[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

         
 

高耶さんは18歳


第11話 

ピンチとオレ

 
         
 

「橘せんせ~」

オレがやってる生活委員の顧問でもある直江、じゃなくて橘先生に、卒業式で配る胸につける花のことで聞きたいことがあったから、ホームルームが終わったのを引き止めて廊下で話した。

「あのさあ、卒業式でココにつける花って、オレが職員室に取りに行けばいいんだっけ?」
「いえ、私が朝持ってきます。高耶さんには卒業アルバムを取りに来て欲しいんですけど」
「ん、わかった。新発田と一緒に行けばいい?」
「……ええ、そうですね、新発田さんと」

新発田の名前が出たとたんにコレだ。不機嫌先生になっちった。

「もちろん先生も一緒に運んでくれるんだよな?」
「ええ、ええ!もちろん一緒に運びます!」

お、直ったか?

「高耶さんに重たいものを持たせるのは不本意ですけど、委員会の仕事ですから我慢してくださいね?」
「うん、大丈夫」

ラブラブビームを出しまくって会話をしちまったのが良くなかったかも。

「橘先生?」

その女の声にオレと直江は一瞬固まった。
山本先生だ。

「あの……ちょっといいでしょうか……?」

いつもは堂々と話しかけてくる山本先生なのに、今日はちょっと怪しんでるくさい。
やばかったかな~。

「ええ、いいですよ。じゃあ、仰木くんは教室に戻ってください」
「は~い」

なんか山本先生の目がすっごいオレを見てるんだけど……大丈夫だよな?

 

 

 

「ただいま、高耶さん」
「おかえり~」

今日は夕飯前に帰ってきた直江。玄関でお出迎えしてチューしてギューして。
う~、いい気持ち。

「もう夕飯できるから、着替えてこい」
「はい」
「あ、もっかいチューする」
「はいはい」

むちゅー。

それから直江は着替えて戻ってきた。テーブルにはアツアツの豚汁とホカホカご飯と菜の花のおひたしとブリの塩焼きとおしんこ。

「おいしそうですねえ」
「ビールも出すよ」

冷えたビールも出して旦那さんの食卓は完璧だ。
オレ、すっごくいい奥さんじゃねえ?

「いただきます」
「はい、どうぞ」

二人で仲良く夕飯の図。こんなに仲良しな夫婦って世界中探してもどこにもいないんじゃないかぐらい。
かっこいい旦那さんと可愛い奥さんか~。いいな~、オレたちって。理想の夫婦じゃん。

「ところで高耶さん」
「ん?」
「あとで話そうと思ってたんですが、やっぱり早目に話した方がいいかも知れないので、今いいですか?」
「いいよ。何?」

言葉を選ぶみたいに考えてから直江が言った。

「山本先生なんですけど」
「……山本先生……が、どうした?」
「私たちをちょっと疑ってます」
「え?!なんで?!」

少し長くなりますが、と前置きをして直江は話し始めた。

「朝、二人で廊下で話したじゃないですか。あの雰囲気が生徒と先生っぽくなくて、妙に仲良しでしたねって言われたんですよ。その後で婚約者の話になりまして」
「んで?」
「まあなんというか、婚約者がいることは知ってるけれど、私は橘先生が好きなんです、と」
「うえええ?!」

とうとう本格的に告白なんかしやがったか、あの先生は!
生意気な!!

「それで直江はどう答えたんだ!」
「丁重にお断りしましたよ。婚約者以外の女性とはお付き合いするつもりは皆無ですって」
「それだけじゃねーだろ!」
「ええ、それだけで終わりませんでした。婚約者以外の女性とはお付き合いするつもりはないけれど、男の子とだったらいい……ってわけじゃありませんよね?って冗談めかして言われて」

つーことは?えーと?えーと。

「つまり婚約者の他に、高耶さんに恋をしてるんじゃないかと疑ってるわけです」
「はあ?!なにそれ!」
「いえ、これが普通の考えなんじゃないでしょうか。本命が男の子だとは思わないでしょう?」

なるほど。そうか。そりゃ普通は橘先生みたいなかっこいい先生が男子生徒となんかラブラブになるって思わないよな。自分で考えてるくせにイマイチ腑に落ちないけど。

「私も悪かったんです。学校で高耶さんなんて呼んでしまったし、誰も見ていないと思って先生であることを忘れてしまったんですから」
「いや、それを言うならオレがちゃんと気をつけてれば」
「高耶さんは何も悪くありませんよ。むしろ私が」
「違うって、オレだって」
「私ですよ」
「直江じゃないってば!」
「高耶さんではありませんよっ」

いつもの如くノロケながらのケンカだ。
目を見合わせて笑えばケンカは終わり。夕飯の途中だってのにチューして仲直りだ。

「大丈夫なのかな?」
「しばらくは気をつけないといけないでしょうね。山本先生だけじゃなく、他の人たちにも」
「そうだな」

オレと直江の結婚生活を脅かすものは出来るだけ遠ざけたい。
寂しいけど直江と仲良く喋るのは家だけにしなきゃな~。

夕飯を終わらせて直江はビール、オレはジュースを持ってリビングへ。
床暖房のリビングでムートンに寝そべってテレビを見た。直江はオレの横で座ってる。
テレビ番組はオレが好きな2時間ドラマ。サスペンスだ。主人公の女の友達がストーカーされてピンチ!って内容で、盗聴されたり尾行されたり彼氏に誤解されたり。しかも人が死んで友達が容疑者になったり。
その真犯人を主人公の女刑事が暴く、って内容だ。

「直江にストーカーついたらオレが追っ払ってやるからな」
「お願いしますって言いたいところですが、そんな危険なことにあなたを巻き込みたくありませんよ」
「でもさ~」
「高耶さんに危険が及ぶなら、私は地獄からでも生き返って守りますよ」
「直江~!」

ゴロンと寝返りを打って優しい旦那さんの膝に頭を乗せて甘えた。

「も~、ちょー好き、直江。大好き~」
「可愛い奥さんがお嫁に来てくれて私は幸せ者ですね」

直江もムートンにゴロンてなって、寝っ転がりながらイチャイチャ。チューもたくさんした。
その後は一緒に風呂に入って、ホカホカのまま寝室へ。一緒にベッドに入ってゴニョゴニョやってからグッスリと旦那さんの腕の中で眠った。

 

 

『高耶さん、今日は実家に帰っていてください!大変なんです!バレそうです!』

そんなメールが5時間目の直前に入った。
この日、オレは譲と一緒に学生食堂で弁当を食った。
山本先生が後ろを通ったのがわかったけど、何もないようなそぶりで無視。その後で事情を譲に話した。

その後しばらくして、直江からあんなメールが来たんだ。
どうしたんだと返信してみたら、山本先生が「橘先生も今日は春巻きなんですね、仰木くんも春巻きでしたよ」と言ってきたんだそうだ。
弁当の中身で疑われたのは譲に続いて2人目だ。弁当ってけっこうバレやすいんだな。

と、そんな場合じゃねえ!バレそうだって、橘先生の二股相手(?)が仰木くんだってバレそうだってことだよな!
ヤバいヤバいヤバい!どーしよー!!

実家に帰ってろってことは「山本先生が橘先生の身辺調査に出た」ってことかもしんない!
昨日のドラマのストーカーみたいに!

「どーしよ、譲~!!」
「マジで?!そんなことになってんの?!」
「別居生活になっちまうよ~!」

卒業式までまだまだ日にちがある。一ヶ月以上も直江と別居なんてオレ、耐えられないっつーの!

「とにかく今日は実家に帰るしかないって。もしかしたら山本先生、橘先生のあとをつけて家を見るかもしんないんだしさ」
「でも~」
「今バレたらヤバいんだろ?卒業したらこっちのもんなんだから、それまで我慢するしかないよ」
「ヤダ!我慢できない!」
「我慢しろって!」

甘ったれメールを直江に送ってみたんだけど、やっぱり答えは「実家に帰れ」だった。
寂しいけれど我慢してください、お願いだからって。

「ひーん!」
「高耶~」
「……早退する……」
「え?!」
「もう帰る!」

譲の制止も振り切って、カバンを持って帰った。どこにって、オレと直江のスイートホームにだ!

 

 

家から一歩も出なければ山本先生に発見されることもないし、直江との結婚生活を続けていられる、そう思って引きこもりになろうとしたんだけど、学校から帰ってきた直江に怒られた。

「それじゃ欠席になって卒業できませんよ?」
「でもヤダもん。直江と別居なんかヤダ」
「私だって苦汁の決断だったんです。高耶さんがそばにいない毎日なんて意味がありませんからね。でもこの先、ずっと高耶さんと暮らすためには一時の別居を我慢しなくては」
「ヤダ!」
「わかってくださいよ」
「う~!」

グズグズ泣き出したオレをギュウウウっと抱きしめて、何度も頭や背中を撫でて、チューしてくれた。
こんなに優しい旦那さんと一ヶ月以上も別居なんて耐えられないよ~!

「毎日チューしたいもん。甘えたいもん。エッチだってしたいもん。直江のご飯作りたいし、お弁当も作りたいし、洗濯も掃除も全部オレがやりたいんだもん!」
「高耶さん……」
「山本先生なんか大っ嫌いだ!直江のこと好きなくせに、直江の困ることばっかりやって!」

好きなら困らせたりしちゃダメだってことぐらい、高校生のオレですら知ってるのに!

「仕方ないですね……奥さんに泣かれては旦那さんとしての面目が立ちません。山本先生にはいっそきちんと話して理解してもらうのが一番でしょうね」
「へ?話すの?」
「ええ。吉と出るか凶と出るかはわかりませんが、今なら頼み込めば高耶さんの卒業まで待ってくれるでしょうし。高耶さんに寂しい思いをさせるぐらいなら、学校辞めてサラリーマンになったっていいんです」

直江が先生辞めちゃうのか?すっごいいい先生で、人気もあって、これからって時に?

「ダメ」
「え?」
「先生やめちゃダメだ。直江が先生辞めるようなことになるぐらいなら、オレ一ヶ月の別居も我慢する」

大事な旦那さんの仕事を邪魔するわけにいかないもんな。
少しぐらい寂しくても……いや、すっごく寂しくたって我慢しなきゃ!

「大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないけど、がんばる」
「……高耶さん!!」

オレたちはヒシと抱き合い、愛し合ってることを確認した。
夫婦愛にはたまに障害が付き物だ。きっとより深く愛し合うために!

その日の深夜、オレは直江に抱えられるようにしてコッソリと車に乗り込み、実家へと帰った。
当たり前だがエッチしてから。

 

 

 

「なんですって?!夫婦愛の邪魔者が現れたですって?!」

深夜の実家のリビングで緊急家族会議が始まった。

「誰だ、その不届きな輩は!」

激怒した父さんと母さんと美弥が直江を詰問した。

「学校の同僚で、山本先生という女性教師なんですが」
「おのれ、山本!美しい夫婦愛を壊そうなどと不届き千万!この両親が黙っているとでも思うのか!」
「そうよね、お父さん!高耶と義明くんの仲を壊そうなんて10万年早いってのを知らしめてやらなきゃね!」
「美弥も手伝う!」

寝てるとこを起こされた怒りはオレたちじゃなくて山本先生に向けられたようだった。
あ~、助かった。

「お母さんにいい考えがあるわ」
「何?」
「義明くん、教師が一番怖いものはなぁに?」
「……PTAです……」
「でしょ~?うふふふふふ」

母さんはメッチャクチャおっかない顔して笑った。
オレも直江もビビるほどに。
父さんは母さんの顔を見て何かわかったかのように「はっは~ん」と言った。
似たもの夫婦ってのはこーゆーのを言うんだろう。

「煙のないところに火を立ててあげるから待ってなさい」

どんな怖いことが待ってるかオレは知らないけど、母さんのこったから山本先生に大打撃を与えるんじゃないかと思う。

「あの、お義母さん。いくら邪魔者だと言っても同僚ですから、山本先生にひどいことは……」
「ひどいことなんかしないわよ~。ウチの可愛い息子たちの悲しみ程度に痛めつけるぐらいだから」
「……はあ……」

息子たち、と言われて自分も一応息子なんだと直江は思ったらしい。
観念して不気味に笑う両親と、うまいこと絡んでやろうって顔してる美弥を見て顔色を青くした。

「じゃあ私は家に戻ります。高耶さんはしばらく実家から通ってくださいね?」
「うん……」
「いつでも愛してますから大丈夫。メールも電話もたくさんしますから」
「直江~」

みんなが見てるけど寂しかったから直江に抱きついて甘えた。
ヒューヒューとか、よっ、ご両人!とか聞こえてきたけど無視。

玄関まで見送ってからチューして抱き合って、チューして手を握り合って、チューして別れた。

「……なおえ~」

半泣きで自分の部屋に入って冷たいベッドで眠った。

 

 

ピンポンパンポ~ン。

『山本先生、山本先生。至急職員室までお戻りください』

そんなアナウンスが聞こえてきたのは1時間目の授業が(つっても受験シーズンで自習だけど)始まってすぐ。

今朝は8時間ぶりに会う直江の顔を見て泣きそうになったり、教室の中で抱きつきそうになったりしてオレの精神状態はハチャメチャだった。
直江もオレを見る目がいつもの橘先生とは違ってロミオのような寂しげな瞳だった。さしずめオレはジュリエット。

「高耶、山本先生が呼び出しだって」
「ああうん、なんだろうな」

も、もしかして母さんが本格的に動き出したんじゃ……。
なんだろう?!

 

 

放課後、直江の言いつけに従って大人しく実家に帰ったオレは、制服を着替える前に母さんのいるキッチンに行った。

「何かしたのか?」
「したわよ~」

ブイサインを出した母さん。
その母さんの言うことにゃ、今朝、山本先生を呼び出したのはやっぱし母さんだってことだった。
いきなり学校に訪問し、職員室に(直江もいた)乗り込み、山本先生を呼べと教頭に言ったらしい。
ここからは母さんの回想をどうぞ。

「山本って教師はいらっしゃいますの?!」

オフホワイトのスーツとひっつめ髪、吊り上り眼鏡をかけた『教育ママスタイル』で烈火の如く怒り狂った芝居をしながら母さんは職員室に乗り込んだ。
この服装や眼鏡を選んだのは美弥だそうだ。ベタなコーディネートだな~。

「や、山本ですか?」
「ええ、山本っていう女教師です!」
「どういったご用件で……?」
「ウチの息子のおかしな噂を立ててるそうじゃありませんか!」
「はい?」
「いいから呼んでらっしゃい!!」

母さんは若いし、まあまあの美人だからそれだけでも迫力があるのに、本来の『面白がり』の性格も手伝ってド派手な芝居を打った。
怒ってる顔の裏側は大爆笑に違いない。

呼び出しされた山本先生は何があったかと急いで戻ってくると、目を吊り上らせた母さんを見てまずビビった。

「あの……私に何か……?」
「私は仰木高耶の母親です。アナタ、私の息子がホモだって言いふらしてるそうじゃないの!」
「え?!」
「とある生徒さんから息子が聞きましたのよ!この学校の先生と息子がそんな関係にあるなんて言って、いったいどういうおつもりかしら?!ウチの子は奥手で恋愛のれの字も知らない無垢な子なんですのよ!昨日はそんな噂が本人の耳に入って沈鬱な様子で早退して帰ってまいりましたわ!そんな噂を流して息子になんの恨みがあるって言うんですか!」

まくし立てるように母さんは教頭と山本先生に怒鳴り散らした。

「そ、そんなお母さん、私はそんなこと……」
「言ってないとでも?!現に友達に言われたって息子は嘆いていました!ちょっと、職員室の先生方!」

職員室全体に聞こえるように大きな声で呼びかけた母さん。
直江は母さんのとんでもない行動に目を丸くするばかりで何も考えられなかったらしい。

「高耶とどの先生が噂になってるか聞いたことございませんの?!担任の橘先生?!どうですか?!」
「え?!私ですか?!」
「あなた担任でしょう?!何か聞いてません?!」
「え、えーと、私は……」

そこで教頭が仲裁に入った。

「ちょちょちょ、ちょ、お母さん!ここでは何ですからこちらへどうぞ!」

山本先生、直江、母さん、教頭の4人は校長室に移動した。
校長も交えての大騒動だ。

「まあ、落ち着いてください。仰木くんが、その、ホモだという噂はどこから?」
「高耶からですわ。その噂を聞いた友達の名前までは教えてくれませんでしたけど、とってもショックがってしまって昨夜は深夜まで半泣きでしたのよ」

言葉遣いが微妙なのは本物の教育ママじゃないからだからスルーしてくれ。

「それで山本先生……。先生はそんな噂は……?」
「私……その……」
「何も言えないってことはおっしゃったんじゃありません?!」
「まーまーお母さん!」

山本先生に噛み付く母さんには教頭も直江も焦ったそうだ。

「橘先生!担任としてどうなんですの、この噂が流れたことをどうするおつもり?!何か知ってらっしゃるんでしたら全部教えていただきたいですわ!」
「……お、お義母さん……」
「橘先生!」

直江は「この人に逆らったらどうなるかわからん」と恐れをなして、母さんに合わせることにしたんだそうな。

「その噂は……私も聞きました……というか、私が仰木くんの相手ではないかと、山本先生に疑われてまして」
「んまあ!それ本当のことなんですか!」
「いっ、いえ、私はあくまでも仰木くんの担任で、そんな関係では決して!」
「そうですわよねぇ。高耶がまさかホモだなんてことありはしないのよ」

直江にバラされた山本先生は顔面蒼白、世界で一番恐ろしいPTAの前で小さくなるばかり。
そりゃな、母さんには誰も敵わないと思うよ。父さんですら。

「山本先生……やっぱりあなたが噂を流した張本人なんですね……?」

緊張した面持ちで教頭は山本先生に詰め寄った。
山本先生はとうとう泣き出してしまったそうだ。

「そんなつもりじゃなかったんです~!」

片思いをしている橘先生が妙に仰木くんと仲良くしていたから疑っただけだと、本当のことを話してみたものの、母さんは大芝居の最中、直江は母さんに圧倒されて沈黙、校長と教頭は不祥事をどうするかでオロオロ。
誰も山本先生に味方できない。その場での勝者は母さんのみ、だ。
実際、疑われたのは直江にとっては『本当のこと』なわけで、味方できるほど余裕もなくて、オレの寂しそうな顔を思い出したらこれでいいんじゃないかと思ったわけだ。

「山本先生、これは由々しき事態ですよ?生徒がホモだなんて噂を教師が流すなどもってのほかです」

校長に厳重注意をされて、山本先生はその場にいた全員に謝った。
んで噂は噂であって、真実ではない(真実なんだけどな)ということを、噂している生徒に厳しく言い聞かせる、ということで話は落ち着いた。

じゃあここで実家のキッチンに話を戻すぞ。

「母さん……やりすぎだよ……」
「このぐらいやらなきゃアンタたちの夫婦生活が危うかったのよ?感謝して欲しいわ」

息子夫婦の幸せを守ってくれたのは有難いけど、これじゃ山本先生がかわいそうだ。

「直江に嫌われたらどーすんだよ~」
「嫌われたって義明くんは離婚なんかできないわよ」

母さんの予言は的中していた。

 

 

 

安心してスイートホームに帰れるようになったオレを直江が迎えに来てくれた。
硬直した笑顔で母さんに「ありがとうございました」と言った直江が悲しかったよ、オレは。

家に戻ってリビングのムートンに倒れた直江。その横に座って山本先生の安否を聞いたら、処分は無しだってことでオレも一安心。

「ひどく疲れました……」
「だろうな。ごめんな?あんな親で」
「いえ、もう最初からわかってたことですから……あんなすごいとは思いませんでしたけどね」

本当に疲れた顔をしてる直江にチューして、膝枕をしてやった。

「高耶さんがもう泣かずに済むなら、あのぐらいは耐えますよ」
「ごめん」
「いいんですってば」

笑ってオレを引き寄せて寝かせて、ムートンの上でイチャイチャ。

「あんなに怖いお母さんがいたんじゃ、高耶さんを悲しませることなんか一切出来ませんね」
「悲しませなきゃいいじゃん?」
「ええ。そのつもりです。離婚なんか絶対できませんよ。何をされるかわかりませんし」
「…………オレ、母さんの息子だからな?」
「……はい」

一瞬固まった直江が思ったことはオレと同じだろう。
嫌われたって離婚できないわよ、って母さんが言ってたのが納得できた。

「でも、私は二度と高耶さんを離すことはしませんから」
「うん!オレも!直江とずーっと離れないもん!」

とりあえずこれで山本先生への牽制ができて、学校側のオレへの扱いが慎重になったってことでOKとしよう。
誰にも邪魔されずに直江と結婚生活続けるぞ!!

 

 

END

 

 
   

あとがき

高耶さんのお母さんは
バカ親ではなく、本気で
面白がってるだけです。
この性格のモデルは私です。

   
   
ブラウザでお戻りください