同じ世界で一緒に歩こう

2004X'mas

プレゼントはどうしよう?


photo : TOKYO Millenario 2004

 
 


前々から直江と約束をしていたクリスマス。
この前、合鍵の件で(『合鍵』参照 )ケンカになってしまったけど、今はオレのポケットには毎日直江のマンションの合鍵が入っている。ムフフ。

おっと、そうじゃない。
今日は直江と初めてのクリスマスの話なのだよ。諸君。

たくさんワガママを言って、たくさん甘えてくれるのが私へのプレゼントですよ、なーんて言っちゃってくれちゃったりして、直江ってば相当オレのこと好きなんだよなー。もうやんなっちゃうぜ。

けどそんなものがプレゼントだなんて可哀想だろ?だからなけなしの小遣いで直江へのプレゼントを買うことにした。

高級品、却下。買えない。
甘いもの、却下。直江はあんまり好きじゃない。
酒、却下。オレに飲ませてくれないかも。

よく考えたら直江ぐらいの年齢の男との付き合いがないから、何が欲しいのかサッパリわからない。
しかも第一条件は「安いもの」だし。
本とか、CDとか、センスのいい小物なんかでもいいんだけど、もう少し奇をてらったものにしたい。
うーむ、困った。

「高耶さん、取材の次はどこへ行くんですか?」
「あ、えーと、次は撮影だ」

そうなのだ。今はバイトで直江の付き人をしている。
しかも今度の休みはクリスマスときた。休みがないってことは、直江が撮影だの取材だのショーだのやってる隙を見て買いに行かなきゃいけないんだよ。
イブも仕事で午後3時までスケジュールがあるし、その後は直江とイルミネーションを見に行く約束だしなー。

「どこで撮影なんでしたっけ?」
「目黒だな。お、今回はスタジオ撮影だぞ。寒くないじゃん」
「もう半袖で屋外は辛いですよ、私も。ああ、良かった」

毎日のように撮影が屋外で行われる。しかも春夏物の撮影が多いから寒そうで見るのも辛い。
そんな撮影があった日は、マンションに帰ると「温めてください、高耶さん」なんて言って抱きつかれるから直江もそーとーのバカだ。

「目黒か〜」
「目黒がどうかしましたか?」
「いや、別に」

目黒にショッピングスポットがあるなんて聞いたことないぞ。仕方ない、明日の表参道での撮影の合間に買いに走っか。

 

 

このスタジオでの撮影は、最近売れてる武藤潮というカメラマンだった。先日のモトハルとのミーティングで名前が挙がった新鋭だ。
スタジオに入ってすぐ、直江と一緒に武藤に挨拶をして、メイクさんやらスタイリストさんやらに直江を任せてオレはスタジオの中を眺めていた。武藤はカメラや機材のチェックに忙しく走り回っている。
みんな仕事に一生懸命なんだなー。えらいよ、マジで。

「タチバナさん…は、まだ準備中か。あ、そこのマネージャーさんでいいや。ちょっと立ち位置確認してもらえない?」

武藤からお呼びがかかったのはオレだった。

「オレ?」
「そう。他の奴らだと身長が足りないからさ。キミだと照明の位置確定するのに丁度いいんだ」
「はあ、まあ、いいですけど」

言われた場所に立って、露出だかなんだかを合わせる機械をアシスタントさんが顔の周りにかざす。
それから武藤が「そのまま、そのまま」って言いながらシャッターを押す。
オレの写真なんか撮ってる。フィルムを無駄にすんなっての。

「悪いんだけど、ちょっとだけ笑える?」
「可笑しくもないのに笑えませんけど」
「協力してよ。照明一個でタチバナさんの笑顔がどう写るかが決まるんだかからさー」

そうか。これは直江のためなんだった。
愛しい直江のため、じゃないや、ウチの事務所の大事なモデルのためだ。

「最近の嬉しかったこととか思い出して。いくよー。レンズ見てねー」

最近の嬉しかったこと…そりゃもう、合鍵貰ったことじゃねーの?いつでも来てくださいね、なーんてさ!!うひー、照れる!

「お、いい笑顔!…ホント…いい笑顔だな…」

数枚撮られてOKだそうだ。
何人かが集まってチェックしてるみたいだったから、オレもその中に入ってみたら、ポラロイド写真だった。
ポラロイドと言ってオレたち庶民が使うようなものじゃなくて、プロ用のだ。小さいくせに鮮明な写真だ。

「こんなもんだな。あ、マネージャーさんにあげるよ、これ。あと本番用のカメラで撮った写真も明日にでも事務所に送るから」
「え?いいんですか?」
「いいよ。試し撮りしてくれたお礼な。それに、なんか久しぶりにフォトジェニックに出会ったから嬉しくてさ」
「ふぉとじぇにっく?」
「タチバナさんのマネージャーって言っても、本業はモデルなんでしょ?ほら、芸能人みたくさ、最初は付き人やってて修行したらデビュー、みたいな」
「いえ、本業は学生ですけど」
「あ、そうなの?!モデルとかタレントとかする気はないの?」
「ないっす!!」
「残念だな〜。キミの写真だったら撮るのも楽しいと思ったんだけど」
「冗談でしょ」

送り先の事務所の住所は知ってるから、名前だけ教えてくれ、って言われて「仰木」だって教えた。
オリックス・バファローズの仰木監督と同じって言ったらすぐに覚えたらしい。
近鉄がなくなるのは悲しいよな〜ってさ。しばらく近鉄の話で盛り上がってしまった。
武藤は話しやすいタイプの人間で、オレでも平気で話せたし、しかもいつでもメールくれってアドレスまで教えてくれた。
気が向いたら写真を撮らせろって。

そんな話をしてたら直江が登場。いつ見てもかっこいいんだよなー。ウットリしちまう。
武藤の「じゃーヨロシクお願いしまーす!」って声で撮影が始まった。

 

翌々日、事務所で綾子ねーさんに捕まった。
直江は今日は午後から事務所に来ればいいってことで、オレだけ先に来た。
あいつは一緒に行くって言い張ったけど、最近は睡眠時間が減ってるから肌荒れを気にしろって言って寝かせておいた。

「あんたに武藤から何か届いてるわよ」
「あ、一昨日のだ!」
「一昨日って、その武藤の撮影だったでしょ?何、何?どうしたの?」
「直江の代わりにポラ撮影やったんだよ。見る?」
「見たい〜!」

A4の封筒から出てきたのはニヤけたオレの顔が数枚。アップも、ヒキもどうしようもなくニヤついてる。
ダッセー!オレらしくなーい!

「あらあ!いい顔じゃない!あんたってこんな顔も出来たのね〜。いっつも仏頂面してるから驚いたわ〜」
「どこが!!」
「気に入らないんだったらあんたの彼女にでもあげなさいよ。喜ぶんじゃないの?!」
「こんなの誰が欲しがるってんだ!…ああ、そーか」

しばらくねーさんはその写真を眺めていたが、おもむろにオレに言い放った。

「もしデザイナー諦めたらモデルやったら?あんただったら売れるわよ、間違いなく!」
「んなもん、やる気ねーよ」
「直江より売れるの確実だと思うんだけどな〜。残念ねえ」
「それさあ、撮ったのみんなには内緒にしといてくんねえ?」
「いいけど…何か都合悪い?」
「ちょっとな、特に直江には。直江の仕事の合間にやったことだから、気ィ悪くされたらさ」
「そうね…おねーさん、これでも口堅いから大丈夫よ」
「サンキュ」

 

クリスマスイブは予定通り午後3時まで直江の付き人をやった。
その足で東京駅までタクシーで行って、オシャレなカフェで休んでから東京海上のビルの脇へ行った。そこはもうたくさんの人が行列を道いっぱいに作っていた。

「これって、みんなイルミネーションを見に来たのかな?」
「そうですよ。まだ点灯してませんからどんなイルミネーションかわかりずらいですけど、もうすぐですから」
「早く見たい〜!ウキウキしねー?なあ、直江」
「しますよ。特にあなたと一緒ですからね」
「へッ」

クリスマスからお正月すぎまで、東京駅の前から有楽町まで続くイルミネーションがある。聖堂のステンドグラスを思わせるデザインの門がいくつもいくつも通りに重なってて、その下を歩いて見る、というイベントだ。
名称はミレナリオ。発祥は神戸だって聞いたけど、東京のもこの季節は名所になる。
毎年ニュースで見てて、一度は好きな人と行きたいなー、なんて思ってたら、上京した年に大好きな人と来られるなんて!

「直江はこれ初めて?」
「…いえ…」

聞かなきゃ良かったー!ああ、でも今日はヤキモチはダメだ!せっかくのクリスマスデートを台無しにしたくない。

「あ、そろそろですね。カウントダウンが始まりますよ」

見に来ていた行列がカウントダウンを始めた。そんなに仰々しいものなのかな?
と、前を見つめていたら!!

まるで天国へ通じる門が急に目の前に開いたかのような、遠くまで輝き煌く眩い回廊が現れた。
周りのざわめきも聞こえないぐらい、厳かなライトたちに見入った。
どんなに美しくて素晴らしい未来が待ってるのかを連想させるような光の洪水で満ちた回廊。
でもそれがキレイすぎて怖くて、思わず直江のコートを握り締めてしまった。

「どうしたんですか?」

だけど、オレを見下ろす直江の顔が優しくて、不安定だった気持ちが地に着いたように収まった。
直江がそばにいれば怖いものなんかない。

「なんでもない。キレイで、驚いただけ」
「そうですか?ねえ、高耶さん」
「ん?」
「キレイすぎて、怖くなりませんか?」
「うん…」
直江も一緒だったのか。そっか。こうゆうとこで気持ちが繋がってるの、嬉しいな。

東京駅から有楽町まで、直江と並んで上を見てコケそうになりながら、笑って話して歩いた。
直江の顔も、ライトでオレンジ色や青に染まったりして、雰囲気が違って撮影の時よりもかっこよかった。
こんな直江を独占してるんだな〜。

「高耶さん」
「なんだ?」
「あなたの目の中に、たくさんの星が入ったみたいですね…まるで星があなたに恋をしたみたいで妬けますがでもとてもキレイです」
「…バーカ」

もしこれが二人きりなら寄り添って歩きたい。誰にも咎められないなら。

「足元に気をつけて」

直江がそう言って腰に手を回した。たぶん直江からの愛情表現だ。最高の。
その手に自分の手を重ねて、しばらく歩いた。これは今のオレが直江にできる愛情表現。

 

 

無情にも有楽町に着いてしまった。
直江にはレストランなんかを予約してまでディナーにするな、と言ってあったが、オレに内緒で予約したらしい。
けどそれが千石の交差点近くのレストランで、アットホームな雰囲気のフレンチだったから許した。

上品で暖かいランプの明かりの下で、直江とゆっくり静かに食事をする。土地柄、家族連れや同性同士の二人組みもたくさんいたし、オレたちが座った席は店の奥まった、庭に面した席だったから人目を気にしないで楽しめた。
食事が楽しいものだと思えるようになったのは、直江と出会ってからだ。
それ以前も譲と学校帰りに牛丼を食ったり、ラーメンを食ったりした時だって楽しかったけど、それとは違った楽しさ。

好きな人と一緒に、同じものを食べる。気持ちが通じ合った会話をして、相手を思いやっての食事は本当に楽しい。
オレにとっては直江だからこそなんだ。

「メリークリスマス、高耶さん。あなたがいてくれて良かった」
「オレも。メリークリスマス、直江」

乾杯をして、直江が選んだワインを飲む。少しだけ。

「プレゼントを用意したんですが、家にあるんです。後で見てくださいね」
「うん。オレも直江んちに置いてあるから」
「あなたからのプレゼントはいらないって言ったでしょう?」
「いいの。あるの。貰えよな」
「はいはい」

 

 

直江のマンションに入ってすぐ、リボンがかかった大きな四角い包みがあるのが見えた。
いつの間に…と思ったけど、そういえば今日は一蔵さんが午前中から出かけるって言っていなくなってた。
たぶん一蔵さんに持ってこさせたに違いない。

「開けてみてください」
「これ?ホントにこれ?でかすぎねー?」
「いいですから、開けて」

センスのいいリボンと包装紙を丁寧に外すと、白い箱が出てきた。箱の蓋にはモトハルの金文字が。
ゆっくり開けるとキレイなチャコールグレーのジャケットが見えた。

「これって…」

さらにパンツ、薄い水色のワイシャツ、濃いエンジに黒と茶のストライプが入ったネクタイが出てくる。

「全部モトハルで揃えました。モトハルと二人で高耶さんに似合う色や柄を考えて、選んで。吊るしのスーツで申し訳ないんですが」
「うわー!すげえ!!いいのか?こんなの貰っていいのか?!」

全部で10万はくだらない。いや、もっとするかもしれない。
貰っちゃ悪いって気持ちがないわけじゃないけど、でも直江が選んでくれたものなら欲しい。

「ありがとう!直江!」

抱きついてチューした。顔じゅうにチューしてやって感謝を伝えた。

「くすぐったいですよ!高耶さん!」
「あ、そーだ!オレもあるんだった!待ってろ!」

ふいに離れたオレを残念そうに見てたけど…くすぐったい割にはチューが嬉しかったんだな。

もはや直江んちの和室はオレの住居同然になっている。ミシンや家財道具はないけど、押入れにはオレ専用のチェストのようなものが入っていて、そこに色々と仕舞いこんでるんだ。
服は当然、画用紙や鉛筆も入ってる。
そこに行ってA4の封筒を取り出した。クリスマスカードも添えて。

「はい、これ」
「なんですか?こっちはクリスマスカードですね」

まずはクリスマスカードを開けて、オレからのメッセージを読んだ。
いつも優しくしてくれてありがとう。直江大好き。メリークリスマス。

「可愛いですね…」

大事そうにテーブルに置いてから、今度は封筒を開けた。

「写真、ですか?…なんでしょうね…」
「大事にな。指紋付かないよーに」
「はあ…」

ゆっくり引き出して半分ほど見えた時、直江は目を丸くして素早く引き抜いた。

「これは!」
「大事にしろよ!」
「はい!!」

それは武藤に撮ってもらった四つ切写真数枚だった。ファインダーに向かって笑顔(ニヤけ顔とも言う)で写ってるオレ。
直江に合鍵を貰って、嬉しかった時のことを思い出して笑ってる。
この笑顔を直江に貰って欲しかった。金は一銭もかかってないけど、気持ちだけは充分以上にこもってるはずだ。

「L判も入ってますね…こっちは財布に入れて大事にしますから」
「え?L判?そんなのも入ってたのか?!」
「ええ」
「それは返せ!」

財布なんぞに入れられてたまるか!誰かに見られたらどうする!

「ダメです。これは私が頂いたものですからね。もう返しません」
「お願い!」
「ダメですってば。そういえば高耶さんの写真て、一枚も貰ってませんでしたね。ちょうどいいですよ」
「返してくれ〜」
「あなたも私の写真いりますか?」
「いらん!」

すでに財布に入ってるんだ!雑誌の切り抜きが、見えないとこに入ってるんだ!
でも直江はすぐに見られるよーなとこに入れるような男だ!
それだけは恥ずかしいからやめてくれ〜。

「大事にしますね。ありがとうございます、高耶さん♪」
「うう…」

中身を確かめてから渡すべきだったか…もう遅いのか…お願いだから直江、財布は落とすなよ。

 

それから直江はL判の写真をコンビニでカラーコピーしてから切り抜いて、財布に入れてた。
なんてこった…。

「財布落として中身見られたら、おまえ百叩きの刑な」
「落としませんよ。大事な写真が入ってるんですから。カードや現金が抜かれてても写真さえ無事なら私はかまいませんけどね」
「誰が写真なんぞ抜くか!」

かろうじて開けただけじゃ見られないとこに入れてはいた。
直江の財布はお札を伸ばしたまま入れておけるデカイ財布で、ポケットがいっぱい付いてる。カードと現金以外は入って
ない。
オレの財布と違って割引券やレシートなんか全然ない。

「あなたの写真が入った財布だったら、私は写真だけ抜いて捨てます」
「世界中でおまえだけだな、そんなバカは。つーか捨てないで警察に届けろ」
「私だけの高耶さんの写真を入れておくような人間の財布は捨てますよ。ザマアミロです」
「だから、そんなの直江しかいねーっての」
「そうとも限らないじゃないですか。例えば学校の同級生とか、あなたに好意を寄せてる人がいるかもしれないんですよ。毎朝会う駅員や、近所の人とか、いきつけのコンビニの店員とか…」
「いるわけねーってば」

四つ切写真は額に入れて飾ろうとしたから、額に入れるのはいいけど飾るなと怒ってなんとか阻止して書斎のクローゼットに入れてある。直江はオレがいない時にそれを出して眺めているそうだ。
この前なんかオレがいるにも関わらず出してきて見てた。

「そんなに見てたらそのうち穴が開くぞ」

食い入るように見てたから言ってやった。写真なんかより本物が目の前にいるだろうに。

「は!そうですね!穴が開いたらどうしましょう!ネガはないんですか?!」

と、真面目な顔で悩んでいた。
だから頭を強く叩いてやった。それでもめげずにネガのありかを聞いてきたから武藤が持ってるんじゃないか、と言ったら、今度は武藤に嫉妬しやがった。

「焼き増ししないようにネガをぶん捕ってきます!」
「それだけはヤメロー!!」

オレのスーツは直江の寝室のクローゼットに入れてもらってる。ウチにあっても虫が食いそーだしさ。

んで、直江んちに一個、新しいインテリアが増えた。
26日に一緒に事務所に行ったら、千秋がクリスマスプレゼントに貰ったというデジカメで事務所の人間を撮りまくってて、それを発見した直江が「高耶さん、一緒に撮りましょう!」って言って、顔がくっつくほど引き寄せられて撮った写真を写真屋でプリントしてもらったものだ。

何枚か撮られたけど、その中の一枚。二人で笑って写ってるのを写真立てに入れて寝室に飾った。
オレの部屋にも同じのがあるけど、そっちは誰が見るかわからないから引き出しに入ってる。
二人とも幸せそうな顔をしてるから、ものすごく気に入ってる。

来年も直江とクリスマスを過ごせたらいいなーなんて考えてる高耶、19歳の冬。
なんちてなんちて!!くくくッ♪

 

 

余談。直江は千秋が撮った写真のデータをいくらか金を積んで買い取ったらしい。
そこまでするか…?

 

 

 

END

 

あとがき

初めてのクリスマスでした。
高耶さんからのプレゼントが
写真てのがナルシストっぽい
ですが、金がなかったんで
仕方ないってことで。
高耶さんだって恥ずかしいのを
相当抑えて渡したんです



     
             
     


   
     

 

 

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