去年はケンカしたバレンタインなだけに、今年こそは最初から最後までラブラブで過ごそうと決めたオレ。
事前にトリュフの材料を買い込んで準備万端、あとは直江が帰ってくる前に作るだけ。 学校が終わってからソッコーで帰って、急いでチョコ作りを始めた。
もっと前に作りたかったんだけど、こーゆーものは旦那さんがいない時間に作って驚かせるのがいいと判断したから2月14日の今日、製作開始だ。 図書室で借りてきたお菓子の本とにらめっこしながら生チョコを混ぜ混ぜ。
ココアパウダーやシュガーパウダーでコーティングして、お菓子用の金箔で見た目豪華にするんだ。 ま、いい奥さんであるオレにとっちゃこんなこたぁ御茶の子さいさいだ。 丸めた生チョコを冷蔵庫で冷やして、あとは旦那さんが帰ってくるのを待つばかり。
意外に早く終わったもんだからヒマになっちまって、出来上がりが気になってきた。 「そーだ。一個味見しなきゃ」 危ねえ、危ねえ。
前に味見しないで出した卵焼きのしょっぱかったこと!
あんなのを直江に食わせるなんてダメな奥さんだったけど、今はそんなことない。
けど初めて作ったトリュフなだけに、味見はしとかないと不安だよな。 「この小さいのでいいや」 まだ金箔が乗る前の小さいトリュフを一個口に入れてみた。 「…………うまい!!」 すっげー!さすがオレ!ベテラン奥さんでもこんなうまいトリュフは作れないに違いない。
だけど大きいのはまだ柔らかそうだから、もうちょっと冷蔵庫で冷やしておかなきゃな〜。
「ただいま」
「…………」
「ただいま、高耶さん」
「…………おかえり」 チョコを貰えると思って期待してる顔の旦那さんのご帰宅だ。 「どうしたんです?そんな陰気になって」
「……ごめん」
「はい?」
「ごめん!直江のチョコ、全部食っちゃった!!」
「えええ?!」 あれから数時間、直江が帰ってくるまでに何度も冷蔵庫を開けてトリュフの出来具合を見てた。
それはオレにとって危険な行為だったんだ。
なんたってオレは無類のチョコ好き!目の前に美味しいトリュフがあれば食いたくなるのも当然で、ついついフラフラと作ったチョコを「あと一個ぐらいなら」って思いながら全部食ってしまった。 「うわ〜ん!ごめんよ〜!!」
「そんなぁ……」 旦那さんはコートも脱がないまま床に膝をついて打ちひしがれた。 「今年は高耶さんの手作りチョコだというから楽しみにしていたのに……」
「オレだってあげたかったんだよ〜!」
「何も全部食べることはないでしょうに……一個ぐらい残しておいてくれたって」
「最後の一個ん時はもう記憶なんかねーんだよ〜!食い始めたら止まらなくなって〜!」 今日の我が家は暗い雰囲気に包まれてしまった。
直江はなかなか立ち直らないし、オレは自分のバカさ加減に嫌気が差して自己嫌悪に陥ってるし。 「こんなことならバレンタインディナーに行けば良かった……」
「あーん!」 チョコの匂いが充満してるリビングダイニングなのに、肝心のチョコが一個もないなんて。 「……いつまでも落ち込んでてもしょうがないですね……高耶さん」
「ん」
「欠片すら残ってないんですか?」
「ココアパウダーとシュガーパウダーと金箔だったら残ってる」
「それじゃダメです……せめて材料のチョコレートぐらい」
「ない」 直江は絶望的な顔をしてダイニングテーブルに座った。
当然だけどオレは夕飯を作る気力も残ってなくて、テーブルの上にあるのは急須と湯呑だけ。 「チョコは……また今度でいいです……また作ってください……」
「ごめん……」
「はあ……着替えてきますから、夕飯食べに出かけましょう」
「うん」 あああ、オレってなんてバカなんだろう。いくらチョコ大好きだからって。
また明日にでも材料買って……って、お小遣いもう残ってないよー!!
どーしよう!! 「行きましょうか」 カジュアルな格好に着替えてきた直江がマフラーをオレに巻いた。
「気にしないでいいですからね」ってチューしてからコートも着せてくれた。
その優しさにまた涙がウルウルしてきて、ハンカチで拭いてもらって手を引かれて玄関を出た。 「ガストでいいですか?」
「うん」 車の中でもチューしてもらってガストに出発。
ガストでハンバーグを食べてるうちになんとかオレも直江も立ち直って、いつものような楽しい食事になった。
最後にデザートも食えたし、これでとりあえずは落ち着いた。 だけど家に帰ってきてから玄関にある紙袋を見てまた落ち込みそうになった。
だって直江ってばまた今年も50個ぐらいチョコ貰って帰ってきたんだもん。 「それ食うの?」
「いえ、名前だけ控えておいて、全部実家に送ります。私には高耶さんのチョコだけでいいんです」
「……明日も作れないよ?」
「どうして?」
「小遣い、もうないもん。材料買えない」
「じゃあ私が買ってあげますから。明日、お小遣いをあげますから、ジャスコで買ってらっしゃい」
「直江〜!」 抱きついてチューして、玄関だってのにエッチな気分になってモゾモゾし始めた。 「高耶さん」
「んん?」
「いいこと思いついたんですけど」
「いいこと?何?」 手を繋いでキッチンへ。
なんだ? 「ここで脱いで?」
「へ?」
「ココアパウダーとシュガーパウダーはあるんですよね?それと金箔も」
「う、うん……あるけど、そんなんじゃチョコは作れないぞ?」
「おいしそうなチョコがあるじゃないですか、目の前に」 ダイニングテーブルに押し倒されて熱烈なチューをされた。
もしかして、おいしそうなチョコって……オレ?! 「いただきます♪」 う〜、しょうがねえか!! 「ご馳走様でした」
「バカ……変態、エロ教師、ケダモノ」
「ええ、なんとでもおっしゃってくださいな。愛する奥さんからチョコレートを貰えなかったせいですからね」
「う……」 直江にパウダーや金箔でコーティングされたトリュフの奥さんはおいしく食べられてしまった。
なんつーバレンタインだ。
いやその、オレの頭の悪さが原因なんだけどさ。 「最高のバレンタインチョコでしたよ、奥さん?」
「もっとロマンチックにしたかったのに〜!」
「明日、仕切りなおししましょう」 優しく頭を撫でられて、チューされて、ギュギュって抱きしめられたらもう陥落。
直江に甘えながら風呂に入ってバレンタインの夜は終わった。 明日はもっとちゃんとしたバレンタインにしなきゃ!愛する旦那さんのために! END |