高耶さんは17歳 |
||||
「ぅお兄ちゃ〜〜〜ん!」 玄関に出たオレに向かって、この某お笑い番組のテリーとドリーみたいな叫び方をしたのは妹の美弥だ。 誤解のないように先に言っておく! だって!!
前日の土曜。受験用の夏期講習が終わってから一旦家に帰った美弥はテクテク歩いてウチにやってきた。 「そうですよねえ、広いお家に美弥さんひとりでお留守番なんて寂しいですよねえ」 直江!騙されるな!美弥はそんな女じゃねえぞ! 「だからお兄ちゃんとこに泊めて欲しくてお母さんに頼んじゃった♪」 嘘だ!寂しいからじゃねえはずだ!新婚家庭を邪魔して笑いに来たくせに! 「義明さんちに一回泊まってみたかったんだ〜。お父さんが新婚の邪魔するなって言うから来れなくってつまんなかった〜」 そうなのだ。直江は美弥が泊まりに来ると聞くやいなや、オレを連れてさっそくジャスコに買い物に行った。 つーか二日連続のオレのバースデープランもラブでエロにならないわけで! 「さっすが義明さん!お兄ちゃんと違って気が利くよね!」 ホントだったら今日のうちに直江と誕生日&結婚記念プレゼントを買いに行って、ちょっとだけ遊園地で遊んで、夕飯を高級レストランで食べて、夜は二人でモニョモニョなことして、明日は一日中まったりしたりモニョモニョしたりしてからケーキを買いに出かけて、そんでオレと直江の二人っきりの誕生日&結婚記念パーティーの予定だったのに! 思いっきり甘えてワガママ言ってイチャイチャしてラブラブに過ごす予定が台無しだ! 「そーいえばお兄ちゃん、明日って誕生日だったよね?」 直江が怒った。 「可愛い妹さんになんてこと言うんですか。ご両親が出かけてしまって寂しい思いをしてるのに」 そんでオレは直江に見つからないようにニヤニヤしてる美弥を睨んでから自分の部屋へ。 ところが!譲は今日から予備校の夏合宿とかいうのに出かけてしまっていなかった! で、思いついたのが千秋だ。直江に見つからないようにチャリを千秋のアパートの裏庭に停めて、千秋の部屋を訪ねた。 「ち・あ・き・センセ〜」 ドアにチェーンをしたまま出てきた千秋は超不愉快な顔をしてオレを見た。だけど負けない。 「……おまえか……何しに来た」 千秋の部屋は相変わらず数学教師らしく片付いてた。 「橘先生にはオレんとこ来るって言ってあんのか?」 事細かに事情を話すと千秋はさらにウンザリした顔になった。夫婦喧嘩は犬も食わないとは言うけど、千秋みたいなグルメは匂いすら嗅ぎたくないってことか? 「誕生日と結婚記念日ね〜。そりゃおまえの気持ちもわかるけどさあ、妹だってやっぱ寂しくて……」 どういう意味だ、コラ。 「まあ今回は家賃オマケってことで匿ってやるけど、橘先生がおまえを探しにここに来たら帰れよな?」 この前ってのは直江が出張に行くときのことだ。 「おまえは知らないかもしれないけど、橘先生って案外怖いんだぞ?」 何を言っても無駄だとわかったのか、千秋は適当に部屋を使えって言って自由にさせてくれた。 「高耶さんは来てないか?」 いいぞ、千秋!成功したら家賃1割オマケしてやってってお義父さんに交渉してやるぞ! 「夕方に家を飛び出したきりどこに行ったのかわからないんだ。成田くんの家に行くって言ってたから美弥さんに電話してもらったんだが、成田くんがいないと聞いて帰ったといわれて……」 しばらくゴチャゴチャやってたようだけど、直江が帰り際に千秋に頼んでた。 「もし高耶さんが来たら私はもう怒っていないから早く帰ってこいと伝えてくれ」 そんでドアが閉まった音がして、直江が帰ったのがわかった。 「やっぱ来たか」 オレの怒りはそんなこっちゃ収まらないんだよ!
プンスカ怒ったら眠気も覚めて、千秋と一緒に深夜番組を見てしまった。 「橘先生だってさ、あんな優しく丁寧に生徒と接してるけど、あれはあれで大変らしいぞ〜。たまに怒ると『橘先生ってくだらないことで怒る』とか噂されるしさ、山本先生からはいまだに色目使われて、無視はできないからうまく誤魔化せるように工夫したりな」 山本先生はまだ直江を諦めてないのか。しつこいなぁ。 「おまえとの結婚を隠すのだって並大抵のことじゃないと思うんだけど」 オレは毎日直江を「橘先生〜」って呼ぶように苦労してるし、友達にだって頑張って隠してるし、先生たちにだってバレないように学校での直江との接点は少なくしてる。 「いいか、よく聞け。おまえが橘先生を見る目はな、山本先生とそう変わりはないんだぞ。ラブラブビーム出しまくり。それにな『せんせぇ』なんて甘ったるい声で呼ぶだろうが。そんで意味もなく歴史準備室に行く。これのどこが頑張ってるって言うんだ?」 そう力んで言ったら頭をパコンと叩かれた。 「偉そうに言うな!1日2回行ってりゃ行きすぎなんだよ!!」 千秋が怒鳴ったと同時にドアがガンガン叩かれた。 「高耶さん?!いるんですか?!」 直江だった。こんな深夜まで探してたんだろうか。 「な……直江〜!!」 泣きながら玄関まで行ってドアを開けて、直江に抱きついた。 「どうしたんです、そんなに泣いて!もしや!もしや千秋に何かされたんですか?!」 頭からツノが生えたっぽい直江が千秋の部屋に土足でズカズカ入って、千秋の胸倉を掴んだ。 「貴様、高耶さんに何をした!」 直江が来てくれて怒ってくれたのが嬉しくて、玄関で声を上げて泣いた。 「うわ〜ん!」 千秋から離れてオレのとこまでダッシュできた。そんでギューっと抱きしめてくれる。 「大丈夫ですか?どこか痛いところは?何をされていても私はあなたの旦那さんですから安心して!」 頭ナデナデしてくれて、チューもしてくれて、ギューって抱いてくれて、優しい声で「お家に帰りましょうね」って。 辿り着いた家のリビングには美弥からのメモがあった。 『お兄ちゃんと義明さんへ。美弥は寝ます。明日は彼氏とデートだから朝8時前には起こしてください』 「……美弥のヤロウ……」 オレが家出したのも、直江が心配して探し回ったのも、美弥には笑いのネタにしかならないってことだ。 『あのね〜、お兄ちゃんたら美弥に誕生日邪魔されて拗ねて家出したんだよ〜。そんで義明さんが探し回ってて〜。お兄ちゃんなんか家出する度胸もないんだから友達んちに決まってるのにさあ。どっちもラブラブでうっざ〜い』 とかなんとか!! 「疲れましたね……」 もう1回チューして直江は風呂に。オレは寝室に……。 「お兄ちゃん♪」 だけどいくら怒鳴ったって美弥には馬の耳に念仏。あっはっはと笑って和室に引っ込んだ。 「ちくしょー!」 悔しさを持ち越しで寝室に入って着替えてベッドに。直江とのモニョモニョは今夜無理だけど、甘えまくって寝てやる。 汗を流してバスローブを着て戻った直江はバカみたいにセクシーでオレはちょっと困った。 「なあ、直江?」 ほら!千秋!オレはまったく普通にしてるじゃんか! 「さ、寝ましょうか」 直江がベッドに入ってきたからオレはその直江の腕の中に入った。 「明日は美弥さんが朝からいないそうですから、たくさんイチャイチャしましょうね」 それから先は想像にまかせる。つーか、いつか直江が裏で告白するのを待っててもいいけどな。
やっぱ旦那さんとは一緒に誕生日を過ごすもんだな。うん。 それから? 「良かったな、直江」 そんな楽しい誕生日&結婚記念日。
END
|
||||
あとがき |
||||
ブラウザでお戻りください |
||||