高耶さんは18歳


第6話 

メリクリとオレ

 
         
 

今年こそは直江と二人っきりのザ☆クリスマスだ!
思いっきりロマンチックに過ごして甘くて熱いクリスマスナイツを2日連チャンで!
うが〜!楽しみじゃ〜ん!!

 

 

「直江、直江、もうケーキの予約してくれた?」
「しましたよ」
「んじゃんじゃ、ツリー飾ろう!ツリー!出して出して〜!」
「はいはい、待っててくださいね」

納戸ってものがこの家にはある。
そこから直江が大きな箱に入ったツリーを出した。そして別のダンボールからは飾りつけのグッズを。
この大きなツリーは去年直江が「高耶さんために」つって買ってきたゴージャスなやつなんだ。

「重いから私が運びますよ」
「うん!」

旦那さんはいつでも何でもやってくれる。重いものは全部持ってくれるし、オレのためなら何でもする。
ああ、やっぱ主婦っていいなあ。

「一緒に飾りつけしよー」
「もちろん」

直江とベタベタイチャイチャしながら大きなツリーに飾りつけ。

「星、オレがつけてもいい?」
「いいですよ」

てっぺんにつける星を直江から受け取ってつけようとしたんだけど、あと10センチってとこで届かない。

「む〜」
「……届きませんか……じゃあ、こうしたらどうでしょう」

急にかがんだ直江がオレの腰に逞しい腕を回して持ち上げた。
フワ〜って浮かんだ感覚がしてオレの頭が天井に届きそうになる。
ま、実際に天井には遠かったんだけどさ。

「早くつけて」
「おう!」

直江に抱きかかえられてつけた星はピカピカでキレイだった。うん、これを愛の星と名づけよう。

「重かっただろ」
「重かったですけど、これが高耶さんの重さなのかと思えば愛しさで胸が一杯になります」
「バーカ」

バカとは言ったけどこれは褒め言葉だ。チューしてやって手を握ってしばらくウットリ。

「そろそろ再開しましょうか」
「ん〜、もうちょっとこうしてる」
「甘えん坊さんですね、高耶さんは」

やっぱ旦那さんとのクリスマスがいいな。同級生とのパーティーなんかじゃなくて。

 

 

んで今年もオレがチキンを作ることになったから、ジャスコの食材フロアでチキン作りのための材料を物色した。
鶏さんとハーブとオーブン用の紙だの何だの。

「そうだ、シャンパンも欲しいよな?直江の好きなの選んで持ってきて」
「はい」

手分けして揃えることにした。
カートを押して酒売り場に行くの面倒なんだもん。

「あら、仰木くんじゃない」
「へ?」

振り向くと門脇先生がいた。もしかしてマズいんじゃ……。

「あら〜、ローストチキンの材料ね。2学期になって料理部引退してからも料理だなんてえらいわね〜」
「あ、う、うん。えへへへ」
「ご家族に作ってあげるなんて親御さんも喜んでるでしょう?」
「ま、まあね」

直江!頼むから今戻ってこないでくれ!!

「門脇先生と仰木くんじゃないですか」
「あら、橘先生!」
「げ!」

なんで戻って来たんだよ〜!
って、今「仰木くん」て言った?

「お買い物ですか?」
「ええ。偶然仰木くんを見つけたんですよ〜。この子ったらチキン作るらしくて、えらいわねって話してたんです」
「そうですか」

直江ってばうまく誤魔化せてるじゃん。すげーな。さすが先生。

「橘先生もクリスマスの準備ですか?」
「そうなんです。シャンパンを買って来いと言われまして」

直江の手にはMOETとか書いてある箱のシャンパンがあった。

「もしかして例の婚約者ですか?それ買って来いって言ったの」
「はい。二人きりのクリスマスを過ごせるもので。門脇先生も噂の彼氏と?」
「キャッ!実はそうなんです〜!来年あたりに結婚しようって話も出てて」
「いいですよね、結婚て。好きな人と公然と何でも出来ちゃいますからね」
「ですよね〜!」

オレたちは公然とは出来ないけどな。
でもこれで直江はうまいこと門脇先生の意識からオレを離してくれたらしい。

「じゃあ私はまだ買い物しなきゃならないんで〜。失礼しますね〜」

そう言って門脇先生はいなくなった。こころなしかウキウキしちゃって。

「……わざわざ戻ってこないで影から見てれば良かったのに」
「高耶さんが門脇先生と言えども女と話しているのが嫌だったんです」
「危険なのにぃ」
「大丈夫だったでしょう?」
「うーん、そうだけど、そのシャンパンはずっと持ってろ。カートに入ってるのを門脇先生に見られたら怪しまれるからな」

これなら担任と生徒が一緒にレジに並んでても世間話をしながらレジに行った、ぐらいにしか思われないよな。

 

 

 

「おっす」

クリスマスイブの午前中、千秋が我が家にやってきた。
直江の機嫌は急降下。

「何しにきた」
「ヒマでさ。橘センセーんちで暇つぶししようかな、なーんて」

今まで暇つぶしに来たことなんかない。オレを使いっぱにしに来るか、直江に家賃をちょっと待ってもらいに来るかだったのに。
なんかありそうだな……。

「夕方から出かけるんだけど、それまでヒマなんだよ。高耶、なんかして遊ぼうぜ」
「なんかって何」
「そうだ!おまえが俺様の昼飯を作るって遊びはどうだ?」
「……メシ食いに来たってか……?」
「いや〜、そんなつもりじゃないんだけどさ〜」

そんなつもりだったはずだ!!
くそ、イブに来やがって!!

「うどんでいいからさ」
「……素うどんしかないぞ、千秋先生」
「シケてんな」

直江を見てみたらこめかみに青い血管が浮いてた。
オレよりも二人きりのクリスマスを楽しみにしてたのは直江の方なんだよな。
ほら、オレ、去年のイブは譲たちと過ごしちゃったからさ。

「なあ、千秋。夕方からどこ行くの?」
「……それは言えないなあ」
「なんだよ、ケチ。あ、もしかしてエッチなことが待ってたりして?」
「おい、高校生のくせに何考えてんだ」
「思春期だも〜ん」

千秋とオレが仲良く話してる気がしたんだと思う。直江がもっのすごく不機嫌そうな声で千秋に言った。

「今日は門脇先生の家に行くそうじゃないか」
「え?!」
「毎年のことらしいな、千秋」
「な……なんでそんなこと……」
「私の手にかかればこのぐらいの情報はなんなく手に入るんだ。私と高耶さんのハニーライフのためならおまえの弱みの百や二百は握っておかねばならんからな」
「こえー……」

直江だったらそーゆーこともやりかねないな。

「門脇先生んちって毎年クリスマス会やってんだ?」
「そーゆーわけじゃねーけどさ……なんつーかさ……」

そこでニヤリと直江が笑った。

「門脇先生に彼氏が出来たかどうかを調べるためだろう。シスコンも大変だな」
「なんだと!」
「残念ながら門脇先生、今年は『しんたろうさん』とかいう彼氏と昨日から過ごしているらしいぞ。家には今日の夜に戻るそうだ」
「なんで橘センセーが知ってるんだよ!」
「ふふん」

家に戻る時間までは出任せだと思うけど、昨日門脇先生と会った時にしんたろうさんと過ごすってことは聞いてたからな。
あ〜あ、可哀想に、千秋。ガッハッハ。

「くそ……しんたろうのヤツ……まだ別れないのか……」
「来年あたりに結婚でもするんじゃないのか?」
「結婚?」
「おっと、口が滑った」
「どうゆーこった、それ!知ってるなら教えてくれよ!」
「それは私の口からは言えないな。直接門脇先生に聞けばいい」

可哀想に千秋はガックリとうなだれてしまった。
なんとなく気持ちはわからなくもないけど、やっぱりわからない。
だってオレは直江と幸せな結婚生活を送ってるんだもん。わかろうはずがないさ〜。

「まあうどんでも食って元気出せよ。素うどんだけど」
「……なあ、高耶……俺、今日ここで一緒にクリスマス過ごしていいか……?」
「ダメ」
「だよなぁ……」

早くシスコン卒業して彼女ぐらい見つけろっての。
オレにはもう直江っつーステキな旦那さんがいてホントに良かったよ。

 

 

そして夕方になり、クリスマスイブはロマンチックに訪れて……。
ケーキやチキンは明日のお楽しみだから、今日は二人で夜景を見にお台場やら横浜やらをドライブする予定。

「ちゃんとマフラーもしてくださいね。寒いですからね」
「巻いて巻いて〜」

甘えながら旦那さんにマフラーをしてもらって、車でお出かけ……しようとしたら。

「お兄ちゃ〜ん!」
「ええ?!」

美弥……が来た……なんでだ……。

「よう、高耶!」
「父さん!アンド母さん!」

なんで家族でウチに来るんだよ!しかもイブに!

「ヒマだったもんでな。なんとなく散歩してたらここに来たんだ」
「オレたち今からドライブなんだよ!」
「そりゃいいな。じゃあ父さんたちも一緒に行ってやるぞ」
「来るな〜!帰れ〜!」

まあまあ、とか言いながら直江が止めた。
なんで直江が止めたか。それは単にウチの家族にいい顔したいからじゃない。
断っても無駄なことを知ってるからだ。

「じゃあ一緒に行きましょうか」
「おお、さすが義明くん。で、どこに行くんだ?」
「お台場から横浜に行って、横浜のレストランで食事なんですが……」

食事はもちろん港が見えるス☆テ☆キ☆なレストランを二名で予約してある。
家族をそこにねじ込むなんて無理な話だ。

「ま、適当に行くか。よし義明くん、出発だ!」

昨日は門脇先生に買い物の邪魔をされ、今朝は千秋にまったりラブラブタイムを邪魔され、夜は悪魔の集団にロマンチックな夜景を邪魔され……か。
オレってクリスマスは鬼門なのか?

んで、お台場へ行くつもりが父さんのワガママで寂しげな工業地帯へ。
オレはな、クリスマスムードたっぷりの夜景を旦那さんの隣で見たかったわけ。
それがなんで工業地帯の工場の明かりを見なきゃいけないわけ?

「工業地帯はいいな〜。サイバーだな〜」
「……どこが……」
「ツリーのライトにも負けないほどキレイだろう」

んなわけあるか!

で、次は横浜だ。こっちはレストランの予約があるから絶対何がなんでも行くっちゅーの!

「それでレストランはどこを予約してるんだ?」
「…………それは言えない」
「いいじゃないか。父さんたちは別の店に行くんだしなあ。いったん分かれて後で合流するには知っておかなくちゃな」

仕方なく直江が教えた。海やライトアップされた建物が見える高級ホテルのレストランだ。

「ほほう」
「あら、高耶にはもったいないわね」
「え〜、お兄ちゃんばっかりズルい〜」

これには直江も譲れなくて押し黙ってた。口を開いたら負けだぞ、橘夫妻!

「いいな、いいな〜」
「久しぶりに母さんとワインを傾けながら食事したいなあ」
「そうね〜。お父さんと二人きりのレストランなんて、今の私たちには無縁だものね〜」

これだけは絶対に譲れないったら譲れない!
レストランも夜景も全部オレと直江のものなんだからな!

「……着きましたよ、お父さん。中華街。……家族3人水入らずでお食事をどうぞ」
「………………ケチだな」
「ケチですか……ええ、そうですね。ではケチな私からクリスマスプレゼントです。2千円」
「2千円?」
「帰りはこれで電車に乗って帰ってください。ではごきげんよう」

いいぞ、直江!!
父さんたちを強引に車から追い出したオレたちは急いでドアを閉めてホテルへ出発!
そんでホテルのレストランに着いたオレたちは店の人に「これこれこういう人が来たら追い払ってください。最悪警察を呼んでもかまいませんから!」と言い含めて小金を握らせて、ロマンチックな食事を楽しんだ。

その夜は二人の携帯に何度も着信があったけど全部無視。最終的には電源も切って家に帰ったら厳重に戸締り。
やっと一息ついてから邪魔されまくったクリスマスを再開とばかりに寝室でエッチに及んだ。
今年は25日が学校だからエッチは昨日たくさんしたけど、やっぱ今日もしちゃった。

「明日は終業式が終わったらすぐに帰ってチキンやケーキの用意して待ってるからな」
「はい、お願いします。私もなるべく早くに帰ります」

じっと直江を見つめたら優しくチューしてくれた。
やっぱり記念日には二人きりで過ごすのが一番ですねって。
学校の終業式がない年は海外旅行でもおねだりしちゃおっと。

 

 

翌日の学校で直江は教師やら女生徒からクリスマスパーティーにガンガン誘われてたけど、全部お断りしてた。
ふん、当たり前だ。オレという可愛い奥さんがいるんだからな。
今日は二人っきりでラブでメロウでスイートなクリスマスを過ごすんだ!

「ぅえええ?!」

そんなオレが家に帰ったら、なんとドアに家族からの復讐が貼られてた。
名前の明記はなかったけど、絶対にこれは父さんたちの仕業だ。

『キサマラニ不幸ノくりすますヲ届ケル。FROM黒サンタ』

って黒い紙に赤い絵の具で書いてあった。そして足元には黒い小箱が。

「なんだ……?」

怖かったから直江が帰ってきてから開けることにして、ビクビクしながらチキンやケーキを準備。
夕方、旦那さんが帰ってきた。

「そうですか、こんなものが……」
「開けてくれ、直江」
「はい……では……」

ゆっくり箱を開ける旦那さん。奥さんはその後ろで怯えながら見つめる。
蓋が開いた瞬間、異臭が放たれた。もうとんでもなく臭い異臭だ。何かのウ×コ的な。(お食事中の皆さんすいません)

「なにコレ!くっさ〜!」
「たまりませんね……」

中に何か青っぽい丸いのが入ってた。
直江が用心しながらそれを手にとって見たら。

「ピータンですね……」
「ピータン?て、あの中国のタマゴのやつ?」
「昨日中華街で大量に買って、それの袋を開けてこの箱に詰めたんですね。なんとまあセコイ……」

くそ、ロマンチックなクリスマスが台無しじゃん!

「でもコレ、おいしいんですよね。大好物です」
「マジで?オレ、食ったことないからわかんないけど」
「あとでこれも食べましょう。不幸のクリスマスのわりにいいものを貰いましたね」
「うーん、直江がそう言うならいいか」

そんでクリスマス再開!
ピータンも変な色してるくせにうまかったし、直江からセイコーの新作腕時計ももらえたし、オレが作った食事もおいしいってたくさん食ってくれたし。

「これ、オレからプレゼント」
「なんでしょうね」

包みをガサガサ開けながらニヤニヤしてる。きっと喜ぶぞ。

「なんですか、これ」
「いいもの」

SDカードだ。これにはパソコン能力を上げたオレが編集した『奥さんのステキな写真集』が入ってる。
しかもオマケムービー付きなんだな。

「あとでエッチしながら見ると楽しいかもよ?」
「……本当ですか、高耶さん!」
「うん」

内容はみんなには内緒だ。直江だけに見せる写真集だからな。

「メリークリスマス、旦那さん」
「メリークリスマス、奥さん」

最後まで邪魔されまくったクリスマスだけど、なんかこういうのも楽しいな。
何年かに一回はみんなでクリスマスパーティーしてもいいかも。

「早く書斎に行きましょう!そして見ながらエッチしましょう!」

やっぱ二人きりでした方がいいのかな?

 

END

 

 
   

あとがき

微妙に遅くなりましたが。
橘夫妻はいつも誰かに
クリスマスを邪魔されます。
ロマンチックにはほど遠い。


   
         
   
   
         
   
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