奥様は高耶さん |
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今オレは人生最大のピンチに立たされている。 しかしここはオレの家。竜虎決戦なんてさせてたまるか! 「二人とも落ち着けよ!」 ことの起こりは今日の昼。いつものごとく昼飯を食いに来た母さんとワイドショーを見ながら話してたら、こっちもいつものごとく突然来た。 そんでダラダラしてるオレと母さんを見て嫌味を言い、母さんはその嫌味に対抗。 「その大きなお腹で高耶くんと歩いたら年上女房に見られてしまうんじゃなくて?」 な?怖いだろ? 「まったく30歳も離れた兄弟なんてねえ。義明ったら正直なところどう思ってるのかしら?」 赤ちゃんが産まれるのを直江が嬉しがってるのは誰もが知ってることで、それをお義母さんだけは許せないわけ。 「わたくしが言っているのはね、いい年をして妊娠なんかしないでほしい、そういう意味なのよ?」 ここでお義母さんキレた。 「おほほほ。よくおっしゃいますわねえ。そういう橘さんこそ義明くんと照弘さんの年齢差は12歳だそうじゃありません?いい年をして妊娠なさったのねえぇぇ」 母さんもキレた。 「落ち着いてるわよ〜、お母さんは〜」 しばらく喧々囂々やりあって、怖いしアホらしいしでオレは庭に出てハーブの世話をした。 「高耶さん?何してるんですか?」 今日は中間テストだから早めに戻ってきたらしい。そういえば美弥がテストだって話してたっけ。 「あのな、今、竜虎対決してるんだ」 庭の窓から見てみたら、相変わらずケンカしてるみたいだった。 「私が仲裁に入りますよ」 それでも直江は自分がこの家の主なんだからって言って仲裁に行った。 「もう終わりにしたらどうですか」 ほらな。無駄だろ? 「高耶さん!そんなところでのんびりしてないで!」 とにかくこの二人を離れさせなきゃいけないからって直江に言われて、渋々母さんを引きずってキッチンへ。 「さあ、お母さんはもう帰ってください。これじゃ胎教にも良くないですから」 がーん!! 「な、なんですって〜!うちの息子になんてこと言うのよ!高耶はバカだけど素直でいい子なのよ!こっちだってアンタみたいな姑のいるカタブツ男なんかに嫁にやったのを後悔してるっつーのよ!」 ああ、直江までへこんじまった!! 「もう我慢できません!義明!この結婚は終わりにしなさい!こんな親子なんかとあなたが関わり合いを持つなんて耐えれないわ!離婚よ!」 そんな!オレたちメチャクチャ仲良くていい夫婦なのに?!なんで離婚?!勝手に決めるなよ〜!! 「高耶!」 もう我慢できねえ!ふざけんな!! 「いい加減にしろ〜〜〜〜!!!」 しーん。 「うッ!」 母さんが突然、お腹を抑えてしゃがみこんだ。 「母さん!?」 みんなで近寄って覗き込んでみた。そしたら。 「うッ……産まれる〜〜!!」 陣痛が始まったらしい。脂汗かいてお腹を押さえてて、膝がガクガクしてる。 「たたた高耶さんが怒鳴るから!」 お義母さんも直江もオレを見てなんか責めてる感じ?! 「か、母さん、しっかりしろ!オレのせいなのかよ、マジかよ!ちょっと何とか言えよ!」 母さんに詰め寄ってみたけどそれどころじゃないらしい。本気で産まれそうみたい。 「ちょ、ちょっと待ってください、高耶さん!予定日までまだ日にちがあるんじゃないですか?!もしかして早産ですか?!」 母さんのバッグから母子手帳を出した。それをお義母さんに渡して見て貰ったらなんと!! 「出産予定日、今日じゃないの〜!!」 間違えてるし……1週間間違えてるし……やっぱこれがオレの母さんだ……。 「陣痛なかったの?!」 お義母さんは先陣を切って母さんの世話をした。オロオロするオレたち夫婦は言われたままに準備をして母さんを車に乗せて病院へ。 女って強え〜。
それで。母さんは少し陣痛で苦しんだけど赤ちゃんは2時間ぐらいでスッポーンと生まれた。 「よく頑張ったわねえ。高齢出産って何かと大変でしょう?」 なんて会話を母さんとして、知らないうちに和解してた。 「いや〜、これで義明の孫の顔を見たってことにするか!」 直江んちの男連中は感覚がちょっとだけズレてるらしい。 「そうだ、橘さん!これから祝いの一杯といきましょうか!どうせ男どもは邪魔にされてしまうんだし!一緒に名前を考えてくださいよ!」 なんでオレんちなわけ?! 「いいですね、そうしましょう!」 直江まで一緒になって宴会するつもりなのかよ〜!! 「美弥、おまえ行ってくんねえ?」 ブツクサ言ってたらお義母さんがやってきた。 「高耶くん、嫁の心構えがあるなら祝杯の準備ぐらいしなさいな。あ、言っておきますけどね、お父さんたちは塩分控えめの食事じゃないとダメよ。それとお酒はあまり飲ませないでちょうだい」 やっぱお義母さん、ちょー怖ええ。 「あなたの代わりにお母さんについててあげますからね。心配しないで帰りなさい。男の人がいたってどうせ役に立たないんだから」 でもまー母さんと和解してくれたんだったらいいや。 「んじゃオレたち帰ります。何かあったら電話ください」 オレだけはまだいじめられそうな予感……。 んでその日の祝杯で橘家3人と父さんで名前を考えた。料理をしてるオレを抜きでだ。 「俊介に決定だ!」 坊さんやってる直江のお父さんが漢字をいくつか出して、その他3人のオッサンで選んで決めた。 「お義父さん、いいんですか?たかや、みや、どっちも『や』で終わるのに」 どーゆー意味だ!! 「それにしてもめでたいですなあ!仰木さん!まま、一杯」 宴会は深夜まで続いた。直江は明日もテストだってゆーのに酔っ払ってた。いいのかよ。 「は〜、赤ちゃん、生まれましたねえ」 でも直江ってばオレの話なんか全然聞いてなくて、頭の中は赤ちゃんでいっぱい。 「我が子のように可愛がりましょうね!私たち夫婦で!」 それでもこの疲れは心地よくて。 「お風呂に入って寝ましょうか。片付けは明日でいいですよ」 楽しいとは思うけど、オレはどうも苦労しそうな気がするんだよな。 「そうだな。きっと今までより楽しくなるかもな」 直江にギューしてもらって今日の喜びをようやくかみ締めた。赤ちゃんだ。オレと直江の子供みたいなもんだ。 「なんかオレ、すっごく幸せ」 チューしてギューしてからお風呂。トーゼン一緒に。 「しゅんすけか〜。うー、可愛いッ」 誰に何を言われようが俊介はオレの可愛い弟。大事に大事にするんだもんね。 そろそろ寝るかと思って寝室に行ったら、直江は笑ったまま寝てた。 「寝よっと」 ちょっと酒臭い直江の腕の中に入ったらギューされた。寝ぼけてこんなことする直江は赤ちゃんと同じくらい可愛い。 「しゅんすけさん……」 前言撤回。寝言でオレ以外の人間の名前を呼ぶのは気に入らない。例えそれが新しい弟であってもだ。 「なんですか、高耶さん……」 すぐにまた寝入った直江はまた寝言を言った。今度はオレの名前だったから頭をナデナデしてやったらニヤッと笑った。 「起きてるだろ?」 ナデナデしてた手で頭をグチャグチャにしたら、その手を取られて引き寄せて、チューされた。
翌朝。 「二日酔いになってない?」 予想以上に直江は赤ちゃんにメロメロだ。 学校に行く直江を見送ってからオレも出かける支度をした。 実家に帰ってリストにあったものをカバンにつめて病院へ。 赤ちゃんを見てたら学校から直行で来た直江が現れた。まだ午後イチだってのに。 「俊介さんは?」 直江もガラス越しに見てうっとりだ。「可愛いなあ」なんて呟いてる。 「あら、義明。もう来てたの?」 意外なことに直江のお母さん登場。なんか荷物持ってるけど……。 「どうしたんですか?」 そう言って去ったお義母さん。昨日まであんなに嫌味言ってたのにどうして?って直江に聞いたら。 「本当はずっとお祝いしたかったんでしょうね。でもなんだか仲間はずれになった気がして面白くなかったんですよ。それで憎まれ口を叩いてたわけで」 直江の予想は当たってたみたい。ずっと母さんと楽しそうに話し込んでたからな。 「自分が俊介さんの出産に立ち会えたのが嬉しいんですよ。やっと仲間に入れたって思ったんじゃないですか?」 絶対にオレのせいじゃないと思う。でも嫁の立場としてはこれでいいのかもな〜。 「本当に可愛いですね」 ちょっとビックリしたけど嬉しかったから直江のスーツの裾を掴んで返事の代わり。 「さあ、お義母さんのところに行きましょうか」 直江のスーツの裾を掴んだまま病室へ。 30分ぐらい母さんと話して、帰ることになった。お義母さんと一緒に病室を出てもう一回新生児室を覗く。 「まあ義明の子供の顔は見られなかったけれど、これでヨシとします」 どーゆー意味?!それどーゆー意味?! 「おほほほほ!」 高笑いしてお義母さんは帰っていった。 「…………なに、今の……」 最後までお義母さんはお義母さんのままだった。たぶん一生オレとお義母さんはバトルを続けるに違いない。 「産む!」
END
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あとがき |
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