行間読み小説

   
 


※原作パラレルみたいな感じの設定


 
         
 

些細なことでケンカになって、直江と口を利かないで過ごした日は気分が落ち込む。
それで自分を嫌いになったりする。

もうちょっと言い方があったんじゃないかとか、なるべくわかってやれるように出来たんじゃないかとか、一人で考えてモヤモヤして、こんな自分に愛想が尽きる。

だからって謝るのもおかしいと思うし、直江にだって悪い部分はあるから謝らせたいし。
それでもお互いに頑固なのは筋金入りだから、折れたりしないまま翌日になったりして、朝は気まずいけど夕方には普通に話してたりする。ケンカの原因には触れないようにして。

そーゆーのってどうなんだろう?ちゃんと話し合って解決した方がいいのかもしれない。
だけどまたケンカになる。
結局堂々巡りをして何もなかったことにしてる気がする。

昨夜ケンカってほどではないけど言い合いになって、嫌だなって思いながら同じベッドに入って寝た。
背中を向け合って寝た振りして、考えてるうちに眠くなって、朝になってなし崩しにいつもの二人になってた。

オレは授業がない日で休みで、直江は毎日と同じく会社に行った。
朝食の後片付けを終わらせて、天気がいいのを空に感謝して洗濯物を干してたら家の電話が鳴った。
ナンバーディスプレイには直江の文字が。

「どうした?」
『書類を忘れてしまったんですが、データ化してあるのでメールで会社に送ってもらえませんか?』

昨日のケンカの原因はその書類だ。
プリントアウトした直江がそれを持ってリビングに来て、添削してるとこにオレがアイスコーヒーをこぼした。
書類はダメになってまたプリントアウトし直さなきゃいけなくて、謝ったのに「高耶さんは不注意が多い」と愚痴られて頭に来て、それで言い合いになった。
おまえがリビングに持って来なきゃいいだけの話だろって。

『もう会社に着いてしまって、取りに戻る時間がないんです』
「オレが直江の書類をメールで送るなんて器用な真似できるわけないだろ。朝イチで使う書類なのか?」
『いえ、午後イチで使うんですが』

受話器を持って直江の部屋に行くと、机の上に茶封筒に入った書類があった。これだな。

「持ってってやろうか?今日、休みだし」
『大丈夫なんですか?』
「別に約束もバイトもないし、いいよ」

電話の向こうで少しだけ笑った声がした。さっきまでうろたえてたのに。

『じゃあお願いします。昼休み、一緒にご飯食べましょう。お礼に高価なランチごちそうします』
「当然だ」

待ち合わせの時間と場所を決めて電話を切った。直江の職場に行くのは初めてで、どんな建物なのかも知らない。
知っておくのもいいもんだろう。

ベランダに戻って洗濯物を全部干して、掃除をしてから出かける用意をした。
直江の職場まで1時間。
そろそろ家を出てもいいかもしれない。

快晴の空は真っ青で、日差しが強い。白いシャツを選んで新しめのブルージーンズを穿いて、あんまり履かないサドルシューズを出した。
社会人ばかりの街に腐りかけのスニーカーを履いて行けるほど神経は図太くない。

どうせ昼飯食ってすぐ帰るんだから、携帯と千円札数枚をポケットに突っ込んで、マンションを出た。

色の濃い自分の影を見ながら駅まで歩いて、路線図を見ながら直江のいる街までの切符を買った。
駅のホームは結構空いてて、いつも乗る電車もラッシュじゃなくて閑散としてた。

いい陽気にウトウトしてるうちに電車は終着駅に。あくびをしながら降りて乗り換えて、今度は地下鉄。
少しだけ冷ややかな空気が地下にいるんだと思わせる。
地下鉄は座席が埋まる程度には混んでて、目的地までは立ってなきゃいけなかった。

目的地の駅に着くとそこはオフィス街で、ばかでかいビルがいくつも聳え立ってた。
せっかくの快晴なのに空が切り取られてるみたいだ。
財布を持って歩くOLや、ネクタイを緩めたサラリーマンを眺めながら直江を待った。

「高耶さん」

待ち合わせの場所に直江がやってきて、嬉しそうに笑った。
書類が間に合って嬉しいのか、それともオレに会えて嬉しいのか。

「わざわざ来てもらってすみません」
「いいよ。たまには」

行きましょう、と言われて高いビルを目指して歩いてると、二人組のOLが直江に挨拶をした。同じ会社の人らしい。

「直江の会社ってあっちにあんのか?」
「ええ。彼女たちもどこかで食べるみたいですね」

オレたちが入ったビルは高層階にレストランがあるオフィスビルだった。打ち合わせや接待で使うにはもってこいの場所らしい。
ランチの値段は3500円。

「いつもこーゆーの食ってんの?」
「まさか。みんなと同じです」

革靴を履いてきて良かった。カジュアルな服装の人もいるけど、スニーカーの人は一人もいない。
直江と一緒にちょっと豪華なランチを食べて、書類を渡して手を振って別れた。

全然来ないオフィス街が珍しくて、ビルの中を歩いてたら本屋があったから雑誌を買ってコーヒーショップに入った。
テーブルについて雑誌を広げると、隣りの席のOLの声が聞こえた。

「私、橘さんて苦手」

聞いた名前が出たから顔を見たら、さっき直江に挨拶をしてたOLたちだった。

「なんで?私は普通だけど」
「なんかかっこいいの自分でわかってる感じじゃない?動作がそれっぽくて鼻につくよ」

そうなんだ。直江って好かれるばっかじゃないんだ。

「それに仕事できるって言われてるけど、あれぐらいは普通じゃない。みんな贔屓目で見すぎだよ。人当たりはいいけど本心で何考えてるかわかんない感じするしさ」

確かにそうかもな。見た目がいいとなんでも良く見える。
それに本来の直江はあんまり褒められるような人間じゃない。今日も忘れ物したしさ。
よくわかってるじゃん。

「そろそろ時間だね。行こうか」

財布を持ったOL二人組はオレの存在に気付くこともなく出て行った。

恋人の悪口を聞くのは嫌だったかと聞かれればそうでもない。直江の評判が聞けて面白かった。
昨夜のオレの気持ちを代弁してくれたOLの意見。
いつでも自分が正しいと思ってる直江はハッキリ言ってムカつく。
なんだか少しスッキリしたな。

コーヒーを飲み終わって店を出ると、日差しが午前中よりも強くなって、空気が熱くなってた。
真上から照りつける日光はオレの足元に小さな影を作った。
真っ青な空を見上げると、ベランダや電車の中から見たのと違った空が見えた。
高い。

切り取られた空は逆にその高さを強調してる。

目の端っこに角張ったビルが入って、空の高さと比較になる。
ああ、これが空の高さかとなんだか嬉しい気分になる。
空はどこで見たって同じものだけど、立ってる場所が違うだけで印象も違う。

もうちょっと努力しよう。
直江をもうちょっとわかってやろう。
悪口言われる直江も、オレとケンカする直江も、空の印象と同じだ。
オレが立ってる場所を変えてやればいいんだ。

答えは出なくてもいい。同じ意見を持つことはない。自己嫌悪することもない。
空の広さも、高さも、その時々で印象は変わるんだから、それと同じ。

今日は帰ったら一緒に夜空を眺めようって、言ってみよう。

 

 

END

 
   

シリーズっぽく
なってきた・・・
最近こーゆーの
好きなもんで。

   
   
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