犬小説
   
 
まて

※よくわからない設定になっています


 
         
 

オレの家では犬を飼っている。その名も直江。犬だ。
全体的に黒くてところどころ茶色い毛が生えている。足が長い。がたいがいい。でかい。飼い主によくなつく。

犬だ。

犬なんだが……。

「直江、直江〜」

妹の美弥が呼ぶ。直江は無視をする。

「やっぱお兄ちゃんにしか懐かないね。呼んでみてよ」
「……直江」
「はいッ」

……どこの世界に犬を呼んで「はい」と返事をされる飼い主がいるのだろうか。
コレは犬なんだが……どうも姿形は人間だ。

「なんでしょう、高耶さんッ!」

嬉しそうに尻尾を振っているのかもしれないが、オレにはその尻尾が見えたためしがない。

「なあ、美弥……直江って、犬なのか?」
「犬だよ。いまさら何言ってんの?」
「ええ、犬ですけど。何か不都合が?」

何か不都合がどころか不自然すぎる。黒い部分はどう考えても服だ。茶色いところは体毛だ。
しかもオレよりも背が高くて直立してる。人間……なんだと思うんだが。

「高耶さん?」
「犬……だよな?じゃあコレ、取って来い」

団地の広場でフリスビーを投げてみた。直江は走って追いかけ、フリスビーを手でキャッチして持ってきた。

「どうぞ」
「……手?」
「手で取ってはいけなかったでしょうか?」
「犬だったら口で取るんじゃないのか?」
「そうなんですか?やり直しましょうか?」
「いや……いい」

やっぱりどう考えても人間だ。
オレが拾って来た時は犬だったはずなんだが。

「おまえって、何歳だっけ?」
「4歳です。人間で言うと30代手前ぐらいですね」
「よんさい……」

4年前は犬だったんだ。
黒い子犬で雨に打たれて可哀想で拾って来た。なのに4年でどこをどうしたら人間の姿になるんだろう?

「耳と、尻尾は?」
「あるじゃないですか。ほら、耳」

そう言って直江は普通の人間の耳を指差した。

「尻尾は?」
「元々小さかったので退化したと思われます」
「……お手」
「はい」

オレの右手をギュッと両手で握った。おかしい……。

「おかわり……」
「はい」

今度は左手を。両手でやれ、なんてオレは教えてないはずだ。子犬の頃にさんざん教え込んだはずなのに。

「……じゃあメシにするか……。美弥、直江のご飯用意してくれ」
「は〜い」

最近の直江は家族と一緒に食卓でご飯を食べる。箸と茶碗を使って、まるで人間のように。

「美味しそうですね。今日は美弥さんが作ったんですか?」
「そうだよ。本当に直江はご飯の時だけ美弥に話しかけるんだから。なんでそんなにお兄ちゃんにばっかり
なつくわけ〜?」
「高耶さんが好きだからです」

オレは味噌汁を吹き零した。

「そりゃお兄ちゃんが飼い主だけどさ〜。美弥だってご飯用意したりお散歩連れてってるじゃない」
「それでも高耶さんがご主人様ですから。私は高耶さんにだけ愛を注ぐと誓ったんです」

犬なら『忠誠を誓う』んじゃないのか?普通は。

「誓ったって、誰に?」
「犬神様ですよ、当然でしょう、私は犬なんですからね」

おかしい……どうして美弥は犬と会話してるんだ?しかもまともに成り立ってるじゃないか。
1ミリもおかしいと思わないのか?

「はあ、満腹です。ご馳走様でした」
「直江……」
「はい?」
「ちょっと来い」

オレは自分の部屋に直江を連れていき、犬なのか人間なのかそろそろハッキリさせるために色々質問することにした。

「おまえ……犬なんだよな?」
「はい」
「じゃあどうして全身に毛が生えてないんだ?」
「季節の変わり目で抜けたんじゃないでしょうかね」
「四足歩行しないのか?」
「どうにも足が長すぎて」
「……人間、なんじゃないのか?」
「え?」

そこでようやく直江は自分の姿を見て、触った。

「……いえ、やはり犬ですよ。先週も狂犬病の予防接種しましたし、フィラリア予防もしましたし」
「じゃあ……とりあえず……お手」
「はい」
「おかわり」
「はい」
「伏せ」
「はい」
「ちんちん」
「……その言葉を待ってました!!」

直江は黒い服を脱いでオレに覆いかぶさってきた。犬なのに服?
って!そんな場合じゃねえ!
オレの貞操が危うい!

「してほしいんでしょう?してあげますよ、ちんちん」
「わー!!」
「高耶さん!愛してます!!」
「まっ!待て!」
「は……はい……ッ!くぅぅぅ……!」

……結論。直江は犬だ。

 

 

END

 
         
   

頭の中がおかしくなって
いる時に書いたものですから
許してください。