落語パロディ小説
   
 
まんじゅうこわい

※ 落語のまんじゅうこわいを知らない人は
調べてから読んだ方がよろしいかと。



 
         
 

晴家と直江と景虎と色部のとっつぁんと俺様の5人でバーベキュー大会をしに富士山の麓の西湖にキャンプをしに来ていた。
とっつぁん自慢のアウトドア用品をあのウィンダムに積んで大人5人を乗せて走り、湖のほとりのキャンプ場に入った時は助手席にいた景虎ですら

「どうだかな〜」

って顔をしてやがった。だいたいウィンダムはアウトドアに使われる車じゃないっての。
だからって俺様のレパードちゃんでこんな山の中に来るのは絶対に嫌だ。

「なんでバーベキュー大会なのよ」
「たまにはいいだろ。慰労旅行ってことで」
「あたしはいいけどさあ…直江が」
「直江?」

直江はバーベキューの用意をするために腰の背丈ほどのコンロに炭を入れている。景虎はその脇で野菜や肉を切って、とっつぁんはテントを張っていた。俺と晴家はふたりでひとつのテントを張ってる。

「なんか景虎とデートの予定が入ってたらしいんだけど、あんたがバーベキューって言ったら景虎ったらこっちに飛びついてデートがおじゃんになったんだって」
「そーゆーことか」

どーりで直江の機嫌が悪いはずだ。どうせ景虎が「おまえよりバーベキューの方がいい」とか言ったんだろうな。
まあ、いいか。俺には関係ないし。

「直江、野菜が切れたけど、もう火つける?」
「まだテントが張れてませんから、そちらを手伝いましょう」

ほとんど終わってたところに景虎が手伝いに来た。直江はとっつぁんを。

「おまえ、直江とのデートキャンセルしてこっち来たんだって?」
「だって直江とデートするよかこっちの方が数倍楽しそうじゃねー?」
「そりゃそうだけどさあ。可哀想だから後で湖畔デートしてやんなさいよ」
「え〜、めんどくさー」

こりゃ直江の機嫌も悪くなるわけだ。最近の景虎はなんでか直江を怒らせるような真似ばっかりしてやがる。
ラブラブなはずなのにどうしたのか聞いたことがあったが、景虎はまったく意に介せずこう言った。

『だってあいつ、すっげーしつこいんだもん。出かけりゃすぐに「あなたを他人に見せたくない」だの「あの娘たちがあなたを見てまし
た」だの。家に行きゃ行ったで愛してます攻撃されて、返事しなかったら何度だって聞いてくるし、あいつが気に入った返事するまで
帰してもらえないし。エッチだって足腰立たなくなるまでしやがってよー』

と、まあ、こんなところだ。
半分はノロケなんだろうが、景虎が本気で困ってる様子だったから同情してやったもんだぜ。

「よし、テントはこれでいいな。えーと…割り振りはどうする?」
「俺と高耶さんが一緒に決まってるだろう」

やっぱりそこは譲らない。さすが(?)直江だ。でも景虎も譲らない。

「若者チームと中年チームでいいじゃねえか」
「ちゅ、中年?」
「若者とは睡眠時間とか違うんだから、その方がいいだろ」
「高耶さん…?」
「そーゆーわけだからそっちの小さいテントは色部さんと直江。こっちのでかいテントはオレたち。いいな?」

有無を言わさず命令を出した景虎。直江の機嫌は急降下だ。可哀想にな〜。あっはっは。

直江と景虎で準備をしたバーベキューセットでさっそく肉や野菜を焼き始める。直江は景虎の機嫌を取ろうと甲斐甲斐しく皿に焼きあがったものを乗せていく。
はたから見たらただのバカップルじゃねーかよ。景虎だってまんざらじゃねーしよ。

「もっと野菜を食べなきゃダメですよ」
「肉食わせろ」

勝手にしてろ。
俺と晴家はさっそくクーラーバッグの中のビールを出して飲み始めた。

バーベキューが終わると、酒を飲みながらキャンプ定番の怖い話大会になった。ちなみにビールから日本酒に移って飲んでる。
夜叉衆で怖い話となったら怪談じゃないことはわかるだろ?
嫌いな物とか怖い物の話だ。

「あたしは蛾が嫌い!あれって逃げるとついてくるじゃない?もー、気持ち悪い!」
「それを言うならカマドウマもそうじゃん。うわーって逃げると付いてくるよな!」
「どっちも夜行性の虫だからな。好音性と言って音のする方へ近づくものだそうだ」
「さすがとっつぁん、物知りだな。俺はやっぱオンナだな。オンナは怖いぞー。最初は優しいくせに慣れてくるとワガママになったりな。オンナで失敗するのが一番こえぇよ」
「あら、失礼ね。色部さんは違うわよね?」
「そうだな。私は女性より…謙信公が一番怖い」
「そりゃそうだ。オレも同感。あーでもオレ、キムチとか怖いかも」

キムチ?

「辛いものとか苦手なんだよな。わさびもダメだし、からしもダメだし、マスタードだって好きじゃないし。キムチなんか目の前に出されたら食ってもいないのに汗が噴出してくる。無理矢理食わされたら死ぬかも」
「食い物で怖いってなあ、ガキじゃねーんだぞ」
「仕方ないだろ」
「確かにそうかもしれませんね、高耶さん。魚は食べられるけど、見るのは怖いって人もいますよ」
「そう言う直江は何が怖いんだ?」
「私ですか?私は……酒が怖いですね」
「酒?飲めるじゃんか」

そういえば今日は一滴も酒を飲んでない直江。ビールにも手をつけなかったな。

「ええ、そうなんですが…。実は先日、兄の接待にお供で行きまして。どうも取引先の方と兄は犬猿の仲のようでしてね。高級クラブだったんですが、場違いなほど大きな声を出したり、バニーガールを触ったりしていたのでハラハラしたせいか悪酔いしたんです。それでまあ色々ありまして、怖いな、と思うようになったんです」
「色々?何があったんだ?」
「兄に八つ当たりしたり、トイレで吐いたり。それが自分らしくなくて、自己嫌悪になって、飲みたくないんです」
「なーんだ」

けどせっかくのキャンプで直江が酒を飲まないってのが気に入らない。
景虎はそんな直江をシカトして強くないくせに酒を飲んでる。さっそく酔っ払うところがお子ちゃまだよな〜。

「なあ、なあ、景虎。ちょっとイタズラしてみねえ?」
「イタズラ?何?」
「直江に無理矢理飲ませてみようぜ」
「え〜?」
「怖いって言ってるぐらいだからものすごい勢いで拒否するだろうからさ」
「面白い!やる!」

そんなわけで景虎は直江に酒をガンガン勧める。俺も勧める。直江は「もう本当にやめてください」なんて言って断固拒否だ。
その姿が景虎に苛められてるようで色々思い出して楽しくなってきた。

「しつこいですよ。いい加減にしてください。もう先に寝ます」

本気で怒ってテントに入ってしまった。もうちっとからかいたかったんだけどな〜。

「あーあ。怒っちゃった」
「主人からの酒を飲まないとは言語道断だ!」

酔った景虎は俺たちが思ってたよりタチが悪くて、直江のテントに一升瓶を抱えて入って行った。

「飲まなきゃ別れる」
「そんな、高耶さん!」
「いいから飲め!」

ちょっと覗き込んでみたら紙コップ片手に直江が固まってた。その前で眼を据わらせた景虎がじーっと見てる。さながら蛇に睨まれた
蛙だ。
いや〜、ここまで面白い展開になるとはさすがの俺でも思わなかったな。

「では少しだけ…」
「一気しろ」

一升瓶を抱えながら、景虎が手拍子を始めた。あの景虎がだ!

「ハイハイハイハイ!」

しかも掛け声付き〜!

「わかりましたよ…」

直江は紙コップの中の酒(越の景虎大吟醸だ)を一気に飲んだ。おお、直江がやると豪快だな。

「飲みました。もういいでしょう?」
「ダメ。もっと飲め」

何度か景虎の「ハイハイハイハイ!」が続いた。直江はって言うとハイハイ言いながらも直江にしなだれかかる景虎に気を良くして
上機嫌で飲んでる。
もうほっとこ。バカらしい。結局はラブラブなんじゃねーか。

 

 

「酒、怖くなくなったか?」
「ええ…ヒック。もう全然」
「酔ったんだろ?」
「酔いますよ、そりゃ…。一升、ほとんどありませんよ。高耶さんにもご返杯しましたしね」
「いい気持ちで酔っただろ?」
「はい」
「他に何か怖いもの、あるか?オレが直してやるぞ?」
「そうですね…」

少し考え込んだ直江。

「次は、高耶さんが怖いです」

 

 

 

END

 
         
   

落語の『まんじゅうこわい』を
だいぶ変えてオチだけ貰って
やってみました。

オチを知ってるひとは直江が
言ったセリフの意味がわかるでしょう。
その後、直江が高耶さんに
殴られたか、いい思いをしたかは
ご想像におまかせします。