行間読み小説 |
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心臓 ※原作パラレルみたいな感じの設定 |
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高耶さんは知らないと思う。知ることもないと思う。 「直江、今晩のメシはどうすんの?」 高耶さんは大学へ。私は仕事場へ。 階段を上ってホームに出ると、しばらくして高耶さんが向かいのホームに現れた。 すぐに電車が来てしまい、いつものことだが扉が開くと満員で、隙間に体を押し込んで乗る。
「ただいま」 家に帰ると高耶さんが夕飯の準備をして待っていてくれた。 「牛肉には赤ワインだったよな?」 自分のメニューのチョイスに満足したのか、高耶さんは「待ってろ」と言ってウィンクをしてワインの栓を抜いた。 牛肉は安売りをしていたとは思えないほど柔らかく、だからと言って歯ごたえはしっかりしていて、赤ワインと合わせて食べると美味しかった。
高耶さんが先に風呂に入り、暑いからと言って上半身は素肌のままで出てきた。 「そーいやプラムがあったんだっけ」 冷蔵庫を開けてプラムを出し、キッチンで洗ってから皿に盛ってリビングに。 「直江も食うよな?」 赤いプラムの皮を剥く手は繊細に動いていた。皮を剥いて滴り落ちた果汁を音を立てて吸いながら、かぶりついた。 「直江のも剥いてやろうか?」 私が食べるぶんのプラムを剥いてくれる。赤い皮の下から覗くのは黄色い果実。 「ほら」 私にプラムを渡してから、高耶さんは果汁で濡れた人差し指を自分の口に入れて舐めた。 プラムは甘酸っぱくて美味しかった。私が言葉にするよりも、プラムを食べさせた方がいいのではないかと思う。
「あふ」 プラム味のキスをした後が5回目。 「直江……ベッド、いきたい」 抱き上げて寝室に入り、ベッドに寝かせてからサイドボードのランプを点けた。 「高耶さん……」 言葉にしてあなたに伝えるのは難しい。 「6回ですよ。多くないですか?」 小さく喘ぐ高耶さんの耳元で囁いた。 「今日はあなたに6回も殺された。目で、唇で、私を殺すつもりですか」 わかっているのか、わかっていないのか。 「今夜はおまえがオレを殺したんだろ」 わかっていたようだ。 私の心臓は、高耶さんが全部持っていく。
END |
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月や色のシリーズです。 |
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