同じ世界で一緒に歩こう

2005年お正月

たくさん愛して



 
   


「明けましておめでとうございます」
「あ、あけまして…おめでとうございます…」
「今年もよろしくお願いしますね、高耶さん」
「…はい」
「今年も愛していますから、あなたももっと愛してくださいね」
「調子に乗るな」

 

 

大晦日から元日にかけて高耶は直江のマンションに泊り込んでいた。
帰省しようかと思ったが、譲が帰らないらしいので自分もやめてしまったのだ。
それに直江は30日まで仕事があったので、31日に帰省しても3日間ぐらいしか実家にいられないし、何よりも直江に「初めてのお正月ですから一緒にいてください」とお願いされてしまったのもだから、どうしても帰らなくてはいけないほどの用事がない限りは帰れなくなってしまった。

 

 

大晦日は二人で直江のマンションの大掃除をして過ごし、直江が料理はおろか掃除も出来ないことを知った。
今までどうしてたんだ、と聞けば一蔵がやるか、ダ●キンホームヘルパーに頼むか、その時にいた女にやってもらっていた
らしい。
最後の「女に」にはさすがに高耶も引っかかってしまい、2時間ほど機嫌悪く掃除をしていた。

「チクショウ、雪なんか降りやがって。やっと止んだと思ったら畳忘れてたなんてなー」

さっきの直江の発言の上、さらに雪が降って畳掃除が面倒になってしまったので不機嫌倍増。
ベランダの雪をかいて、ゴミ袋を細長く切って敷く。その上に畳を置けばどうにかなるか、と考え、マスクをした高耶は和室の畳を上げてベランダに持って行った。そこに不機嫌の元凶、直江がやってきた。

「もう機嫌を直してくださいよ」
「あ、そーだ」

直江には答えず、リビングの棚から一冊雑誌を出した。その中からページを一枚切り取る。そしてセロテープを切ってページを畳に貼り付ける。

「え?!高耶さん?!」
「よーし。いくぞー!」

持っていたホウキでバン!と大きく畳を叩く。叩かれた畳に貼られた直江の写真ページがグシャリと歪んだ。

「も、いっちょう!!」
「高耶さん、それだけは〜!」
「じゃあてめーが叩かれたいか?!」
「それも勘弁してください!」
「だったら黙って見てろ!」

もう一発、畳にいいのが入った。
曇った空に大きく響く畳を叩く音がして、周りの建物から反響するようにこだました。

「あーあ、オレも掃除用キープかもしんねーなー!」
「そんなわけないじゃないですかー!」

バァァァン!

キレイなバッティングフォームはまるで巨人の高橋がホームランを打った時のようだ、と直江は思ったが、それどころではない。

「高耶さんは掃除用なんかじゃないですから!そんな風に思われるなら私ひとりで掃除しますから!」
「おまえは掃除が下手だー!」
「でしたら高耶さんの采配通りにしますから!」
「オレが采配したって技術が伴わないから無駄だー!」

高耶は返事をするたびにキレイなフォームで畳を叩く。ああ、このフォームは小笠原、金本、新庄、城島、松井、などと関係のないことを思いながらも直江は高耶の誤解を解こうとする。

「おっしゃ、とりあえず終わったな」

数名のホームランバッターやヒッターの名前が直江の頭の中で通り過ぎて行った頃、ようやく畳を叩く手が止まった。
直江の写真はすでに紙くずと化していた。

「ひどいことを…可哀想なタチバナヨシアキさん…」
「自分に同情してどうすんだ」

マスクを外してキッチンへ行き、高耶は日本茶を湯呑に入れた。
夫婦湯呑だ。直江の事務所から少し離れた所に日本茶の店があり、そこで購入したものらしい。
昔ながらの物ではなく、もう少しモダンな感じのする若者向けの夫婦湯呑だった。
最初は調子に乗りやがって、と思っていたが、最近は慣れたもので当たり前のように小さいほうを自分用に使っている。

「ほら、こっちで一休みしろよ」
「はい…」

高耶から大きい方の湯呑を渡され、一瞬で顔が明るくほころぶ。
ソファに座って(もちろん隣りに)二人で濃い日本茶を飲みながら休憩した。

「まー、アレだな。おまえが一緒になって掃除するってのはオレが初めてらしいからいいけどな」
「高耶さんとじゃなきゃ掃除なんかしません」
「これからは一人ででもしろよ。オレは家政婦じゃないんだから」
「そうします。だから今日は教えてもらいますよ」
「おう、オレの仕込みは厳しいからな」
「はい」

高耶のスパルタ式大掃除を終わらせると、今度は高耶の簡易おせち料理作りが始まった。
これにはさすがに直江は参加させられなかった。高耶もそのへんはわかっているらしい。
直江には絶対におせち料理は無理だろう、と。

直江はその間、のんびりと新聞を読んだりテレビを見たりしていた。

こんな年末は生まれて初めてだ。愛する人が料理する音を聞きながら、何も考えずにのんびりと過ごす。
今までは仕事絡みのカウントダウンパーティーへ行ったり、海外に旅行に行ったり、運が悪い時は実家の手伝いをさせられたりしていた。
だが今回は違う。派手さはないが愛しい人と過ごせる。

「ああ…幸せだ…」
「幸せなのはいいけど、ちょっと手伝え。こんにゃくを捻るのと、あとこのイモの皮を剥いてくれ」

リビングのテーブルにドンと食材を乗せる高耶。難しいことは直江には出来ないだろうから、初歩的なものだけをやらせるつもりらしい。

「喜んで♪」
「居酒屋じゃねーんだから…」

そんなこんなで高耶のせわしない料理もほとんど終わったころ、高耶から和室にコタツを出せとの指示が下った。
コタツは先日、高耶から「お願いだから買って〜v」と色仕掛けで買わされたものだ。
ずいぶんお気に入りらしく、課題をやったり昼寝をしたりと重宝しているようだ。

直江がコタツを出してスイッチを入れる。コタツだけでは寒いのでエアコンも入れる。
和室にはすでに正月用の花が花瓶に入れて飾ってあったりして、高耶の細かい心遣いが見えた。

「コタツ出しましたよ」
「じゃ、そっちで待ってろ」

小さなテレビも置いてあるので、退屈はしないだろう?と笑って言う。キッチンからはいい匂いがしていた。

直江が言いつけを守ってコタツに入ってテレビを見ていると、障子を開けて高耶が入ってきた。

「じゃーん。年越しそばだ!ちゃんと鰹節からダシ取ったからうまいぞー!」

コタツの上にどんぶりが二つ並ぶ。
おいしそうな匂いはこれだったか、と直江はさらに顔を緩める。

「どこかの奥さんみたいですね」
「どこかの、じゃなくて、直江の、だろ」
「…高耶さーん!!」

強く抱きしめてキスしようとしたら、顔を赤くして突っぱねられた。

「せっかくのそばが伸びるだろ!」
「だってあまりにも可愛らしいから!」
「そーゆーことは後でだ!」
「後でって、いつ?」
「う…とにかく、先にそば食え!」

『そーゆーこと』は結局、年越しかけて寝室にてされてしまったようだ。

 

 

遅く起きた二人はまず身なりを正してから和室で新年の挨拶をした。さすが直江はモデルだけあって着物を持っていたし、
着付けも実家が寺なだけあってしっかりと着れていた。
高耶はいつものカジュアルだったが、おせち料理の盛り付けや食事の準備を直江より早目に起きてやっていたから当然だ。

二人でゆっくり和室でおせち料理を食べ、おとそを飲んでほろ酔いになる。
顔を桃色にした高耶はちょうどいい感じに酔ったのか、向かい側に座っていた直江のほうへ移動した。

「どうしたんですか?」
「いい正月だな」
「そうですね。穏やかで、幸せで」
「うん。直江といるこの穏やかな空気が好きだな」
「私も、あなたがいるだけで幸せですよ」
「チューしよ?」
「ええ」

直江にもたれかかって高耶がキスをねだる。直江が嬉しくないわけがない。
熱烈なのをお見舞いすると苦しそうにもがいた。

「またすぐ調子に乗って…今年はそれ直せよな」
「すいません…でも高耶さんも一個だけ直して欲しいところがあるんですが…」
「なんだ?」

首を傾げて可愛らしく訪ねてくる姿を見てキス出来ないのは、今の直江にとっては拷問でしかないがとりあえずガマンする。

「ヤキモチ、妬かないでください」
「え?」
「あなただけは本当に特別だから、私を信じて、疑わないでください」
「…うん」

昨日のボロボロになった直江の写真ページを思い出して反省した。信じてるのに、あんなことをして直江を少しでも悲しませてしまったのか、と。

「できるだけ妬かないよーにはするけど…でも妬くのはおまえのことが好きな証拠だから」
「ええ、そうですね…じゃあお互いにこうしませんか?妬いてしまったら、代わりに好きだってことを言葉でも態度でもいいから
表現しましょう?」
「ウザいって思わないなら」
「私が思うわけないでしょう?あなたは?」
「…思わないよ、たぶん」
「たぶん?」
「ううん。絶対、思わない。だって直江にそうされるの好きだもん」
「じゃあ、約束です。でも、出来る限りでいいいですから」
「うん」

そして二人で近所のお寺へ初詣へ行き、帰ってきてから直江の大事なワインを飲みながら食事をして、手を繋いで正月特別番組なんかを見て(ほとんど見てなかったが)話して、たくさんキスをして、初めての二人のお正月を過ごした。

「来年も、一緒にこうしていましょうね」
「鬼に笑われるぞ」
「いいじゃないですか、誰に笑われても。あなたと一緒にいられれば」
「そーだな。直江、愛してるぞ」
「初・愛してるですね」
「そーゆーとこも直せ!」
「はい♪」

♪付きの返事を聞いて絶対に治らない病気のようなものだな、と高耶は思った。
でもそこが結構ツボだったりする。
直江はいつも直江のままでいて欲しい。だからオレもオレのままでいればいいや、と思った高耶だった。

 

 

あけましておめでとう。
今年もたくさん愛してくれよ。
オレもたくさん愛してあげるから。

 

END

 

あとがき

初めてのお正月を過ごした直高。
甘やかしすぎだよ、直江!
お正月ってより大晦日がメインに
なっています…
だって全然お正月気分が出ないんだもの!

   
         
   


   
   

 

 

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