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行間読み小説 |
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夏 ※原作パラレルみたいな感じの設定 |
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眩しすぎて景色が白と黒にしか見えないことがある。 太陽が照りつけたアスファルトから陽炎が出て、逃げ水が這ってる。 そんな中で、オレは生まれたらしい。 親父が会社を早退して駆けつけて、生まれたばかりのオレを抱いて「高耶」と呼んだあの日から、もう20年以上が過ぎた。 そんな暑い、日差しの強い夏の日だった。
あれから何度も暑かったり雨が降ったり曇ってたりした7月23日が過ぎて、今日は晴れた暑い日だ。 逃げ水を追いながら坂を上って、目的の場所に着く。 「なんだよ、まったく」 外回りで家の方へ来たからお昼ご飯を一緒にどうですか?と、電話で誘われた。 「せっかく誕生日なんですから」 汗が引かないまま日陰の席に座らされて、直江に渡されたハンカチで首や額を拭く。 「冷房が効いてる中の席にしろっての」 直江は背広を脱いで椅子にかけて、ワイシャツの袖をまくってネクタイを外して、まるでクールビズなサラリーマンだ。 だけどオレは知ってるんだ。こいつだって汗ぐらい出す。 「先に冷たい飲み物をもらいましょうか」 オーダーをしてすぐに出てきたアイスコーヒーをストローで強く吸うと、体の中からひんやりして少し涼しくなる。 「こんなとこに店があるんだな。住宅街なのに」 ずいぶん前に、母さんから聞いたことを直江に話した。 「あの頃はまだ若い夫婦だったから、小さなアパートに住んでたらしい。そこから通える産院を探して、母さんは毎月大きくなるお腹を抱えて坂道を上ったんだって。大変だったけど、目の前の小学校から聞こえる声が夏に向かうごとに楽しそうになってくのが聞けて、いつか高耶もこの学校に通うんだろうなって思いながら歩いたって。子供は夏が好きだから、きっとオレも夏が好きになって、虫取りやら、プールやら、川遊びやら、そんな風に夏休みを過ごすんだろうって、そう思ってたんだって」 直江が静かに聞いてる。いつも思い出話は穏やかに聞いてくれる。 「色々あったけど、結局オレの誕生日は夏だし、生まれた日は7月23日だし、一年ずつ歳をとってくのは変わらないんだもんな。きっと今日も母さんはそれを思い出して懐かしがってるんだろうな」 小さい頃は両親に、少し大きくなってからは美弥からも、それで今は直江が祝ってくれる。 そうやって考えると、誕生日は特別な日でもあり、誰にでもやってくる些細な日でもあり。 「夏の思い出は、夏休みと学校のプールと誕生日だな。楽しいことがたくさん詰まった夏」 直江が笑った。 「私よりひとつ、楽しみが多かったってことですね」 日陰の直江は黒と白。でも日差しの中とは違って穏やかな、薄い黒と白。 「もう汗は引きましたか?」 こんなにたくさん色が見えるようになったから。 たぶん店を出て強い光の中を歩いても、直江が横にいるから寂しげだなんて思わない。 母さんのお腹の中にオレがいたように、一緒にいてくれる人がいる。 「食い終わったら、駅まで一緒だよな?」 だよな。これからずっとそのつもりだ。 父さん、母さん、オレが生まれたとき、嬉しかった?嬉しかったよな。 だからオレも嬉しいと思わなきゃ。自分が生まれたこの日を、一生かけて嬉しいと思わないとな。
END |
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夏が好きな高耶さん |
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