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行間読み小説

   
 


※原作パラレルみたいな感じの設定


 
         
 

眩しすぎて景色が白と黒にしか見えないことがある。
今日はそんな感じに日差しが強い。

太陽が照りつけたアスファルトから陽炎が出て、逃げ水が這ってる。
その坂道を上って行くとそこに学校があって、子供たちの楽しそうな声が響いてる。
向かいには小さな産院があって、赤ん坊の産声が毎日響いてる。

そんな中で、オレは生まれたらしい。

親父が会社を早退して駆けつけて、生まれたばかりのオレを抱いて「高耶」と呼んだあの日から、もう20年以上が過ぎた。
汗だくになって産院の受付で自分の名前を言って、不安と喜びを抱えながら母さんのいる部屋に入る。
母親の顔になった母さんの脇で泣き疲れて眠っている小さな赤ん坊を見て、親父は不安が一気に消えて、父親の顔になって、ああこれが自分を支える小さな存在なんだと自覚した。

そんな暑い、日差しの強い夏の日だった。

 

 

あれから何度も暑かったり雨が降ったり曇ってたりした7月23日が過ぎて、今日は晴れた暑い日だ。
太陽が真上から照り付けて、黒と、白と、少しのオレンジと、そんなコントラストの中を歩く。
強すぎる日差しが賑やかなイメージの夏を少し寂しげにしている。

逃げ水を追いながら坂を上って、目的の場所に着く。
学校も産院もないけど、そこには小さなオープンカフェがあって、オレを待ってる人がいる。

「なんだよ、まったく」
「せっかく仕事で近くへ来たから会いたくなって」

外回りで家の方へ来たからお昼ご飯を一緒にどうですか?と、電話で誘われた。
電車に乗って3駅目、そこから閑静な住宅街を通って坂を上ってここまで来た。

「せっかく誕生日なんですから」
「帰ってからでいいのに」
「それだけじゃ足りないんです」

汗が引かないまま日陰の席に座らされて、直江に渡されたハンカチで首や額を拭く。
直江の前の氷が浮かんだ水を飲み干して、それでもまだ暑くて着ていたTシャツをはたいた。

「冷房が効いてる中の席にしろっての」
「いいじゃないですか。日陰に入れば涼しいですよ。それに風が出てるから気持ち良くないですか?」
「それは今のオレには無駄な説得だよ」

直江は背広を脱いで椅子にかけて、ワイシャツの袖をまくってネクタイを外して、まるでクールビズなサラリーマンだ。
涼しい顔をして、汗なんかかかないんじゃないかと思うほど、今の直江は平常だ。

だけどオレは知ってるんだ。こいつだって汗ぐらい出す。
蒸し暑い夜に帰ってきたりとか、風呂上りだとか、セックスしてる時だとか。
今はこんなに涼しげにしてたって、家じゃ汗が引くまで冷房の中を裸でウロウロ歩き回る。

「先に冷たい飲み物をもらいましょうか」
「アイスコーヒーでいいや」

オーダーをしてすぐに出てきたアイスコーヒーをストローで強く吸うと、体の中からひんやりして少し涼しくなる。
直江が差し出したメニューを見ながら、ランチプレートを注文した。

「こんなとこに店があるんだな。住宅街なのに」
「最近、こういうお店が流行してるそうですから」
「オレさ、こんな感じの坂道の上の、産院で生まれたんだって」

ずいぶん前に、母さんから聞いたことを直江に話した。

「あの頃はまだ若い夫婦だったから、小さなアパートに住んでたらしい。そこから通える産院を探して、母さんは毎月大きくなるお腹を抱えて坂道を上ったんだって。大変だったけど、目の前の小学校から聞こえる声が夏に向かうごとに楽しそうになってくのが聞けて、いつか高耶もこの学校に通うんだろうなって思いながら歩いたって。子供は夏が好きだから、きっとオレも夏が好きになって、虫取りやら、プールやら、川遊びやら、そんな風に夏休みを過ごすんだろうって、そう思ってたんだって」

直江が静かに聞いてる。いつも思い出話は穏やかに聞いてくれる。

「色々あったけど、結局オレの誕生日は夏だし、生まれた日は7月23日だし、一年ずつ歳をとってくのは変わらないんだもんな。きっと今日も母さんはそれを思い出して懐かしがってるんだろうな」
「あとでお母さんに電話してみたらどうですか?」
「うん、ついでに父さんにもしてみようかな」
「ついでじゃ可哀想ですよ」

小さい頃は両親に、少し大きくなってからは美弥からも、それで今は直江が祝ってくれる。
変わっていくものはたくさんあるけど、誕生日は生まれてから死ぬまで一回も変わらずにやってくる。
そのたびに自分が大人になっていく実感はないけど、やっぱりひとつ歳が増える。

そうやって考えると、誕生日は特別な日でもあり、誰にでもやってくる些細な日でもあり。

「夏の思い出は、夏休みと学校のプールと誕生日だな。楽しいことがたくさん詰まった夏」

直江が笑った。

「私よりひとつ、楽しみが多かったってことですね」
「羨ましい?」
「そうですね」

日陰の直江は黒と白。でも日差しの中とは違って穏やかな、薄い黒と白。
日陰から見る景色は相変わらず黒と白とオレンジだけど、今、オレの周りは薄い陽光の中で穏やかに色づき始める。
目の前のこいつが見せてくれる、背後の緑や、唇の薄赤や、髪の茶色や、肌の桃色や。

「もう汗は引きましたか?」
「あ、うん」
「強い光の中を歩いてきたから、目もしばらく日陰に慣れずに暗かったでしょう?」
「でも、もう慣れた」

こんなにたくさん色が見えるようになったから。

たぶん店を出て強い光の中を歩いても、直江が横にいるから寂しげだなんて思わない。
小学校から子供の声がしなくても、産院から赤ん坊の声が響いてこなくても、じりじりした陽が照り付けても、きっとオレは母さんが味わったような楽しさが味わえる。

母さんのお腹の中にオレがいたように、一緒にいてくれる人がいる。
夏を楽しいと思ってくれる人が横にいる。

「食い終わったら、駅まで一緒だよな?」
「ええ、駅の改札まで一緒ですね。乗り場は違ってしまいますけど」
「でも帰る家は同じじゃん?」
「そうですね。帰る家も、過ごす誕生日も、同じです」

だよな。これからずっとそのつもりだ。

父さん、母さん、オレが生まれたとき、嬉しかった?嬉しかったよな。
直江、オレが生まれてきて嬉しかった?嬉しかっただろ?

だからオレも嬉しいと思わなきゃ。自分が生まれたこの日を、一生かけて嬉しいと思わないとな。
誕生日、おめでとう。高耶。

 

 

END

 
   

夏が好きな高耶さん
バージョンで誕生日。
日差しの感じは
バイオハザード5から
イメージをもらい。
※現在未発売ですバイオ5

   
         
   
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