にゃおえ。

 

 

私が胎児換生をし、景虎様のおそばについたのが2歳。(景虎ちゃま。参照)
あれから40年の月日が流れ、私は親の稼業を継いで牛鍋屋の主人に収まった。
しかし問題が起きたのだ。
景虎様に寿命がやってきた。
私は景虎様の最期を見守りながら、涙を流した。またすぐにお会いできますように、と。


「へい、らっしゃい!こちらに牛鍋一丁!…って、おい、直江。なんで俺がおまえんとこで働かなきゃなんねーんだよ」
「おまえのようなヤツがまともに働くとは思えんからな。有難いと思って欲しい。なんなら奥座敷で臥している勝長殿のお世話をしててもかまわんぞ」

長秀は直江の牛鍋屋で店長として働いている。もちろん長秀のことだから成人換生をしたため、景虎や勝長、晴家とは違って子供になるという体験はしない。

勝長は直江が引き取り、介護している。
昔、直江のおもらしを勝長が始末してくれたものだが、今は直江が…いや、食べ物屋のシーンで扱う話ではないので割愛しよう。

「それより景虎様から思念波は来たのか?」
「いいや。なーんも。もしかしたらどっかに逃げたのかもなー」
「そんなはずは……」

晴家はとっくのとうに換生して、今は女学生だ。たまにこの店にタダ飯を食らいに来る。

「さーてと、そろそろ閉店だな」

長秀が店じまいをしようと暖簾を片付けようとしたところに、小さな子供が迷い込んで来た。

「腹が減った。にゃにか食わちぇろ」

ずいぶん横柄な子供だ。ずずいと入ってきて、上がり座敷になっている席へと勝手に座った。

「ここはキミのような子供が来るようなところではないんだよ。帰りなさい」
「にゃんだと?オレは客だじょ。いいから牛にゃべを持ってこい」
「お金はあるんですか?ないでしょう?今度お父さんといらっしゃい」
「おい、にゃおえ」

何だ?今、何と?

「おまえはちゅじん(主人)にめち(メシ)も食わちぇられないのか?」
「…あの…」
「景虎ー!!景虎じゃんかよ!!今まで何してたんだよー!ずいぶん小さくなりやがって!」

長秀が笑顔でその子供抱き上げた。
何だと?景虎…様?

「じちゅはわけがあってな…生まれて間もなくかどわかちゃれて、じゅっと横須賀で育てられておったのだ。ほれ、異人に売るとかにゃんとか言う、アレだ。それでこのままではマジュイと思って、おちゃない足ながらも《力》をちゅかいながらここまで来たというわけだ」
「そうか。苦労したんだな〜。まあこれからはここで育ててもらえるから安心しろ。なあ、直江?」
「え?ああ、はい!もちろんです!いつまででもここにいらしてください!」

ようやくこの子供が景虎様だということを直江は理解した。ちょっと遅かったようだが。

「せっかくですからお子様用の牛丼というものにしてはいかがですか?」
「なんでもいい。早く食わちぇろ」

直江自ら子供用の茶碗に飯を盛り、その上に牛鍋の中身を乗せて箸を添えて出した。

「どうぞ。私の代になってから考案した牛丼です。なかなか売れ行きはいいんですよ」
「ちょんなことはどうでもいい。…しかし…どうにも箸は子供の手には扱いにくいな」
「た!食べさせてあげます!」

嬉々として箸を取り上げようとした直江に危機感を覚え、景虎はしっかりと箸を握った。

「すぷーん、とかいうのはにゃいにょか?」
「あったぜ。待ってろ、持って来てやる」

余計なことを、と長秀に向かって視線を投げた。
そんなものはありません、と言えばもしかしたら愛しい景虎様にアーンして差し上げられたのに!!

それにしても景虎様は可愛いお子さんに換生したものだ。
もし景虎様の話通り、異人に売られていたら毎夜の慰み者になってしまったであろう…。

「そんなこと、この私が許しませんから!あなたをお守りするためなら、この直江信綱、命を懸けて異人の国へ参ります!」
「にゃんのはなちだ。勝手に異人にょ国だろうが、あの世だろうが行ったらよかろう」
「景虎様!私はあなたを大事に大事にお育ていたしますから〜!!」
「気色の悪いことを言うにゃ!」

そこは小さいながらも景虎である。
抱きつこうとする直江を《力》でいなし、畳にべったりと伏せさせるほどなど簡単なのだ。

「か、か、げとら、さま〜…」
「ちばらくちょうちていろ。オレが飯を食い終わるまでだ」
「何やってんだ?直江は」
「ちらん」

床に這い蹲る直江を見た長秀はそれを踏みつけにし、景虎にスプーンを渡した。
ようやく牛丼なるものを食し、満腹した景虎は床に伏せている直江を踏んで座布団代わりにして座った。

「晴家はどうちている?」
「女学生やってるぜ。ま、平和なもんだ。勝長のとっつぁんはこの家の奥で病気で寝てるけどな」
「ちょうか。では勝長殿に挨拶ちておこうか」

直江を置いて二人は勝長の元へと向かった。

「くう…景虎様…お小さくても相変わらず居丈高でいらっしゃる…そこがまた魅力的なんだが…」

その時、奥から勝長の大袈裟な咽び泣きが聞こえてきた。景虎に会えて感激しているのだろう。

「私も感激なんですよ!景虎さま〜!!」

 

その後、あの牛鍋屋に可愛い丁稚さんが入ったと噂が立ったが、しばらくして丁稚ではなく新しい主人だという噂も立った。

店の勘定台にちょこんと座り、元主人の直江を顎であしらう。
そして商売にもソツがない。
名物牛鍋屋「夜叉」の誕生であった。

 

 

END

 

 

 

あとがき

なんとなくオチがイマイチ。
直江が大人で景虎様が子供だったら
何をされるかわかりませんが
景虎様は常に最強なので
ご安心を。

 

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