意味なし小説 |
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泣かないで ※原作パラレルみたいな感じの設定 |
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違う違うと何度も考えて、でもやっぱり疑いは晴れなくて。 「そんで?なんで帰りたくないわけ?」 千秋の家に来てしまった。 「理由を述べよ。20文字以内で」 千秋は鋭い。だからいつまでも隠し通せるものではないし、いつまでも世話になるわけにもいかない。 「直接直江に聞いてもいいんだが?」 理由も聞かずにそっとしておくような男じゃないってわかってて千秋の家に来た。 「直江が浮気してるらしい」 そう。しょうがないんだ。 いまだに直江は遠慮をするし、オレも直江が同等、または上から目線で何かを言うのを許さない。 そのぶんオレも直江に鷹揚な態度で接したり、足蹴にしたり、脅したりする。 だから直江がそのストレスをよそで発散させたってオレには何も言う権利はない。 主従関係はいつまでも崩れない。でも直江はいつだってオレじゃない恋人を持つことが自由だ。 「あれは男らしいほど男だ。景虎みたいに自分に対して禁欲的な人間でもない。愛か恋かって聞かれるとどうかわからないけど、女と擬似恋愛でもしないとやっていけない男だ。たとえおまえが恋人でいようが、な」 男は浮気をする生き物だ、そういうことだろう。 「俺だってそうだ。一人の女を一生愛していけるかって言われればイエスって答えるけど、絶対に浮気はしないかって聞かれればノーだしな。景虎だってそうじゃねえのか?」 オレだって絶対に浮気はしないかって聞かれたらノーだと答える。それが男の性質なんだ。 「出せるなら相手が誰だって構わない、そういうもんだろ?だからセックス産業ってもんがはびこるんだ。大昔からな」 だから責められない。 「そんで、直江の浮気相手はどんな女?」 香水は直江のワイシャツから匂ってきた。髪の毛はジャケットについてた。口紅は直江の顎についてた。 「他には?浮気の証拠。それだけだったら景虎が決め付けるわけないだろ?」 オレが満足させてないから、適当に女漁りして適当に楽しんだのかもしれない。 「直接本人に聞いてみたらどうだ?ビビッて白状して、おまえに土下座して謝るんじゃねえの?」 正直言えばその通りだ。男だから仕方がない。 「直江が自由だってんなら、おまえだって自由じゃねえか。変に操立ててねーで、やりたいことやっちまえ」 あてつけに浮気したっていいんだ。オレが女と浮気するより、男と浮気した方が直江はきっと怒る。 でもそれはもう出来ない。 「電話、鳴ってるぞ」 カバンの中の携帯電話が鳴ってた。見なくても出なくてもわかる。直江だ。 「景虎がこんな時間になっても帰って来ないから、心配してるんだろうけどさ。浮気してるあいつが心配したって効果ねーよな」 たぶんオレは直江を許さない。あんなにしつこく愛してるって言っておいて、いまさら浮気なんか冗談じゃない。 「少しの間ならいていいから。別れる準備もあるだろうし」 電話が切れた。諦めたのか。 「話し合う覚悟が出来るまで、じっくりここで考えろ」 千秋はそう言って寝室に引っ込んだ。オレは千秋のパジャマを借りてソファで寝た。
別れることにした。別れたって主従なのは変わらないけど、二度と顔も見たくないから主従関係も終わりにしよう。 「もしもし?直江?今日帰るから。話したいことあるし。いい、今は話せないから、あとで」 冷たく電話を切った。 久しぶりにマンションに戻った。直江が荒れた様子もないきれいな部屋。 「ただいま」 直江は黙った。やっぱりな。 「もういいから。好きにしな。別れよう」 直江が目を吊り上げてオレを睨んだ。 「言っておくが。オレはおまえの主人だ。今までは愛だの何だのとあったかもしれないが、今は主従だ。そういう目で見るな」 荷物をまとめようと納戸から大きな旅行用のカバンを出した。教科書と服をとりあえず入れて、あとは引越し先が決まったらまた取りに来ればいい。 「……涙も出ませんか?」 カッとした。捨てられたのはオレなのに。なんだ、その言い草は。 「てめえ……!」 振り向いたら、直江が泣いてた。怒った顔してボロボロ泣いてた。 「あなたなんか愛してませんでしたよ!」 嘘だ。 「出ていけばいいでしょう!私は追いませんよ!どこにでも行けばいい!」 また嘘。 「愛してなんかいません!」 それきり直江は泣き崩れてしまった。この男を何回泣かせたらいいんだろうか。 「泣きたいのはオレなのに」 直江の前に立ってオレも泣いた。強がってみたけどもうダメだ。 「浮気されたら腹が立つし、嫌いにもなる」 約束を破ったのはオレだった。 ストレスが溜まりまくってた直江はオレがあんまりにも軽く約束を反故にしたのに腹を立てて、適当にナンパした女と予約してあったレストランに行って、浮気のひとつもしてやろうとホテルに連れ込んだ。 いないと思ってたオレが思いがけず早く帰ってきてたのに驚いて、浮気を疑われるようなものを処分する暇もなく見つかってしまった。 「でも!私は謝りませんから!」 子供みたいに泣く直江の前にしゃがみこんで、首に腕を巻いて抱きついた。 「謝らなくていい。だから泣くな」 でも泣いてる直江が愛しくて、もうちょっと泣かせたいと思った。 「高耶さんこそ泣かなくていいでしょうっ」 二人で泣きながらキスをした。ずっとずっとキスをした。 もうちょっとキスしてようか、直江。
END |
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浮気させたくて作ったんですが、 |
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