2006年完結2周年
   
 

さくらもり



 
         
 

私が守るのは、あなたの身体。
あなたの心。
あなたの魂。
あなたの、精神。

あなたという人は、とても美しいとは言えない。善良だとも、正しいとも。
しかし私はあなたという人の本質を知っている。
泥に、血に、穢れに塗れながらもあなたはとても、そう、とても愛おしい人であることには違いない。

桜守り、という仕事がある。
神に捧げる桜を守る、代々受け継がれている職だ。

ある日、私は桜守りが桜の種を拾っているのを見た。
聞けばそれはいつか枯れるであろう桜の子孫を残すためだと言う。
小さな種をひとつずつ、丁寧に和紙に包んで持ち帰る。彼はとても愛おしそうに包みを懐に入れた。

もしもあなたの桜に種が出来たら、私はそれを余すところなく拾って大事に懐に入れるだろう。
そしてその種を万人の胸に蒔くだろう。
あなたの精神、あなたの心、あなたの魂、あなたの体が世界中に行き渡るように。
惜しみなく。

あなたのそばに一番いた私が、あなたの望みをわからないわけがない。
そうして手離し、しかしやはり私があなたの一番そばに居続ける。

あなたを愛しています。
桜の花びらを包むように。
散った花びらの数と等しく。
満開の桜の醸し出す、猛烈な激しさ、圧倒的な優しさ、奇跡に近い美しさのごとく。
花を、天が愛したごとく。

私の愛が、あなたの桜を守るから、あなたは万人に愛されてください。
愛でられてください。
美しいと、言われてください。

もしもこの思いが届くなら、あなたの種を私に与えてください。
願いをすべて叶えてあげる。
私があなたの桜守り。

 

END

 
   

初散文。
なんとなくこんな感じに。