同じ世界で一緒に歩こう それから


理想の彼氏


 
   

 


本社での報告と仕事が終わってからソッコーで帰った。メールしたら直江は今日も早くに帰ってきてるみたいで、またカレーを作ったそうだ。カレーしか作れないところが直江だよな。

「ただいまっ」
「お帰りなさい!!」

最近欲求不満な直江は玄関まで走ってきてチューした。体を触られそうになったところで逃げたら超不満そう。

「今日はご飯は炊いたか?」
「炊きましたけど……お腹より高耶さんで胸いっぱいになりたいんですが」
「そんな話は後でいいよ!今度のCMってオレと直江コンビの初仕事じゃんか!」
「……そうでした!!高耶さんとも現場で会うかもしれないんですよね?!ショーだけが初仕事になるわけじゃなかったのか!!」

直江もイマイチ考えが及ばなかったらしくて突然テンションが上がった。

「頑張ります!」
「オレも頑張る!……けど、直江に嫌われないか不安でもあるんだ」
「どうして?」
「ミスったら迷惑かかるだろ、直江にもみんなにも」

眼をパチクリさせて直江がオレを見てる。
なんか変なこと言ったかな?

「ええと、まずミスですが、そんなものは誰だってしますし、大きなミスじゃない限りはその場で工夫する方法を探すのを全員が知っていますからそんなに考えなくても大丈夫です。それから私が高耶さんを嫌いになるということは100%ないと思ってもらった方がいいんですが」
「でもオレ、大きなミスするかもしれないじゃん。ほとんど初めてのことばっかりやってて、会社ではみんなフォローしてくれてるけど、素人同然なんだぞ」
「その時は私が助けてあげます。ミスなんかであなたを嫌いにはなりませんよ」
「でも〜」

不安が大きすぎて直江が助けてくれるって言ってもダメだ。どうしよう。パニックになりそうだ。

「高耶さん」
「うー」

直江が優しくチューしてきた。いつもよりもっと優しいチューだ。

「気負いすぎたら失敗しますよ?いつもの高耶さんでいいんです」
「でも」
「私が守りますから」

たくさんチューされて大丈夫って言ってもらって、なんか直江のことが益々好きになって、自分から寝室に誘った。
腹は減ってるけど先に直江とエッチしたい。

「いいんですか?」
「うん。ダメか?」
「ダメなわけないでしょう。いつだって高耶さんに欲情してるのに」
「……ふーん」

カレーの前にエッチした。直江はいつもより優しかった。オレはいつもより甘えて直江を貪った。
愛されてる感じがした。それも昨日よりも強く。毎日直江とオレはお互いを強く愛してるんだなって思った。

 

 

カレーを食べる前に気が付いた。携帯にメールが来たメッセージランプが光ってた。

「ん、メールだ」

直江がオレと少しでも離れたくないって言うからリビングの床に座って寄り添ってた時だ。
メールはユイコちゃんからだった。

「誰からですか?」
「ユイコちゃん」
「……アイドル女優のですか?なんで高耶さんに……。もしかしてもう会ったりしたんですか?」
「今日な。デザインを決めてもらって採寸してきた」

メールにはユイコちゃんの仕事現場の写真がついてて、『今はバラエティ番組の収録です』って言葉が。
バラエティは面白いけど笑い疲れちゃうよ、だって。

「……高耶さんは誰にも渡しませんからね」
「そうしてくれ」

甘えながらカレー食べて、あーんとかしたり。イチャイチャしすぎかな、オレ。
でも直江はもっと甘えて欲しいみたいだ。

「なあ、食い終わったらまたエッチしよう?」
「ええ、いくらでも」

オレもいつも直江に欲情してるんだなってわかった。

 

 

仕事の方は順調にやれてる。デザインが決まればあとはパタンナーさんに渡して型紙を作ってもらえる。
オレのデザイン画は写実的らしいからフォーマルをやったことないパタンナーさんは助かるって言ってた。
でも仕事は順調でも直江の方が順調じゃない。
なんでかっていうと直江といる時に限ってユイコちゃんから何回もメールが来るから。

オレ宛でいいの?って感じ。ブログに出した方がいいんじゃないかってことも送られてくる。
直江はそれが面白くないらしい。わかるけど。

「高耶さんのことが好きなんですよ、きっと!!」
「そうかな〜?普通のメールじゃん」
「でも毎日メールが来て、毎日高耶さんが返事を出してるじゃないですか」
「マナー程度にな」

ユイコちゃんが気になるって言えば気になる。なんでかってゆーと美弥っぽかったから。
オレはシスコン少し入ってるから、女の子には甘いんだよな。

「直江とユイコちゃんじゃ比べようもないだろ」
「でも仲が良さそうですし、相手はアイドル女優ですし、元々ゲイじゃない高耶さんが好きになってもおかしくないじゃないですか」

確かにユイコちゃんは超可愛くて美人だ。ドキドキしたぐらいに。
でも友達ってほど親しくないし、恋人になることは絶対ない。

「オレが愛してるのは直江だけ」
「……信じてはいますけど」
「一生好きでいられる自信があるから直江と同棲してんだよ。直江も愛されてるってことを信用してくれないかな?」
「はい……」

そんな直江を宥めるのが大変で、CMの仕事を持ってきたモトハル社長をちょっと恨んだ。でも感謝の方が大きいかな。
だって直江と一緒にできる仕事だもんな。

「なあ、今日もエッチしよう?」
「……私が機嫌悪いから?」
「そうじゃないよ。直江が好きだから。直江とエッチするのも好きだから」
「あなたには勝てませんね」

ユイコちゃんからメールくるたびに直江が嫉妬する。そんな直江が好きだ。
だから甘えてエッチしたくなるんだ。そのせいでほとんど毎日エッチしてる。ちょっとだけユイコちゃんにも感謝だ。

 

 

 

仮縫いが終わって試着してもらったら、すげー可愛くて似合ってた。
こうゆーの、まさにアイドル女優って感じ。

「いいねえ、仰木くん!」

クライアントさんにも褒められてオレマジで嬉しい。ユイコちゃん自身も気に入ってくれたみたいだ。
当然だけどモトハル社長にOKを貰ってから仮縫いしたんだから自信はあるぞ。

「ドレスをモトハルさんのところに頼んで正解だったな」
「こちらこそありがとうございます!」

モトハルって会社全体が褒められると、自分を褒められた時より嬉しいのはなんでだろう。
愛社精神てゆーのかな?

「ねえ、仰木さん。これってユイコに売ってもらえると思う?」
「あー、それはなんかフォーマル部門で保管するって言ってた。だから無理だよ」
「え〜、今度のレセプションで着たかったのになあ」

宝石店の開店祝いのレセプションで着たかったみたいだけど、こっち側としてはフォーマル部門を立ち上げるにあたっての最初の作品だから手放すことはできない。

「でも借りることはできると思うよ。ユイコちゃんの事務所からうちのプレスに依頼すれば出来るんじゃないかな」
「じゃあそうしようかなぁ」

仮縫いのドレスを返してもらってカバーにかけた。
それで一週間後の月曜日に撮影があるから、オレは会社でも家でも縫製しなきゃいけないんだよな〜。
縫製得意じゃないからソーイングの人に頼んだら、今はそれどころじゃないらしかった。大きいショーがあるみたいでそっちを作ってる。

それでオレは自作しないといけないわけだ。
そーすると直江に甘えながらエッチも出来なくなりそうだな〜。今度はオレが欲求不満になりそう。

 

 

 

そして禁欲の1週間が過ぎて、撮影当日だ。今日は高層ビルにあるバーの定休日を使って撮影だ。
直江と千秋はねーさんの運転で高層ビルのバーまで来た。
オレはドレスとウェイターの服を持って室長の運転する車で来た。後部座席にはモトハル社長もいる。

「よう!直江!」
「やっぱり来たか」

直江の予想通りモトハルさんが来てたのを見て直江は笑って挨拶した。
直江とはちょっと眼が合ったけど、お互いに笑顔だけ作っておしまい。だって仕事中だよ。

ウェイターの衣装2人分を室長がアイロンがけして、オレはドレスをアイロンがけ。
丁寧にやらないと見栄えが大きく違っちゃうから、慎重に慎重に。

室長が先にアイロンがけを終わらせて、お店の中に作った簡易試着室に持っていった。
オレはユイコちゃん専用の楽屋として使わせてもらってる個室に持って行った。

「あ、仰木さ〜ん。楽しみにしてたんだよ〜」
「オレだって楽しみだったよ、この日が!」

衣装をかけておくラックが背が低くて使えないから、壁についてるフックにかけた。

「自分で着れない時は店内の内線に電話して。うちの室長が着せるからね」
「室長って女の人?」
「うん。面白い人だから怖くないよ」

そう言ってからロケ場所に戻ると直江と千秋がお揃いのウェイター……というか、執事みたいな服になってた。
この執事っぽい服は『モトハルTOWA』のスーツラインから持ってきたらしい。

「へ〜、さすが直江と千秋。なんでも似合うな〜」
「当たり前だろ。俺たちゃプロだからな」
「うん。直江はやっぱり何を着せても映えるな〜。かっこいいな〜」
「二人で一緒にやる初めての仕事、頑張りましょうね」
「おう!!」

ロケ場所の準備が完成して、ユイコちゃんがきた。全員釘付けだ。
ドレスもそうだけど、アクセサリーが増えただけで見違えるほどキレイになってる。
ネックレスはトップが大きな青い宝石を3個つけて、指輪もイヤリングも同じ青い石の大きな粒で出来てる。
たぶんあれ、スワロフスキーだ。普通のガラスじゃあの輝きは出ないもんな。

「幻想的なドレスですねえ……」
「頑張ったもん」

直江に少しだけ褒めらて気持ちがフンワリ浮き上がる。直江がいつもそうしてくれる。

「よろしくお願いしまーす」

明るい笑顔で入ってきたユイコちゃんはまず始めにオレに手を振り、それから千秋と直江のところでお辞儀をして挨拶した。できた子だな〜。
その後はモトハルさん、カメラマンさん、技術さんたちにきちんと挨拶をして監督に最後に挨拶。

「監督のCMに出られて光栄です」

チョコンと下げた頭が可愛らしくて、監督までニヤケちゃって。なんかうまく行きそうだな。

 

 

撮影は特殊なカメラを使うそうだ。白っぽい色だけがカメラの中でハレーションを起こして上下左右に光るやつ。
パソコンで作れるハレーションもあるけど、実写のまま作るのと味が違うんだそうだ。
モニターで試験中のユイコちゃんを見た。ほとんど白に近いドレスだから反射がすごくてユイコちゃんが光輝いているように見える。

「わー、すげー」

夜景がキレイな背後の窓に反射しないようにライトをセットして、さらにカメラのピントで外側だけぼかして、真ん中に透明な椅子を置いた。ユイコちゃんの席だ。

ウェイターが椅子の左右に立って、先に千秋が赤ワインを出す、少し迷ったユイコちゃんが反対側にいた直江がロゼを出すとそっちを受け取って飲んで、その美味しさを顔の表情だけで出すらしい。
セリフは一切ないから全部表現力にかかってる。直江も千秋も大変だけど、ユイコちゃんが一番大変だ。

何度かリハーサルをしてから本番になる。みんな必死だ。その現場に直江もオレも仕事で来てる。だから直江もオレも必死。
リハが終わるとユイコちゃんがまっすぐにオレのところに来た。

「どうした?服、きつい?」
「なんにもないけど、緊張しちゃって……この中で一番話せるの仰木くんしかいないから」
「そうかぁ」
「長秀さんもタチバナさんもすごい存在感でユイコ怖くなってきたよ」
「大丈夫だよ。あの二人に負けないぐらいユイコちゃんには存在感があるし、可愛いから自信持ってやってみてよ」
「うん……」

さて本番だ。ユイコちゃんの右側に立つのが千秋で、腰をかがめてウェイターっぽく赤ワインをトレイに乗せてどうぞ、と
促す。
ユイコちゃんは困った顔をして左側のウェイターを見る。するとウェイターはトレイからグラスを持ってユイコちゃんに捧げる。

薄いピンク色の飲み物を眼を輝かしながら見て、それから少しだけ飲む。美味しいって顔をしてからまた飲む。
ユイコちゃんがアップで映ってる間に直江と千秋はそっと場を離れて、直江たちの仕事は終わり。
ユイコちゃんだけが飲んで美味しいって顔をしてるところの背後で銀色の紙ふぶきを落とす。ピントをうまく変えて胸から上だけを映してカット。
CMの最後に4秒には画面をまったく変えてバーカウンターに商品とグラスが置かれてる図を撮った。ここにユイコちゃんの声で商品名が流れるそうだ。
30秒CMだと直江も千秋も映りこんで目立つけど、15秒CMだとウェイターは直江だけですぐ消える。ユイコちゃんの顔アップと胸から上に引いたまでが使われるそうだ。

「お疲れ、直江、千秋」
「たまにはこういうCMも楽しいですね」
「まあな。そのうち俺が主役でバーボンのCM取ってやる」

最後にちょっとだけユイコちゃんのアップとバストショットを撮って、写真もユイコちゃんだけで撮って、オレたちはもう帰れるみたいだ。

「室長。もう帰りますか?」
「そうね。仰木くんは……もういいからこのまま帰っていいわよ」
「いや、そういうわけには」
「……社長から聞いたんだけど、タチバナさんとは友達なんでしょう?たまには外食でもしてみたら?」

わかってそうでわかってないっぽいけど、なんかバレてそうなバレてなさそうな言葉をくれた。

「私はドレスやスーツの回収と社長を送り届けていくから気にしないで。それにここまで頑張ったんだからちょっとだけ早く帰っても誰も文句言わないわよ」

そうゆうもんかな。でも室長がいいって言ってるし、モトハル社長に挨拶だけして帰るかな。

「社長、あの、室長からもう帰っていいって指示が出たので帰ります」
「ん?うん、いいよ。たまには直江とデートしとけ」
「……はい……」

なんか……会社全体がオレと直江の関係を知っててもおかしくない気がしてきた……

「じゃあお先に失礼します」
「ああ〜ん、待って待って〜!ユイコももう終わるから仰木くんたちと帰る!!」
「へ?」

直江を見ると「やっぱり」って感じで渋柿食ったみたいな顔になってた。千秋はユイコちゃんと遊べると思って嬉しそう。

「ユイコ!もう今日は仕事がないからって!」
「いいじゃない。別にユイコはデートしに行くわけじゃないんだから」
「大丈夫ですよ、マネージャーさん!うちのチーフの綾子もいますから!」

う〜。なんでこうなるんだ!!
今日は直江との初仕事が叶ったから、家に帰ってから貰ったロゼワインを飲んでの祝杯だったのに!!

「ええ、わたしが責任持ってユイコさんをガードしますから。変な輩が出てもこの大きな三人の男が守りますし」

三人の大きな男ってオレも入ってんのかな?ケンカなら直江にも千秋も負けない腕があるぞ。

「綾子さんすいません!じゃあユイコ帰りますね〜!」

と、いうわけで男3人と女2人で夕飯を食べに出かけた。

 

 

当たり前だけど直江だけは機嫌が良くない。
個室のあるレストランにタチバナの名前で予約を入れさせたせいで、さっきより機嫌が悪い。

「仰木さん、ワインどうぞ」
「あ、サンキュー」

ユイコちゃんと直江に挟まれて座ってるオレ。ユイコちゃんはさすがに女の子だけあって気の使い方がうまい。
そんなところも直江が機嫌を悪くする要因らしく、オレのグラスに注ごうとするとユイコちゃんが先に注いでしまう。
食べ物もユイコちゃんがオレの皿に乗っけてくれる。直江が一歩出遅れてるなんて、ユイコちゃんてよっぽど気を使うタイプなのかな?

「若いのになんか気がきくのね〜」

ねーさんも気付いたみたいで直江の気持ちを無視して聞いちゃった。

「私の実家が居酒屋なんですよ。お店の手伝いとかしてたから慣れてるんです。でもたまにオバサンみたいだって言われて、まだ二十歳なのにー!って思います」
「へえ、居酒屋なんだ?じゃあお酒のCMがピッタリじゃん」

千秋が上手にユイコちゃんの気を引く。たぶん向かい側にいる直江の眉間にビシビシとシワが寄ってるのを見たんだろうな。

「でもお酒はまだちょっと苦手です。甘いのなら飲めるけど」

オレと同じだ。ビールの苦味やスピリット系の酒の刺激がイマイチ好きになれない。
たまにこうして直江や千秋に付き合ってワインを飲むけど、好きで飲んでるわけじゃないから美味しいと思ったことないな。

「高耶さんも甘いお酒が好きでしょう?ワインやめてカクテルにしますか?」
「え?うん。じゃあそうする。ユイコちゃんも甘いの飲む?」
「飲む〜!」

やっぱ可愛いなあ。女の子はこうじゃないと。オレってもしかして女の理想が高いのかな?
だから男の理想も高いのか?直江みたいなレベルの高い男しかダメってこと?

「直江」
「はい」
「……おまえレベル高いな」
「は?」
「いや、別に」

ユイコちゃんがオレがタチバナのことを直江って呼んでるのが気になったらしくて聞いてきた。
そういえば千秋もねーさんも直江って呼ぶもんな。

「なんでタチバナさんを直江って呼ぶの?」
「本名で呼んでるだけだよ」
「なんで仰木さんまで?」
「んーとね……」

どう言おうか迷ってたら直江が言ってしまった。

「ルームメイトです」

まあ、確かにルームメイトではあるけど……普通のルームメイトとは違うし。

「じゃあタチバナさんと仰木くんで住んでるの?!なんで?!」
「オレが貧乏だから、居候させてもらってんの」
「ヘー……」

オレと直江を交互に見て、ちょっと残念そうな顔をした。なんでだろ?
その話が終わった直後に甘いカクテルが2杯運ばれてきた。美味しかったんだけど、ちょっと強めのアルコールだったらしく、自覚がある程度に酔っ払った。

「もう高耶さんが眠そうですね。毎日残業したり家でも作業してたりだから疲れが出たんですね」
「そうかも」
「じゃあ私は高耶さんと帰りますから。ユイコさんは綾子と長秀と楽しんでくださいね」

いいぞ、直江。その調子だ。早く帰って甘えたい。

「ごめんな〜ユイコちゃん。また今度な〜」
「うん。またメールするね」
「じゃあね〜」

直江に支えられながら店を出てタクシーが通るのを待った。
酔っ払ったのを理由にしがみついたりして。

「ルームメイト?」
「恋人ですよ」
「なんで言わなかった?」
「高耶さんが困った立場にならないようにしたんです」

やっぱ直江は親切で優しい。オレだけには特別レベルで。

「やっぱオレ、理想高いみたい」
「は?」
「直江しか好きになれないから」
「そうですか」

たった一言だけど直江の気持ちが全部詰まった言葉だった。

「うん」

タクシーまだ来なくていいや。直江にしがみついてられる酔っ払いでいられるから。
二人一緒の初仕事はちょっと意外な形になったけど、仕事終わってから直江に甘えられるなんて最高だ。

 

 

翌日。
昨日はしがみついてるうちに本当に眠くなって、タクシーに乗った時は直江に寄りかかって寝た。
でも帰ってから少し元気になって、直江が「眠りなさい」って言ってるのに寝なくて、ベッドの上で抱きついてやった。
そしたらもうオレも直江もダメで、1週間ぶりのエッチになった。
酔っ払いながらエッチするとホワホワしちゃっていつもと違う自分になってた。そのせいか直江はやけにしつこくて意地悪だった。
でも朝になるとケロッとしてるからなんか可愛くて許しちゃうんだよな。

「高耶さんの理想はどのぐらいですか?」
「直江レベル」
「じゃあ私の方が高いですね」
「なんで?」

直江の理想ってあんまり聞いたことなかったな。

「高耶さんレベルですから、私の理想は」
「……それ高いの?」
「ええ、私にとっては最高レベルです」

どんなに可愛い女の子に好かれても、直江がいたらもうそっちに行っちゃうオレは、理想が直江じゃなくて、直江が理想なんだろうと思った。
たぶん直江もそう思ってる。

「浮気しちゃダメですよ?」
「しないよ」

朝食が終わったソファで何回もチューしてた。オレの携帯にメールが何回も来たけど全部無視して直江とチューだ。
ユイコちゃんは一番可愛くて美人な友達で、直江は一番頼りになるカッコイイ彼氏。
そのうちユイコちゃんにはオレと直江がデキてるって噂が届くかもしれないけど、その時は堂々と「そうだよ」って言えばいい。

レベルの高い彼氏を捕まえておくには少しぐらいのペナルティなんか怖くない。
なんでもかんでも直江が一番好きだ。
バカでもアホでもカレーしか作れなくても、理想の彼氏は直江。

 

 

おわり

 

 

   
 
ユイコちゃんの理想は
高耶さんだったらしい。
そう考えるとユイコちゃんも
理想が高いことになるな〜。
 
     
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