奥様は高耶さん



第6


宣戦布告とオレ

 
         
 

 

今日は直江とイチャイチャしまくれる日曜日だ!
昨夜からずっとイチャイチャしてるけど、今日もずーっとするんだ!

そんなわけで朝から昼までくっついたり、膝に乗ったり、寄りかかったり、甘えたりして過ごしてるうちにお腹がグーっと勢い良く鳴った。

「腹へった……」
「じゃあお昼ご飯にしましょうか」
「うん。今日は暑いからそうめんにする」

それに簡単だしな!直江とイチャイチャできる時間をなるべく多く取るんだ!

ナスとインゲンとミョウガと鶏肉を煮てそうめんツユにした。薬味はネギとシソ。
野菜もキチンと食べないと直江の体が栄養失調になっちゃう。一日30品目目指して頑張ってるんだぞ!
いい奥さんだろ?

昨夜の残り物とそうめんでお昼ご飯。
リビングのローテーブルでアーンとかしながら食べてたら、ピンポーンと暢気な音が。

「お昼時だから千秋かな?」
「また食べに来たんですかね」
「オレ見てくるから、直江はそのまま食べてて」
「はい」

どうせ千秋だろうからインターフォンには出ないでそのまま玄関に行った。
ドアを開けると千秋よりも見たくない顔が出てきた。

「……お義母さん……!!」

なんで?!急に?!それともオレがお義母さんが来るの忘れてた?!

「こんにちは」
「こ、こんにちは……ええと……いらっしゃいませ……どうぞ……」

玄関ドアを大きく開けてお義母さんを中へ。この暑いのに今日も着物だ。そして今日も無愛想。

「義明は?」
「お昼ご飯食べてます……」
「そう。おじゃまするわね」

お義母さんがスリッパを履いてリビングへ行くと、直江のビックリした声がした。

「お、おかあはん!」

ちょうどそうめんを啜ってたとこだったからおかしな声と顔で驚いてた。せっかくの男前が台無し。

「なんです、急に」
「急に来たらいけないことでもあるのかしら?」
「いえ、そういうわけではありませんが……いくら息子の家とはいえ、お昼時に来るなんて」
「それで?」
「え?」
「あなたたち夫婦は突然やってきたお姑さんにお昼を勧めたりはしないのかしら?」

そっか!そうだった!勧めなきゃ!

「すみません、お義母さん!そうめんと昨夜の残り物だけど食べてってください!」
「ありがとう」

うわ〜。こえ〜。相変わらず高圧的で嫌味ったらしいな〜。
でもそうめんでツユだって多少濃くても調整できるんだし、今日の昼飯はこれで正解だ!

お義母さんの分を器によそって出した。これだけで済むなんてそうめんはラクチンだな〜。
リビングでダラダラ食べるつもりだったのをテーブルに移動したぐらいが苦労っちゃ苦労だけどね。

「それでお母さん、今日は何か用でもあったんですか?」
「ありますよ。高耶くん」
「は、はいっ」
「あなたのお母さんが妊娠しているのは本当なのかしら?」
「……はい……本当です……秋に産まれる予定です……」

これか……母さんが妊娠してるのが不謹慎とかそーゆー話かな。……妊娠不謹慎……駄洒落かよ!!

「具合はいいの?」
「順調です。とりあえず……超音波写真で見たら男の子らしいです……」

順調すぎるぐらいで、専業主婦同士楽しみましょうとか言って毎日のように昼飯を食いに来てる。
一人分の昼飯を作るのが面倒だからってわざわざ片道15分もかかる道のりを歩いて来る。
どっちが面倒なんだっつーの。昼飯作るのと、歩いて来るのと。

「……年の差19歳ねえ……いくらなんでも離れすぎね。親子ほど年が離れてるじゃないの」
「そりゃまあ……でもまだ母さんは30代だし……なくはないと思うんですけど」
「なくはないわね。だけど義明の弟でもあるでしょう。義明とだと30歳も離れてるのよ。ちょっとそれは義明の母親としてどうかと思うの」

だからって生まれてくるんだからしょうがないじゃん!文句あんのか!!

「だからね、あなたにお願いしたいんだけど」
「……なんでしょう……」
「赤ちゃんが生まれてもこの家に連れてこないでくれって頼んでくださらないかしら?」
「はあ?!」
「お母さん!なんてことを!高耶さんの弟ですよ?!私の家族でもあるのに、そんなことできるわけないでしょう!」

そうだそうだ〜!!いいぞ、直江、もっと言え〜!!

「だいたいお母さんは高耶さんを何だと思ってるんですか!私の奥さんなんです!大事な大事な奥さんなんです!それをいつもいつもないがしろにして!」
「……私はまだあなたの嫁だと認めたなんて言ってませんよ?」

がーん!!やっぱりそうか……わかっちゃいたけど……こうもハッキリ言われると傷つく……。
胸がシクシク痛むのは食べすぎのせいじゃなくて傷ついてるからなんだ〜。

「う……うう……」

ポロリと涙が零れてしまったから、オレは急いでダイニングを出て寝室にこもった。
お義母さんの前でだけは泣きたくないよ〜!悔しいもん!

「高耶さん!」

寝室のドアを開けて直江が入ってきた。心配そうな声でオレを呼ぶ。

「泣かないで、高耶さん!母の言うことなんか本気にしちゃダメです!」
「だって……だって……オレそんなにダメな嫁なのか?」
「ダメなわけないでしょう。いい奥さんですよ。私にとっては世界一ステキな奥さんです」
「……直江〜」

ギューしてもらって少し泣いて、それからチューした。
寝室ってのがヤバかった。ベッドに寝かされてしばらくの間抱き合ってちょっとエッチなことになって。
服が乱れてきた時に気が付いた。お義母さんが階下にいるんじゃなかったっけか?

「なおえ……」
「愛してます……」
「じゃなくて……お義母さんが……」

ハーフパンツの中に入ってきた手がピタリと止まった。

「……そうでした……まだ母がいるんですよね……ええと……追い出してきますから、続きしましょう」
「ん〜、でも……」
「母にはキチンと言っておきますから。だからここで待ってて」
「うん……」

乱れた服を調えながら直江が寝室を出て行った。なんか少し心配でドアから出て階段の上で聞いてたら。

「……なあに、その格好は。みっともない」

どうやら直江の乱れたシャツのことを言ってるらしい。さっきと違ってボタンもいくつか外れてたからな。
もう新婚じゃないのに、すぐに燃え上がっちゃうところはいつまでも新婚気分。
いいだろ、別に。文句は言わせねえぞ。

「今日はもう帰ってください。私の奥さんを泣かせたんですから。それと高耶さんの弟のことですけど、私は自分の息子のように可愛がるつもりですから、積極的にこの家にも来てもらいますし、預かったりもします。それをお母さんにとやかく言われる筋合いはありません。もし言うならばお母さんこそ来ないでください」
「義明……」
「私と高耶さんの幸せを邪魔する者は、例え母親であろうと許しませんよ」
「まあ!なんて子かしら!」

こっちのセリフだっての。まあ!なんてお義母さんかしら!

「わかりましたよ、帰ればいいんでしょう。まったく、息子も息子なら母親も母親ね。19歳も離れた弟を産む気でいるんだから」

うん、それはオレもそう思う。でも母さんとオレを一緒くたにしないでくれ。

「お母さん!」
「はいはい、帰りますよ」

そんでお義母さんは帰っていった。何しに来たんだかな。
そうめんもロクに食わなかったし……ってことは嫌味を言いに来たのか?有り得るな、直江のお母さんなら。
さて、そろそろオレも下に行くか。

「あ、高耶さん」
「ごめんな、オレが不甲斐ないせいでお義母さんとケンカさせちゃって」
「何を言ってるんですか。あなた以上に大事な人はいないんですよ。あなたのためなら母とケンカになってもかまいません」

う〜、直江ってなんでこんなに優しいんだろ。ステキな旦那さんだな〜。

「というわけで続きしましょう」
「……おまえ、せっかくいいシーンなのにムードもへったくれもないな」

さっきの燃え上がった気持ちのままロマンチックなこと言ってくれさえすれば続きしようとも思えるのに。

「それにまだ昼飯の途中だったろ。そうめん、茹で直すから食べようぜ」
「高耶さん……」
「この野暮天が」

だけどやっぱりラブラブ夫婦なのは変わらない事実で、昼飯が終わってイチャイチャしてたら盛り上がってきて寝室でお楽しみになった。
服を脱がされながらチューして、直江の手がパンツに忍び込もうとした時。

またもやマヌケな玄関チャイムの音がした。

「無視しましょう……」
「う、うん……」

あれ?そういえば玄関の鍵って閉めたっけ?お義母さんが出てってから閉めた記憶がないぞ?
直江は……閉めて……ない!!

「高耶〜?いないの〜?」

玄関から声がした。
今度はオレの母さんだ!ドア開けて入ってきてるし!なんなんだよ、まったくもう!

「直江ッ」
「また中断ですか?!」
「だって母さんだぞ!もう家の中に入って来てる状態じゃんか!」
「くっそ〜……」

素早く服を直して廊下に出た。直江はまだ股間が収まらないとかで出て来られない。
母さんがリビングに入って行く姿を階段の上から見て、なんでオレの家族は礼儀を知らないんだろうって思ったんだけど、良く考えたらオレの家族だ。当たり前っちゃ当たり前か。

「母さん、どうしたの?」
「あ、いたの?お父さんはゴルフで美弥はデートで、退屈になっちゃって〜」
「……それだけ?」
「そうよ。義明くんは?」
「二階にいる」

そんで母さんは不敵な笑みを浮かべてこう言った。

「もしかしてお邪魔しちゃった?」

う、バレてる。

「やっぱり?あんたたちって本当にラブラブねぇ。お母さんとお父さんと同じぐらいラブラブかしら?」

オレたちの方がラブラブだ!と言いたいのをぐっと堪えてデリカシーの欠片もない母親を睨んだ。
そんなだから直江のお母さんに……ブチブチ。

「なあ、母さん。19歳違う弟ってどうなわけ?やっぱ普通の人から見たら恥ずかしいもんだよな?」
「あら、別にいいじゃない。たった19歳だって思えば」

オレですら母さんが妊娠した時に「恥ずかしい」と思ったくらいなのに、別にいいじゃないって……。

「いらっしゃい、お母さん」
「あら、義明くん。もう股間は大丈夫なの?」
「は?!高耶さん?!」
「オレは一言もそんなこと言ってないからな!母さんが勝手に想像しただけで!」
「やっぱりね〜♪」

ああ、オレたち墓穴掘った……。
母さんも母さんだ。想像力が豊かすぎで、しかもそれが正解で、だからってそんな話を実際にしなくたっていいのに……!

「……お、お母さん……そういう話は胎教に良くないですからやめませんか?」
「さすが教師の言うことは違うわね〜。胎教ですって。そうね、高耶みたいなエロい子にならないように気をつけないとね」
「…………はあ」

なんでそこで直江は「高耶さんはエロい子なんかじゃないですよ」とか言わないんだ!
あとでとっちめてやる……!!

「そういえば水羊羹がありましたからお出ししますよ」
「ありがとう〜」

大きなお腹を抱えて母さんがソファに座った。この中に弟が入ってるのかと思うと嬉しいんだけど、やっぱり他人から見たら恥ずかしいものなのかとちょっと思う。

「聞いてよ、義明くん」
「なんですか?」

冷蔵庫から水羊羹を出して皿に盛った直江が戻ってきたところで、母さんがチクりを入れた。

「高耶ったらヒドイのよ。19歳離れた弟が恥ずかしい、だなんて」
「ああ……それですか。いえ、その……実はさっき母が来たんです」

待て!その話をしちゃうのか?!それちょっとヤバいんじゃないの?!

「直江!」
「いいじゃないですか、聞いてもらった方がいいですよ」
「なになに?」

母さんが興味津々になってきた。オレの隠し事を全部知っておきたいってゆー家族の特性をわかってない直江。
隠し事を知って実家で笑おうって気満々な母さんだってことぐらい、今まで何度も味わってよーく知ってるじゃんか。アホ〜!
もう隠しておけない空気になっちまったよ……。

「母が私と30歳も年齢が離れた弟なんか恥ずかしいから、この家には入れないでくれって言うんです。でも私にとっても大切な弟ですからね、そんなことは出来ないときつく言っておきました」

直江としては母さんにゴマをすってるつもりだろうが、それだけで済むような母親じゃないってことをいまだに理解してない。
そんな話を母さんの耳に入れようもんなら……知らないぞ〜。

「そういえば、義明くん」
「はい?」
「義明くんのお兄さんとはいくつ離れてるんだったっけ?」
「12歳違いです」

ニヤリと笑った母さんの顔が怖かった。胎教に悪いどころかこっちの神経にまで悪いっての。
ホントに直江はバカなんだから……。

「それがどうかしましたか?」
「いいえ。で、4人兄弟、と」
「ええ、私の上に兄2人と姉1人です」
「……それはステキね〜」

ステキって……なんだその意味深な発言は……。

「じゃあ義明くんのお母さんはお坊さんの奥さんなのに4人も産んだってことね?しかも長男と末っ子で12歳違い、と」
「……そ、そうです……」
「それでウチの19歳も離れた弟がどうのこうのって、ねえ?ちょっとそれはないわよねえ?ウチは3人目が生まれるだけなのにねえ?」
「……おっしゃるとおりで……」

ああ、直江が危険に晒されてる!!母さんの怒りの矛先が直江になりませんように!!

「いつでも相手になりますわよ、ってお母さんに言っておいてね、義明くん」
「……わかりました……」

やっと直江もこのヤバさに気付いたらしい。
母さんが直江母に宣戦布告したってことだよな。仰木、橘両家の戦争が勃発したらどうしてくれんだ、このアホ旦那!!
オレの苦労が……オレが必死でお義母さんに低姿勢で接してた苦労が……。

「じゃあ帰るわ。水羊羹も食べたことだし、いい情報も頂いたことだし」
「あの、お母さん……」
「義明くん、この落とし前はあなたがキッチリつけなさい」
「はい……」

あ〜あ。

 

母さんが帰ってから直江が後悔しきりな顔つきでオレに訴えてきた。

「どうなるんでしょう、私たち夫婦は……」
「どうもこうもおまえがアホなせいだろ。あんな話を母さんに聞かせたらどうなるかぐらい想像しろよな」
「すみませんでした……」
「ま、今はそんなこと忘れて、せっかくの日曜なんだ。イチャイチャしようぜ?」
「ですね」

ゲンキンにもエッチと聞いてすぐに立ち直った旦那さんの手を引いて寝室へ。んで今度こそ愛の営みを。

「高耶さん……」
「なおえ〜」

チューして3度目の正直、エッチへ突入。
今度はしっかり鍵閉めた。窓も閉めた。誰も邪魔者は入らないぞ。

「弟生まれたらオレたちの子みたいに可愛がろうな?」
「はい」

胎教なんか関係ないオレと直江は思う存分エッチに励んだ。
大好きな旦那さんはバカだけど、オレはそんなところも大好きで愛しい。ついでに言うとバカじゃなきゃ直江じゃない。
お義母さんも母さんも関係ねえ。やっぱ直江が一番大事だ。

 

 

この続きはオレの誕生日の話に続くんだ。中途半端で終わってごめんな。
けどもう少ししたら読めるからそれまで待ってくれ。
え?作者の誘い受けじゃないかって?まあ、そうとも言うけど、どっちにしろオレの誕生日になればわかるこったから気にすんな。

じゃあ7月23日まで待っててくれよな!

 

END

 

 
   

あとがき

誘い受けではありません。
実力不足です。
3話ぐらい続きますので
ヒマでしたら読んでください。


   
   
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