奥様は高耶さん



第7


記念日とオレ

 
         
 

 

明日はオレの誕生日。直江との結婚記念日2回目だ。
去年は美弥に邪魔されてロクなお祝いが出来なかったから、今年こそは二人きりでラブい記念日を迎える予定。
直江は夏休みだし、昼間はイチャイチャして、夜になったら予約してるレストランで食事して、それから帰ってエッチに突入……ってこーゆープランを用意してるんだけど。

なんでかオレと直江は記念日っつーと邪魔されるジンクスがある。
今年もそうなりそうな予感が。
神様仏様、どうか今年こそは直江とゆっくりお祝いできますように!!

 

 

なーんて思ってたのに、やっぱり邪魔が入った。
今年の誕生日は月曜だから邪魔は入らないと思ってたんだけどな〜。甘かったか。神も仏もあったもんじゃねえ。

「こんにちは」
「……お兄さん……何をしに来たんですか」
「え?おまえらの結婚記念日だろう?だからピンクのドンペリを持ってきたんだが」

午後2時。長男の照弘お兄さんがやってきた。
手には高級品のシャンパンが。だけどそんなものより直江とのラブラブタイムが欲しいわけで!

「……ありがとうございます……」
「まあなんだ。入れろ」
「はい……」

お兄さんからシャンパンを受け取ってそのまま帰すなんて非人道的なことは出来ませんよ、オレたちだって。
表面上はにこやかに接してリビングに案内して、コーヒーを出した。

「そういや義明。この間母さんが来たんだろ?」
「ええ。お母さんから聞いたんですか?」
「まあな。俺も母さんはヒドイと思うんだよ。まるで仰木さんをバカにしたような態度だ」
「ですよね!!」

直江のお兄さんはいい理解者という立場ではあるんだけど、いかんせんオレの両親に通じるところがあって、たまに洒落にならないこともあったりする。
そこがシンパシーなのか今回もお兄さんはオレの味方だ。

「いいじゃないか、家族が増えるのはいいことだぞ?」
「そうなんですよ、なのにお母さんは高耶さんを目の仇にしてるものだから、高耶さんのお母さんにまで失礼なこと言うんですよ。ひどいですよね」

確かにヒドイな。赤ちゃんはみんなが楽しみにしてるんだからさ。

「高耶くんも遠慮しないで言いたいこと言ってしまっていいんだからね」
「あはは……はあ……」

そんなこと言ったら何が起きるかわかりゃしねえ!言えないっつーの!
言ったが最後、毎日家に来られて「あら、高耶くん。これは何かしら?」なんつって棚にうっすら積もってるホコリを人差し指でツツーッと取って、掃除が行き届いていないわね、とか!
廊下の雑巾がけをしてるオレのケツを足でボコンと蹴ったりとか!
オレが大事にしてるハーブを熱湯で枯らされたりとか!
直江のパンツを箪笥から取り出して畳み直すとか!!
そんなの嫌だ!絶対嫌だ!何が何でも嫌だ!!

「ところでお兄さん、今日は仕事はどうしたんですか?」
「ん?ああ、お得意さんの接待ということにして休み同然だ」
「なぜ……?」
「ドンペリを届けるからに決まっているだろう」

そんなことで嘘ついていいのかよ、社会人のくせに……なんか……ホントに橘家の人なのかな?
どうも行動が仰木家っぽいよーな気がするよ……。

「たかやー!!」
「げ!」

この勢いのいい声は……もしかして、父さん?!
前回に引き続きなんでこう来客が立て続けに来るんだ!誰かの陰謀か?!陰謀なのか〜!!

「おう、高耶!今日は結婚記念日&誕生日だろ!おめでとさーん!!」

勝手に入ってきてリビングに顔を出したのはやっぱり父さん。手にはドンキホーテの黄色い袋と寿司折が。
プレゼントっつーとドンキしか思い浮かばないのかよ!これじゃオレの父さんダメ親父って感じじゃん!

「高耶の好きな寿司だぞ。それと、これ義明くんにプレゼントな。お、これはこれは義明くんのお兄さん。お久しぶりです」
「仰木さん、お元気そうで何よりです」

父さんと直江のお兄さんの年齢差は4歳。父さんの方が年下だったりする。
だからお兄さんはオレを我が子のような気分で可愛がってくれてるのかな?
いや、その前にこの年代の大人ってのは全員こんな感じでいわゆるバカっぽいとゆーかお騒がせとゆーか、そういう微妙なお年頃なのか?

「父さん、何?もしかしてわざわざ仕事休んで結婚記念日と誕生日を祝いに来たとか言うんじゃねえだろうな」
「そうだが何か?」

アッサリ言うな!!いい大人が息子の記念日で休むってどうゆうこっちゃ!!
働け〜!!

「いや〜、有給休暇がたまっててな〜。せっかくだからおまえの誕生日に合わせて休んだわけだ」

父さんは一応社長をやってる。グラフィックデザインをやってて、仕事が増えた頃にフリーから会社にして社長になった。
従業員数は6人。小さな会社なんだけど、実入りはいいらしくて30代で一軒家を建てたほどの実力派。
なんだけど、性格が大幅にちょっとな〜なんだよな〜。

「お!ドンペリですか!いや〜、これうまいですよね〜」
「仰木さんもドンペリ好きですか!気が合いますねえ!」
「高耶、ちょっと飲ませろ」
「ええ〜!!」
「どうせおまえは未成年だし、義明くん一人で空けることになるんだからいいじゃないか。ねえ、お兄さん」
「そうですね、頂きましょうか!」

ちょっとちょっとちょっと〜!!
なんでオレと直江の結婚記念日に親とお兄さんが乱入してお祝いしちゃうわけ?!
直江を差し置いてドンペリ飲むなよ〜!!

「いいですね、飲みましょうか」

直江まで〜!!

仕方なくグラスを用意しに行ったら直江もついてきた。
そんで耳元でこっそり言うことにゃ。

「酔わせてとっとと帰しましょう」
「……だな。他にも酒あるからそれも出して飲ませようか」
「そうしましょう。なんなら睡眠薬でも入れて……」
「肝心の睡眠薬がねえよ」

おつまみと寿司と酒を準備してリビングへ。記念日のために予約してあるレストランの時間までにどうにか追い出すぞ。
4人で乾杯して(オレだけジュースだったけど)オレのお手製の簡単でおいしいおつまみを食い始めた時、お兄さんの携帯電話が鳴った。

「仕事ですか?」
「いや、父さんからだ」

お義父さん?なんかさらに嫌な予感が。

「どうしたんですか?あ、今は義明の家にいるんです。ええ、そう、結婚記念日と高耶くんの誕生日を祝ってるところです。仰木さんのお父さんも来てますよ。来るんですか?ええ、賑やかな方が楽しいと思いますからかまわないんじゃないですか?でもお祝いはちゃんと持って来てくださいよ。それとお母さんには内緒で」

待て待て待て〜い!
さらに増えるのかよ!しかもお義父さん?!なんで勝手に決めちゃうわけ〜?!

これには直江もちょっと困ったらしい。

「あの、私と高耶さんは夕方から出かけてしまうんですが、それまでにお開きにしてくれるんですよね?」
「ああ、そうなのか。じゃあそれまでみんなで飲むか。ま、おまえたちが出かけたって我々は残って飲み続けてもいいんだが」
「いいわけないでしょう!」
「冗談だ、冗談!」

怪しい。冗談とか言ってるけどかなり本気だ。
ジャッキーチェンがスパルタンXのゲーム化を知って金を出せと手を出した時ぐらい本気に違いない。

それから20分ぐらいしてお義父さんが来た。今日はお寺の仕事は次男のお兄さんに任せて来たって。
お義兄さんの性格はお父さん譲りで決定だ。
お祝いに現金とケーキを持ってきてくれた。これで酒とメシとデザートが揃ったわけか。

「これは高耶くんにな。お小遣いだ。好きなように使いなさい」
「マジ?!お義父さん!オレが使っていいの?!」

封筒に入ってるお札の厚みは約5枚ぐらい。やった♪直江はケチンボだからな、小遣い欲しかったんだ〜。

「もう学生じゃないからお父さんから小遣いをもらえなくなったんだってな。義明の稼ぎじゃ欲しいものも買えないだろ。照弘のバイト代もスズメの涙ほどだそうだし」

いや〜、お義母さんと違って話がわかるなあ!さっすが男同士だぜ!
お義父さんだけ大歓迎しなくっちゃ!

「お父さん、高耶さんにそんな大金を渡さないでください。それじゃ孫扱いですよ」
「いいじゃないか、孫みたいなものだ。なあ、高耶くん」
「ですよね〜?」
「まったくもう……」

これなら夕方までぜひいてもらってかまわない。こんな気が効いたプレゼントしてくれるなんてお義父さん最高!

「わーい!お義父さん、大好き!!」

このオレの不用意な発言が直江の逆鱗にちょろっと触れたようだった。

「……私と父とどっちが大好きですか……?」

その直江の一言で場が固まった。
それまで近況報告し合ってた父さんとお兄さんも、オレを孫を見る目で笑ってたお義父さんも、そんでオレも。

「……えーと」
「おまえは阿呆か、義明!!」
「義明くん、キミは相変わらず面白いね〜!」
「我が息子ながら情けない……」

それぞれのツッコミを受けて直江は失敗したことを悟ったらしい。珍しく真っ赤になって俯いてる。
いや〜、こーゆー直江は可愛いな〜。

「そりゃ義明の方が好きに決まってるよなあ、高耶くん!」
「お、改めて愛の告白か、高耶!言っちまえ言っちまえ!」
「遠慮せずに言ってやりなさい」

ええ?!なんでオレに振るわけ?!
くっそ〜!直江の野郎!!おまえのせいでオレまで恥ずかしい思いをさせられてんだぞ!!

「ほら、高耶!」
「……よ、義明さんの方が好きです……」

待ってましたと言わんばかりに全員が拍手と口笛だ。くそ、恥ずかしいったらないぜ!

「ヒューヒュー!!」
「よ、ご両人!いつまでも仲良くな!」
「おめでとう〜!!」

それからはオレだけ抜けてダイニングへ。もうかまってられっかってんだ。やけジュースしてやる〜。

「そういえば、仰木さん。今度息子さんがお生まれになるそうで」
「あ〜、そうなんですよ〜。いや、まいったなあ」
「海外旅行で仕込んできたって聞きましたよ〜。まだまだお若いですなあ」

男が集まるとどうしてこうシモネタばかりになるんだろうか?永遠の謎だ。
直江がどうにか軌道修正しようと頑張って、お義母さんの話を出した。

「おめでたいのにアイツは何を言い出すんだかな。今日、帰ったらとくと叱っておきますから」
「いや、お気になさらず。確かに19歳差の兄弟なんて微妙ですから」

父さんは誰に何を言われてもまったく気にしないタイプで、そこが母さんとちょっと違って長所でもある。
気にしすぎないのもどうかと思うけど、今回はそれでいいんじゃねえの?

「しかし義明としては我が子のように可愛がるつもりですからね。それに生まれてくる赤ちゃんはみんなで可愛がってやりたいじゃないですか」

お義父さん、いいこと言うね!だいす……おっと、ここでコレ言ったらまた愛の告白をさせられちまう。
だまっとこ。

「お話がわかりますねえ、橘さん。ウチのにも奥さんとモメないように厳しく言っておきますから。あいつはどうも短気でいけないですよ」

そーだそーだ。母さんの短気には家族じゅうで閉口してるとこもあるんだ。
でも父さんも美弥も面白がる方が多いけどな。

男同士の宴会は主役の夫婦を無視して盛り上がってた。
よーく考えたらオレと直江の家族でまともな人はいないんじゃないだろうか?
次男のお兄さんも、お姉さんも、なんでか結婚に反対してなかったし、今も普通に家族として付き合ってくれてるし。
さすがにウチの実家よりはマトモだろうけどさ。

夕方6時まで宴会は続いて、ドンペリも寿司もケーキもなくなった。
オレたちのお祝いじゃなかったのか?

「じゃあそろそろ帰るとするか。仰木さん、父さん、良かったら駅前で飲み直しませんか?」
「おお、いいですねえ」
「そうするか」

台風のような男たちがほろ酔いで帰って行った。

「どうやらお父さんたちは赤ちゃんの味方になってくれましたね」
「そうみたいだな。良かった。まあ、ちょっと騒がしかったけど、嬉しかったかも」
「じゃあ着替えて出かけましょうか」
「うんっ」

レストランは高級なところだからってオレは結婚式で着たスーツ。直江は最近新しくオーダーした夏物のスーツ。
家の前までタクシーを呼んで、行った先は結婚式をしたホテルだった。

「ここのレストラン?」
「ええ、結婚記念日ですから。思い出の場所で」
「……やっぱ直江が一番好きだよ」
「ありがとうございます」

仲良く肩を並べてホテルに入った。レストランでの食事も美味しかったし、直江も最初から最後まで優しかったし、昼間はさておき、夕方からは最高の誕生日&結婚記念日。
乱入者はあったけど、みんなオレたちのためを思って心配して来てくれたんだろうなって話をした。

「私たちは幸せですね」
「うん、その中でもオレは一番幸せ」
「どうして?」
「直江に愛されてるから」
「……帰ったらたくさんキスしていいですか?」
「たくさんしような」

んで、帰ったらマジでたくさんチューした。玄関から始まって、リビングで。
それから一緒に風呂に入ってまたチューして、裸のまま寝室へゴーして、メインイベント。
今日は特別授業だからって教材を使ってのエッチだった。相変わらず先生は教育熱心。

「お誕生日、おめでとうございます」
「なおえぇ……」

エッチの最中に言われたから直江からのプレゼントはアレかと思ったんだけど、ちゃんと後からもらった。
専業主婦の味方、食器洗い機。
オレの手が荒れないようにって。やっさし〜♪

そういえば。
忘れるとこだったけど、父さんが持ってきたドンキホーテの袋には何が入ってたんだろう?
明日にでも直江に教えてもらおーっと。

 

END

 

 
   

あとがき

誕生日をまたいで3話ほど
関連話になります。
次回で一連の話は終わって
区切りがつきます。
ドンキの袋には教材が入ってました。


   
   
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