奥様は高耶さん



第4


不調とオレ

 
         
 

 

今年は1年生の担任になった上、学年主任と生活指導にもなった橘先生。
毎日忙しそうで家に帰ってくるとクタクタになってて、着替えてソファで居眠りしてたりするからちょっと可哀想だったりする。

今日も夕飯食べて歴史番組見てるうちに居眠りを始めたから、風邪を引かないように毛布をかけて寝かせておいた。
奥さんてのも気を使うから大変なんだぞ。

こんな時、直江の手伝いができる学生だったらどんなに良かったか、と思うんだけど、また高校生に戻って嫌いな勉強や面倒な勉強ややりたくもない勉強をするのは嫌だ。おっと、どれだけ勉強嫌いかバレちまったな。
これが直江にバレたら怒られるから内緒にしといてくれ。

まあそんなわけだから、オレは家で直江の手伝いをしようかと思った。スタミナがつく特製野菜ジュースを作ったりとか、おいしい食事を作ったりとか、夜中まで仕事してる直江にコーヒーを持って行ったりとか。
奥さんの鑑だろ?

「……ああ、また寝てしまったか……」
「あ、起きた?疲れてるんだったら肩でも揉んでやろうか?」
「いえ、大丈夫です。風呂に入ったら仕事をまたやらなくては」
「……背中流してやるけど?」
「じゃあお願いします」

背中を流すイコール一緒に風呂に入るとゆーことだ。オレの中では。

直江が風呂場に向かってから着替えの支度を持ってオレも風呂場に。んで服を脱いでドアを開けたら。

「な!直江!」

なんとそこには風呂で溺れてる直江がいた。引っ張り上げて顔をパンパン叩いてみたら生き返った。

「も〜、ビックリさせんなよ!オレが来なかったら溺死してたぞ!」
「あ、ありがとうございます……」
「直江が死んじゃったらオレだって生きていけないよ〜!」

ビックリしたのと心配なので泣き出したオレ。それを見て旦那さんがオタオタしてる。

「すみません、高耶さん!もう二度と風呂で寝ませんから!」
「これから毎日一緒に風呂に入るからな!」
「ええ、そうしてください」

チューされて泣き止んで、直江が寝ないように話しながら風呂に入った。

風呂を出てから直江は書斎にこもって仕事をやりはじめた。今日の仕事は先月の生活指導のまとめらしい。
職員会議での資料にするんだって。

「なーおーえ」

コーヒーとカフェオレを持って行って書斎のドアを開けた。
今回は寝てない。ちゃんと机に向かってパソコンをカタカタやってる。

「大丈夫か?」
「ええ、なんとか。コーヒーですか?ありがとうございます」
「そんなに疲れてて授業中に寝たりしないのか?」
「家に帰ると安心するんでしょうね。学校では元気ですよ」

そーなんだ。家だと安心するんだ。へ〜。それってやっぱりオレってゆー奥さんがいるからかな?なんちって。
んでオレは直江が寝ないように監視って名目で一緒にいた。もう今は生徒じゃないから仕事場にいても大丈夫なんだ。
テストを作ってる時はダメだけど。なんたって美弥が直江の学年にいるからな。テスト問題漏洩しちまうかもしれないし、オレ。美弥に誘導尋問されても答えないようにわざとそうしてる。

「さて、終わりましたよ。寝ましょうか」
「うん」

手を繋いで歯磨きしに一階へ。戸締り確認だとかガスの元栓だとかも一緒にしてから寝室へ。
んでここからが問題だ。
直江は毎日疲れてるから最近はセックスレス。なんともう半月以上だ。
誘っちゃおうかな〜と思って行動に移そうとするといつも直江は夢の中。
起こしたら絶対に叱られそうだから我慢するしかない。だから最近のオレの恋人は右手だったりする。

でもこんな夫婦生活は改善しなきゃな!父さんと母さんだってまだ現役で子作りしてるんだし!

「なおえ〜」
「………………」
「……直江?」

ああ、今日も!!ベッドに入って3秒でもう寝てる!
そんなに疲れてるのか……ってよりも!そんなにオレは魅力がないのか!!
それともとうとうエッチしたいって思われないような枯れた夫婦になっちまったのか?!
そりゃ直江はもう三十路だ!リーチからツモになった三十代だ!だけど!だけど〜!!

「許せん……」

こーなったら直江にガッツリと体力回復できる方法を探して、その暁にはまた甘い甘いラブでメロウな夜を過ごさせてやる!!

 

 

 

「……これは何でしょうか?」
「奥さん特製スタミナドリンクだ!飲め!」

あの夜からしばらくして、朝食の食卓についた直江の目の前に暗緑色のドロドロした液体を置いてみた。

「何が入ってるんです……?」
「ベースは青汁。そこにカ×メの野菜ジュースを足して、ニンニクのすり下ろしとショウガと牡蠣エキスとタバスコとオットセイのチ×コの漢方薬と……えーと、赤まむしドリンクを足してミキサーでまぜたやつ!」
「どうしてそんなものを……」
「だって最近疲れてるんだろ?だから体力をつけてもらおうと思ってさ」

しばらくそれを見てから、用心深く匂いをかいだ直江。

「う!!」

見たこともないぐらい顔をしかめて(くしゃおじさんみたいだった)グラスから目をそらした。

「こんなもの飲めるわけないでしょう!」
「……奥さんが心をこめて作ったスタミナドリンクが飲めないのか……?高耶、ショック……」
「え、高耶さん……そんなに落ち込まなくても……」
「オレの愛は旦那さんには届いてないってことか……はあ……まるで熟年離婚夫婦だな……」

そうか、そうか、直江はそーゆー男だったのか……。オレはなんてヤツのとこに嫁いでしまったんだ……。

「飲みますよ!飲んで私の愛が伝わるならいくらだって飲みますよ!!」

グビーっと直江は一気飲みした。おおう、かっこいい!!男らしー!!

「ゲフ」
「どうだった?まずいけど元気になりそうな味だっただろ?」
「……ええ、はい……ゲフ」
「んじゃ今日も元気にお仕事がんばって!!行ってらっしゃーい!!」
「行ってきます、ゲフ」

いつものおでかけのチューしようと思ったんだけど、ニンニク臭かったからやめた。
ま、今日の夜はたくさんチューできるはずだから朝のチューぐらいはいいってことよ!

 

 

いつものようにまったり過ごす午前11時。ワイドショーを見ながら優雅に紅茶を飲んでくつろいでたら。

「た……ただいま……」

旦那さんが帰ってきた。真っ青になってリビングに入ってくると、上着とブリーフケースを置いて
トイレに走った。

「な、直江?」

トイレの前で話しかけてみたら、今日の一連の出来事を教えてくれた。
あのスタミナドリンクを飲んでからバスに乗ったら乗り物酔いをした。
学校に着いたら胃が痛くなり始めた。朝の職員会議中に吐き気がしたんだけど、直江が生活指導の話をしなきゃいけないから我慢してなんとかこなした。
授業が始まってからお腹が痛くなってトイレに行ったんだけど、それを皮切りにトイレ往復になった。
とうとう授業も出来なくなって早退した。
と、こういうわけだ。

もしかしてあのスタミナドリンクのせいじゃ……。ヤバイ、怒られる……!
そそくさとリビングに戻って知らん顔してワイドショーを見続けた。
直江がトイレから出てきても知らん顔してよーっと。

「高耶さん……あの、もしかしてですけど」

キター!

「あのおかしな……いえ、あのまずい……いえいえ、元気になりそうなスタミナドリンクが悪かったのではないでしょうか……?」
「え?そうか?オレは飲んでも大丈夫だったけど?」

本当は飲んでないけど、こー言っておかないとオレのせいにされちゃう!

「そうですか……まあ、とりあえず私は寝ますから……」
「おう、じゃあ昼飯はおかゆでいいか?」
「……たぶん食べられません……。午後3時過ぎたら病院に行きますから起こしてください」
「ん、おやすみ」

良かった〜!怒られなかった〜!!ドッキドキだぜ、もう!!
とりあえずは直江の看病しとけばスタミナドリンクが原因でも怒られなくても済みそうだな。

 

 

 

奥さんの熱心な看病と病院の薬でどうにか旦那さんのお腹と胃は持ち直したようだった。
夕方にはおかゆを食えるぐらいに回復した。
でも学校に行けるほど回復はしてないから明日は休むことにしたって言って、学校に電話を入れてた。

「学校を休むなんて5年ぶりです」
「そーいえばオレが通ってる頃は休んだことなかったよな」
「体力には自信があったんですけどねぇ……年齢のせいもあるんでしょうね」
「そ、そっか」

げっそりした旦那さんは夕飯を食べるとすぐに寝室に行ってしまった。
内心ビクビクしながら一人ぼっちの時間を過ごしていたら、美弥から電話がかかってきた。

『もしもし、お兄ちゃん?義明さん、大丈夫だった?』
「あ?ああ、そっか。学校で知ったのか。まあ、なんとか復活してたけど、明日は休むんだってさ」
『美弥が大丈夫?って聞いたらお兄ちゃんにまずくて変でおかしい最低なスタミナドリンクを飲まされたって言ってたけど。お兄ちゃんたら相変わらず香ばしいことしてるね〜』

……あの野郎、美弥に余計なこと言いやがって!
これじゃきっと実家で笑いものになってるに違いない。

『もうお父さんとお母さんと大爆笑しちゃったよ!義明さん、可哀想にね〜!あっはっは!』
「やかましい!オレは直江のためを思ってしたんだ!」
『義明さんのため〜?うっそ〜。本当は自分のためじゃないの〜?』
「直江のためだってば!」
『どうせ毎日疲れて帰ってくる義明さんに不満があってあんなもの飲ませたんでしょってお母さんが言ってたよ〜』

うげげ!バレてる!

「違う!最近セックスレスだからって飲ませたわけじゃない!」
『やっぱりそーなんじゃーん!おかーさーん、やっぱりお兄ちゃんセックスレスだったんだって〜!』

しまった〜!!やっちゃった〜!!
またこれでしばらく実家に帰れなくなる!!

『どのぐらいセックスレスだったの?一ヶ月?二ヶ月?』
「んな!」
『もしかして半年とか?キャッ!ダッサ〜い!』
「うるせえ!切るぞ!」

乱暴に受話器を置いて電話を切った。ああ、また笑いものだ。しかも最大級の。
それもこれも直江のせいだ〜!!

「てめえ、直江!!美弥に余計なこと言いやがって〜!!」

寝てる直江の布団を剥いで蹴っ飛ばした。
いきなり目が覚めて蹴っ飛ばされたんじゃ直江だってビックリするよな。すっげー慌ててた。

「なんですか!」
「オレにおかしなものを飲まされたせいだって美弥に言っただろ!おかげで最近セックスレスだってのがバレちまったじゃねーか!どうしてくれんだよ!!」
「はあ?!セックスレス?!」
「直江がエッチしてくんないから頑張ってスタミナドリンク作ったのが仇になったっつってんの!」
「……ああ、そういうことだったんですか」

ん?あれ?オレ、なんか間違ったこと言ったような言ってないような?
おや?おやや?

「すみませんでした。そんなに不満だったんですね。たった二週間でも高耶さんには……」
「それ以上言うな〜!!」

実家にも恥かいて、さらに直江にも恥かくなんて最悪!!
たかがエッチしないだけでこんなに混乱してるオレってどんだけエロなんだ!

「……治ったら、たくさんしましょうね?」
「う……」
「ごめんなさい、奥さん」

直江が急に優しくしたから怒るの忘れて真っ赤になっちまった。くそ〜。
でもなんだか理解してくれたみたいだし、まあいいかな……。

「満足できるぐらいまで体力を戻しておきますね。仕事も一段落ついたことだし、きっと喜ばせてあげられますよ」
「……オ、オレは……そんなにエッチしたいわけじゃ……」

クスクス笑って頭を撫でられた。うう〜、優しい直江ってどうしてこんなにかっこいいんだろ。

「もちろん、私が満足したいからですよ。純情な奥さんのためじゃありません」
「……ん、わかった……」
「じゃあ体力を戻すために旦那さんはもう寝ます。奥さんもそれまでに体力を温存しておいてくださいね」
「……は〜い……」

チューしてから旦那さんは布団に入った。
……早く治せ。

 

 

そんなこんなで直江は1日半休んで完全復活。
完全復活と同時に性欲も復活したらしく、学校から帰ってきたらソッコーで襲われた。
玄関で発情してその場でチューしてその場で……ここからは内緒だ。

「今頃になってスタミナドリンクが効いてきたみたいです」
「……バカ……」

これからはもっとちゃんとしたレシピでスタミナドリンクを作ろうと奥さんは決心したのであった。
それとあんまり強めのは作らないことにした。
だって完全復活の直江ってば強すぎて大変だったんだもん。
昼も夜も直江の奥さんやるってのは結構大変なんだからな!!

 

 

END

 

 
   

あとがき

たまには直江も体を壊す。
つっても原因は奥さんですが。
専業主婦になってから
ヒマでしょうがないらしい。

   
   
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