奥様は高耶さん |
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今日は日曜日。 なんで直江がこうなのかってゆーと、今日は二人でオレの実家に行くから。 オレは毎日実家で家事の手伝いをしてるから赤ちゃんには毎日会ってて、抱っこも慣れたし、オムツも替えられるし、寝かしつけることだって、哺乳瓶でミルクやることも出来る。 でも直江はなかなか仰木家に行く暇がなくて、赤ちゃんが生まれてからまだ1回しか行ってない。 「そろそろ出ましょうよ、高耶さん」 こんな感じ。オレだって早く行きたいけど、もしまだ母さんが寝てたら……と思うとすっげー怖い目に合うから時間は守らないとな! 「俊介さん、元気ですかねえ」 今からこんなじゃ預かるようになったら直江が学校に出勤しなくなるんじゃないかとも思う。 「俊介のためにもしっかり働けよ!」 なんだかわかってない顔してたけど、しっかり働くのはわかってくれたらしい。 そんな感じでソワソワの直江と過ごしていたら、玄関のピンポンが鳴った。 「はーい」 インターフォンのモニターで誰が来たのか見てみたら、知らないオッサンが立ってた。 「橘照弘さんからお荷物です〜」 宅配便屋さんだった。お兄さんから荷物ってなんだろう? 「こ……これ全部?」 いったい何を送ってきたんだ。人間一人二人は余裕で入れそうなバカでかいダンボールが4個もある。 そんで開けて見てみたら。 「ベビーベッド……でしょうか?」 でも直江は嬉しそうにニヤニヤ笑ってる。 「もうちょっと大きくならないとうちでは預からないのに。ね、高耶さん」 届きました、ありがとうございますって電話をしたら、お兄さんも直江同様嬉しそうな声で「そうかそうか」と笑ってた。 今回送ってもらったものは、お兄さんたちの子供が使ってたお古なんだそうだ。オムツはお義母さんが縫ったんだって。哺乳瓶のセットはお義父さんからのプレゼント。 電話を切るともう直江がベビーベッドを組み立ててた。まだまだ早い、つーか早すぎるってのに。 「直江、そんなことしてないでお礼の電話してよ。哺乳瓶セットとオムツはお義父さんとお義母さんからで、ベッドは照弘お兄さん、ベビーチェアは冴子さん、布団とオモチャは義弘さんだって。服は兄弟全員から」 ベッドを作ってた手を止めて、慌てて電話を掛け始めた。
お礼の電話を全部終わらせたら11時になってた。そろそろ行くか。 「大変ですよ、高耶さん!あんなに泣いて!」 急いで入りましょうってゆう直江の話なんか聞かずに、普段どおりドアを開けた。 「俊介さんに何かあったんですよ!」 さっさと靴を脱いで中に入ろうとする。それをジャケットを引っ張って止めて、それでも進もうとするのを阻止してオレが先に歩いてリビングに入った。 「ただいま。俊介どうしたんだ?すげー泣いてるけど」 大袈裟に安心した直江を見て父さんが笑った。 「義明くんは親バカだな〜。いや、親じゃないから何だ?兄バカか?ああ、でも兄は高耶だしなあ。義兄バカ?」 直江を連れてオムツ替え最中の俊介のところへ。 「俊介、お兄ちゃんだぞ〜」 抱っこしてスリスリした。こうやって毎日やってれば別居しててもオレをお兄ちゃんだと思ってくれるだろう。 「直江も抱っこする?」 直江に俊介を渡してみた。赤ちゃんは橘家に生まれた子がたくさんいるから抱っこは出来るらしい。 「……可愛い……」 そーいえばそうだな。オレの旦那さんなんだから直江もお兄ちゃんてことになるんだけど、そーするとオレんちで育つ場合にどっちも『お兄ちゃん』て呼ばれることにもなる。 それでオレと直江と父さんと美弥で会議になった。 「『直江』でいいんじゃねえの?」 やっぱり本人の希望が一番じゃないかってことで直江の希望を聞くことにした。 「遠慮しないで言えば?」 直江は父さんの顔をじーっと見てから、オレだけにヒソヒソと耳打ちをした。 「ブハハハハ!マジでそう呼ばれたいの?!」 直江のネーミングセンスが悪いのは知ってたけど、まさかここまでとは思わなかった! 「なんだ?そんなに面白いなら父さんにも教えてくれよ」 父さんも美弥も大笑いだ。 「失礼な……」 直江の気分はもうパパで、俊介を義理の弟じゃなく息子として可愛がりたいんだってのはよく分かる。 「ウヒャヒャヒャヒャ!あ〜、笑ったなあ。まあ、別にいいんじゃないか?どうせ義明くんの家で過ごすことが多くなるんだし。もうちょっと大きくなったらしょっちゅう高耶が預かることになるんだ。幼稚園に入るまでは別宅と本宅と半々ぐらいでって話してるところだ」 幼稚園に入るまでの大事な大事な時期に、オレみたいなバカにならないように直江に教育してもらうつもりで、別宅と本宅と半々て話を父さんたちにしたら、案外簡単にOKしてくれたんだ。 「だから義明くんも『直パパ』としてしっかりパパをやってくれ」 直江が喜んでるからいいや。 それからすぐに父さんと美弥は育児をオレたちに任せて出かけてしまった。 仕方ないから簡単に作ってると、直江に抱っこされてた俊介が泣き出した。 「ふぎゃ〜」 母さんは搾乳機で俊介が飲みきれなかったぶんの母乳を搾って冷凍させてる。 「お母さんの知恵ですね」 料理してたのを一旦中断して、解凍した母乳を哺乳瓶に入れて飲ませた。お腹にものが入ったらとたんに機嫌が良くなっていく俊介。 「高耶さん、飲ませるの上手ですねぇ」 俊介の口から哺乳瓶を離して、直江に抱っこさせた。 「哺乳瓶の吸い口のとこに空気が行かないように持って。俊介の口に当てたら勝手に吸うからやってみて」 直江がミルクをやってるとこをじっと見てた。こうしてるとホントに親子みたい。 「勢い良く飲むんですねえ」 直江にチューしてから寄りかかって俊介を見てた。ああ、オレたち3人で親子に見えないかな〜。 「おや、俊介さん、おねむですか」 ミルクを飲んでる最中に眠くなった俊介が哺乳瓶を口にしたまま寝てしまった。 「全部飲ませないとすぐにまたお腹減ったって言って泣くから。足の裏コチョコチョして起こして」 直江の指が小さい足の裏をコチョコチョやった。う〜、二人とも可愛い! 「あ、起きました。じゃあほら、ミルク飲んでください」 あとちょっとだけ飲んでまたおねむ。もうダメかな? 「とりあえず縦に抱っこして背中ポンポンして。ゲップしたら寝かせるから」 直江の大きくて優しい手が背中をポンポンしたらすぐに可愛いゲップをした。俊介用の小さいマットをソファに敷いて、そこに寝かせてバスタオルをかけてやる。 「これでしばらく起きないから、オレたちはメシ食っちゃおう」 途中だった料理を再開して親子丼の完成。母さんを起こして3人で食った。 「お父さんは?」 夫婦生活って……アッチ方面のことだよな……? 「あ〜、お腹一杯になったらまた眠くなってきたわ〜。俊ちゃんと一緒に昼寝しようかしら」 くそ、しらばっくれやがって。寝返り打った母さんの手が俊介の顔を直撃したってのに〜。 「もう俊介とは一緒に寝ないでくれ。寝るならオレが子守する」 また寝室に行ってしまった。いったいどれだけ寝れば気が済むんだ。 「なんか納得いかねー」 俊介とオレと直江と3人親子で静かに過ごした。見てるだけなのに赤ちゃんてのは飽きないから不思議だ。
1日を俊介と過ごして満足して帰った。特に直江は満足120%だったみたいで家に帰ってからも俊介の話ばっかりでうるさいぐらい。 「早く大きくなってうちにお泊りして欲しいですねえ」 じゃあ今も甘やかしてもらおうっと。 「なおえ〜」 リビングのラグの上に座って寄りかかってチューして甘えた。 「高耶さんも抱っこしてあげましょうか」 直江の膝に座って抱きついた。ここは絶対にオレの指定席。俊介にだったら貸してやってもいいけど、オレのだってことは教え込まないといけないな。 「直パパになってもオレの直江だからな。ちゃんと旦那さんでいてくれよ?」 だって直江はオレの大事な旦那さんだもん。 「もし俊介ばっかり可愛がってオレをほったらかしにしたらグレるからな」 じゃれてベタベタイチャイチャして幸せな気分。
END
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あとがき |
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