高耶さんは18歳


第7話 

あけおめとオレ

 
         
 

あけおめ!今年でオレと直江との結婚生活も3年目に突入する橘家からお送りします!
去年と同じように年末を過ごしたオレたち。
大掃除を二人でやって、おせち料理を実家で作って、除夜の鐘を聞きながら(直江は実家に帰らなかったんだ)年越しそばを食って……。
のんびり楽しい大晦日をすごしたら、もちろんその夜はエッチだ。

「高耶さんたらオトナになりましたね」

だって!
そりゃ結婚してもう1年半だもん。頭も体もオトナになってるに決まってんじゃん!

そんなわけで直江と幸せ満載なお正月を迎えたのであった♪

 

 

そんなラブラブ正月の午後、お義母さんがやってきた。
当然前々から電話で来る時間を知らせてくれて、お年賀にハムでも持ってきて、オレも直江も準備万端整ったところで来てくれたわけじゃない。
いきなり来たんだ。

午前中はポカポカした日差しが入るリビングで直江とチューしてイチャイチャして、穏やかな一日になりそうだな〜なんて考えてたんだけど、正午ピッタリにドアフォンが鳴って直江が出たらお義母さん。

「えっ!お母さんですか?!」

素っ頓狂な声を出した直江。直江だって母親が急に来るなんて思ってもみなかったんだ。
だってお義母さんはこの家が建って直江だけが住んでる頃にしか来たことがない。
近寄るのすら嫌がってたぐらいなんだから。
そのお義母さんが来たってことは……オレとバトルしに来たに違いない。正月っから。

 

 

「ごめんなさいね〜、突然来ちゃって。ちょっとこの近所にご挨拶するお家があったものだから」
「いえ、いいんですよ。ゆっくりしていってください」

絶対違う。用があっても寄り付かなかったんだから。これは要するに『突撃!息子のお昼ご飯!』だ。
いや、『突撃!息子のお正月!』かな?

「いらっしゃい、お義母さん」
「お邪魔しますね。お昼時に来ちゃってごめんなさい」

ウチで食う気でいたくせに。食えないババ……いや、お義母さんだぜ。

「ああ、そんな時間ですね。まだお昼は食べてませんか?」
「ええ、もうお腹ペコペコだわ」

コートを直江に預けて疲れた感を出しながらソファに座った。
そして周りを見回して室内チェックだ。大丈夫。一昨日の午後に掃除はしてあるぞ。

「じゃあうちで食べて行ってください。高耶さんのおせち料理、おいしいですから」
「え?ああ、そうね〜。高耶くんの……」

なんだよ。塩分が多いとか言いたいのか。しょうがないだろ、我が家の味付けなんだからさ!
それにオレは育ち盛りの高校生。汗もたくさんかくし塩分は必要不可欠なんだよ!

「ね?高耶さん。いいですよね?」
「……うん」

本当はヤダ。絶対に何か文句言われるもん。
直江の野郎、そんな奥さんの気持ちもわからないなんてダメな旦那さんだな!

「んじゃ今から雑煮作りますから、お義母さんは直……義明さんとゆっくりしててください」
「悪いわね〜、お願いしちゃおうかしら」

本当に悪いと思ってるのか?なんて疑問はまったくない。悪いなんて思ってないよ、このお義母さんは。

直江がお義母さんのぶんのお茶を淹れてリビングで二人で談笑し始めた。
聞き耳を立てながら話してたらどうやら最近の直江の近況について尋ねてるようで、体は悪くしてないかとか、学校はうまくいってるかとか、千秋との関係は良好かとか聞いてた。
でもオレに関して、つまり夫婦生活に関しては一切聞いてない。
そんなに末息子を奪ったオレが憎いのかー!!

雑煮に入れる三つ葉を切ってた時、直江がオレの進路について話し出した。

「高耶さんは高校を卒業したら専業主婦になってくれるそうですから、これからは今までかけていた負担も減りますし、私も余裕を持って教師が出来そうです」
「まあ!義明ったら余裕がなくて仕事してたの?!」

チ。そうやってオレを悪者にして!

「いえ、そうではなくて。高耶さんには高校生と主婦という二足の草鞋で大変な負担をかけていますから、そのぶん私も心配してしまってるんです。でも専業主婦になれば家事に専念出来ますから、高耶さんに余裕が出るでしょう?奥さんの余裕が私の余裕に繋がる、という意味です」

お、いいこと言うじゃねえか。さすが直江。
オレの選んだ旦那さんなだけあってわかってるよな〜。

「そう、専業主婦……男の子がねえ……男子は仕事を持つものなのにねえ……」

う!オレだって好きで専業主婦やるんじゃねえぞ!大学受験を諦めざるを得なかっただけなんだ!
それに直江が専業主婦になってくれって望んでるんだよ!この理由はバカっぽいけど!
オレが直江の目の届かないところでモテたりするのがイヤなんだって。

「専業主婦だって立派な仕事ですよ、お母さん。結婚してみてわかりましたが主婦業って大変だなっていつも思うんです。それをこなしてくれている高耶さんは誰よりも立派です」
「ああ、そう」

直江がオレを褒めるとお義母さんはどーでもよさげな返事をする。
どうせ「そのうち離婚するんでしょ」とか考えてるんだろうな。そーはいくか。
オレと直江は赤い糸で結ばれたラブラブカップルなんだから!

「ちょっとお手洗い借りるわね」
「あ、はい。場所は……」
「何度か来てるからわかるわよ」

すまし顔でリビングから出て行った。

「直江」
「はい」
「……わかってるだろうな……?」
「………………ええ、もちろん」

もしもお義母さんとオレがケンカになった場合、直江は何が何でもオレの味方をしなきゃいけない。
前にオレがお義母さんにいじめられた時、直江はお義母さんの味方をした。オレを信じない直江と夫婦喧嘩になって泣き出して離婚を言い渡した。慌てた直江は二度とお義母さんの味方をしないと約束したんだ。

「わかってるなら今から洗面所に行ってこい。お義母さん、絶対に風呂場とかのチェックしてるはずだから」
「え、まさかそんなことは」
「……離婚されたいのか……?」
「行って来ます」

雑煮が完成して、おせち料理を冷蔵庫から出して漆のプレートに乗せて、白菜の漬物を切って出した。
まあこんなもんだろ。正月なんだし。

直江とお義母さんはなかなか戻ってこない。どうしたんだろ?と思って洗面所に行ったんだけどいなかった。
え?いない?って、ことは?
もしかして!!!

「お母さん!いい加減にしてください!」

二階から直江の大きな声がした。二階……寝室!!
急いで駆け上がって寝室に飛び込むと、直江が必死でベッドに触らせないように立ちふさがってた。
当たり前だ!だって昨夜は、ええと、その、そのベッドで直江と……!シーツは替えたけどゴミ箱やら枕元には!

「いくらなんでも夫婦の寝室に勝手に入るなんて!」
「あら、いいじゃない。息子たちの寝室でしょう」
「ダメです!」

頼む!ゴミ箱と枕元のケースには触らないでくれ!

「お義母さん!そんなことより昼飯できたから食べましょう!」
「そうですね!そうしましょう!ほら、お母さん!」

渋々とベッドから遠ざかって直江に引っ張られるようにして一階に降りたお義母さん。
まったくなんてこと仕出かすんだ!

「ほらほら、高耶さんのお雑煮、おいしそうでしょう?」
「おだしが真っ黒じゃないの……うちのお雑煮は白だしなのにねえ……」

うるせえっての!!

「高耶さんがご実家のお母さんから習って一生懸命作ったんですからそんなこと言わないでください」
「だけど義明も塩分を気にしなきゃいけないでしょう?来年は30歳なんだし」
「そうですけど、私の奥さんが作ったものなんですよ。おいしいんだからいいんです」

なんでこんなに文句言われなきゃいけないんだ?!
そりゃ奥さん業を完璧にこなしてるわけじゃないけど、オレは直江のために何だって頑張ってやってきたんだ!
今までのオレ以上に頑張ったんだ!
それを……それを〜〜〜!!

「あらまあ、数の子もこんなにお醤油に浸して……」
「う……」
「義明は黄色い数の子が好きなのにねえ」

もうダメ!オレ泣いちゃいそう!
って、思って下を向いたら。

「いい加減にしてください、お母さん!高耶さんの心のこもったおせち料理がそんなに食べたくないなら食べなくて結構です!もう帰ってください!お正月から私の奥さんを泣かせるような真似をして!」
「よ……義明……」
「さあ、帰って!私のために必死で毎日頑張ってる高耶さんを愚弄することは母といえども許しません!」

直江がこんなに怒ったの初めてみた。
お義母さんのコートとバッグを持って、背中をグイグイ押して玄関に連れて行って、お義母さんが泣き出しそうになってるにも関わらず怒鳴って帰らせた。

あ!ダメじゃん!オレ!
ここでお義母さんを引き止めないといけないじゃん!嫁としてさ!

ダッシュで外に出てトボトボ歩いてるお義母さんを引き止めた。

「待って、待って、お義母さん!」
「た……高耶くん……」
「大丈夫だから!オレ大丈夫だからお雑煮もおせちも食ってって!なお……義明さんにはオレからちゃんと話すから!」
「……あなたって子は……」

これがきっかけで仲良くなれるかもしれないんだし。
直江だって本気で怒ってるわけじゃないだろうし、きっとこうしてオレとお義母さんが打ち解けるようにわざとやったかもしれないし。

「ね?お義母さん、仲直りして食べてって?」
「…………いい気にならないでちょうだい」
「へっ?」
「取り入ろうったって無駄ですからね。まったく、義明はあんな子じゃないのよ。それもこれもあなたの影響ね。あんなに乱暴な言い方をして。それにあんな塩分の濃い食事なんて食べられたもんじゃないわ。帰ります」
「…………は?」
「あなたを嫁と認めるわけにはいかないのよ」

言い捨ててお義母さんはカツカツと靴を鳴らして帰って行った。

なんじゃそりゃ〜〜〜〜〜〜!!!

 

 

呆然としながら家に入ったオレ。

「ちょっと言いすぎましたかね……どうでした?落ち込んでました?」
「おまえ、本当にあのお母さんの息子なのか?」
「はい?」

家に戻ってからちょっと反省してる直江に全部話した。

「そうですか……そんなことを……」
「もうヤダ!二度とお義母さんに来て欲しくない!」
「我が母ながら呆れます……すいません、高耶さん」
「直江に謝られても腹の虫が治まんないよ!」

軽く直江の腕をポカスカ殴って、直江がそれを笑顔で受け止める。
オレたちこんなにいい夫婦なのに、なんでお義母さんはそれがわかんねーんだろ。

「いい夫婦すぎて妬ましいんでしょうね。可愛い奥さんと、奥さんを大事にしてる旦那さんですから」
「う〜、そんなにオレの料理しょっぱいかな〜?これでも塩分減らしてるんだけど」
「大丈夫。とってもおいしいですからこのままで」

ソファに座った直江の膝に乗ってギューッと抱きついて甘えた。
せっかく作った雑煮が冷めちゃったけど、直江にこうしてもらえる方がずっと好きだからいいや。

「しばらくの間は母が来ても家には入れません。また電話で叱っておきますから、高耶さんは今のままでいいですよ」
「うん」

モヤモヤは消えないけど、直江が優しいから許すとしよう。

 

 

 

そして。
三が日が明けた4日。またもやお義母さんから荷物が届いた。
前にバトルした時は減塩料理の本だったけど、今回は何だろう?

「…………しゅ……就職情報誌……」
「オレに専業主婦やるなってことか……?」
「たぶん……」

なんちゅーお義母さんだ!!
そんなにオレと直江がラブラブなのが憎いのか?!
そんなにイチャイチャする時間を減らしたいのか?!

「こうなったらキッチリカタつけてやらぁ!嫁姑大戦争だ!マザーゴーホームだ〜!!」
「はぁ…………」

かくしてオレの嫁姑バトルも3年目に突入だ!
今年こそ完勝してやる!!

 

END

 

 
   

あとがき

クリスマスに続き
お正月も邪魔される
橘夫妻の生活。
高耶さんはいつ
完勝できるのか!?

   
         
   
   
         
   
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