同じ世界で一緒に歩こう 番外編 |
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俺の顎が外れそうになった。 そりゃ私だっていつまでも直江って名字で呼ばれるのかって懸念はありましたけどでもいきなりのぶたんと呼ばれるというのもいささか的外れでどうせなら段階を踏んで信綱さんとか信くんとか信ちゃんとかそう呼ばれる想像をしてニヤけてたこともなきにしもあらずだったんですがまあヨシアキと呼ばれるよりはマシっちゃマシなんですけどだからっていきなりのぶたんなんて高耶さん!! 「どした?」 とりあえず平静を装って返事をしてみた。 「この呼び方、気に入らないか?」 そうやって上目遣いで眉毛を下げて私を見るのはやめてください!可愛いじゃないですか!眩しいじゃないですか! 「高耶さん!」 やはり辛抱仕切れなくてギューギューに抱きしめてしまった。ふたりでこのまま窒息して昇天したっていい! 「苦しい!のぶたん!苦しいから離せー!」 腕から解放すると大きく深呼吸して高耶さんは私を見た。それはそれは美しく潤んだ瞳で。 「あー、もう本当に窒息するかと思った。どうでもいいけどその馬鹿力でギューギューすんのよせ」 そうか!こうされるのはイヤではないんだな!ああ、俺はなんて幸せ者なんだ!こんなに高耶さんから愛されて! 「なお……のぶたん」 いつものように私のマンションに高耶さんがお泊りに来ている。夕飯も終え、リビングのソファでまったりと愛のひとときを過ごしている。それが現在だ。 「今日は雑誌の企画会議に出席したんですよ。新しく発行されるメンズ雑誌のキャラクターに登用されるので、その企画会議です」 ダメだ……高耶さんが笑ってようが、目をキラキラさせて驚こうが、眉間にシワを寄せて考え込もうが、困った顔で膨れっ面しようがどんな姿でもメロメロに参ってしまう!正真正銘高耶さん病になってしまった!もうこの病は治らなくたってかまわない! 「オレのも聞いて?」 は!うっかり妄想に浸ってしまった。いかん、いかん。悟られたら幻滅されてしまう。しっかりしろ、のぶたん! 「ええ、高耶さんは今日、どんな授業を受けたんですか?」 そう言いながら俺のタバコの箱を持ってテーブルに寝かせる。まずは縦方向に一列、規則正しくプリントするそうだ。トントンと箱を下に一回ずつずらして一列プリントする真似をした。そして次の列に移る。次の列は、一列目の箱から縦に半分ずらして置いた。 「あ、わかりました。ブロック塀みたいな感じで半分ずらして行くんですね」 右手を自分の左肩にやって揉む仕草をした。高耶さんの細いがしなやかな筋肉がついている肩がそんなに凝ってしまっていたのか! 「マッサージしますよ」 洗濯物のカゴにウェアが入っているのを見たのだろう。俺のことをそこまで見守ってくれていたなんて……感激だ。 「高耶さんほどではありませんよ」 ナイスだ、俺!いいネーミングじゃないか!甘ったれの高耶さんにはちょうどいいぞ!たーたん!甘美だ! 「ん、それでいい」 照れた高耶さん、もとい、たーたんは素晴らしく愛らしく、そして色っぽい。薄い桃色の頬が俺をそそっているようだ。 「どうしたんですか?」 高耶さんは頬を真っ赤に染めて俯いた。 「じゃ、じゃあこうしましょう!明日は休日ですから一緒に有楽町に行きませんか?」 たーたんの目がキラリンと輝いた。嬉しそうだ。この顔を見るために生きていると言っても過言ではない。 「でも、そんな……のぶたんの負担になるようなこと……」 その夜はもちろんHLLT(ハッピーラブラブタイム)を過ごし、おはようエッチとお日様エッチは逃したがマッサージチェアを買うためのデートはとてもほのぼの新婚風味で、俺はいい恋人を持ったなあ、と実感した。
「マジかよ!うまくやりやがったな、おまえ!」 直江にマッサージチェアを買ってもらうため、オレはプライドを捨てて『のぶたん・たーたん』を実践した。 「そーだろー?あいつ、おまえから甘えられたら何でもするもんな」
「直江」 俺の顎が外れそうになった。 そりゃ私だっていつまでのぶたんって呼ばれ続けるのかって懸念はありましたけどでもいきなり直江に戻るというのもいささか期待外れでどうせなら段階を踏んで信ちゃんとか信くんとか信綱さんとかそう呼ばれる想像をして萎みかけたこともなきにしもあらずだったんですがまあタチバナさんと呼ばれるよりはマシっちゃマシなんですけどだからっていきなり直江だなんて高耶さん!! 「なんだ?どうかしたか?」 俺はけっこう気に入っていたのだ。たーたん、もとい高耶さんから『のぶたん』と呼ばれることを。 今日はいつものごとく私のマンションに高耶さんがお泊りに来ている。 「これいいな〜、さすがに高かっただけあってさ」 首を傾げて俺を見るその仕草!可愛いとしか形容できん!しかし俺には聞かねばならんことがあるのだ。 「のぶたん、たーたん、です」 あからさまにガッカリした俺に高耶さんは優しい声をかけてくれた。 「あの呼び方が良かったのか?」 本当はそういうわけなのだが!!そうとはっきり言えない自分が恨めしい! 「だったらいいじゃん。直江もコレ、座れば?」 マッサージチェアに高耶さんと交代して座った。スイッチを入れると心地よい振動が伝わる。ほう、なかなかだな。 「ん?」 目を開けると俺の膝の上に高耶さんが馬乗りになっていた。 「気持ちいい?」 スイッチを切って高耶さんを膝に乗せ、シートを倒したまましばらく話した。そして抱き寄せ高耶さんを包み込む。 「チューする」 何度もキスをして、抱き締めて。その場でHLLTになった。
マッサージチェア、色々と使い道があるみたいですね。たーたん。
END
あとがき おまけペーパーで作ったものです。
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