奥様は高耶さん |
||||
明日はオレの誕生日。直江との結婚記念日2回目だ。 なんでかオレと直江は記念日っつーと邪魔されるジンクスがある。
なーんて思ってたのに、やっぱり邪魔が入った。 「こんにちは」 午後2時。長男の照弘お兄さんがやってきた。 「……ありがとうございます……」 お兄さんからシャンパンを受け取ってそのまま帰すなんて非人道的なことは出来ませんよ、オレたちだって。 「そういや義明。この間母さんが来たんだろ?」 直江のお兄さんはいい理解者という立場ではあるんだけど、いかんせんオレの両親に通じるところがあって、たまに洒落にならないこともあったりする。 「いいじゃないか、家族が増えるのはいいことだぞ?」 確かにヒドイな。赤ちゃんはみんなが楽しみにしてるんだからさ。 「高耶くんも遠慮しないで言いたいこと言ってしまっていいんだからね」 そんなこと言ったら何が起きるかわかりゃしねえ!言えないっつーの! 「ところでお兄さん、今日は仕事はどうしたんですか?」 そんなことで嘘ついていいのかよ、社会人のくせに……なんか……ホントに橘家の人なのかな? 「たかやー!!」 この勢いのいい声は……もしかして、父さん?! 「おう、高耶!今日は結婚記念日&誕生日だろ!おめでとさーん!!」 勝手に入ってきてリビングに顔を出したのはやっぱり父さん。手にはドンキホーテの黄色い袋と寿司折が。 「高耶の好きな寿司だぞ。それと、これ義明くんにプレゼントな。お、これはこれは義明くんのお兄さん。お久しぶりです」 父さんと直江のお兄さんの年齢差は4歳。父さんの方が年下だったりする。 「父さん、何?もしかしてわざわざ仕事休んで結婚記念日と誕生日を祝いに来たとか言うんじゃねえだろうな」 アッサリ言うな!!いい大人が息子の記念日で休むってどうゆうこっちゃ!! 「いや〜、有給休暇がたまっててな〜。せっかくだからおまえの誕生日に合わせて休んだわけだ」 父さんは一応社長をやってる。グラフィックデザインをやってて、仕事が増えた頃にフリーから会社にして社長になった。 「お!ドンペリですか!いや〜、これうまいですよね〜」 ちょっとちょっとちょっと〜!! 「いいですね、飲みましょうか」 直江まで〜!! 仕方なくグラスを用意しに行ったら直江もついてきた。 「酔わせてとっとと帰しましょう」 おつまみと寿司と酒を準備してリビングへ。記念日のために予約してあるレストランの時間までにどうにか追い出すぞ。 「仕事ですか?」 お義父さん?なんかさらに嫌な予感が。 「どうしたんですか?あ、今は義明の家にいるんです。ええ、そう、結婚記念日と高耶くんの誕生日を祝ってるところです。仰木さんのお父さんも来てますよ。来るんですか?ええ、賑やかな方が楽しいと思いますからかまわないんじゃないですか?でもお祝いはちゃんと持って来てくださいよ。それとお母さんには内緒で」 待て待て待て〜い! これには直江もちょっと困ったらしい。 「あの、私と高耶さんは夕方から出かけてしまうんですが、それまでにお開きにしてくれるんですよね?」 怪しい。冗談とか言ってるけどかなり本気だ。 それから20分ぐらいしてお義父さんが来た。今日はお寺の仕事は次男のお兄さんに任せて来たって。 「これは高耶くんにな。お小遣いだ。好きなように使いなさい」 封筒に入ってるお札の厚みは約5枚ぐらい。やった♪直江はケチンボだからな、小遣い欲しかったんだ〜。 「もう学生じゃないからお父さんから小遣いをもらえなくなったんだってな。義明の稼ぎじゃ欲しいものも買えないだろ。照弘のバイト代もスズメの涙ほどだそうだし」 いや〜、お義母さんと違って話がわかるなあ!さっすが男同士だぜ! 「お父さん、高耶さんにそんな大金を渡さないでください。それじゃ孫扱いですよ」 これなら夕方までぜひいてもらってかまわない。こんな気が効いたプレゼントしてくれるなんてお義父さん最高! 「わーい!お義父さん、大好き!!」 このオレの不用意な発言が直江の逆鱗にちょろっと触れたようだった。 「……私と父とどっちが大好きですか……?」 その直江の一言で場が固まった。 「……えーと」 それぞれのツッコミを受けて直江は失敗したことを悟ったらしい。珍しく真っ赤になって俯いてる。 「そりゃ義明の方が好きに決まってるよなあ、高耶くん!」 ええ?!なんでオレに振るわけ?! 「ほら、高耶!」 待ってましたと言わんばかりに全員が拍手と口笛だ。くそ、恥ずかしいったらないぜ! 「ヒューヒュー!!」 それからはオレだけ抜けてダイニングへ。もうかまってられっかってんだ。やけジュースしてやる〜。 「そういえば、仰木さん。今度息子さんがお生まれになるそうで」 男が集まるとどうしてこうシモネタばかりになるんだろうか?永遠の謎だ。 「おめでたいのにアイツは何を言い出すんだかな。今日、帰ったらとくと叱っておきますから」 父さんは誰に何を言われてもまったく気にしないタイプで、そこが母さんとちょっと違って長所でもある。 「しかし義明としては我が子のように可愛がるつもりですからね。それに生まれてくる赤ちゃんはみんなで可愛がってやりたいじゃないですか」 お義父さん、いいこと言うね!だいす……おっと、ここでコレ言ったらまた愛の告白をさせられちまう。 「お話がわかりますねえ、橘さん。ウチのにも奥さんとモメないように厳しく言っておきますから。あいつはどうも短気でいけないですよ」 そーだそーだ。母さんの短気には家族じゅうで閉口してるとこもあるんだ。 男同士の宴会は主役の夫婦を無視して盛り上がってた。 夕方6時まで宴会は続いて、ドンペリも寿司もケーキもなくなった。 「じゃあそろそろ帰るとするか。仰木さん、父さん、良かったら駅前で飲み直しませんか?」 台風のような男たちがほろ酔いで帰って行った。 「どうやらお父さんたちは赤ちゃんの味方になってくれましたね」 レストランは高級なところだからってオレは結婚式で着たスーツ。直江は最近新しくオーダーした夏物のスーツ。 「ここのレストラン?」 仲良く肩を並べてホテルに入った。レストランでの食事も美味しかったし、直江も最初から最後まで優しかったし、昼間はさておき、夕方からは最高の誕生日&結婚記念日。 「私たちは幸せですね」 んで、帰ったらマジでたくさんチューした。玄関から始まって、リビングで。 「お誕生日、おめでとうございます」 エッチの最中に言われたから直江からのプレゼントはアレかと思ったんだけど、ちゃんと後からもらった。 そういえば。
END
|
||||
あとがき |
||||
ブラウザでお戻りください |
||||