続・景虎ちゃま。

 

 

「こうちてくれるわ!」

おもらし攻撃発動中。


時間は少しさかのぼる。

「直江が見つかったぞ」
「本当?!どこにいたの?!」

晴家が嬉しそうに景虎に詰め寄った。

「ここから半刻ほど歩いた牛鍋屋の息子だった」
「息子…って、もしかしたらまだ子供?」
「そうだ。去年、オムツが取れたそうだ」
「きゃー!可愛い!見たい、見たい!」
「俺も見て〜な〜、な、とっつぁん?」
「それは見てみたいが…景虎殿、それで直江は闘えるようでしたか?」
「無理だな、あれじゃ。しばらくは戦闘には参加できそうもない」

戦力としての期待は出来ない、とハッキリ告げられて3人は肩を落としたが、それだけで終わるような奇特な人間は夜叉衆にはいない。

「今度はいつ来るって?」
「知らん。勝手に来るんじゃないか?」

 

 

翌日、また家を抜け出して直江がやってきた。

「景虎ちゃま!」
「…別に無理して来ることないんだ。家で遊んでおればいいものを」
「そうは行きまちぇん。この直江のぶちゅな、あなたのおちょばを離れるのがどんなにちゅらいか…」
「どうでもいいが、その姿を晴家や長秀に見られたらおもちゃにされるぞ」
「そうはさせまちぇんよ。あんなやちゅらの一人や二人」

子供の声が聞こえた、と晴家&長秀が縁側にやってきた。

「直江だ!本当に子供になってたのね!可愛いわ〜!」
「おう、直江。久しぶりだな。よし、こっちこい」
「何をちゅる!降ろちぇ!長秀!」

縁側で草履を脱いだ直江を抱き上げて長秀は床の間に上げた。
晴家も長秀を追って床の間に鎮座した直江を眺めた。

「ひー!可愛い!直江らしくなーい!」
「本当だぜ。これがあの鉄面皮の直江とはな」
「やかまちい!」
「口調は直江なんだけどな〜。まったく迫力ねえな」

長秀に高い高いをされ、その足の裏を晴家がくすぐった。

「降ろちぇ!やめんか!わたちはこのような目に遭うために来たのではないじょ!」
「ないじょ!だって〜!あっはっは!」
「くちょー。こうなったら奥の手をちゅかってやる!こうちてくれるわ!」

長秀が頭の上に直江を掲げたとたん、シーという音と共に、生暖かい水が頭に垂れた。
足をくすぐっていた晴家の手にも。

「わー!きったねえな!何、漏らしてんだ!直江!」
「おちっこ攻撃だ!」
「何をやっとるかー!!!」

景虎がその光景と、畳に落ちた直江のシッコを見て激怒した。

「直江を貸せ!折檻してやる!」
「てめえ、直江!覚えてろよ!」
「きたなーい!もう!この着物高かったのよ!」

無言のまま勝長が雑巾を持ってきて、畳を拭いている。しかしこめかみには怒りのマークが出ていた。

「すまん、勝長殿。直江にはきつく言い聞かせるから」
「ええ、きつーく!!!言い聞かせてください」

シッコしたせいで濡れた着物が、直江を横に抱えた景虎の手にもつく。
なんてことをしたんだ、このチビは!!

「直江、今からお前の躾を開始する。言い訳は聞かん。黙ってケツを出してオレの膝の上に乗れ」
「ちょんな…お尻をあなたに見ちぇるだなんて…はじゅかちいでちゅ」
「いいからやれ!!」

いそいそと直江は着物の裾をめくり、蒙古斑が残る尻を景虎に向けた。
それから顔を赤くして照れながら、景虎の膝の上に座る。

「座るんじゃない。寝そべるんだ」
「はい?」
「寝そべるんだ!」
「はい!」

直江はお尻ペンペンの刑を景虎直々に賜った。

 

「景虎ちゃまの手はゴチュゴチュちてまちたから、おちりがまだ痛いでちゅよ」
「とにかくその汚い着物でいられたら臭いわ、汚いわでたまらんな。確か、押入れに子供の着物があったはずだ。自分で取りにいけ」
「わかりまちた…」

押入れの中の葛篭に小さな着物があった。今の直江にとってはちょうどいいサイズかもしれない。
それを持って景虎のいる床の間へ行こうとした時、背後から殺気がした。

「誰じょ!?」

驚いて後ろを振り返ると、雑巾を手にした勝長が立っていた。まるで仁王像のようだ。

「おのれ、直江。なぜおまえの不始末を私がしなくてはならんのだ」
「ちゅ…ちゅいまちぇん…」
「今度やったら全部、おまえが片付けるんだぞ!」
「はい〜!」

勝長の殺気を本物だと感じた直江は退散するかのように床の間に向かった。

「…景虎ちゃま?」
「なんだ」
「あの…まだ小ちゃいので、着物がうまくきれまちぇん…」
「それでも自分で着ろ。オレはそんなの知ったことではない」
「景虎ちゃま〜ぁ…」

小さいために力がない。そのため帯を結ぼうとしても力が入らず、どうしても袂が緩くなってしまう。
モタモタと何度もやり直し、バランスを失ってコロンと転がってしまったり、子供の直江はどうにも景虎の母性(父性?)を誘い出す。

「しかたないな…着せてやるから、こっちに寄れ」
「ありがとうございまちゅ!」

袖を通しただけの着物をヒラヒラさせ、帯を引きずって景虎の元へ行く。
その帯を引っ手繰って、ニヤけた子供の体を力強く掴んでシャキっと立たせた。

「身が引き締まる思いでちゅ」
「そりゃ帯をきつく締めてるからだ」
「景虎ちゃまに着ちぇてもらえるなんて、なんてわたちは幸せ者でちょう」
「家臣が主人に服を着させるなどとは言語道断だがな」
「ちゅいまちぇん…」

ようやく着物を着れた直江は、景虎に「もう帰れ」と言いつけられ、縁側にあった草履を履いた。

「さびちいでちゅ」
「今帰らんと、長秀たちに何をされるかわからんぞ」

長秀は直江のおもらし攻撃のせいで汚れた頭と体を風呂で洗っている。
晴家は汚れた着物を洗い張りに出しに行った。
勝長は裏手の井戸で雑巾をこれでもか、と言うほど洗っている。

「あの…また手をちゅないで家まで送ってくれまちぇんか?」
「甘えるな。直江のくせに」
「そうでちゅよね…」

今日こそは甘くしないと心に決めた景虎は縁側から直江を見送った。

 

 

「な・お・え〜」
「はっ!」

たったひとりの帰り道、背後に複数の殺気を感じた。
振り返ると景虎を除いた夜叉衆が揃ってオーラを噴出している。

「今から俺達がおまえの躾をする」
「おちりペンペンで景虎ちゃまからのしちゅけは終わっている!」
「そうはいかん。直江。景虎殿と私たちでは違うのだ。よいか。これは躾だ」
「そうよ、直江。あたしたちがたーっぷり、あんたを躾けてやるからね!」

逃げようと走り出すが、直江の足と長秀たちの足では差は歴然。
すぐに追いつかれてしまった。

「たちゅけてくだちゃい、景虎ちゃま〜!!」

 

 

直江からの思念波が聞こえたが、回路切断して勝長たちにまかせた。

「あいつのシモの躾は数人がかりでやらないと無理そうだな」

そう言いながらのんびりと茶をすすり、庭の小鳥を眺める景虎ちゃまであった。

 

END

 

 

 

あとがき

子供の躾は3歳までが肝心です。
それにしてもなんてことを
しでかすんだ、直江よ。
洗い張りとは、着物のクリーニングです。

 

ブラウザで戻ってください