同じ世界で一緒に歩こう それから |
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「よ、よんひゃく……よんじゅう……さんまん……えん……」 税金で持っていかれるとしても200万以上は手元に残るわけだろ?一ヶ月で?マジかよ!!
んで、そんな給料のことも忘れたある日、コットンクラブで知り合いになった有名な陶芸家のおじさんの個展に二人で行った。 「やあ、タチバナさんと高耶くん!」 おじさんはたぶん60歳くらい。髪の毛を伸ばしててイギリス紳士みたいな服を着て、格好だけ見たら陶芸家とは思えない若々しさを持ってる。 陶芸は基本的におじさんの得意な紅色と紺色が多かった。いろんな形をした食器や、コップなんだけどカラカラ音が鳴るやつとか、花瓶ぽくない花瓶があった。 「高耶さん、この紺と白のお皿、ステキですね」 30万円。 直江はそばにいたスタッフのおねーさんに声をかけて「これを買いたいんですが」と言った。 「じゃあ高耶くんにはお土産をあげよう。ちょっとした失敗作なんだが捨てるには惜しい色合いなんだ」 さっきの皿と同じ紺色の小さい小さい皿を貰った。手の中に入っちゃうぐらいの。 「いいんですか?」 そんなふうに呼んだっけ……酒の力はスゴイ……。 「あ、あの、ありがとうございます!」 小さい皿はクリップとか入れて机に飾ろうっと。贅沢なクリップ入れになるだろうな〜。 帰ってからその皿を眺めながらニヤニヤしてたら。 「そういえば、高耶さん」 クルマ?自動車のこと、だよな? 「なんで?レクサスでいいじゃん」 ああ、エコカーみたいなやつか。それならオレも乗れるかも。 「いいんじゃん?そしたらオレも乗れるし」 そーいえばウチの親父と直江の間でそんな取り決めをしたって言ってたな。 「じゃあオレ名義で買っていいよ。どうせ直江が多めに乗るんだから好きなのにしたら?オレは特に希望はないしさ」 なんだかしょんぼり寂しそうだ。オレと行きたいのはわかるけど、お互いに仕事なんだから。 「そのぶん毎日イチャイチャしてやるって」 それで直江の機嫌は急上昇だ。単純なヤツだ。
そんでオレは2〜3日もするとクルマのことなんか忘れて仕事に没頭してた。 これが功を奏して数もこなせるようになったし、残業もそんな多くなくなって、定時で、とはいかないけど直江の夕飯を作れるぐらいの時間には帰れるようになった。 7時ぐらいに仕事が終わったからエレベーターに乗ったらモトハル社長と乗り合わせた。 「陶芸展行ったんだって?」 花瓶……変な形の花瓶てゆーと……確か……70万円ぐらいの…… 「仲良くやってるみたいだね」 そう言いながらモトハル社長は1階につくとお迎えの車に乗って帰ってしまった。 今日のメニューはハッピーラブラブディナーだから、なんか精のつくものを。 「ただいま〜」 玄関でお出迎えしてくれた直江。先に帰ってたのかあ。 「仕事早く終わったんだな」 直江にも手伝わせながら夕飯を作った。最近のオレたちは「十穀米」というやつを食ってる。 けどたまには白米やクロワッサンも食っちゃうけど。 「直江、鶏のササミのやり方覚えてるよな?」 直江に包丁を持たせるのはまだ怖いから、包丁を使わなくていいことをやらせる。 そうして出来上がった夕飯を直江は本当に嬉しそうな顔をして食べた。モトハル社長が「大事にされてると思った方がいい」って言ってたの、わかった気がする。 「は〜、高耶さんのご飯はいつも美味しいです」 こんなことも本気で行ってるんだろうな〜。 「ごちそうさまでした」 無駄な気合を入れて直江は風呂に向かった。 「♪きょうは〜たかやさんとの〜ラブラブエッチ〜♪」 そーですね……だからって歌にしなくてもいいような気がすんだけどね…… 交代で風呂に入って出てきたらバスタオルを構えて直江が待ってた。 「髪の毛拭きましょうね」 ……このくだらないジョークにどう付き合えと? 「エッチが終わった時に拭いて」 じゃれながら髪の毛を拭いてもらって、我慢できなくなってチューしたらもうオレの負け。 「意地悪なエッチと、優しいエッチと、激しいエッチと、どれがいいですか?」 エッチしたらもっとわかった。直江がオレをホントに大事にしてることが。
エッチが終わって喉か湧いたってゆって二人で裸のまま冷蔵庫のミネラルウォーターを飲んだ。 ソファも黒皮から白革に張り替えてもらってたことあったな。 …………そういえば、ベッドもだ。 オレが『昔の女』の影を感じないように買い換えたのかもしれない。キッチンはどうにもならないけど、オレの好きなように位置なんか変えていいって言ってくれたし。 「直江?」 明かりを消してバスライトだけつけて二人で体を洗った。風呂場でも直江は優しくて、たまにチューしながら洗ってくれた。オレも直江の体を優しく洗った。
そして数週間後、オレと直江の休みがピッタリ合った土曜日。 「今日は納車ですよ。電話が来ますから来たら下で手続きしないと」 昼飯を食ってまったりしてたら電話がきた。クルマが来たらしい。 「く、車寄せに来ていますからどうぞ行ってみてください」 車寄せに停まってたのはモコでもタントでもマーチでもなく、BMWZ4クーペだった。 「……BMW?!」 小さいのって、軽自動車じゃなくて、クーペ(二人乗り)ってことだったのか!! オレがポカ〜ンとしてる間に直江は納車の手続き終了。まだシートにビニールがかかってる状態でオレたちは地下駐車場にそのBMWを駐車。 「やっぱり高耶さんにはこのぐらいの高級車が似合いますから」 そのオレの囁きは直江の耳には届かなかったようだ。満面の笑みでこう言った。 「今度、二人きりで出かけましょうね!」 だってクーペだもん……二人乗りだもん……二人きりじゃなきゃ行かれないじゃん…… 「直江、これいくらしたんだ?」 直江の収入が最近増えてて、裸の広告のせいで仕事もギャラ単価も増えて、お金持ちなのは知ってるけど。 「でも……」 直江の給料明細見れば気にしなくてもいいって気になってきた。 「明日は二人でこれ乗ってでかけましょうね」 お金で人の心は買えないけど、お金で人を幸せにすることができる。 BMWなんて豪華な無駄遣いもたまには見過ごしてやるか。たまには、だ。 「先に言っておきますが、私はお金はありますが、高耶さんがいないと駄目な人間になります」 そーいえばそんなことが引越しの時に話題になったな。 「だからもっと高耶さんが私を上に引き上げてください。そうしたらそのぶんお金も入るでしょう。そのお金は高耶さんが私にくれたようなものなんです。だからこれからも、あなたのためにお金はどんどん使うつもりです」 チューされて頭をクシャクシャされて、しばらく甘えて過ごした。 「なあ、ちょっと中入ってみねえ?」 オレたちはシートのビニールを取ったり、ナビの確認をしたり、皮のシートがどのぐらい倒れるかやってみたりした。 「運転席に座ってみたらどうですか?」 初めて外車の運転席に座る。日本仕様だから右ハンドルだし、オートマだし、オレでもうまく運転できそう。 「やっぱBMWってかっこいいな」 直江の運転の方が安心だけど、ちょっとぐらいなら大丈夫そうだ。 「じゃあ交代で運転な?」 クルマの中でチューをしてから夕飯の買い物には徒歩で出かけた。
どうやら直江はプレゼント魔だったらしい。 タイピンはちょうど欲しかったところだから有難く貰って、お返しに超たくさん甘えてチューしてやった。 でも直江のプレゼント攻撃は続いてしまい、洋服やら靴やらを容赦なく買ってきた。 「TO TAKAYA FROM NAOE」 と彫ってあった。 「なななななんでこんな、たたた高いもんをポンポン買ってくるんだ〜〜〜!!」 名前まで彫られたら返品もできねーし売り飛ばすこともできねーじゃんか!! 「禁止!!もうプレゼントは禁止!!誕生日とクリスマス以外は禁止ー!!」 老後の二人の生活の心配がないほど貯金があったとしても、こう度々買って来られたら庶民感覚が抜けないオレとしては心臓に悪い。 「迷惑だ!!」 直江には庶民感覚ってもんが1ミリもないのかもしれない。 「今まで買ってもらったものはありがた〜く使わせてもらうし、直江の気持ちが嬉しいのもマジだけど、たくさんもらったらもらっただけ、オレとしては『お返ししなきゃ』って思うんだよ。そのお返しだって今のオレの給料や時間のなさを考えるとできないわけだよ。ここまではわかるか?」 そこでオレは考えた。直江をお小遣い制度にしよう、と。 「直江は何枚クレジットカード持ってる?」 その3枚がすべてプラチナカードだってゆうのが問題なんだな。 「全部家の金庫に入れろ。もうカードでの買い物は禁止。直江が持っていいのは銀行のキャッシュカードだけ」 オレの給料の倍額だぞ!!なにが「そんな……」だ!!ふざけんな!! 「どうしても欲しいけど40万じゃ足りないものがある時は1日考えてから買うこと!そんでオレに相談すること!わかったな!」 そんでカードを3枚預かって金庫に入れた。泥棒が盗めないほどの大き目の金庫が寝室にある。 オレの本音としては、自分で稼いだ金は自分のために使って欲しい。オレへのプレゼントじゃなくてさ。 「……高耶さんにプレゼントの出来ない人生なんて……」 ようやく直江に笑顔が戻ってきた。 「だから明日は美味しいケーキを二人で買いに行こう?」 よし。
そんなわけで直江のプレゼント攻撃はなくなった。でも今度は「欲しい欲しい病」になってしまった。 「今夜も高耶さんが欲しいです!!」 こんなことならプレゼント攻撃の方がマシだったかもしれないな〜。
おわり
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直江のセレブ加減を ご披露してみました。 買い物ができないストレスは 高耶さんに向かって 発散&発射されたもようです。 |
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