高耶さんは17歳


第10話  お正月とオレ 
 
         
 

新婚正月だ!
やっぱ結婚して初めてのお正月ってゆーのは感慨あるな〜って思うんだよな。
年明けを一緒に過ごして今年の息災を願う。すっげー甘い正月になるんだろうな〜。

 

そんな願いを込めてオレは年末の31日に実家でおせち料理を作ることにした。
すでに母さんは色々と用意してて、あと作るのは煮物ぐらいだってことだった。だから半分以上は母さんのを貰って帰るんだけど。
ちなみに今日は直江も一緒に来てる。
なにやら父さんに「先日はけっこうなものを頂きまして」とかお礼を言ってたけど、一体何を貰ったんだろう?
あ、クリスマスプレゼントのことかな?父さん、ドンキで何か買って直江にやってたから。
どうせくだらないものなんだろうな。直江のヤツ、何もオレには言わないもんな。

そんな父さんとオレの旦那様はリビングでのんびりと碁を打ってる。世間話をしながら茶をすすって。

「そうか、義明くんのお母さんが高耶にそんなことを」
「ええ、まったく私が至らないばっかりに高耶さんには辛い思いをさせてしまって。来年こそはちゃんと母に高耶さんの素晴らしさをわからせますよ」
「いや、いいんだよ。ビシバシ高耶を鍛えてくれる人が一人ぐらいいたっていいだろう」
「しかし……」
「ま、高耶もそんなに気にしないタチだからな。泣いたとしても一晩で忘れるニワトリみたいなもんだ」
「…………」

そこは否定しろ、旦那さんとして!!

「全部聞こえてるんだけど?」
「そりゃそうだ。聞こえるように言ってるんだからな」
「高耶さん、私はそんなふうに思ってませんから!」

思ってるくせに。絶対に思ってるくせに〜!

「はいはい、もうやめてちょうだい。高耶、タッパーにお料理詰めなさい」
「は〜い」
「義明くんも大変ね〜。こんなお嫁さんに、こんな義理の父親なんて。ごめんなさいねえ」
「かーさん!」

やっぱ母さんもオレがニワトリだと思ってるんだ〜!!ちくしょー!

「せっかく明日は正月なのに!オレをそんなにコキおろして楽しいのかよ!」
「楽しいわよね〜?」
「ああ、楽しいぞ」
「…………」
「直江!」
「いえ、その……って、私は何も言ってないじゃないですか!」
「あ、そっか」

父さんと母さんが声を揃えてやっぱりニワトリだな〜って言った。うるさいぞ!

タッパーにおせち料理を詰め終わったオレはもうこんな実家にいてたまるかとばかり、急いで帰り支度をした。
直江も慌ててそれに従う。
ふん、確かにオレはアホだよ。勉強も出来ないし、料理だってまだ失敗多いし、夜の生活だって直江を満足させてないような気がするし、色々あってもすぐ忘れちゃうし!
だけど旦那さんを大事にしてるのは間違いないんだからな!!

「帰るぞ、直江」
「はい。お父さん、お母さん、お邪魔しました。また新年のご挨拶に伺いますから」
「高耶をよろしくな。ワガママ言ったら追い出してかまわないから」
「とーさん!」
「いえ、高耶さんのワガママはとっても可愛いので、追い出したりなんか出来ません。何をしてても可愛いんですから」

オレへのフォローのつもりか、それとも父さんたちへの気遣いか、本音なのか、笑顔で直江はノロけた。
父さんも母さんも一瞬驚いてたけど、やっぱりな、みたいな顔になって直江を見た。
そりゃそうだろ。だってオレと直江は結婚してるんだから!ラブラブなんだよ!!

 

 

「な〜、直江も本当はオレをニワトリだと思ってる?」
「思ってませんよ。ちゃんと毎日家事をこなしてくれますし、約束を忘れたこともないし、とってもいい子です」
「んじゃいいや」

それを聞いて安心して、床暖房のリビングに寝そべった。あったかくて気持ちいい。この家は直江が全部、オレのために作ってくれたからどこもかしこも居心地いいんだな。

「おだやかな年末ですねぇ」
「だなぁ」

大掃除は昨日のうちにやっちゃった。直江は力持ちだから重いものは全部運んでくれた。頼りがいのある旦那さんだ。
そんなステキな奥さん、ならぬステキな旦那さんがオレの旦那さんだなんて贅沢なことこの上ない。
どうして今まで結婚しなかったのか不思議だ。引く手数多だったろうに。

「な〜、今まで結婚しようって思ったことあった?」
「高耶さん以前にですか?」
「当たり前だろ」
「ありませんね。皆無でした」
「どうして?」
「どうしてと言われても……恋愛イコール結婚という概念がなかったんです。それになんというか、本気で恋愛したことすらなかったというか」

つーことは?やっぱ直江が女とたくさん遊んでたってお兄さんが言ってたのは本当なのか?

「だけど高耶さんのことは本気で好きになったんですよ。今だって本気どころか命がけで愛してます。好きになってすぐに結婚も考えたんですから。男同士だけど考えちゃったんですから、本気だってわかってくれるでしょう?」
「うん」
「高耶さんさえいてくれれば、何があっても大丈夫なんです。私はね」
「オレも〜!」

床に寝転んだまま直江に向かって腕を伸ばした。そしたら直江はわかってますよって感じでオレを抱くために床に寝た。
あったかい床の上で直江とギューって抱き合って、チューをして、たくさん甘えた。

「愛してるって言え」
「愛してます」
「も〜!おまえはなんでそんなにオレが好きなんだよ!嬉しくなっちゃうじゃんか!」
「もっともっと愛してあげますから、もっと嬉しくなってくださいね」
「直江〜!!」

幸せいっぱいでもう脳ミソとろけそう!
このまんま正月になっちゃえ!そんでずーっと正月のまんまだったらサイコーなのに!

「高耶さん」
「んん?」
「幸せですねぇ」
「うん!!」

大好物の白子ポン酢を1キロ食べるよりも、大好きなキレイな海で泳ぐよりも、学校で居眠りするよりも幸せ!
本当だぞ、直江!

 

 

 

新年の挨拶は全裸で、ベッドの上に正座してした。
31日の夜はテレビで格闘技を見て(直江は別の番組が見たかったらしいけど譲ってくれた)日付が変わる前に地元の神社へ行って初詣。それから冷えた体をお風呂であっためてから、直江は「姫はじめです」って言ってオレをベッドに誘った。
そこで初めて「姫はじめ」の意味を知ったんだ。
そりゃもう幸せなエッチだったけど、そっちの話は絶対に内緒だ。直江にも「裏でも話すなよ」って言ってある。
ごめんな。

そんで昼ぐらいに目が覚めて、新年になったんだ〜って思ってベッドの上で挨拶だ。
夫婦といえどもこういうのは大事にしなきゃいけないもんな。
さっそく昨日作ったおせち料理を食べるために準備しようと立ち上がろうとしたら、直江に腕を引っ張られてまたベッドに沈んだ。

「なに?」
「お正月だからずっと幸せを噛み締めたいんですよ」
「でも腹減ったよ」
「別な意味で満腹にさせてあげますよ」
「ん……もう、おまえはァ……」
「おまえは?」
「どこまでオレを好きになれば気が済むんだよ」
「無限に、ですよ」

そんでまたエッチだ。
うーん、真昼間からのエッチって恥ずかしいけど、なんだか気持ちいいんだよな。なんつーか、あんまりエロくなくて爽やかで。

「姫はじめその2ってとこか?」
「姫2ですね」
「バーカ」

ちょー好き。直江。

 

 

ところがオレと直江の新年のラブラブタイムはおせち料理と雑煮を食ってる時に破綻した。
お兄さんが来たんだ。お兄さんが来たのは全然いい。最初は新年の挨拶をして、一緒に雑煮を食って直江とおとそを飲んで……って感じで穏やかだった。

「それで、何か用でもあったんですか?」
「ああ、忘れるところだった」

すでに家でもおとそを飲んでいい気分になってたお兄さんは、ウチでも飲んで多少酔っ払った感じになってた。
そんでコートのポケットから紙の束を、浮かれながら取り出した。

「義明に年賀状が来てたんでな。持って来たんだ」
「ああ、すいません」

この家には年賀状は来ない。だって内緒なんだもん。オレも直江も実家の住所をみんなに教えてるんだ。
それでお兄さんも気遣ってくれて、年賀状をわざわざ持ってきてくれたわけ。
学校の先生ってゆー立場上、年賀状の返事はすぐに出さないといけないからなって。
そういえばそうだよな〜。去年の年賀状、直江からちゃんと来たもんな。

「しかしおまえは毎年すごい数の年賀状を貰うんだな」
「まあ、仕事が仕事ですから」

150枚ぐらいはありそうだ。
オレなんか面倒だから10枚ぐらいでいいやって、毎年テキトーに書いてるだけなのに。

「じゃ、渡したし、もう帰るとするか。あんまりお邪魔しても新婚さんに悪いからな」
「実家の皆さんによろしくお伝えくださいね」
「ああ、伝えておくぞ。新婚家庭は新年から甘々ムードだったってな」
「……お好きにどうぞ」

ぜひお義母さんに伝えてくれ、お兄さん。
橘先生は高耶くんと幸せそーだったぞ、って。

お兄さんが帰ってから直江は年賀状を見始めた。
一枚ずつ見て、それから仕分けをした。

「なんで分けてんの?」
「年賀状を出してない人と、すでに出した人とね」
「ふ〜ん」

直江が「こっちは出してない人」って言った方の年賀状を見せてもらった。
夫婦だから隠し事もないわけだしな!

「あ、ウチのクラスの子からだ」
「ええ、クラスの子たちには出してませんから」

それで年賀状を見て行ったら知ってる名前がどんどん出てきた。全部が全部、女の名前だ。しかも橘先生のファンだって公言してるやつらの名前ばっかり!!
ムカムカムカ。
直江はオレの旦那さんなのに!

「A子もB子も山本先生もあるじゃんか!」
「そこでどうして怒るんですか。私からは年賀状を出してないんですよ?向こうが勝手に送ってきてるのに、どうして私に怒るんですか」
「だって〜……」

だって直江にアプローチしてるってことだろ?それって直江が気を持たせてるからなんじゃないの?

「大丈夫ですよ。こういう人たちには事務的な印刷しかしてない年賀状しか出しませんから」
「……オレの旦那さんに〜」
「だったらいいじゃないですか。私はあなたの旦那さんだって、あなたがしっかりわかっていればいいだけでしょう?ね?」
「む〜」

どうしようもなく膨れたオレを見た直江は、年賀状を仕分けしてた手を止めてオレを抱っこして膝に座らせた。

「じゃああなたに年賀状を書きますよ。一番、心のこもったのを」
「うん」
「目を閉じて」
「ん?」

大人しく目を閉じると、直江は舌を入れてチューしてきた。柔らかい舌がオレの口の中で動く。
どのぐらいしてたかわからないけど、しばらくして唇が離れた。

「どうでした?」
「何が?」
「あけましておめでとう、今年もいっぱい愛してあげます、って舌で書いたんですが」
「…………」

こいつ何やってんの?!
って、思ったら急に恥ずかしくなって耳も首も真っ赤になってしまった。

「私はあなたを無限に愛さないと気が済まない人間なんです。だからキスで年賀状です」
「ん〜!」
「もっとします?今度は私のアレで書いてあげますよ?」
「……バカ!!」

 

 

甘い正月はこうして始まった。正月からこれじゃ今年1年間こうかもしれない。
恥ずかしくて嬉しくて幸せな1年になるんだろうな。
それってすっごくいいかもな!

 

つーわけで、今年もよろしくお願いします!!

 

 

END

 

 
   

あとがき

お正月も甘いだけの新婚夫婦。
いいわね、あんたたち。
まったく直江は高耶さんを
どれだけ甘やかせば
気が済むんだろう?
無限にか?

   
         
   
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