同じ世界で一緒に歩こう それから


将来のこと


 
   

 


今日は直江が企画参加した雑誌を貰って帰ってきた。事務所に届いてたらしく封筒に入ったやつを。
夕飯を食べてからリビングのテーブルで二人で見た。

表紙はスーツを着た直江で、ちょっと金持ちサラリーマンみたいなイメージ。

「30代後半の男性向け、だっけ?」
「ええ、あまり生活臭のしないビジネスマン向けです」

表紙をめくって目次を見ると、まずは直江の記事が最初にあるらしい。
あとは豪華ゲストで、某会社の若い社長さんや、車が好きな芸能人や、人気のある料理家や、家庭を大事にしてるプロ野球選手とか、そんな人たちの名前が並んでた。全員30代だ。

「でもさあ、直江って30代後半じゃないじゃん」
「雑誌の世界はそういうものです。20代向けのファッション誌に10代のモデルを使うのと同じです」
「そうか〜」

目次をめくると広告が6ページぐらいあった。不動産と自動車とお酒の広告。
雑誌は広告で作られるってゆうのは当たり前になってきたんだな。

直江の記事のタイトルは『モデルとしてどう30代を過ごすか』ってやつだった。
当然だけど記事はスーツを何点か着た直江の写真とインタビュー。
ちょっと読んでみたら直江が30歳になった時の心境や、20代と30代でどう仕事が変わったかが書かれてた。

30歳になった時、直江は将来に不安があったそうだ。
20代の時はいろんなショーに出たり、海外でたくさん働いてたから良かったものの、30歳になった時は日本に戻ってきてて、このままモデルを続けるか、辞めるかで悩んでたらしい。
辞めるにしてもサラリーマンをやったことがないから今更どこかに就職できるとも思えなかったし、コネで入社したとしても一番下っ端から始めるわけだから、ついて行かれるかわからなかったって。

「でも30歳になって色々迷ってる時に高耶さんに出会ったので、続けることに決めたんです」
「そうなんだ〜」
「社会人としての経験がない私がサラリーマンになって机に向かって仕事できるとも思えなくて、ちょっと将来を悲観していたからあなたに会えたのは奇跡としか言いようがないんですけどね」

次は20代と30代でどう仕事が変わっていったかを聞かれてこう答えてた。
20代の頃はショーや雑誌がメインで他の仕事はしてなかったらしい。30歳を過ぎてからCMやプロモなんかの仕事もするようになって、幅が広がったのはいいけど私生活に支障が出るようになったそうだ。
モデルはあくまでモデルであって、人格は関係ない。でもCMやプロモだと演技が多少入るから、その印象を本物だと思われて、直江をあんまり知らない仕事の関係者や、ファンの人たちに色々な誤解をされるようになったって。

「でも高耶さんと付き合うようになって仕事を少し減らしたんです」
「オレと会う時間を作るために?」
「それも少しはありますが、好きじゃない仕事をやらないようにしたんですよ」
「好きじゃない仕事って?」
「プロモとか、モデルで使われないのにブランドのレセプションに出たり。名前を売るために出ていたんですが、どうもこれは自分の仕事とは違う、と感じた仕事はしなくなりました。おかげさまで今は年に2回ぐらいしか好きじゃない仕事はやらなくて済んでいます。そして私がやるべき仕事が増えましたよ」

この雑誌の企画参加もやるべき仕事なんだろうな。
直江じゃないと出来ない仕事はたくさんあるからそっちを重点的にやるようにしたんだって。

「直江はすごいな」
「高耶さんのおかげです」

肩を抱かれて引き寄せられて、直江を見たらチューされた。なんか今の直江がいるのはオレのおかげって言われたのが本当なんだろうな、と思えた。まあ実際は直江の努力の結果なんだけど。
チューされた体勢で直江に寄りかかって甘えた。直江の腕がオレの体を包み込んだ。

「なあ、直江はずっとモデルやるつもりだろ?」
「ええ、やりたい仕事がある限りは。でも現実を考えると50代になった時にモデルをやっているかというとそうじゃない可能性もあるわけですから、何か他に出来る仕事を探そうと思ってますよ」

そんな話、初めてきいた。

「例えば?」
「こういう雑誌の企画が出来るように出版業界に少し足を突っ込んでみたり、上杉社長みたいなイベント関連の仕事を探ってみたり。でも高耶さんと一緒にやれる仕事があればもっといいんですけど」
「オレと?」
「いつか高耶さんが独立することになったら私を雇ってもらえると嬉しいですね」

……直江と?一緒に会社経営?ってことだよな……?

「高耶さんがお店を出してドレスを作る。私はそこで事務をする。どうですか?」
「直江だったら事務じゃなくて接客の方がいいな。かっこいい店員がいるって評判で客が増えるかも」
「貢献できますね」

たぶん、直江は本気だ。ちゃんと将来のことを考えてるんだと思う。
オレと一生添い遂げるとなったらきちんとした将来設計をしなきゃいけないもんな。前にオレが言った「いつか独立して」って言ったのをちゃんと覚えてるのがその証拠だ。

「じゃあ独立できるようにがんばろっかな」
「お願いします」

約束みたいなチューをして、直江に抱きついて頬ずりした。
雑誌はもうちょっと見たかったけど、今は直江に甘える方が優先だ。
何度もチューしてるうちに床に押し倒されて、直江がしたいようにさせてやった。オレも後で直江にしたい放題する予定だから今は好きにさせておこうっと。

 

 

会社の昼休みに同僚とコンビニに昼飯を買いに行った。先に買い終わったオレは外に出て待ってたら。

「タチバナさんが表紙だから買っちゃった」

オレに向けてあの雑誌を見せてきた。

「仰木くんは買わないの?」
「うん、もう見せてもらった」
「……仰木くんとタチバナさんて仲いいんだね」

意外そうな声だった。なんか疑われてるかもしれない。

「タチバナの事務所でバイトしたから。タチバナだけじゃなくて長秀とか、他のモデルとも知り合いだよ」
「へ〜」
「オレが貧乏なのを知ってたまにゴチしてもらったりな。この前ちょうどその雑誌持ってたから見せてもらったんだ」

これでたぶん疑いは晴れたと思う。そのうちオレとタチバナが付き合ってるってバレるかもしれないけど、まだ今はバラさない方がいいような気がする。

「仰木くんにはわかるかなあ?なんかタチバナさんて20代の頃とあんまり顔が変わってないんだよね。元々大人顔だったから歳とっても若い顔立ちのままなんだろうな〜」
「ふーん、年取った感じしないんだ?オレは若い頃のタチバナを知らないからわかんないな」

今日帰ったら家にある直江の出てた雑誌や本を見てみよう。いつまでも若々しくいて欲しいと思うのは彼氏だったら当然思うことだもんな。

 

 

で、家に帰って雑誌や本を見てみた。確かにあんまり変わらない。25歳ぐらいからちょっと顔の輪郭が変わったように見えるけど、基本的にはあんまり変わらないかも。

「なんで昔の雑誌を見てるんですか?」
「直江の見た目が20代の頃とあんまり変わってないって会社で聞いたから」
「そうですか?」

直江は自分の顔を両手で触ってみたり、曲げてみたりして変な顔を作った。子供みたい。
でも顔のマッサージにもなるからやるべきだ。

「高耶さんと出会ってからはどうですか?」
「うーん、ほとんど毎日見てたからわかんないな……変わってなさそうでもあるし、変わってるっぽい気もするし」
「劇的に変化するわけではないですからねえ……」
「……あ、でも昔より今の方がエッチに弱くなった気がする」
「え?!」

最初の頃からオレの方が積極的というか回数をこなせるというか、そんな感じだけど。
直江は最近ちょっとエッチが弱くなってる……かな?
うーん、どうだろう。

「私は高耶さんが強くなったと思うんですけど。いや違うか……強くなったというよりも、積極的なところがさらに積極的になったとか、大人の体になったとか、そんな感じですね」
「……言われてみればそうかも……」
「エッチに関しては高耶さんの方がずっと性欲が強いと思いま……」
「言うな!!」

直江の口を塞いだ。性欲が強いとか、そんな恥ずかしいこと言われてたまるか!!
自分でもわかってるだけに、言われたくないんだ!!

「言うなよ?それ以上言ったらキックするぞ」
「はい」

直江はクスクス笑ってる。こんな話題を出すんじゃなかった。

「じゃあ高耶さんが私と出会った頃から今まで、どう変わったか言わせてもらっていいですか?」
「エッチ方面の話じゃないならいい」

直江に抱えられてソファに座って、一回チューしてから直江が話した。

「少し、大人になりました。私が好きだった高耶さんはもうちょっと幼い感じのある少年でしたけど、今は立派な大人の雰囲気を持った青年です」
「それは自分でもなんとなくそう思うけど。昔のオレの方が好きか?」
「今の高耶さんも好きですよ。前の高耶さんと同じぐらいに。どうしてかわかりますか?」
「さあ?」
「あなたはずっと変わらないものを持ち続けてるから。純粋で正直な心を」
「そんなの持ってないよ」
「自分ではわからないものなんでしょうね」

オレの前髪をかき上げて、直江は額にチューをした。
それから優しく抱いた。

「でも、たぶん私は高耶さんが高耶さんでいる限り、ずっとずっと好きでいます」
「意味わかんね」
「それでいいんです。あまり深く考えるようなことじゃないですよ。考えすぎてしまうと高耶さんのいいところが曇って見えてしまいますから」
「……じゃあそれでいいや」

直江が好きでいてくれるならそれでいい。オレも直江のどこがどう好きかなんてわからないもん。
直江が直江でいるから好きなんだもんな。

「オレ、直江と離れないつもりでいるから」
「私も何があっても離れませんよ」
「……じゃあ今日もたくさんチューしろ」

たくさんチューの後はたくさんエッチが定番だ。
それがわかってるみたいで、直江がニヤッと笑ってチューしてくる。
覚えておけ。オレは性欲強いんだから一晩中どころかずーっとエッチさせるからな。
だからずーっと若々しいままでいろ。
歳を取った直江になってもずっと愛してやるからな。

 

おわり

 

 

   
   
   
     
番外として出すつもり
でしたが、本編でもいいような
気がしてこちらへ。
直江はアホですが
将来についてちゃんと
考えている男です。
     
   
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