同じ世界で一緒に歩こう

番外編
32話「バスパラダイス」のオマケ

直江の友達


 
   

 


日曜日、直江と原宿表参道を歩いてた。
デートっつーか、お出かけっつーか……まあ、デートだ。

そしたら表参道の交番のそばで学校の友達に会った。たまに一緒に昼飯を食ったり、学校帰りに遊んだりしてる仲のいい友達で、直江とオレが知り合いだってゆーこともわかってるやつ。カノジョと一緒に歩いてた。

「仰木〜!」
「おう。なんだよ、デートか?」
「まあな。あ、タチバナさん、こんにちは〜」

直江とも1回か2回会ったことがあるから挨拶を交わした。
カノジョの方はモデルのタチバナを知ってたみたいで握手を求めてきた。直江はすぐにいい顔しようとするヤツだから、笑顔で答えてやがる。

「んじゃまたな〜」
「明日な」

名残惜しそうなカノジョを連れて友達は裏原宿に入って行った。

「高耶さんのお友達って、こうして街中で会うのと学校の帰りに会うのと少し違いますね」
「学校帰りはみんな疲れてるからな」
「ああ、そうなんですか」

そーいえば直江の友達って会ったことないかも。
千秋やねーさんや鮎川さんは会社の人だし、モトハルさんも仕事がらみだし、武藤はどっちかってゆーとオレの知り合いだし。
モデル仲間って人ともバイトしてた時に何人か会ったけど、やっぱり仕事の仲間であって、純粋な友達ってんじゃないしな。
親しくしてる友達って会ったことないな。

「なあ、直江って友達いるのか?」
「は?いますよ」
「愚痴言ったり相談したりするような友達だぞ?」
「……ええ、います。特に最近は仲良しの友達ができました。よく愚痴を聞いてもらってますよ」

直江はやけにニヤニヤしながら言った。どんな愚痴を聞いてもらってるんだかな。

「なんて人?」
「麻生さんです」

あそうさん……?うーん、聞いたことないなー。

「今度会わせろよ」
「高耶さんも知ってる人なんですけどね」
「え?!知らないぞ!」
「知ってますよ」
「誰?!」

その後の直江は笑ってばっかで何も教えてくれなかった。しつこく聞いても教えてくれない。

「あ、高耶さん。ここのケーキ食べたいって言ってませんでしたか?」
「ああ!そうだ、ここだ!」

表参道に面したカフェに連れ込まれてケーキを出されたら、もう麻生さんのことはすっかりキレイに忘れてしまった。

 

 

そんなある日、偶然にもオレは麻生さんが誰だかわかってしまった。
学校から帰って課題を終わらせて、その後で直江のマンションに行って夕飯を作ってた。
帰ってきた直江にチューをして風呂と夕飯とどっちが先か聞いたら、疲れたから先に風呂に入るって言ってカバンを置いてすぐに風呂場に行った。

直江の着替えを出して脱衣所に持って行くと、風呂の中から直江の声がした。
風呂で話すって、携帯で?オレに知られたくない相手?まさか!!浮気!!

「高耶さんには内緒ですよ。あの人に知られたら何をされるかわかりませんから。夏に買った時計の支払金額を見て鬼のように怒ったほどですからね……今回もきっと怒られます」

……誰に何を話してるんだ?浮気じゃないならいいけど……でもオレに怒られるって、今回は何を買ったんだ?

「コートに30万もかけたなんて知られたら……」

なんだと?!コートに30万?!
ああ、でも直江の稼ぎで買ってるものだしな〜。時計の時だってあんなに怒ることなかったんだよな〜。

「あとはオーダーメイドの靴でしょう?やはり私もモデルですからね。多少はそれなりの服装をしていないとダメだって言われるんですよね、綾子や鮎川から」

そうだったのか……じゃあ怒っちゃいけないよな……オレ、直江の邪魔しちゃってたのかな。

「麻生さんならわかってくれますよね?」

麻生さん?!麻生さんと話してるのか?!愚痴を麻生さんに聞いてもらってるのか?!

音を立てないようにゆっくり、静かに少しだけ風呂場のドアを開けた。バスタブに浸かった直江の背中が見える。
だけど携帯電話なんか持ってない。じゃあ誰と話してるんだ……?麻生さんて、どこの誰だよ?

直江がバスタブの中から長い足を出して、縁に置いた。
その時、オレが買ってきたアヒルちゃんが揺らいだお湯の波に合わせて直江の脇腹あたりに見え隠れした。

「ああ、すいません。麻生さん」

そのアヒルちゃんを直江が指で真ん中まで戻した。

…………………アヒルちゃん=麻生さん……………………?

 

挿絵提供:ms-083 towako様

 

ええ?!あのアヒルちゃんに直江は『麻生さん』て名前を付けてたのかよ!!
じゃあ愚痴を聞いてもらってる友達の麻生さんはアヒルちゃんのことか?!
最近できた仲良しの友達ってアレなのか?!

「麻生さんが来てから高耶さんとの話をする相手が出来て嬉しいです。もっと高耶さんのことで相談したいことがたくさんあるんですけど、あんまり長いと麻生さんも退屈でしょう?小分けにして話していきますから聞いてくださいね」

直江……!!とうとう壊れたか……!!

「まったく、あの人は本当に可愛くて、見てるこっちもヒヤヒヤすることだらけですよ。料理をしてる姿なんかを横恋慕してるやつが見たら襲い掛かりそうですから。麻生さんは知らないと思いますけど、料理姿の高耶さんは極上にセクシーなんです。細い肩を揺らしながら包丁を使ったり、身をかがめて洗い物をしてるとお尻が誘ってるようで、つい手を出したくなるんです」

戻ってこい、直江〜〜〜!!麻生さんはおまえの話なんか聞いてないから〜〜!!

「おや、麻生さん。そろそろのぼせてきましたか?じゃあ私も出ることにしましょう。そろそろ高耶さんの夕飯も出来上がってるころでしょうしね。おいしいんですよ、高耶さんの料理は、なんでも」

直江はアヒルちゃん……いや、麻生さんを窓のせり出した部分に置いてからバスタブを出た。
慌ててドアを閉めてキッチンに戻って、知らん顔で料理の続きをしてたら髪の毛を拭きながら出てきた。

「は〜、今日もいい湯でした」
「おう、そりゃ良かったな」

ドキドキ。直江は現実に戻ってきたのか?

「まだ出来上がってないんですか?じゃあもう少し長湯しても良かったですね」
「……直江」
「はい?」
「いや、なんでもない」

その後、直江を観察してみたが全然普通だった。アヒルちゃんと会話をするような男には見えない。
だけどしてたのは事実で、直江がちょっと壊れてるのかもしれないのも現実で。

 

 

「直江……おまえ、疲れてるのか?」

直江のマンションでの恒例、ソファでのんびりタイムにちょっと探りを入れてみた。

「ええ、少しだけね。今日は移動が多くて大変でしたよ。寒空に半袖で撮影があったり、かと思えばスタジオで灼熱地獄のようなライトを浴びてウールのスーツを着たり、まとまらない企画会議に参加したり。疲れました。だけどあなたの顔を見たらそんなものどうでも良くなってしまいましたよ」

いつもの直江だな……。じゃあいつもの直江すら壊れてるってことになるのか?
そんな!!直江は元々壊れたなんて!!

「直江!!無理すんなよ!!いくらでも優しくしてやるから!直江〜!!」
「……高耶さん……高耶さん!ああ!愛してます!」

可哀想な直江。いつもこんなに疲れてたなんて!知らなかったよ!ごめんな、直江!オレが無理させてんだな!!

「直江、愛してる!!」
「高耶さん!!」

たくさんチューして、直江の思うままに触らせてやって、だけど疲れるだろうから無理させちゃいけないって思って寝室ではオレが上になって動いてやった。今夜は直江に奉仕しまくるんだ!

 

 

「うまくいきましたよ、麻生さん」

アヒルの麻生さんと会話をしていたのは事実だ。
冗談でやっていただけなのに、高耶さんは風呂場を覗いて私が誰と話してるのかを観察してきた。
ここで私が奇行を見せれば高耶さんが心配するのは目に見えていたので、わざとそうしたらまんまと引っかかってくれた。

確かにアヒルに麻生さんと名づけはしたが、本気で愚痴や相談を話すわけがなかろう。
なぜアヒルに名前をつけたかって?なんとなくだ。

今日も風呂場で麻生さんに話しかけてみた。
先日、あれほどまで奉仕をしてくれた高耶さんなど初めてで、私は感激で涙が出そうになったのだから、やはりこれは麻生さんに報告しなくてはならないだろう。

「やっぱり可愛いですね、高耶さんは」

麻生さんはバスタブの中でフラリと揺れて私に返事をしたように見えた。

『良かったな、直江。これからも俺を頼るがいいさ』

と。
なんと頼りがいのある友人だろうか。これからもお願いします、麻生さん!

 

 

 

END

 

 

あとがき

麻生さんのゴッドマザー&挿絵提供は
ms-083のTOWAKOさんです。
快くイラストを提供して
くださいました。
ありがとうございますだ〜!
TOWAKOさんのサイトへは
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