。だってどの傷だって全部、オレを庇ったせいでついたやつだ。
その日は何をやっても冴えなくて、溜息をつきながら家に帰った。 夕飯を作る気にもなれなくて、リビングでダラダラ過ごしてたらいつのまにか外が真っ暗になってた。 赤くて暗い光の月。赤い月が出ると悪いことが起きるって誰かに聞いたことがある。 いてもたってもいられなくて携帯にメールを送った。返事は来ない。 不安な時は結局動かないと落ち着かなくて、マンションを出て駅に向かった。駅に着く前に改札で待ってるからってメールも留守番電話も入れた。 自動改札から直江が出て来たのはそれから30分後。オレがいるのに驚いて駆け寄ってきた。 「どうしたんですか?何かあったんですか?」 慌てて携帯を内ポケットから出して開けた。メールを見て「改札で待ってる」ってのを読んで、直江はすごく不思議そうな顔をした。 「何もないのに30分以上も待ってたんですか?」 駅を出たところから見える赤い月を指差した。 「直江に何かあったのかと思ったんだ」 ゆっくり歩き出して直江はニヤニヤ笑いながらありがとうって言った。まるで幼稚園児を見る先生みたいに。 「なんだよ」 歩きながら直江は赤い月の話をした。 「月が赤くなるのは光の反射なんですよ。悪い予感は迷信です」 それがいったいどうして赤い月に関係あるんだ。 「空に舞い上がった砂がフィルターの役目をして、月に色をつけるんですよ。だから赤くなるんです」 ロマンティック?どこが?声には出さなかったけど、そんな顔をしてみせた。 「遠く遥かな土地の砂が、風に乗って日本までやって来ているんですよ。砂に人生があるとしたら一生を左右する大きな旅です。誰に踏まれたかわからない砂が日本に来る。もしかしたらチンギスハンが踏んだかも、三国志の英雄が踏んだかも、そう考えるとなんだか月が赤くなるのが楽しみになりませんか?」 オレにはチンギスハンも三国志もわからないけど、そんなものかもしれない。 「おまえってたまにいい事言うな」 嫌な予感もそう悪いもんじゃない。ザワザワした気分はきっとウキウキするためにあるんだ。 「ラーメン食ったらファミレスでコーヒー飲もう。ビールでもいいぞ。んで夜中まで話そう」 西に傾きかけた赤い月を追いかけながら、オレたちは黙って歩く。 さっきまで怖かった色だって、本当のことを知れば好きになる。
END |
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「春」の続きみたいな |
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