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高耶さんは18歳 |
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「橘せんせ~」 オレがやってる生活委員の顧問でもある直江、じゃなくて橘先生に、卒業式で配る胸につける花のことで聞きたいことがあったから、ホームルームが終わったのを引き止めて廊下で話した。 「あのさあ、卒業式でココにつける花って、オレが職員室に取りに行けばいいんだっけ?」 新発田の名前が出たとたんにコレだ。不機嫌先生になっちった。 「もちろん先生も一緒に運んでくれるんだよな?」 お、直ったか? 「高耶さんに重たいものを持たせるのは不本意ですけど、委員会の仕事ですから我慢してくださいね?」 ラブラブビームを出しまくって会話をしちまったのが良くなかったかも。 「橘先生?」 その女の声にオレと直江は一瞬固まった。 「あの……ちょっといいでしょうか……?」 いつもは堂々と話しかけてくる山本先生なのに、今日はちょっと怪しんでるくさい。 「ええ、いいですよ。じゃあ、仰木くんは教室に戻ってください」 なんか山本先生の目がすっごいオレを見てるんだけど……大丈夫だよな?
「ただいま、高耶さん」 今日は夕飯前に帰ってきた直江。玄関でお出迎えしてチューしてギューして。 「もう夕飯できるから、着替えてこい」 むちゅー。 それから直江は着替えて戻ってきた。テーブルにはアツアツの豚汁とホカホカご飯と菜の花のおひたしとブリの塩焼きとおしんこ。 「おいしそうですねえ」 冷えたビールも出して旦那さんの食卓は完璧だ。 「いただきます」 二人で仲良く夕飯の図。こんなに仲良しな夫婦って世界中探してもどこにもいないんじゃないかぐらい。 「ところで高耶さん」 言葉を選ぶみたいに考えてから直江が言った。 「山本先生なんですけど」 少し長くなりますが、と前置きをして直江は話し始めた。 「朝、二人で廊下で話したじゃないですか。あの雰囲気が生徒と先生っぽくなくて、妙に仲良しでしたねって言われたんですよ。その後で婚約者の話になりまして」 とうとう本格的に告白なんかしやがったか、あの先生は! 「それで直江はどう答えたんだ!」 つーことは?えーと?えーと。 「つまり婚約者の他に、高耶さんに恋をしてるんじゃないかと疑ってるわけです」 なるほど。そうか。そりゃ普通は橘先生みたいなかっこいい先生が男子生徒となんかラブラブになるって思わないよな。自分で考えてるくせにイマイチ腑に落ちないけど。 「私も悪かったんです。学校で高耶さんなんて呼んでしまったし、誰も見ていないと思って先生であることを忘れてしまったんですから」 いつもの如くノロケながらのケンカだ。 「大丈夫なのかな?」 オレと直江の結婚生活を脅かすものは出来るだけ遠ざけたい。 夕飯を終わらせて直江はビール、オレはジュースを持ってリビングへ。 「直江にストーカーついたらオレが追っ払ってやるからな」 ゴロンと寝返りを打って優しい旦那さんの膝に頭を乗せて甘えた。 「も~、ちょー好き、直江。大好き~」 直江もムートンにゴロンてなって、寝っ転がりながらイチャイチャ。チューもたくさんした。
『高耶さん、今日は実家に帰っていてください!大変なんです!バレそうです!』 そんなメールが5時間目の直前に入った。 その後しばらくして、直江からあんなメールが来たんだ。 と、そんな場合じゃねえ!バレそうだって、橘先生の二股相手(?)が仰木くんだってバレそうだってことだよな! 実家に帰ってろってことは「山本先生が橘先生の身辺調査に出た」ってことかもしんない! 「どーしよ、譲~!!」 卒業式までまだまだ日にちがある。一ヶ月以上も直江と別居なんてオレ、耐えられないっつーの! 「とにかく今日は実家に帰るしかないって。もしかしたら山本先生、橘先生のあとをつけて家を見るかもしんないんだしさ」 甘ったれメールを直江に送ってみたんだけど、やっぱり答えは「実家に帰れ」だった。 「ひーん!」 譲の制止も振り切って、カバンを持って帰った。どこにって、オレと直江のスイートホームにだ!
家から一歩も出なければ山本先生に発見されることもないし、直江との結婚生活を続けていられる、そう思って引きこもりになろうとしたんだけど、学校から帰ってきた直江に怒られた。 「それじゃ欠席になって卒業できませんよ?」 グズグズ泣き出したオレをギュウウウっと抱きしめて、何度も頭や背中を撫でて、チューしてくれた。 「毎日チューしたいもん。甘えたいもん。エッチだってしたいもん。直江のご飯作りたいし、お弁当も作りたいし、洗濯も掃除も全部オレがやりたいんだもん!」 好きなら困らせたりしちゃダメだってことぐらい、高校生のオレですら知ってるのに! 「仕方ないですね……奥さんに泣かれては旦那さんとしての面目が立ちません。山本先生にはいっそきちんと話して理解してもらうのが一番でしょうね」 直江が先生辞めちゃうのか?すっごいいい先生で、人気もあって、これからって時に? 「ダメ」 大事な旦那さんの仕事を邪魔するわけにいかないもんな。 「大丈夫なんですか?」 オレたちはヒシと抱き合い、愛し合ってることを確認した。 その日の深夜、オレは直江に抱えられるようにしてコッソリと車に乗り込み、実家へと帰った。
「なんですって?!夫婦愛の邪魔者が現れたですって?!」 深夜の実家のリビングで緊急家族会議が始まった。 「誰だ、その不届きな輩は!」 激怒した父さんと母さんと美弥が直江を詰問した。 「学校の同僚で、山本先生という女性教師なんですが」 寝てるとこを起こされた怒りはオレたちじゃなくて山本先生に向けられたようだった。 「お母さんにいい考えがあるわ」 母さんはメッチャクチャおっかない顔して笑った。 「煙のないところに火を立ててあげるから待ってなさい」 どんな怖いことが待ってるかオレは知らないけど、母さんのこったから山本先生に大打撃を与えるんじゃないかと思う。 「あの、お義母さん。いくら邪魔者だと言っても同僚ですから、山本先生にひどいことは……」 息子たち、と言われて自分も一応息子なんだと直江は思ったらしい。 「じゃあ私は家に戻ります。高耶さんはしばらく実家から通ってくださいね?」 みんなが見てるけど寂しかったから直江に抱きついて甘えた。 玄関まで見送ってからチューして抱き合って、チューして手を握り合って、チューして別れた。 「……なおえ~」 半泣きで自分の部屋に入って冷たいベッドで眠った。
ピンポンパンポ~ン。 『山本先生、山本先生。至急職員室までお戻りください』 そんなアナウンスが聞こえてきたのは1時間目の授業が(つっても受験シーズンで自習だけど)始まってすぐ。 今朝は8時間ぶりに会う直江の顔を見て泣きそうになったり、教室の中で抱きつきそうになったりしてオレの精神状態はハチャメチャだった。 「高耶、山本先生が呼び出しだって」 も、もしかして母さんが本格的に動き出したんじゃ……。
放課後、直江の言いつけに従って大人しく実家に帰ったオレは、制服を着替える前に母さんのいるキッチンに行った。 「何かしたのか?」 ブイサインを出した母さん。 「山本って教師はいらっしゃいますの?!」 オフホワイトのスーツとひっつめ髪、吊り上り眼鏡をかけた『教育ママスタイル』で烈火の如く怒り狂った芝居をしながら母さんは職員室に乗り込んだ。 「や、山本ですか?」 母さんは若いし、まあまあの美人だからそれだけでも迫力があるのに、本来の『面白がり』の性格も手伝ってド派手な芝居を打った。 呼び出しされた山本先生は何があったかと急いで戻ってくると、目を吊り上らせた母さんを見てまずビビった。 「あの……私に何か……?」 まくし立てるように母さんは教頭と山本先生に怒鳴り散らした。 「そ、そんなお母さん、私はそんなこと……」 職員室全体に聞こえるように大きな声で呼びかけた母さん。 「高耶とどの先生が噂になってるか聞いたことございませんの?!担任の橘先生?!どうですか?!」 そこで教頭が仲裁に入った。 「ちょちょちょ、ちょ、お母さん!ここでは何ですからこちらへどうぞ!」 山本先生、直江、母さん、教頭の4人は校長室に移動した。 「まあ、落ち着いてください。仰木くんが、その、ホモだという噂はどこから?」 言葉遣いが微妙なのは本物の教育ママじゃないからだからスルーしてくれ。 「それで山本先生……。先生はそんな噂は……?」 山本先生に噛み付く母さんには教頭も直江も焦ったそうだ。 「橘先生!担任としてどうなんですの、この噂が流れたことをどうするおつもり?!何か知ってらっしゃるんでしたら全部教えていただきたいですわ!」 直江は「この人に逆らったらどうなるかわからん」と恐れをなして、母さんに合わせることにしたんだそうな。 「その噂は……私も聞きました……というか、私が仰木くんの相手ではないかと、山本先生に疑われてまして」 直江にバラされた山本先生は顔面蒼白、世界で一番恐ろしいPTAの前で小さくなるばかり。 「山本先生……やっぱりあなたが噂を流した張本人なんですね……?」 緊張した面持ちで教頭は山本先生に詰め寄った。 「そんなつもりじゃなかったんです~!」 片思いをしている橘先生が妙に仰木くんと仲良くしていたから疑っただけだと、本当のことを話してみたものの、母さんは大芝居の最中、直江は母さんに圧倒されて沈黙、校長と教頭は不祥事をどうするかでオロオロ。 「山本先生、これは由々しき事態ですよ?生徒がホモだなんて噂を教師が流すなどもってのほかです」 校長に厳重注意をされて、山本先生はその場にいた全員に謝った。 じゃあここで実家のキッチンに話を戻すぞ。 「母さん……やりすぎだよ……」 息子夫婦の幸せを守ってくれたのは有難いけど、これじゃ山本先生がかわいそうだ。 「直江に嫌われたらどーすんだよ~」 母さんの予言は的中していた。
安心してスイートホームに帰れるようになったオレを直江が迎えに来てくれた。 家に戻ってリビングのムートンに倒れた直江。その横に座って山本先生の安否を聞いたら、処分は無しだってことでオレも一安心。 「ひどく疲れました……」 本当に疲れた顔をしてる直江にチューして、膝枕をしてやった。 「高耶さんがもう泣かずに済むなら、あのぐらいは耐えますよ」 笑ってオレを引き寄せて寝かせて、ムートンの上でイチャイチャ。 「あんなに怖いお母さんがいたんじゃ、高耶さんを悲しませることなんか一切出来ませんね」 一瞬固まった直江が思ったことはオレと同じだろう。 「でも、私は二度と高耶さんを離すことはしませんから」 とりあえずこれで山本先生への牽制ができて、学校側のオレへの扱いが慎重になったってことでOKとしよう。
END
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あとがき |
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