行間読み小説

   
 


※原作パラレルみたいな感じの設定


 
         
 

今日は昼から雪だった。
学校も休みでバイトも休みで、家にこもって特に何もしないで過ごした。
雪がしんしん降ってきたのを窓から眺めているうちにお腹が空いて、冷蔵庫の残り物で昼ごはんにした。

それからコタツに入ってテレビを見て、ミカンを食べてぬくぬくして。
コタツの気持ち良さのせいでうっかり眠って、なんだか背中が冷えると思ったら雪が積もり始めてて。

そういえばあいつの靴は皮底だった。
今日は傘を持って出なかった。
きっと今日は荷物をいくつか抱えて帰るはずだ。

約束はしてないけど、後で迎えに行ってやった方がいいかもしれない。

さっそく携帯電話にメールを入れた。
今日は何時に帰る予定?

すぐに返事が戻ってきた。
たぶん8時ぐらいに帰ります。

なるほど。8時か。そうか。ふーん。8時か。

 

午後7時半。
ダウンジャケット、スノーブーツ、手袋、マフラー、傘、完璧な装備で家を出た。
肩にかけたカバンの中にはあいつに必要なものが入ってる。

雪が積もった坂道を下るのは難儀だけど、松本から持ってきたスノーブーツはすごい役に立つ。
カッコ悪いからこんなもの履くかと美弥に言ったことがあったけど、東京は雪が降ると交通が麻痺するんだから持っていけと言われて無理矢理持たされた。

雪国の人には信じられないかもしれないけど、東京じゃ雪が積もっても女の人はハイヒールだ。
良くて普通のブーツ。
長靴やスノーブーツは論外だ。
だから東京のサラリーマンはどんなに雪が積もっても革靴で出勤する。

そんな靴で坂を上るサラリーマンを横目に見ながらオレはサクサク坂道を下って駅に行く。
駅前は人が多く行き来するから雪も解けて水浸しな感じになってる。そこを通って改札の前に立った。

あいつが改札から出てくるまでにはまだ10分以上あるだろう。
ちょっと早くに出て来過ぎたかもしれないけど、すれ違うよりマシだから、改札から出てくる人の群れを眺めてまだかまだかと目で探す。

何度目かの人の群れが流れて行って、時計の長針が10を指した時、改札奥の階段からベージュのトレンチを着たあいつの姿が見えた。
片手にブリーフケースを持って、もう片手に小さい箱を持って歩いてる。
人ごみの中でも目立つ姿は長所なのか短所なのか今日はわからない。
だって改札前でポケットからパスケースを出すのに戸惑ってる姿はすごく情けないから。両手が塞がっているから仕方ないのかもしれないけど。

ようやくカバンを脇に抱えて、その手に箱を持ち直し、空いた手でポケットの中からパスケースを取り出してやっとのことで改札を抜けた。

「直江」

近寄って行ったらあいつは嬉しそうな笑顔になった。

「どうしたんですか?買い物帰り?」
「迎えにきた」

コイコイと手で招き寄せて、駅構内の人の少ない場所まで移動させた。
そこでまずカバンの中から手袋を出した。

「これはめろ」
「はあ」

直江の皮の手袋を出して、ブリーフケースと箱を受け取ってはめさせた。
それからまたカバンの中から雪や雨用のビジネスブーツを出した。

「履き替えろ」
「ここでですか?」
「ここで履き替えなくてどーすんだ」
「……はあ」

確かに履き替える姿はカッコ悪いかもしれないけど、雪道を転ぶよりマシだ。
直江は渋々従う感じで履き替えた。
ブリーフケースと箱を返してから皮靴をカバンにしまって傘を直江に渡して、箱だけまた受け取って駅を出た。

「傘は持ってきてくれなかったんですか?」
「だって傘がふたつあると手が二本塞がるんだぞ」
「え?ええ。そうですが……?」

直江が傘を差して、片手にブリーフケースを持つ。
その傘の中にオレが入って箱を片手に持つ。
これで問題がないはずだ。

「高耶さんの片手が余ってますけど」
「余ってないよ」

坂道を登りながら傘を持つ直江の腕に空いてる自分の手を添えた。

「ほらな。余らないだろ」
「……そういうことですか」

静かな雪の中を二人で歩く。
突然の雪の日ぐらいはこういうのも許されると思うんだ。

「今日の夕飯はなんですか?」
「たぶんピザ」
「たぶん?」
「雪で配達できないって言われない限りはピザ」

帰ったら電話してみよう。

「配達できない時はどうするんですか?」
「そしたら夕飯はケーキ」
「なるほど」

オレの手にあるこの箱はクリスマスケーキ。直江が今日買ってくるのがわかってたケーキ。

「じゃあお迎えはクリスマスプレゼントってところでしょうか?」
「そうなる」

直江は声を上げて笑った。

「なかなか楽しいクリスマスですね」
「当たり前だ。オレが迎えに行ったんだから」

坂道の途中で直江は立ち止まって傘を傾けて、誰にも見られないようにキスをした。
それから小さく囁いた。

「メリークリスマス、高耶さん」
「雪に感謝しろ」
「はい」

ゆっくり歩いて家に帰った。
サクサク音がする新雪は二人の足音のために降ったんだと思う。
二人の足跡を残すためにも。

今日の聖夜は雪の空。
寒くて冷たくて温かい日。

 

 

 

END

 
   

1日遅れですが。
「月」のシリーズみたいな
感じでクリスマス。

   
   
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