同じ世界で一緒に歩こう それから |
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「ただいまっ」 最近欲求不満な直江は玄関まで走ってきてチューした。体を触られそうになったところで逃げたら超不満そう。 「今日はご飯は炊いたか?」 直江もイマイチ考えが及ばなかったらしくて突然テンションが上がった。 「頑張ります!」 眼をパチクリさせて直江がオレを見てる。 「ええと、まずミスですが、そんなものは誰だってしますし、大きなミスじゃない限りはその場で工夫する方法を探すのを全員が知っていますからそんなに考えなくても大丈夫です。それから私が高耶さんを嫌いになるということは100%ないと思ってもらった方がいいんですが」 不安が大きすぎて直江が助けてくれるって言ってもダメだ。どうしよう。パニックになりそうだ。 「高耶さん」 直江が優しくチューしてきた。いつもよりもっと優しいチューだ。 「気負いすぎたら失敗しますよ?いつもの高耶さんでいいんです」 たくさんチューされて大丈夫って言ってもらって、なんか直江のことが益々好きになって、自分から寝室に誘った。 「いいんですか?」 カレーの前にエッチした。直江はいつもより優しかった。オレはいつもより甘えて直江を貪った。
カレーを食べる前に気が付いた。携帯にメールが来たメッセージランプが光ってた。 「ん、メールだ」 直江がオレと少しでも離れたくないって言うからリビングの床に座って寄り添ってた時だ。 「誰からですか?」 メールにはユイコちゃんの仕事現場の写真がついてて、『今はバラエティ番組の収録です』って言葉が。 「……高耶さんは誰にも渡しませんからね」 甘えながらカレー食べて、あーんとかしたり。イチャイチャしすぎかな、オレ。 「なあ、食い終わったらまたエッチしよう?」 オレもいつも直江に欲情してるんだなってわかった。
仕事の方は順調にやれてる。デザインが決まればあとはパタンナーさんに渡して型紙を作ってもらえる。 オレ宛でいいの?って感じ。ブログに出した方がいいんじゃないかってことも送られてくる。 「高耶さんのことが好きなんですよ、きっと!!」 ユイコちゃんが気になるって言えば気になる。なんでかってゆーと美弥っぽかったから。 「直江とユイコちゃんじゃ比べようもないだろ」 確かにユイコちゃんは超可愛くて美人だ。ドキドキしたぐらいに。 「オレが愛してるのは直江だけ」 そんな直江を宥めるのが大変で、CMの仕事を持ってきたモトハル社長をちょっと恨んだ。でも感謝の方が大きいかな。 「なあ、今日もエッチしよう?」 ユイコちゃんからメールくるたびに直江が嫉妬する。そんな直江が好きだ。
仮縫いが終わって試着してもらったら、すげー可愛くて似合ってた。 「いいねえ、仰木くん!」 クライアントさんにも褒められてオレマジで嬉しい。ユイコちゃん自身も気に入ってくれたみたいだ。 「ドレスをモトハルさんのところに頼んで正解だったな」 モトハルって会社全体が褒められると、自分を褒められた時より嬉しいのはなんでだろう。 「ねえ、仰木さん。これってユイコに売ってもらえると思う?」 宝石店の開店祝いのレセプションで着たかったみたいだけど、こっち側としてはフォーマル部門を立ち上げるにあたっての最初の作品だから手放すことはできない。 「でも借りることはできると思うよ。ユイコちゃんの事務所からうちのプレスに依頼すれば出来るんじゃないかな」 仮縫いのドレスを返してもらってカバーにかけた。 それでオレは自作しないといけないわけだ。
そして禁欲の1週間が過ぎて、撮影当日だ。今日は高層ビルにあるバーの定休日を使って撮影だ。 「よう!直江!」 直江の予想通りモトハルさんが来てたのを見て直江は笑って挨拶した。 ウェイターの衣装2人分を室長がアイロンがけして、オレはドレスをアイロンがけ。 室長が先にアイロンがけを終わらせて、お店の中に作った簡易試着室に持っていった。 「あ、仰木さ〜ん。楽しみにしてたんだよ〜」 衣装をかけておくラックが背が低くて使えないから、壁についてるフックにかけた。 「自分で着れない時は店内の内線に電話して。うちの室長が着せるからね」 そう言ってからロケ場所に戻ると直江と千秋がお揃いのウェイター……というか、執事みたいな服になってた。 「へ〜、さすが直江と千秋。なんでも似合うな〜」 ロケ場所の準備が完成して、ユイコちゃんがきた。全員釘付けだ。 「よろしくお願いしまーす」 明るい笑顔で入ってきたユイコちゃんはまず始めにオレに手を振り、それから千秋と直江のところでお辞儀をして挨拶した。できた子だな〜。 「監督のCMに出られて光栄です」 チョコンと下げた頭が可愛らしくて、監督までニヤケちゃって。なんかうまく行きそうだな。
撮影は特殊なカメラを使うそうだ。白っぽい色だけがカメラの中でハレーションを起こして上下左右に光るやつ。 「わー、すげー」 夜景がキレイな背後の窓に反射しないようにライトをセットして、さらにカメラのピントで外側だけぼかして、真ん中に透明な椅子を置いた。ユイコちゃんの席だ。 ウェイターが椅子の左右に立って、先に千秋が赤ワインを出す、少し迷ったユイコちゃんが反対側にいた直江がロゼを出すとそっちを受け取って飲んで、その美味しさを顔の表情だけで出すらしい。 何度かリハーサルをしてから本番になる。みんな必死だ。その現場に直江もオレも仕事で来てる。だから直江もオレも必死。 「どうした?服、きつい?」 さて本番だ。ユイコちゃんの右側に立つのが千秋で、腰をかがめてウェイターっぽく赤ワインをトレイに乗せてどうぞ、と 薄いピンク色の飲み物を眼を輝かしながら見て、それから少しだけ飲む。美味しいって顔をしてからまた飲む。 「お疲れ、直江、千秋」 最後にちょっとだけユイコちゃんのアップとバストショットを撮って、写真もユイコちゃんだけで撮って、オレたちはもう帰れるみたいだ。 「室長。もう帰りますか?」 わかってそうでわかってないっぽいけど、なんかバレてそうなバレてなさそうな言葉をくれた。 「私はドレスやスーツの回収と社長を送り届けていくから気にしないで。それにここまで頑張ったんだからちょっとだけ早く帰っても誰も文句言わないわよ」 そうゆうもんかな。でも室長がいいって言ってるし、モトハル社長に挨拶だけして帰るかな。 「社長、あの、室長からもう帰っていいって指示が出たので帰ります」 なんか……会社全体がオレと直江の関係を知っててもおかしくない気がしてきた…… 「じゃあお先に失礼します」 直江を見ると「やっぱり」って感じで渋柿食ったみたいな顔になってた。千秋はユイコちゃんと遊べると思って嬉しそう。 「ユイコ!もう今日は仕事がないからって!」 う〜。なんでこうなるんだ!! 「ええ、わたしが責任持ってユイコさんをガードしますから。変な輩が出てもこの大きな三人の男が守りますし」 三人の大きな男ってオレも入ってんのかな?ケンカなら直江にも千秋も負けない腕があるぞ。 「綾子さんすいません!じゃあユイコ帰りますね〜!」 と、いうわけで男3人と女2人で夕飯を食べに出かけた。
当たり前だけど直江だけは機嫌が良くない。 「仰木さん、ワインどうぞ」 ユイコちゃんと直江に挟まれて座ってるオレ。ユイコちゃんはさすがに女の子だけあって気の使い方がうまい。 「若いのになんか気がきくのね〜」 ねーさんも気付いたみたいで直江の気持ちを無視して聞いちゃった。 「私の実家が居酒屋なんですよ。お店の手伝いとかしてたから慣れてるんです。でもたまにオバサンみたいだって言われて、まだ二十歳なのにー!って思います」 千秋が上手にユイコちゃんの気を引く。たぶん向かい側にいる直江の眉間にビシビシとシワが寄ってるのを見たんだろうな。 「でもお酒はまだちょっと苦手です。甘いのなら飲めるけど」 オレと同じだ。ビールの苦味やスピリット系の酒の刺激がイマイチ好きになれない。 「高耶さんも甘いお酒が好きでしょう?ワインやめてカクテルにしますか?」 やっぱ可愛いなあ。女の子はこうじゃないと。オレってもしかして女の理想が高いのかな? 「直江」 ユイコちゃんがオレがタチバナのことを直江って呼んでるのが気になったらしくて聞いてきた。 「なんでタチバナさんを直江って呼ぶの?」 どう言おうか迷ってたら直江が言ってしまった。 「ルームメイトです」 まあ、確かにルームメイトではあるけど……普通のルームメイトとは違うし。 「じゃあタチバナさんと仰木くんで住んでるの?!なんで?!」 オレと直江を交互に見て、ちょっと残念そうな顔をした。なんでだろ? 「もう高耶さんが眠そうですね。毎日残業したり家でも作業してたりだから疲れが出たんですね」 いいぞ、直江。その調子だ。早く帰って甘えたい。 「ごめんな〜ユイコちゃん。また今度な〜」 直江に支えられながら店を出てタクシーが通るのを待った。 「ルームメイト?」 やっぱ直江は親切で優しい。オレだけには特別レベルで。 「やっぱオレ、理想高いみたい」 たった一言だけど直江の気持ちが全部詰まった言葉だった。 「うん」 タクシーまだ来なくていいや。直江にしがみついてられる酔っ払いでいられるから。
翌日。 「高耶さんの理想はどのぐらいですか?」 直江の理想ってあんまり聞いたことなかったな。 「高耶さんレベルですから、私の理想は」 どんなに可愛い女の子に好かれても、直江がいたらもうそっちに行っちゃうオレは、理想が直江じゃなくて、直江が理想なんだろうと思った。 「浮気しちゃダメですよ?」 朝食が終わったソファで何回もチューしてた。オレの携帯にメールが何回も来たけど全部無視して直江とチューだ。 レベルの高い彼氏を捕まえておくには少しぐらいのペナルティなんか怖くない。
おわり
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ユイコちゃんの理想は 高耶さんだったらしい。 そう考えるとユイコちゃんも 理想が高いことになるな〜。 |
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