奥様は高耶さん



第8


アンチエイジングとオレ

 
         
 

 

最近直江の顔が疲れてる。
学年主任と生活指導で大変だからだってのはわかるけど、目の下にクマ作ってたり、肌がくすんでたり、髪の毛のツヤがなかったり、白髪がちょっぴりあったり。
奥さんから見てこーなんだから、他人から見たらダッサいオッサンになってるかも。

そりゃ学校でモテモテで女子高生にキャッキャと擦り寄られるのもイヤだけど、みすぼらしいオッサンだと思われるのは奥さんのプライドが許さねえ!
つーわけで元通りのかっこいい橘先生に戻ってもらおうじゃねえか!

「ただいま〜」

おっと、お疲れモードの旦那さんの帰宅だぜ!

「おかえり!え〜、本日より橘先生アンチエイジングタイムが、あ〜、ございみす!ジャンジャンバリバリ×2頑張ってもらいみすからよろしくお願い、い〜、いたしみす!」
「……高耶さん?」
「まずは夕飯からサービスタイムで〜、え、ございみす!」

ちょっと前に父さんに連れてってもらったパチンコ屋のモノマネをしながら強引に直江を引き込んだ。
わけわからない旦那さんは目を丸くして驚いて、オレに連れられて寝室で着替え。
うん、服装は大丈夫だ。相変わらずかっこいい橘先生のまんまだから合格。

やっぱ外側じゃなくて中身の問題なんだよな〜。

「夕飯はもう用意して、え〜、ございみす!」
「ちょっと待ってください!なんなんですか、そのパチンコ屋みたいなアナウンスは!」
「お、正解!」
「正解じゃなくて!いったい何があったんですか!」

あ、そっか。ちゃんと話さないとわかんないよな。仕方ないな〜。

「んーと、直江が最近オッサンくさいから直そうと思って」
「……また加齢臭ですか……?」
「ううん。今度は匂いじゃなくて顔とか髪とか体とか」
「…………そ、そんなにオッサンくさいですか……?」
「ちょっとな〜。手遅れにならないうちにどうにかしないとさ」

顔をヒクヒクさせながら直江は寝室にある鏡の前に走った。んで鏡をじっと見る。

「本当だ……いつのまにクマが……」
「2週間前から」
「白髪はとりあえず1本だな……」
「後ろにも1本あるから2本だよ」
「少し痩せたか……」
「やつれたんだよ」
「忙しかったからなあ……」
「いいからメシ食うぞ!」

ちょっと小さく見える直江を引きずって階段を下りてダイニングへ。直江のショックはなかなか抜けなくて、テーブルにつかせたけど上の空だった。
せっかく美味しくて若返りの食事にしたってのにい!

「直江、今日はな、橘先生を若返らせるためのメニューなんだ。だからそんなに落ち込まなくていいから」
「……若返り?」
「そう!ワカメを入れたコラーゲン鶏スープだろ?血色が良くなるほうれん草の炒め物と、お腹にいい玄米ごはん、頭を冴えさせるDHAたっぷりの魚の刺身。な?これで直江も元のかっこいい橘先生になるってもんだ!」
「高耶さん……!あなたって、あなたって人はなんて旦那さん思いのステキな奥さんなんでしょう!」

涙を浮かべて感激してる旦那さんにギューされてチューされてしばらくホワホワした。
気を取り直して夕飯タイムだ。ジャンジャンバリバリ食べてもらおう。

「いただきますッ!」
「はい、どーぞ」

直江は残さず食べた。修羅か羅刹かってごとく食べた。そんなに外見に気を使ってたなんて知らなかったな〜。
案外ナルシストだったのかな?んー、まあ少しぐらいはそうじゃないと「かっこいい先生」にはなれないものかもしれない。

「ごちそうさまでしたッ!」
「お粗末様〜」

いつもだったらこのままソファでまったりするんだけど、今日はまだまだサービスタイムがある。

「え〜、お次はお風呂で〜、え、ございみす!」
「お風呂もですか?まさかワカメが入った風呂に浸かれと言うんじゃ……」
「おお!惜しい!残念ながらワカメじゃないんだけど、海のナントカって成分が入った入浴剤を使ってみた!これで肌はツルツルのスベスベのプルンプルンだ!」
「…………。一緒に入りませんか?」
「へ?」

真顔で直江がオレに訴えた。何か直江の心にピキーンと来るものがあったのかな?

「いいけど」
「じゃあパジャマ用意して入っちゃいましょうね♪」
「う、うん」

なぜか直江がいそいそとパジャマと下着を用意した。手を繋いで風呂場に連れて行かれて、一緒に脱いで一緒に入る。
せっかくだから背中を流してやろう。ついでに髪の毛も洗ってやっか。白髪はあとで切ってやろっと。

「海水の入浴剤入りですか……ほほう、これが」
「リラックス効果あるらしいからゆっくり入れよ?」
「はい」

直江は高耶さんも一緒にのんびり入りましょうっつってオレまで強制的に付き合わされた。
オレが若返ってもしょうがないのに。まだ19歳のピッチピチに可愛い男子なんだからさ。

「寝る前にヒアルロン酸の化粧水もつけて、目元に美容液もつけるから」
「女性みたいですね」
「そのぐらいしないと現代の男はやってけないらしーぞ?」

って、昼間のテレビでやってた。今は男専用エステもあるぐらいだから、男も容姿に気をつけないといけないよな。
臭かったり汚かったりしたら世の女性たちから嫌われる。女性たちに嫌われると居場所が狭くなる。
先生をやってる直江としては女生徒に嫌われたらオシマイなんだ。

なんだか直江がご機嫌で風呂から出た。ドライヤーで髪の毛を乾かしてやってから白髪をハサミで切る。
根元の方が茶色かったから一時的なものなんだろう。良かった〜。

「じゃあこれ化粧水」
「高耶さんもつけましょう。夫婦なんですから何でもお揃いにしましょうよ」
「……うん、いいけど」

おかしい。あやしい。
なんか風呂の時から直江の様子がおかしい。妙に機嫌いいぞ。
風呂に入る前まではけっこうショックがってたのに……。

「高耶さん、やってあげますよ」
「あ、うん」

さあどうぞって言われて、床に敷いたホワホワのキルトに寝っ転がって直江の膝に頭を乗せた。
直江の膝の上っていっつも気持ちいいな〜。こんなこと出来るのって奥さんのオレしかいないなんてなんて幸せなんだろ!!

「目をちゃんと瞑っててくださいね?」
「は〜い」

ひんやりしたコットンが顔の上を滑っていく。おお〜、いい気持ち。
こりゃアンチエイジングなんて言わなくても毎日やりたいな〜。

「直江にもしてやる」
「お願いします」

新しいコットンを出してそれにダクダクと化粧水を浸した。直江に膝枕してやってニヤけた顔に塗ってやってたら。
不埒な直江の手がお尻をナデナデしてきた。

「おい」
「続けてください」
「なんでケツ触るんだよ」
「いつものことじゃないですか」

そりゃそうだけど。直江がオレのお尻を触るのなんか日常茶飯事。今朝だって学校行く前にナデナデしたし。
普段もソファでイチャイチャしてると触ってくるし。
ナデナデされたまま化粧水を塗って、目元の美容液を塗った。
直江の笑いジワはキュートで可愛いから美容液なんかいらないよーな気がするんだけど、でもこれが苦労ジワにならないようにするためにしっかり塗ってやらないと!

「はい、終わり〜。直江、もういいよ」
「じゃあ寝ましょうか。高耶さん」
「……まだ眠くないよ?」
「眠くなくても寝るんです」
「え?」

ちゃっちゃと戸締り確認を終えた直江に抱っこされて寝室へ。

「まだテレビ見たかったのに〜!」
「せっかく高耶さんもツルツルでスベスベでプルンプルンになったんですから、たくさん触らせてくださいよ」
「……そうゆうことか!!」

風呂場でいきなり機嫌良くなったのも、アンチエイジングに協力的になったのも、さっきお尻をナデナデしたのも全部これが目的か!!
まったくエッチな旦那さんだな!!

「いいでしょう?」
「けど直江、疲れてるんだろ?」
「そんなもの、奥さんの可愛らしい姿を見れば吹き飛びますよ」

直江ってバカだ!!

 

 

アンチエイジングを一緒にやるとエッチなことになるとわかったオレ。
でも直江を若々しく見せたいからやめるわけにもいかない。

「今日もアンチエイジングタイムしましょう!高耶さん!」
「……でもエッチはしたくない……毎日エッチなんて無理だもん」
「……じゃあ今日はやめておきましょうか……」
「ダメ!せっかくここまで若返ったのに〜!」

もうちょっとでクマもなくなるし、顔色だって良くなるのに!肌も20代みたくなってきたのに!
続けなきゃ意味なくなるじゃん!

「……高耶さん」
「む〜」
「私にとって何が一番アンチエイジングかわかりますか?」
「……コラーゲン?」
「違いますよ」

クスクス笑いながらギューしてくれた。

「高耶さんが笑顔を私に向けてくれることです」
「…………う」

さっきまでエッチしたがってたくせに、こうやってすぐに優しいこと言ってオレを騙すんだ!
いや、騙してるんじゃなくてこれが直江の本心なんだけど!
……でも……急にこんなこと言われたら……嬉しくて恥ずかしくて、どうしたらいいかわからない!

「高耶さん?」
「む〜」

オレが恥ずかしがって膨れてるんだってわかったのか、さらにギューしてきた。
も〜!なんでこいつってこんなにかっこいいんだよ!!

「オレね、ホントは直江の目尻のシワが好きなんだよ。それと疲れた顔も渋くてかっこいいと思ってる。けど橘先生が学校で悪口言われるのイヤだから……」
「私は高耶さんが好きでいてくれるなら、誰に悪口言われたって平気ですよ」
「う〜、なおえ〜」

大好きって10回言ってからチューした。
20回言っても良かったんだけどチューしたかったんだもん。

「アンチエイジングやめてもいいよ?」
「やめませんよ、せっかく調子が良くなってきたんですから。もう少ししたら仕事も落ち着きます。それまでは疲れた顔で学校に行くのもなんだし、このまま続けます」
「エッチも続く?」
「高耶さんが無理だったらしません」

そんで直江はアンチエイジング継続。オレはそれに協力。
直江が元のかっこいい橘先生に戻ったのはすぐだった。

「でもやっぱり私にとって一番の元気の素は高耶さんとのエッチにあるんだと思います」
「なんで!!」
「若いエキスを吸い取れるでしょう?」
「このエロ教師〜!!」

橘先生は学校での聖人君子っぷりと違って家じゃただのエロ教師。高耶限定の。
けどそれもオレにとっては幸せなわけで。
目尻のシワだって愛しいわけで。
エッチだって許すわけで。

これからもアンチエイジングしてもらおう!いつまでもかっこいい旦那さんでいてもらうために!!

 

END

 

 
   

あとがき

次回で区切り、とか言ってたのに
別の話を入れちゃいました。テヘ。
次で母親対決が終わると
思いみす!


   
   
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