行間読み小説 |
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空 ※原作パラレルみたいな感じの設定 |
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些細なことでケンカになって、直江と口を利かないで過ごした日は気分が落ち込む。 もうちょっと言い方があったんじゃないかとか、なるべくわかってやれるように出来たんじゃないかとか、一人で考えてモヤモヤして、こんな自分に愛想が尽きる。 だからって謝るのもおかしいと思うし、直江にだって悪い部分はあるから謝らせたいし。 そーゆーのってどうなんだろう?ちゃんと話し合って解決した方がいいのかもしれない。 昨夜ケンカってほどではないけど言い合いになって、嫌だなって思いながら同じベッドに入って寝た。 オレは授業がない日で休みで、直江は毎日と同じく会社に行った。 「どうした?」 昨日のケンカの原因はその書類だ。 『もう会社に着いてしまって、取りに戻る時間がないんです』 受話器を持って直江の部屋に行くと、机の上に茶封筒に入った書類があった。これだな。 「持ってってやろうか?今日、休みだし」 電話の向こうで少しだけ笑った声がした。さっきまでうろたえてたのに。 『じゃあお願いします。昼休み、一緒にご飯食べましょう。お礼に高価なランチごちそうします』 待ち合わせの時間と場所を決めて電話を切った。直江の職場に行くのは初めてで、どんな建物なのかも知らない。 ベランダに戻って洗濯物を全部干して、掃除をしてから出かける用意をした。 快晴の空は真っ青で、日差しが強い。白いシャツを選んで新しめのブルージーンズを穿いて、あんまり履かないサドルシューズを出した。 どうせ昼飯食ってすぐ帰るんだから、携帯と千円札数枚をポケットに突っ込んで、マンションを出た。 色の濃い自分の影を見ながら駅まで歩いて、路線図を見ながら直江のいる街までの切符を買った。 いい陽気にウトウトしてるうちに電車は終着駅に。あくびをしながら降りて乗り換えて、今度は地下鉄。 目的地の駅に着くとそこはオフィス街で、ばかでかいビルがいくつも聳え立ってた。 「高耶さん」 待ち合わせの場所に直江がやってきて、嬉しそうに笑った。 「わざわざ来てもらってすみません」 行きましょう、と言われて高いビルを目指して歩いてると、二人組のOLが直江に挨拶をした。同じ会社の人らしい。 「直江の会社ってあっちにあんのか?」 オレたちが入ったビルは高層階にレストランがあるオフィスビルだった。打ち合わせや接待で使うにはもってこいの場所らしい。 「いつもこーゆーの食ってんの?」 革靴を履いてきて良かった。カジュアルな服装の人もいるけど、スニーカーの人は一人もいない。 全然来ないオフィス街が珍しくて、ビルの中を歩いてたら本屋があったから雑誌を買ってコーヒーショップに入った。 「私、橘さんて苦手」 聞いた名前が出たから顔を見たら、さっき直江に挨拶をしてたOLたちだった。 「なんで?私は普通だけど」 そうなんだ。直江って好かれるばっかじゃないんだ。 「それに仕事できるって言われてるけど、あれぐらいは普通じゃない。みんな贔屓目で見すぎだよ。人当たりはいいけど本心で何考えてるかわかんない感じするしさ」 確かにそうかもな。見た目がいいとなんでも良く見える。 「そろそろ時間だね。行こうか」 財布を持ったOL二人組はオレの存在に気付くこともなく出て行った。 恋人の悪口を聞くのは嫌だったかと聞かれればそうでもない。直江の評判が聞けて面白かった。 コーヒーを飲み終わって店を出ると、日差しが午前中よりも強くなって、空気が熱くなってた。 切り取られた空は逆にその高さを強調してる。 目の端っこに角張ったビルが入って、空の高さと比較になる。 もうちょっと努力しよう。 答えは出なくてもいい。同じ意見を持つことはない。自己嫌悪することもない。 今日は帰ったら一緒に夜空を眺めようって、言ってみよう。
END |
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