高耶さんは17歳


第22話 最終回 

マイバースデーとオレ

 
         
 

「ぅお兄ちゃ〜〜〜ん!」

玄関に出たオレに向かって、この某お笑い番組のテリーとドリーみたいな叫び方をしたのは妹の美弥だ。
あのラブラブバカップルな両親が旅行に行くとかで1泊だけウチに美弥を預けやがった。
一応まだ中学生だし?彼氏を家に連れ込んだりしないように?外泊しておかしな遊びを覚えないように?
とか何とか言って新婚家庭に預けたわけだ!

誤解のないように先に言っておく!
美弥は確かに奥手とは言いがたいが、計算高い女だ!
彼氏がいたとしても自分に損がないようにモニョモニョはしないヤツだ!
ついでにヤツは恋愛ゴトよりも笑いを優先させる!
だからヤツをウチに送り込んだ父さん&母さんは、美弥の心配よりもオレたち夫婦の心配をすべきなんだ〜!

だって!!
明日はオレの誕生日&オレたちの結婚記念日なんだから!!

 

前日の土曜。受験用の夏期講習が終わってから一旦家に帰った美弥はテクテク歩いてウチにやってきた。
そんで直江が美弥の相手をしているとこだ。オレ?オレは直江の隣りに座って拗ねてんだよ。

「そうですよねえ、広いお家に美弥さんひとりでお留守番なんて寂しいですよねえ」

直江!騙されるな!美弥はそんな女じゃねえぞ!

「だからお兄ちゃんとこに泊めて欲しくてお母さんに頼んじゃった♪」

嘘だ!寂しいからじゃねえはずだ!新婚家庭を邪魔して笑いに来たくせに!

「義明さんちに一回泊まってみたかったんだ〜。お父さんが新婚の邪魔するなって言うから来れなくってつまんなかった〜」
「いつでも来てかまいませんよ。美弥さんのために色々揃えておきましたし」

そうなのだ。直江は美弥が泊まりに来ると聞くやいなや、オレを連れてさっそくジャスコに買い物に行った。
パジャマに歯ブラシ、新品のシーツや布団カバー、使いきりパックの基礎化粧品セットまで。
オレの家族にいい顔したいからってそこまでしなくていいのに!
つーか、そんなことしたら美弥は毎週泊まりに来ちまうじゃんか!
そしたらオレと直江のラブでエロな時間が自然に消滅しちまうわけで!

つーか二日連続のオレのバースデープランもラブでエロにならないわけで!

「さっすが義明さん!お兄ちゃんと違って気が利くよね!」
「うっさい!!」

ホントだったら今日のうちに直江と誕生日&結婚記念プレゼントを買いに行って、ちょっとだけ遊園地で遊んで、夕飯を高級レストランで食べて、夜は二人でモニョモニョなことして、明日は一日中まったりしたりモニョモニョしたりしてからケーキを買いに出かけて、そんでオレと直江の二人っきりの誕生日&結婚記念パーティーの予定だったのに!

思いっきり甘えてワガママ言ってイチャイチャしてラブラブに過ごす予定が台無しだ!

「そーいえばお兄ちゃん、明日って誕生日だったよね?」
「……覚えてんなら遠慮してくれよ……」
「え〜?何〜?聞こえな〜い」
「兄の誕生日、しかも初めての結婚記念日なんだから遠慮しろっつってんだよ!」
「高耶さん!」

直江が怒った。
くそ〜!直江は美弥の正体を知らないから〜!

「可愛い妹さんになんてこと言うんですか。ご両親が出かけてしまって寂しい思いをしてるのに」
「ふんっ!」
「誕生日を一緒に祝ってくれるんですよ?それなのに……」
「……いい。祝ってもらわなくていい。オレは今から譲に祝ってもらいに行く。直江は美弥といればいいだろ」
「高耶さんっ」
「知るか、バーカ」

そんでオレは直江に見つからないようにニヤニヤしてる美弥を睨んでから自分の部屋へ。
お泊りグッズをカバンに詰めて、チャリに乗って家を出た。

ところが!譲は今日から予備校の夏合宿とかいうのに出かけてしまっていなかった!
どうしたらいいわけ、オレ!

で、思いついたのが千秋だ。直江に見つからないようにチャリを千秋のアパートの裏庭に停めて、千秋の部屋を訪ねた。

「ち・あ・き・センセ〜」

ドアにチェーンをしたまま出てきた千秋は超不愉快な顔をしてオレを見た。だけど負けない。

「……おまえか……何しに来た」
「一泊させろ」
「……なんで」
「夫婦喧嘩。もし泊めてくれるんだったらお義父さんに言って来月の家賃を少しオマケしてって頼んでやるけど?」
「……………………入れ」

千秋の部屋は相変わらず数学教師らしく片付いてた。
メゾネットタイプだから2階もあるし、オレが泊まれるスペースぐらいは余裕である。

「橘先生にはオレんとこ来るって言ってあんのか?」
「ないよ。家出同然だもん。譲んちに行くつもりだったんだけどさ、予備校の合宿でいなかったんだ。だから」
「じゃあ心配してんじゃねえの?」
「心配すりゃいいんだ、あんな旦那さんなんか」

事細かに事情を話すと千秋はさらにウンザリした顔になった。夫婦喧嘩は犬も食わないとは言うけど、千秋みたいなグルメは匂いすら嗅ぎたくないってことか?

「誕生日と結婚記念日ね〜。そりゃおまえの気持ちもわかるけどさあ、妹だってやっぱ寂しくて……」
「それはない!」
「言い切るなぁ……。そんなにすごい妹なのか?って、おまえの妹だもんな、すごいだろうよ」

どういう意味だ、コラ。

「まあ今回は家賃オマケってことで匿ってやるけど、橘先生がおまえを探しにここに来たら帰れよな?」
「やだ〜」
「俺は橘先生とモメるつもりはないからな。この前だって殺人犯みたいな目で俺を睨んだんだからな」

この前ってのは直江が出張に行くときのことだ。
直江に嫉妬させるために、わざと千秋とちょっとイチャイチャしたときのこと。

「おまえは知らないかもしれないけど、橘先生って案外怖いんだぞ?」
「知らないも〜ん。だから怖くないも〜ん」
「……このアホが……」

何を言っても無駄だとわかったのか、千秋は適当に部屋を使えって言って自由にさせてくれた。
だからオレはどっかのデザイナーが作った50万円のソファで昼寝をし、千秋が作った夕飯を食べ、眠くなってきたから2階の寝室でベッドを借りて寝ようとした。
そこにチャイムが鳴ったんだ。絶対に直江だ。こんな夜遅くに来るのは直江しかいない。靴は靴箱に隠してあるからオレがここにいることはバレないはずだ。
聞き耳を立てながらその会話を聞いた。

「高耶さんは来てないか?」
「いや、来てないけど」

いいぞ、千秋!成功したら家賃1割オマケしてやってってお義父さんに交渉してやるぞ!

「夕方に家を飛び出したきりどこに行ったのかわからないんだ。成田くんの家に行くって言ってたから美弥さんに電話してもらったんだが、成田くんがいないと聞いて帰ったといわれて……」
「他の生徒には電話したのか?」
「出来るわけないだろう。私と高耶さんの結婚は秘密なんだぞ」
「……そっか〜。別にいいんじゃねえの?あいつだってもう18歳になるんだろ?分別はつくだろうし」
「分別がついても攫われたり襲われたりしたらどうする!」
「俺に言われてもなあ……」

しばらくゴチャゴチャやってたようだけど、直江が帰り際に千秋に頼んでた。

「もし高耶さんが来たら私はもう怒っていないから早く帰ってこいと伝えてくれ」
「あいよ〜」

そんでドアが閉まった音がして、直江が帰ったのがわかった。

「やっぱ来たか」
「おまえな、あんなにいい旦那さんはいないぞ?心配で真っ青になってたんだからな」
「ふん。心配するぐらいなら最初からオレを怒らせなきゃいいんだ」
「……あの様子じゃ今から町中歩き回って探す気だろうな。携帯に電話してやれよ」
「やだ」

オレの怒りはそんなこっちゃ収まらないんだよ!

 

 

 

プンスカ怒ったら眠気も覚めて、千秋と一緒に深夜番組を見てしまった。
ああだこうだと旦那さんの悪口を言い、千秋は千秋でビールとワインのチャンポンで酔っ払って学校の愚痴を垂れた。
先生も大変なんだな〜って呟いたら、千秋は直江のことを言い出した。

「橘先生だってさ、あんな優しく丁寧に生徒と接してるけど、あれはあれで大変らしいぞ〜。たまに怒ると『橘先生ってくだらないことで怒る』とか噂されるしさ、山本先生からはいまだに色目使われて、無視はできないからうまく誤魔化せるように工夫したりな」
「へ〜」

山本先生はまだ直江を諦めてないのか。しつこいなぁ。

「おまえとの結婚を隠すのだって並大抵のことじゃないと思うんだけど」
「オレだって並大抵じゃないよ」
「いや、おまえのは……けっこう適当にやってるとしか見えない……」
「なんで!」

オレは毎日直江を「橘先生〜」って呼ぶように苦労してるし、友達にだって頑張って隠してるし、先生たちにだってバレないように学校での直江との接点は少なくしてる。
わかってないな、千秋は。

「いいか、よく聞け。おまえが橘先生を見る目はな、山本先生とそう変わりはないんだぞ。ラブラブビーム出しまくり。それにな『せんせぇ』なんて甘ったるい声で呼ぶだろうが。そんで意味もなく歴史準備室に行く。これのどこが頑張ってるって言うんだ?」
「見る目はしょうがないだろ!オレは奥さんなんだから!呼ぶのはみんなと同じようにしてる!準備室に行くんだって1日4回行ってた1年生の時から2年生では1日3回!今の3年になってからは2回しか行かないようにしてる!」

そう力んで言ったら頭をパコンと叩かれた。

「偉そうに言うな!1日2回行ってりゃ行きすぎなんだよ!!」
「そんなことないもん、そんなことないもん、そんなことないもん!」
「うるせえ!」

千秋が怒鳴ったと同時にドアがガンガン叩かれた。

「高耶さん?!いるんですか?!」

直江だった。こんな深夜まで探してたんだろうか。
そう思ったら直江がすっごく大事に思えて、千秋の叩かれた頭も痛くて、準備室に行きすぎだって言われたのも悔しくなってきた。

「な……直江〜!!」

泣きながら玄関まで行ってドアを開けて、直江に抱きついた。

「どうしたんです、そんなに泣いて!もしや!もしや千秋に何かされたんですか?!」
「された〜!」
「ち……千秋〜〜〜!!!」

頭からツノが生えたっぽい直江が千秋の部屋に土足でズカズカ入って、千秋の胸倉を掴んだ。

「貴様、高耶さんに何をした!」
「してねえよ!」
「したからあんなに泣いているんだろうが!」
「してねえってば!」

直江が来てくれて怒ってくれたのが嬉しくて、玄関で声を上げて泣いた。

「うわ〜ん!」
「たっ、高耶さん!」

千秋から離れてオレのとこまでダッシュできた。そんでギューっと抱きしめてくれる。

「大丈夫ですか?どこか痛いところは?何をされていても私はあなたの旦那さんですから安心して!」
「頭が痛い〜」
「頭?」
「叩かれた……」
「そうですか、可哀想に……」

頭ナデナデしてくれて、チューもしてくれて、ギューって抱いてくれて、優しい声で「お家に帰りましょうね」って。
だからオレはうんと頷いて直江に肩を抱かれたまんま家に帰った。目の前にある家までだったけど、直江にこうされて外に出るなんて有り得ないから、だいぶ嬉しかった。

辿り着いた家のリビングには美弥からのメモがあった。

『お兄ちゃんと義明さんへ。美弥は寝ます。明日は彼氏とデートだから朝8時前には起こしてください』

「……美弥のヤロウ……」
「……私も変だと思ったんです……高耶さんが家出したってのにまったく心配する様子もないし、出前のお寿司を食べたらお風呂に入ってしまうし、私が探し回ってても協力は一切してくれないし……」
「美弥の正体がわかっただろ?」
「ええ……」

オレが家出したのも、直江が心配して探し回ったのも、美弥には笑いのネタにしかならないってことだ。
そんで父さんと母さんに言うに決まってる。

『あのね〜、お兄ちゃんたら美弥に誕生日邪魔されて拗ねて家出したんだよ〜。そんで義明さんが探し回ってて〜。お兄ちゃんなんか家出する度胸もないんだから友達んちに決まってるのにさあ。どっちもラブラブでうっざ〜い』

とかなんとか!!

「疲れましたね……」
「ああ……」
「高耶さんは先に寝室に行っててください。私は汗を流したらすぐに行きますから」
「うん」

もう1回チューして直江は風呂に。オレは寝室に……。

「お兄ちゃん♪」
「みっ……」
「良かったね、仲直りできて」
「全部おまえのせいだろうが〜〜!!!」

だけどいくら怒鳴ったって美弥には馬の耳に念仏。あっはっはと笑って和室に引っ込んだ。

「ちくしょー!」

悔しさを持ち越しで寝室に入って着替えてベッドに。直江とのモニョモニョは今夜無理だけど、甘えまくって寝てやる。
そんぐらいしないと気が済まない!

汗を流してバスローブを着て戻った直江はバカみたいにセクシーでオレはちょっと困った。
顔を赤くしながら旦那さんに見蕩れてたオレに直江はチューをして、ベッドに腰掛けて着替え始めた。
パンツを穿いてる直江。パジャマ代わりの白いTシャツを着る直江。綿の膝丈のズボンを穿く直江。
着替え中でもかっこいいオレの旦那さん。

「なあ、直江?」
「はい?」
「……オレ、直江のこと学校でもラブラブビームで見てるかな?」
「そんなことはないと思いますよ。どちらかと言うともっとラブラブビームで見て欲しいくらいです」
「んじゃ『せんせぇ〜』って甘ったれて呼んでる?」
「それもありませんねぇ。私としては学校でもエッチしてる時みたいに呼んで欲しいかな、と」
「……バカ……。じゃあ準備室に1日2回行くのは、行きすぎ?」
「いいえ。4回来てくれてたのに今は2回なんて寂しいですよ」

ほら!千秋!オレはまったく普通にしてるじゃんか!
周りに直江との結婚がバレないようにうまくやってるじゃんか!

「さ、寝ましょうか」

直江がベッドに入ってきたからオレはその直江の腕の中に入った。

「明日は美弥さんが朝からいないそうですから、たくさんイチャイチャしましょうね」
「うん!」
「あ」
「ん?」
「お誕生日、おめでとうございます」
「……直江〜!!!」

それから先は想像にまかせる。つーか、いつか直江が裏で告白するのを待っててもいいけどな。

 

 

 

やっぱ旦那さんとは一緒に誕生日を過ごすもんだな。うん。
そんで翌日は結婚記念日ってことで美弥がいなくなってから1周年エッチだ。
お昼ご飯を外で食べて、オレが欲しかった夏用サンダル(び、『びるけんしゅとっく』とかいういいサンダルらしい)を誕生日プレゼントに買ってもらって、結婚記念1周年にシルバーの写真立てを買って、そのまま写真館で二人の写真を撮って(だいぶ怪しかったかもしれない)帰った。

それから?
それからは……まあ、予想はつくだろ?
午前中に1周年エッチをしたから、今度は誕生日エッチ。

「良かったな、直江」
「なにがですか?」
「これでもうオレも18歳だ。淫の行にはならないだろ?だから、良かったな」
「いんのこう?」
「そう、淫の行」
「……なるほど……じゃあ遠慮もしなくていいってことですね」
「いつもしてないじゃん!」

そんな楽しい誕生日&結婚記念日。
オレは直江と結婚して良かった〜、としみじみ思った。
だってこんな優しい旦那さんは世界中どこ探してもいないからな!!

 

 

 

END

 

 
   

あとがき

これにて「高耶さんは17歳」は終わりです。
長い間ご愛顧頂きましてありがとうです。
サイト復帰したら新シリーズ
始まるかもしれませんので
そちらを楽しみにしててください。
ちなみにこの話の裏はまだありません。

   
         
   
   
         
   
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