奥様は高耶さん |
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妊娠した母さんのつわりも治まった今日このごろ。 朝起きて洗濯機をかけてから朝食作り。かっこいい旦那さんを起こしてメシを食わせてチューしていってらっしゃいしてから洗濯物を干す。 掃除が終わるとワイドショーを見てダラダラしてから昼飯の時間だ。 昼飯を食い終わったらお昼寝休憩。 出来上がる頃に旦那さんが帰ってきて、チューしてギューしておかえりなさいして、いただきますだ。 こんな感じで毎日楽しい専業主婦生活を送ってた。
明日は日曜日、旦那さんが一日中家にいるラブラブサンデー。 「……ちょっといいですか?」 裸でチューしてたら直江がいきなり真顔でオレの体を触りだした。 「どーしたんだ?」 お腹や背中、アゴをスリスリ触られる。 「…………太りましたね…………」 太った?!そんなはずないんだけど! 「ほら、これ」 直江はオレの背中に手を回してムニンと肉を掴んだ。そこには数ヶ月前にはなかったはずの脂肪が……。 「ここも」 お腹を掴まれて少年ナントカぐらいの雑誌の厚みがある肉が登場。 「ね?太ったでしょう?」 恥ずかしくなって毛布を掴んで体を隠した。直江は相変わらずかっこいいのにオレはデブまっしぐらだなんて! 「そ、そんな大問題じゃないんですから泣かないでくださいよ」 毛布の引っ張り合いをして負けて、またオレは醜い体を晒すことに。 「見るなー!」 じゃあ愛してるって証明します、と意気込んで、直江はオレをギューッと抱きしめてチューした。 「愛してますよ」 ……なんだと?もしもこれ以上太ったとしても? 「バイトする!」 オレは決意した。バイトとダイエットで一石二鳥。直江に負けないムキムキ高耶になる! 「ムキムキは困ります!ブーちゃんより困ります!」 そ、そうだったのか……じゃあムキムキはなしってことで。 「私がダイエットにもなるアルバイトを探しますから、ムキムキだけはやめてください」 ガッツポーズを決めて仁王立ちしてエイエイオーをした。
翌日の日曜日、直江が昼前に電話をかけてた。お兄さんにかけてるらしかった。 お昼ご飯が出来上がって食卓につくと、直江がニコニコしながらいいアルバイトがありましたよって言った。 「なに?」 橘家が持ってるアパートは全部で6件。マンションは2件あるけどそっちは管理人さんがすでにいる。 「それを高耶さんが管理するってことです。要は兄の会社でのアルバイトなんですが。お給料も出ますしダイエットにもなりますし、一石二鳥じゃないですか」 なんて好都合なアルバイト!オレってラッキー♪ 「私としても肉体労働の現場で高耶さんがムキムキになることもないし、あなたの色っぽさについフラフラする男どもの目に晒さなくて済んだわけですから一石二鳥ですね」 なるほど。そーいや直江はオレが働きに出るのを嫌がってた。理由は浮気されないか心配だったからって。 「じゃあ兄に話しておきますから。今週から始めてみましょうね」 そんなわけでオレはアルバイトをすることになった。
ところが、思ってたよりも重労働だった。 週に3日で6件。1日2件回って、最初の一週間は精一杯だった。 「うー」 リビングの春用ラグの上でうつぶせで寝てたら直江が背中をマッサージしてくれた。 「直江こそ新入生の担任で疲れてるんだろ?」 言いよどんだってことは、もしや……。 「直江か山本先生のクラスだったりして?」 あ〜あ。可哀想に。やっと仰木くんのお母さんから離れられたと思ったら、今度は仰木さんのお母さんか。 「今のところは私のことすら無視してる状態ですが、きっと心中はとんでもなく混乱してることでしょう」 マッサージで気持ちも体もふんわりしたオレは直江にありがとうのチューをして立ち上がった。 「高耶さん」 そんなことしなくたって「エッチしたい」って言えばいいのに。 「バカだなあ」 手を繋いで寝室にゴーだ。
一週間が過ぎてまた最初のアパートに行ってみると、先週の掃除と草むしりが良かったのかそんなに大変でもなかった。 だからちょっと手抜きしてもいいかな〜なんて、別の日は家から一番離れたアパートの『コープたちばな』に夕方近くになってから行ったんだ。 「や、山本先生……!」 アパートの掃除が終わって出て行くと、山本先生に遭遇した。 「……仰木くん……!」 このギスギスした空気!一触即発の火花散る視線のぶつけあい! 「どうしてこんなところにいるのかしら……?」 グルリンと山本先生が頭をめぐらせて、隣りのマンションを見た。 「……ハイツたちばな?!」 もしかしてここって「他にもマンションがある」って言ってたそのマンションか?! 「ふふ。そうだったの。私の借りてるマンションが橘先生のご実家のねえ……ということは、大家さんにお宅の息子さんは男妻をもらったんですってね、って言ったらどうなるのかしらねえ?」 ふえ〜ん、おっかないよ〜! 「明日、橘先生にちょっとお話してみようかしら?」 ダッシュで逃げた。女ってのはなんでこんなにおっかないんだ〜!! 帰ってすぐに泣きながら直江に報告した。 その間、直江は書斎にこもって電話をしたらしい。実家にだと思う。 「本当に大丈夫?」 不安は消えなかったけど直江が優しいし、頼もしいし、あんまり考えないことにした。
んでまたコープたちばなの掃除の日。 「……負けたわ……もう二度と橘先生と仰木くんには関わらないようにするから安心してちょうだい」 そんなことを言ってさっさとマンションに入って行った。 帰ってその話を直江にしたら、ニッコリとこわ〜い笑顔を浮かべて説明してくれた。 山本先生に遭遇したあの日、オレが洗面所で顔を洗ってる間に直江は実家に電話した。そんでお義母さんに事の次第を話したそうだ。 最初は「あらそうなの」と離婚させちゃおっかしら〜?なんて考えてたらしきお義母さんだったんだけど、直江がものすごい剣幕で言った一言でオレたちに協力することにしたらしい。 「離婚なんてことになったら高耶さんと心中しますから!!」 って。 大事な末っ子に心中なんかされた日にゃ、生きていけないとお義母さんは直江に泣きついた。 『少しでも息子の結婚に関して口外しようものなら、一秒の猶予もなしに出て行ってもらいます。言っておきますがうちの長男は不動産屋ですから、その手のネットワークはありますのよ』と。 そんなわけないんだけど、とにかく直江のお母さんがあの口調で言うと怖いし真実味があるし、山本先生が信じちゃっても無理はない。 「ね?大丈夫だったでしょう?」 女もおっかないけど最近の直江が一番おっかない。平気でお義母さんのことも使いっぱにする。 「これで山本先生への心配もなくなりましたね」 ……これでいいのか橘家。 「高耶さん、愛してますよ」 まあいいか。直江とラブラブな毎日が送れるんだったら変人の一人や二人増えたところでかまいやしない。
END
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あとがき |
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