高耶さんは18歳 |
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うちのテレビは直江が独身のころに使ってたテレビで、デジタル放送対応じゃないやつだ。
「おぁぁぁ〜!!!」 オレの雄叫びを聞いた旦那さんは書斎でやってた仕事を放り出してリビングにダッシュでやってきた。 「どうしたんですか!」 床にはガラスが散らばり、大きなテレビに大きな穴が空いていた。 「……壊しちゃった……ごめん……」 秋晴れの日曜日、オレは天気がいいから気持ちもウッキウキで掃除を始めたんだ。 「怪我は?」 申し訳ないのと、直江が優しいのでつい涙が出た。そしたら泣かなくていいんですよって言ってチューしてくれた。 「掃除終わらせちゃいましょうか。ね?終わったら一緒に新しいテレビを買いに行きましょう?」 頭を撫でてから直江は掃除を始めた。危ないから高耶さんはやらなくていいですよって、散らばったガラスを全部片付けて、テレビを庭に出して、全部やってくれた。 「じゃあ、テレビを買いに行きましょうか。商店街の電器屋さんでいいですよね?」 そんなわけで新しいテレビが翌週我が家にやってきた♪ 平日の夕方に電器屋さんが来てくれて、オレの立会いのもと新しいテレビが設置された。 「じゃあこれがリモコンになります。他の地域の番組も入るように設定しておきましたから」 電器屋さんが言うことにゃ、オレが住んでる地域の主要7局の他に、テレビ○○とか○○放送とか、そういう隣りの県やマイナー局でやってる番組も入るように設定してくれたんだって。 電器屋さんが帰ってから、オレはそのテレビ局の番組を見てみた。
「直江ー!!おかえりー!!」 学校から帰ってきた橘先生、じゃなくてオレの旦那さんの直江を玄関でお出迎えして飛びついて抱きついた。 「ただいま。どうしたんですか?そんなにはしゃいで」 直江にチューしてから袖を引っ張ってリビングにつれていった。新しい薄型テレビは今まで使ってたスペースの半分以下しか使ってない。リビングがちょっと広くなった感じがした。 「ああ、いいですね。最新式にして良かった」 腕を組んで、その腕にスリスリしてみた。 「……なんですか?そんなに甘えて」 背伸びしてホッペにチューして耳に囁いた。 「洗剤買って?」 それまで笑顔だった直江なのに、急に不信感を表してオレをソファに座らせた。 「通信販売、ってことは……あの、実演販売風のテレビショッピングとかいうやつですか?」 この頑固者!石頭!ちょっと買ってやってみりゃすぐにわかるはずなのに! 「いいもん。母さんに買ってもらうもん」 う、確かに無駄かも。 「欲しい欲しい欲しい欲しい〜!」 6回もダメって言った〜!直江のケチ〜!! 「そんな顔したってダメなものはダメなんです」 8回だ!! その日の夜、オレは抗議のつもりで寝室で寝ないで自分の部屋で寝ることにした。 「たかが洗剤じゃないですか」 直江は大きな溜息をついて(いつも溜息をついてるよな、直江って)オレの頭を撫でた。 「わかりました。買いましょう。たかが洗剤でケンカなんてバカらしいですからね。今度その番組がやってたら申し込んでおいていいですよ」 やった♪
しかし!なんと困ったことにその洗剤の通販番組がどこの局でやってたか覚えてなかった! 「まだ申し込んでないんですか?」 アッサリとかわした直江。やっぱ本音では買って欲しくなったんだな。くそ〜。 「いいじゃないですか、普通の洗剤を使ってても問題はないんでしょう?」 おおう!思ったよりもいい反応だ! 「オレもすっごい気に入ってる家だしさ、隅々までキレイにして大事に大事に使いたくてさ……。直江の車だっていつもピカピカにしておきたいのに……」 まあこれは本音でもあるからな。いいってことよ。 「普通の洗剤でもいいんだけど、少しでもキレイになる洗剤がいいな、なんて思ってたんだ」 よっしゃ!これで直江陥落!あとは番組見つけて買うだけだ!
それから毎日オレと直江は通販番組を見まくった。 そんなある日。 「あ、これですか?」 夕飯を食べ終わって直江とソファでイチャイチャしながら見てた通販番組であの洗剤が紹介されてた。 「これだ!これこれこれ〜!直江!電話して!」 直江の声をテレホンセンターのお姉ちゃんに聞かせるのはもったいないけど、なんたって洗剤のためだ。ガマンしよう。 「なかなか信憑性のある番組でしたね」 直江の肩に頭を乗せて鼻歌を歌いながら楽々掃除の妄想をしてたら、ふと思いついたように直江が言った。 「じゃあシーツのたんぱく質汚れもこれからは気にしなくていいってことになりますねえ」 なんのこと? 「まあ、わからないならわからないでいいですよ。そのうちわかりますから」 怪しい含み笑いをした旦那さんは晩酌のビールを飲みながら、テレビのリモコンでチャンネルを『その時歴史は動いた』に変えた。
洗剤が届いたのは土曜日の午後。 「ヒャッホー!」 さっそく使わないと!まずは換気扇だ! 液体洗剤を専用のスプレーボトルに薄めて入れて、換気扇にプシュッとやってみた。 「おおおおお。すっげー」 次は湯呑だとかカップだとか急須だとかの漂白だ。粉を溶かして浸け置きすると換気扇掃除の間に全部ピッカピカになってた。 そんなわけで直江が帰ってくるまでオレは掃除をしまくった。 「ただいま。高耶さん?」 タオルでハチマキ、ジーンズの裾を膝まで捲り上げて、Tシャツの袖を肩まで捲ってるこの格好のことだ。 「洗剤が来たんだ。だから今までガンガンに掃除してやったぜ!」 直江を連れてまずは風呂場に。ピカピカになった蛇口や湯垢のまったくないバスタブ、曇ってない鏡を見て直江は驚いた。 「本当に落ちる洗剤だったんですねえ……」 直江は掃除したとこを嬉しそうにニヤニヤ見てから着替えに行った。
その夜。 「そんなわけで高耶さん。もう洗濯の心配もなくなりました」 オレにたんぱく質とか言われても、どんな質なのかわかるわけねーだろ。料理はできるけど家庭科と理科は2だ。 「……まだわからないんですか?たんぱく質といえばアレじゃないですか」 ヒソヒソヒソ。 「えええ〜?!たんぱく質ってソレのことかよ!」 そりゃシミがついてたなって気になってはいたけど! 「これからは気にしないでたくさんつけられます。手始めに今夜試してみましょう!」 よく落ちる洗剤のせいでオレは直江に美味しく食べられてしまった。 直江の奥さんやってるのも大変だぜ、おい……。
END
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あとがき |
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