同じ世界で一緒に歩こう それから


直江の買い物


 
   

 


オレは詳しくわかんないけど、直江の仕事が少し増えて、ちょっと忙しくなってきて、海外にも行ったり雑誌の編集にも携わったりして、今までよりもギャラが多くなったらしい。
直江も一応1ヶ月に1回って感じで事務所からギャラが振り込まれるんだけど、無造作にリビングに置いてあった明細書を見てオレは驚いた。

「よ、よんひゃく……よんじゅう……さんまん……えん……」

税金で持っていかれるとしても200万以上は手元に残るわけだろ?一ヶ月で?マジかよ!!
直江のクセに生意気だー!!
と、言いたいところだけど本人が頑張った証拠だからな。直江は直江、オレはオレだ。

 

 

んで、そんな給料のことも忘れたある日、コットンクラブで知り合いになった有名な陶芸家のおじさんの個展に二人で行った。

「やあ、タチバナさんと高耶くん!」
「こんにちは。今日はご招待ありがとうございました」
「いやいや、とんでもない。ゆっくり見てってください」

おじさんはたぶん60歳くらい。髪の毛を伸ばしててイギリス紳士みたいな服を着て、格好だけ見たら陶芸家とは思えない若々しさを持ってる。
ああいうおじさんになるのもいいかもな。

陶芸は基本的におじさんの得意な紅色と紺色が多かった。いろんな形をした食器や、コップなんだけどカラカラ音が鳴るやつとか、花瓶ぽくない花瓶があった。
値段を見たら五万円以下のものは見当たらず……。小さくて安いのがあったら欲しかったのに。

「高耶さん、この紺と白のお皿、ステキですね」
「ん、どれ?ああ、ホントだ。キレイ!フグのお刺身なんかやったら下の絵が浮かんできそうでいいな!」
「……うーん、ちょっとコレ、買いましょうか」
「え?でも値段が……」

30万円。
さんじゅうまんえん〜〜〜!!オレの給料よりも高いじゃねえか!!

直江はそばにいたスタッフのおねーさんに声をかけて「これを買いたいんですが」と言った。
こともなげに、だ!!
そしてその皿には売約済みの名札が付けられ……しっかりとタチバナヨシアキ様と書かれ……。
おじさんと握手を交わして売約決定。

「じゃあ高耶くんにはお土産をあげよう。ちょっとした失敗作なんだが捨てるには惜しい色合いなんだ」

さっきの皿と同じ紺色の小さい小さい皿を貰った。手の中に入っちゃうぐらいの。
女の子だったらヘアピンとかピアスとか置くような、そんな小さい皿だ。

「いいんですか?」
「タチバナさんと知り合えたのは高耶くんのおかげだからね。あんなふうに『ねえ、おじさん』なんて呼ばれたことはしばらくなかったから嬉しかったよ」

そんなふうに呼んだっけ……酒の力はスゴイ……。

「あ、あの、ありがとうございます!」
「では私たちはこれで失礼します」
「個展が終わったら送りますよ」
「はい、お願いします」

小さい皿はクリップとか入れて机に飾ろうっと。贅沢なクリップ入れになるだろうな〜。

帰ってからその皿を眺めながらニヤニヤしてたら。

「そういえば、高耶さん」
「ん?」
「もう一台クルマが欲しいんですけど」

クルマ?自動車のこと、だよな?

「なんで?レクサスでいいじゃん」
「もう少し小回りのきく小さいのが欲しいんですよね」

ああ、エコカーみたいなやつか。それならオレも乗れるかも。

「いいんじゃん?そしたらオレも乗れるし」
「高耶さんも?じゃあ高耶さん名義で買いましょうか。そのうち個人個人で必要になると思いますから」
「いや、それは……保険料とか払えるほど裕福じゃないから直江の名義でいいよ」
「保険料は私が出しますよ。言ったでしょう?結婚と同じなんだからお金のことは私に任せてくださいって」

そーいえばウチの親父と直江の間でそんな取り決めをしたって言ってたな。
美弥が独立できるまでは直江に甘えておくんだっけ。

「じゃあオレ名義で買っていいよ。どうせ直江が多めに乗るんだから好きなのにしたら?オレは特に希望はないしさ」
「そうですか。じゃあ今度の土曜にでも一緒に見に行きませんか?」
「あ。ごめん、土曜は店舗のヘルプをしなきゃいけないんだ。店員の一人が体調悪いとかで休んでてさ」
「……日曜は私が仕事ですからね……じゃあ翌週でもいいですよ」
「いいって。直江の欲しいの買ってこいよ」

なんだかしょんぼり寂しそうだ。オレと行きたいのはわかるけど、お互いに仕事なんだから。

「そのぶん毎日イチャイチャしてやるって」
「毎日って1時間ぐらいしかイチャイチャしてくれないじゃないですか。仕事ばっかりで」
「ん〜、じゃあ早く帰って来れた日はエッチもつけるから、機嫌直してクルマ買ってこい」
「絶対にエッチつけてくれるんですか?!」
「おう、男に二言はねえ!」

それで直江の機嫌は急上昇だ。単純なヤツだ。
高耶さんに似合いそうなクルマは何だろうな〜とか言いながら風呂場へ向かった。
オレに似合うそうなクルマは低燃費な軽自動車でエコなやつだ。ちょっと四角い感じのがいいな〜。

 

 

そんでオレは2〜3日もするとクルマのことなんか忘れて仕事に没頭してた。
できるだけ早く帰れるようにして直江とイチャイチャする時間を取るためだ。
学生の頃までは丁寧にデザイン画を描いてたけど、就職した今はできるだけ多くこなすように工夫をして表現力を身に付けてるところ。
先輩や主任のデザイン画を参考にして、自分なりのデザイン方法を編み出した。

これが功を奏して数もこなせるようになったし、残業もそんな多くなくなって、定時で、とはいかないけど直江の夕飯を作れるぐらいの時間には帰れるようになった。

7時ぐらいに仕事が終わったからエレベーターに乗ったらモトハル社長と乗り合わせた。

「陶芸展行ったんだって?」
「はい。直江が皿かいましたよ」
「俺も買ったよ。変な形の花瓶。真っ赤な花瓶が玄関に欲しかったんだ」

花瓶……変な形の花瓶てゆーと……確か……70万円ぐらいの……
うう、社長なだけに超セレブ。

「仲良くやってるみたいだね」
「まあ、普通ですけど」
「キミにはそれが普通でも、昔の直江じゃ考えられないほど大事にされてると思った方がいいよ。しかし直江は幸せなんだな。良かった、良かった」

そう言いながらモトハル社長は1階につくとお迎えの車に乗って帰ってしまった。
オレは相変わらず地下鉄で帰宅だ。帰りにピーコック寄って夕飯の材料買わなきゃな。

今日のメニューはハッピーラブラブディナーだから、なんか精のつくものを。
うなぎ?山芋?ニンニク?
直江は裸ポスター以来、あの体型を保つようにしてるから、カロリーは抑えたい。
と、いうわけで山芋をすってお好み焼き風にしよう。あとはカロリーが控えめだけど良質たんぱく質の鶏ササミを水菜と一緒にしてサラダにして、あとは豆腐とキムチの黒ゴマ炒めだな。
よし、決定!!

「ただいま〜」
「おかえりなさい」

玄関でお出迎えしてくれた直江。先に帰ってたのかあ。

「仕事早く終わったんだな」
「早朝からの拘束なんですから夕方には帰ってきますって言ったでしょう?」
「言ったっけ?まあいいか。今日は二人のためのラブラブディナーだからな!楽しみだろ!」
「はい!!」

直江にも手伝わせながら夕飯を作った。最近のオレたちは「十穀米」というやつを食ってる。
栄養素も高いし、繊維も多いし、なんたってうまいんだ。
カロリーも低いし直江にとってもいいことづくめ。
しかもパンもライ麦とかを使ったドイツパンが多い。こっちもバターが少なくてカロリー控えめだ。

けどたまには白米やクロワッサンも食っちゃうけど。

「直江、鶏のササミのやり方覚えてるよな?」
「軽くラップをかけて電子レンジ、ですよね」
「やっといて」

直江に包丁を持たせるのはまだ怖いから、包丁を使わなくていいことをやらせる。
米をとぐとか、ササミを手で裂くとか。

そうして出来上がった夕飯を直江は本当に嬉しそうな顔をして食べた。モトハル社長が「大事にされてると思った方がいい」って言ってたの、わかった気がする。

「は〜、高耶さんのご飯はいつも美味しいです」
「有名フレンチよりも?」
「ええ」
「超有名イタリアンよりも?」
「もちろん。私に取って高耶さんの作る料理はどんなプロでも敵わない愛情料理ですから」

こんなことも本気で行ってるんだろうな〜。
プロの料理よりは絶対に劣るに違いないけど、直江にとってはオレのが一番。なんか、本当の家族みたい。

「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
「じゃあお風呂入ってきます!!」
「ん」

無駄な気合を入れて直江は風呂に向かった。
オレは普通の奥さんみたいに直江のパジャマと下着を用意して脱衣所に持ってった。
中から鼻歌が聞こえてくる。作詞作曲直江の鼻歌。

「♪きょうは〜たかやさんとの〜ラブラブエッチ〜♪」

そーですね……だからって歌にしなくてもいいような気がすんだけどね……

交代で風呂に入って出てきたらバスタオルを構えて直江が待ってた。

「髪の毛拭きましょうね」
「うん、頼む」
「他の毛も拭きましょうか?」

……このくだらないジョークにどう付き合えと?

「エッチが終わった時に拭いて」
「そーします!!!!」

じゃれながら髪の毛を拭いてもらって、我慢できなくなってチューしたらもうオレの負け。
直江に抱き上げられてベッドへ。

「意地悪なエッチと、優しいエッチと、激しいエッチと、どれがいいですか?」
「……ん〜、今日は優しいエッチがいいな……直江がオレをすごく大事にしてるんだなって実感できるような」
「かしこまりました」

エッチしたらもっとわかった。直江がオレをホントに大事にしてることが。
オレは直江にとって最初で最後の『大事な恋人』なんだな。

 

 

エッチが終わって喉か湧いたってゆって二人で裸のまま冷蔵庫のミネラルウォーターを飲んだ。
最初の頃の冷蔵庫は独身用の細身のだったけど、オレが食材をたくさん買い込むことが増えたから大型冷蔵庫に買い換えてたっけ。

ソファも黒皮から白革に張り替えてもらってたことあったな。
リビングの絨毯も白革のソファに合う色に取り替えてたっけ。

…………そういえば、ベッドもだ。
直江とエッチする前は黒い木のフレームだったけど、付き合って1ヶ月ぐらいしたら北欧から取り寄せたとかいう樫の木で作った丈夫なベッドになってた。

オレが『昔の女』の影を感じないように買い換えたのかもしれない。キッチンはどうにもならないけど、オレの好きなように位置なんか変えていいって言ってくれたし。

「直江?」
「なんでしょう?」
「……色々、ありがとう……」
「は?」
「シーツ変えてシャワー浴びて寝ようか」
「はい」

明かりを消してバスライトだけつけて二人で体を洗った。風呂場でも直江は優しくて、たまにチューしながら洗ってくれた。オレも直江の体を優しく洗った。
裸のままシーツを替えて、二人で布団に潜り込んで、チューしたり甘えたりしながら寝た。
直江とくっついて寝るの、好きだ。

 

 

 

そして数週間後、オレと直江の休みがピッタリ合った土曜日。

「今日は納車ですよ。電話が来ますから来たら下で手続きしないと」
「あ、今日なんだ?けっこう時間かかったな」
「カーナビつけたりしましたから」

昼飯を食ってまったりしてたら電話がきた。クルマが来たらしい。
モコかな〜、タントかな〜、マーチかな〜、もしかしてワーゲンビートルかな〜。
ウキウキしながら1階に行って、開崎さんに納車なんだ〜♪って浮かれて話したら引かれた。どうして最近開崎さんがすぐ引くんだろ?

「く、車寄せに来ていますからどうぞ行ってみてください」
「う、うん」

車寄せに停まってたのはモコでもタントでもマーチでもなく、BMWZ4クーペだった。

「……BMW?!」
「ええ、小さくて小回りも効きますし、燃費もそれほど悪くはないですよ」

小さいのって、軽自動車じゃなくて、クーペ(二人乗り)ってことだったのか!!
直江の金銭感覚って……金銭感覚って……

オレがポカ〜ンとしてる間に直江は納車の手続き終了。まだシートにビニールがかかってる状態でオレたちは地下駐車場にそのBMWを駐車。
レクサスの隣りにシルバーのBMW。なんちゅーせれぶりちーな絵だ……。

「やっぱり高耶さんにはこのぐらいの高級車が似合いますから」
「……オレは庶民でいたいのに……モコとかタントが良かったのに……」

そのオレの囁きは直江の耳には届かなかったようだ。満面の笑みでこう言った。

「今度、二人きりで出かけましょうね!」

だってクーペだもん……二人乗りだもん……二人きりじゃなきゃ行かれないじゃん……

「直江、これいくらしたんだ?」
「マナーとしてプレゼントの値段を聞いてはいけません」
「でも……高級車だから……」
「まあ、気にするほど高くはないですから」

直江の収入が最近増えてて、裸の広告のせいで仕事もギャラ単価も増えて、お金持ちなのは知ってるけど。

「でも……」
「もう買っちゃったんですから気にしない、気にしない!私も欲しかったクルマなんですから高耶さんが負担に思うことはありませんよ」
「……そーする」

直江の給料明細見れば気にしなくてもいいって気になってきた。
それに直江が運転するんだしな。オレはたまに近場に行くだけでいいや。

「明日は二人でこれ乗ってでかけましょうね」
「うん」

お金で人の心は買えないけど、お金で人を幸せにすることができる。
その使い方が大事なわけで。
ベッドも、ソファも、クルマも、直江がオレを幸せにするためのもの。オレが嫉妬しなくて済むようにしてくれたこと。

BMWなんて豪華な無駄遣いもたまには見過ごしてやるか。たまには、だ。
駐車場からエレベーターに乗ってオレたちの部屋に。
なんだか直江が上機嫌だからコーヒーを作ってやって一緒に飲んだ。
そしたら思い出したように直江が切り出した。

「先に言っておきますが、私はお金はありますが、高耶さんがいないと駄目な人間になります」

そーいえばそんなことが引越しの時に話題になったな。

「だからもっと高耶さんが私を上に引き上げてください。そうしたらそのぶんお金も入るでしょう。そのお金は高耶さんが私にくれたようなものなんです。だからこれからも、あなたのためにお金はどんどん使うつもりです」
「オレ、こんなに甘やかされたら図に乗るぞ」
「乗ってください」

チューされて頭をクシャクシャされて、しばらく甘えて過ごした。
夕飯の買い物をするために外に出た時、なんとなく気になって地下駐車場へ。
新品のピカピカのBMW。直江からの高価なプレゼント。
今までも少し高価なものを買ってもらったことがあったけど、こんなふうにクルマを買ってもらえるような仲になったんだな〜って実感した。

「なあ、ちょっと中入ってみねえ?」
「ええ」

オレたちはシートのビニールを取ったり、ナビの確認をしたり、皮のシートがどのぐらい倒れるかやってみたりした。
直江にとっては少し窮屈そうな感じがしたけど、見た目より中は広かった。

「運転席に座ってみたらどうですか?」
「うんっ」

初めて外車の運転席に座る。日本仕様だから右ハンドルだし、オートマだし、オレでもうまく運転できそう。

「やっぱBMWってかっこいいな」
「ですね。高耶さんに似合いますよ。運転に慣れたらドライブに連れて行ってくださいね」

直江の運転の方が安心だけど、ちょっとぐらいなら大丈夫そうだ。

「じゃあ交代で運転な?」
「いいですよ」

クルマの中でチューをしてから夕飯の買い物には徒歩で出かけた。
そこらへんはエコロジーだろ?

 

 

 

どうやら直江はプレゼント魔だったらしい。
なんとなくそうじゃないかとは思ってたんだけど、今度はタイピンを買ってきた。
有名宝石店の箱に入ってたのは『若い男性に人気がある』と噂の、黒メノウのタイピンだった。
黒メノウはいい。そんなに高価な石じゃないから。問題は土台のプラチナだ。
若い男性に人気があっても、それを買える若い男性が世の中に何人いるのかってゆー高価なやつ。

タイピンはちょうど欲しかったところだから有難く貰って、お返しに超たくさん甘えてチューしてやった。
これで相殺ってことでって。
お返しなんか気にしないでって直江は言ったけど、オレとしてはそうはいかない。

でも直江のプレゼント攻撃は続いてしまい、洋服やら靴やらを容赦なく買ってきた。
極めつけは軽自動車が買えるぐらいの値段がする腕時計。しかも盤面の裏には。

「TO TAKAYA  FROM NAOE」

と彫ってあった。

「なななななんでこんな、たたた高いもんをポンポン買ってくるんだ〜〜〜!!」
「高耶さんを喜ばせたくて!!」

名前まで彫られたら返品もできねーし売り飛ばすこともできねーじゃんか!!

「禁止!!もうプレゼントは禁止!!誕生日とクリスマス以外は禁止ー!!」
「そんな!私の楽しみを奪わなくたっていいじゃないですか!!」

老後の二人の生活の心配がないほど貯金があったとしても、こう度々買って来られたら庶民感覚が抜けないオレとしては心臓に悪い。

「迷惑だ!!」
「どうして必要不可欠なものを買って迷惑になるんですか!」
「う〜!!」

直江には庶民感覚ってもんが1ミリもないのかもしれない。

「今まで買ってもらったものはありがた〜く使わせてもらうし、直江の気持ちが嬉しいのもマジだけど、たくさんもらったらもらっただけ、オレとしては『お返ししなきゃ』って思うんだよ。そのお返しだって今のオレの給料や時間のなさを考えるとできないわけだよ。ここまではわかるか?」
「はい」
「だから、プレゼントされても困るんだ」
「……いい品を見るとついうっかり高耶さんに似合いそうだと思って買ってしまうんです」

そこでオレは考えた。直江をお小遣い制度にしよう、と。

「直江は何枚クレジットカード持ってる?」
「3枚です」

その3枚がすべてプラチナカードだってゆうのが問題なんだな。

「全部家の金庫に入れろ。もうカードでの買い物は禁止。直江が持っていいのは銀行のキャッシュカードだけ」
「ええ?!」
「直江は有名人だから何かと出費も多いと思うし、流行の服も着ないといけないってゆうのもわかる。だからお小遣い制度にする。譲りに譲って月に40万。40万が直江の小遣いだ」
「そんな……」

オレの給料の倍額だぞ!!なにが「そんな……」だ!!ふざけんな!!

「どうしても欲しいけど40万じゃ足りないものがある時は1日考えてから買うこと!そんでオレに相談すること!わかったな!」
「……わかりました……」
「声が小さい!」
「わかりました!!」

そんでカードを3枚預かって金庫に入れた。泥棒が盗めないほどの大き目の金庫が寝室にある。
でもたぶん直江は銀行に振り込まれる給料を40万しか下ろさないなんて誠実なことはしないだろうな。
多く引き出して使っちゃうに違いないけど、クレジットカードですぐ買い物、ってわけに行かなくなるから散財も減るだろう。

オレの本音としては、自分で稼いだ金は自分のために使って欲しい。オレへのプレゼントじゃなくてさ。
直江自身のために使わないと意味がないんだから。

「……高耶さんにプレゼントの出来ない人生なんて……」
「そうしょんぼりすんな。買って欲しいものがある時は言うから」
「ホントですか?」
「うん。そーだな……例えば日曜日に食べるケーキとかさ。そういうのなら甘えながら買ってって言うよ」

ようやく直江に笑顔が戻ってきた。
金銭感覚の差を埋めるためにはアメとムチで調教するしかねーもんな。

「だから明日は美味しいケーキを二人で買いに行こう?」
「そうしましょう!」

よし。

 

 

 

そんなわけで直江のプレゼント攻撃はなくなった。でも今度は「欲しい欲しい病」になってしまった。
雑誌に載ってた洋服だとか、時計だとか、テレビで見た通販の毛玉取りブラシとか、そんなんじゃなくて。

「今夜も高耶さんが欲しいです!!」

こんなことならプレゼント攻撃の方がマシだったかもしれないな〜。

 

おわり

 

 

   
 
直江のセレブ加減を
ご披露してみました。
買い物ができないストレスは
高耶さんに向かって
発散&発射されたもようです。
 
     
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