意味なし小説

   
 
泣かないで

※原作パラレルみたいな感じの設定


 
         
 

違う違うと何度も考えて、でもやっぱり疑いは晴れなくて。
腹立たしいほど好きなんだって知って、帰りたくなくて。

「そんで?なんで帰りたくないわけ?」

千秋の家に来てしまった。

「理由を述べよ。20文字以内で」
「無理」
「……景虎が無理っつー時はたいがい直江のことなんだけど?」
「直江のことだけど、それ以上は無理」

千秋は鋭い。だからいつまでも隠し通せるものではないし、いつまでも世話になるわけにもいかない。
今日はちょっと帰りたくない。それだけだったらどれだけいいか。

「直接直江に聞いてもいいんだが?」
「やめろ」
「だったら言えよ」

理由も聞かずにそっとしておくような男じゃないってわかってて千秋の家に来た。
きっと本音では誰かに聞いて欲しかったんだ。だから千秋を選んだんだ。

「直江が浮気してるらしい」
「……まあ、しょうがないんじゃねえの?」

そう。しょうがないんだ。
傍目から見ればオレと直江はうまくいってるように見えるだろうけど、今まで色々ありすぎてまだ主従関係を残してる部分もある。
景虎と直江。これは何百年経とうが変わらない。

いまだに直江は遠慮をするし、オレも直江が同等、または上から目線で何かを言うのを許さない。
うまくバランスを取って過ごしてるつもりでいたって、直江はしじゅう我慢をしてて、たまに爆発させることもある。
爆発は陰険な態度であったり、嫌味であったり、性的な乱暴であったりと、およそ普通のカップルには有り得ないひどさの時がある。

そのぶんオレも直江に鷹揚な態度で接したり、足蹴にしたり、脅したりする。

だから直江がそのストレスをよそで発散させたってオレには何も言う権利はない。
主人としてならいくらだって命令も拘束もできるけど、恋愛となると話は別だ。

主従関係はいつまでも崩れない。でも直江はいつだってオレじゃない恋人を持つことが自由だ。
直江に好きな女が出来れば、オレは直江を諦めるしかない。

「あれは男らしいほど男だ。景虎みたいに自分に対して禁欲的な人間でもない。愛か恋かって聞かれるとどうかわからないけど、女と擬似恋愛でもしないとやっていけない男だ。たとえおまえが恋人でいようが、な」

男は浮気をする生き物だ、そういうことだろう。

「俺だってそうだ。一人の女を一生愛していけるかって言われればイエスって答えるけど、絶対に浮気はしないかって聞かれればノーだしな。景虎だってそうじゃねえのか?」
「だから困ってるんだろう」

オレだって絶対に浮気はしないかって聞かれたらノーだと答える。それが男の性質なんだ。
女とは違う性質だ。

「出せるなら相手が誰だって構わない、そういうもんだろ?だからセックス産業ってもんがはびこるんだ。大昔からな」
「わかってる」

だから責められない。

「そんで、直江の浮気相手はどんな女?」
「知らない。香水つけてて、髪の毛はロングで、口紅がピンクのラメで、ピアスしてる、そのぐらいしかわからない」
「……けっこう具体的だな」

香水は直江のワイシャツから匂ってきた。髪の毛はジャケットについてた。口紅は直江の顎についてた。
ダイヤのピアスはスラックスのポケットから出てきた。
オレはそれを全部気付かなかったふりをした。

「他には?浮気の証拠。それだけだったら景虎が決め付けるわけないだろ?」
「……パンツを裏返しに穿いてた。朝はちゃんと穿いて出てったのに」
「あ〜、そりゃ確定だな。どっかホテルでもしけこんで、コトが終わって暗がりの中で穿いたのかもな」
「そう思う」

オレが満足させてないから、適当に女漁りして適当に楽しんだのかもしれない。
ずっと溜め込んでたストレスを、そうやって発散させたのかもしれない。

「直接本人に聞いてみたらどうだ?ビビッて白状して、おまえに土下座して謝るんじゃねえの?」
「……たぶんそうなる。でも、その後は?許すのか?許して、なかったことにして、普通にまた一緒に暮らして、そんでまた浮気されるのか?」
「じゃあおまえも浮気したらいいじゃねえか。おまえだって男なんだから、電車で美人を見ればつい見るだろ?エロいDVD見ればやりたくなるだろ?隣に裸の女がいれば突っ込みたくなるだろ?」

正直言えばその通りだ。男だから仕方がない。

「直江が自由だってんなら、おまえだって自由じゃねえか。変に操立ててねーで、やりたいことやっちまえ」

あてつけに浮気したっていいんだ。オレが女と浮気するより、男と浮気した方が直江はきっと怒る。
そうやってあいつが地団駄踏むのを楽しんで見ればいいんだ。それでそこに主従関係を持ち出して、あいつに自由を与えなくすれば。

でもそれはもう出来ない。
直江を拘束したくない。

「電話、鳴ってるぞ」

カバンの中の携帯電話が鳴ってた。見なくても出なくてもわかる。直江だ。

「景虎がこんな時間になっても帰って来ないから、心配してるんだろうけどさ。浮気してるあいつが心配したって効果ねーよな」
「うん」
「だったら別れれば?」
「それも考えてるところ」

たぶんオレは直江を許さない。あんなにしつこく愛してるって言っておいて、いまさら浮気なんか冗談じゃない。
いくら恋愛は自由だって言ったって、嫌なものは嫌なんだ。

「少しの間ならいていいから。別れる準備もあるだろうし」
「うん。しばらく世話になる」

電話が切れた。諦めたのか。

「話し合う覚悟が出来るまで、じっくりここで考えろ」

千秋はそう言って寝室に引っ込んだ。オレは千秋のパジャマを借りてソファで寝た。

 

 

 

別れることにした。別れたって主従なのは変わらないけど、二度と顔も見たくないから主従関係も終わりにしよう。
せっかく同居のためのマンションも借りて、全部揃えたけど、もうダメなんだから仕方がない。

「もしもし?直江?今日帰るから。話したいことあるし。いい、今は話せないから、あとで」

冷たく電話を切った。
直江を好きだった気持ちはもうどこかに行ってしまって、別れることに抵抗もなければ直江に未練もない。
オレだって直江と同じで男だから、浮気をして他の人間と恋愛して、それでいいと思えるぐらいだ。
あとは別れる宣言をするだけだ。

久しぶりにマンションに戻った。直江が荒れた様子もないきれいな部屋。
毎日羽を伸ばして過ごして、鼻歌でも歌いながら片付けしたんだろう。

「ただいま」
「おかえり」
「……今までどこにいたんですか」
「千秋んち。ちゃんと学校は行ってたぞ」
「本当に長秀の家ですか?女のところにでも行ってたんじゃないですか?」
「それはおまえじゃないのか?」

直江は黙った。やっぱりな。

「もういいから。好きにしな。別れよう」
「…………怒らないんですか」
「なんで?男なんだから浮気ぐらいするんだろ?別に怒らないけど?」
「私だったら許しませんけどね。怒り狂ってますよ」
「……自分が怒り狂うようなことを、自分でしたんだ?へえ、そりゃすごい勝手な話だな」

直江が目を吊り上げてオレを睨んだ。

「言っておくが。オレはおまえの主人だ。今までは愛だの何だのとあったかもしれないが、今は主従だ。そういう目で見るな」
「…………」
「結局、こうなるしかないんだな」

荷物をまとめようと納戸から大きな旅行用のカバンを出した。教科書と服をとりあえず入れて、あとは引越し先が決まったらまた取りに来ればいい。

「……涙も出ませんか?」
「出ないな」
「愛してなかったから?」
「……おまえがそれを言う資格はない。おまえこそ、謝らないんだな」
「どうして謝る必要があるんです。捨てられるのは私なのに」

カッとした。捨てられたのはオレなのに。なんだ、その言い草は。

「てめえ……!」

振り向いたら、直江が泣いてた。怒った顔してボロボロ泣いてた。

「あなたなんか愛してませんでしたよ!」

嘘だ。

「出ていけばいいでしょう!私は追いませんよ!どこにでも行けばいい!」
「……それで?」
「主従関係もなくなってすっきりする!一生あなたの顔を見ないで過ごせるならそんなに幸せなことはない!」

また嘘。

「愛してなんかいません!」
「嘘だな」

それきり直江は泣き崩れてしまった。この男を何回泣かせたらいいんだろうか。

「泣きたいのはオレなのに」

直江の前に立ってオレも泣いた。強がってみたけどもうダメだ。

「浮気されたら腹が立つし、嫌いにもなる」
「してません……」
「え?」
「浮気は……してません……」

約束を破ったのはオレだった。
あの日、直江の仕事が終わったらでかける約束をしてた。でも学校で友達に誘われた。
直江とだったらいつだって出かけられる。そう思って軽い気持ちで電話して断って、友達とでかけた。

ストレスが溜まりまくってた直江はオレがあんまりにも軽く約束を反故にしたのに腹を立てて、適当にナンパした女と予約してあったレストランに行って、浮気のひとつもしてやろうとホテルに連れ込んだ。
でも、できなかった。
女を置いて帰ってきた。

いないと思ってたオレが思いがけず早く帰ってきてたのに驚いて、浮気を疑われるようなものを処分する暇もなく見つかってしまった。
そういうことだった。

「でも!私は謝りませんから!」
「……うん」

子供みたいに泣く直江の前にしゃがみこんで、首に腕を巻いて抱きついた。

「謝らなくていい。だから泣くな」
「高耶さんが……!」
「うん、オレが悪かった。もう泣くなよ」

でも泣いてる直江が愛しくて、もうちょっと泣かせたいと思った。

「高耶さんこそ泣かなくていいでしょうっ」
「だって直江が浮気する気でいたから」
「バカバカしい!」
「そうだな、バカバカしいな」

二人で泣きながらキスをした。ずっとずっとキスをした。
たまには二人して泣くのもいいかもしれない。
人間の体に必要な塩分のせいで、直江の涙もしょっぱいし、オレの涙もしょっぱいし。
生きてる。
生きてるから愛してる。

もうちょっとキスしてようか、直江。

 

 

END

 
   

浮気させたくて作ったんですが、
本当に浮気されると
なると自分で書いてて
すっごいイヤな気分になるため
浮気してないことにしました。

   
   
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