奥様は高耶さん



第14


12月25日とオレ

 
         
 

 

今年のクリスマスこそ二人きりで過ごすんだと意気込んでる直江。
学校の先生や生徒たちから誘われたクリスマス会をぶっちぎって、お互いの実家の誘いもぶっちぎって、ついでに俊介のサンタベビー服姿の写メで身悶えしながらもぶっちぎって、クリスマスディナーの予約をしたそうだ。

「私の計画はこうです!まず22、23、24日は高耶さんと旅行に行きます!残念なことに25日は学校の終業式があるのでクリスマス当日は夕方からになってしまいますが、4日連続で高耶さんと二人きりのクリスマス気分を味わえるようにしました!」

だそうだ。
オレは俊介とクリスマス過ごしてもいいかな〜なんて思ってたんだけど、直江は結婚してから一度も満足なクリスマスを過ごしたことがないから熱の入れようが違う。

「旅行ってどこ行くつもり?」
「……松本です」

松本?長野の?なんで?

「クリスマスと何か関係あんの?」
「……お城が……」
「お城?松本城?イベントあんの?」
「……いえ、お城が……見たいんです……」

歴史オタクめ〜〜!!!

「あ、でも松本だけじゃないですよ!他にも色々と計画してあります!」
「どこ?」
「松本から上田に出て、そこから川中島に行って、さらに高田経由で春日山に出て……」
「……松本城、上田城、川中島古戦場、高田城、春日山城……そんなとこか?」
「ご明察!」
「行かねえ!!なんでおまえの城巡りに付き合わないといけないんだ!!キャンセルしとけ!!」

クリスマス旅行って雰囲気じゃねえじゃんか!!
どう考えても和風だ!サンタのサの字もねえ!!

そこで家電話が鳴った。しょんぼりする直江を放置して出てみたら、久しぶりに譲からの電話だった。

「お〜、元気にしてたか?!」
『高耶こそ!家が遠いわけじゃないのに会わないもんだね〜』

譲が大学生になってから会った回数はほんの10回。たいがい学校帰りに駅前で会ったりウチに来たりしてる。

『そんでね、今年もまたみんなでクリスマス会やろーって言ってるんだ。今年は俺んちで。ええと、みんなと予定合わせるから22日の土曜日なんだけど、どうかな?22日なら橘先生も許してくれるだろ?』

おお!いいタイミングだ!!
さっきちょうどクリスマス城巡りがキャンセルになったとこだ!

「行く!泊まりは無理だけど譲んちだったら自転車で帰れるし大丈夫!」
『じゃあ決定だね。午後5時からだからお菓子持ち寄りで来てくれよな』
「おう!」

22日の予定が埋まった〜♪これでクソつまんない城巡りから解放された!

「高耶さん……」
「ごめんな〜。22日は元同級生とクリスマス会だから〜。あ〜、楽しみ〜」
「松本城が……」

それでも直江はメゲずに23、24日を泊まりでどこかに行くように頭の中で変更し始めた。
まあそれだけだったら付き合ってやってもいいかな〜、なんて思ってたとき。

「た〜かやっ!」
「お、千秋」

我が家の庭に面した窓から勝手に入ってきたのは千秋。いつものこったから気にしないけどたまにはピンポン押して玄関から入ってこい。

「おまえ23日空いてる?綾子が独身彼女ナシの俺のためにケーキ作りに来てくれるんだけどさ、どうせならおまえに教えたいって言うんだよ。橘センセーんちだと色々口うるさいから俺んちなんだけど、どう?」
「え〜、おまえは門脇先生と二人きりの方がいいんじゃないの?」
「別にそういうわけじゃないよ。従姉弟だから恋愛要素まったくねーし。綾子が喜ぶから来てやってくんねえ?」
「だったら行く!」

一回キチンと門脇先生からケーキを習ってみたかったんだよな〜。
教えてもらえばこの先、直江にも俊介にも作ってやれるしいい感じじゃん?

「んじゃ午後1時からな。昼飯食ってから来いよ。あと口煩い橘センセーは出入り禁止だから。じゃな!」
「楽しみにしてる〜」

そんで千秋が帰ってった。

「……連休が……」
「いいじゃん。俊介がもう少し大きくなったらケーキ作ってやりたかったんだもん。ちょうどいいだろ?もし俊介にアレルギーがあったりしたらオヤツはオレの手作りしかダメかもしれないんだし」

23日はケーキ作りに決定だな。実家のクリスマスケーキにしちゃえばいいか。

「せめて24日だけは私のために……」

そう直江が必死の訴えを始めたところでまた家電話が。

「もしもし。あ、母さん?何?え?今年の24日は父さんと二人きりで食事に行くって?去年オレたちが行ったホテルのレストランで?中華街なんかじゃなくて?へ〜。美弥は?美弥は彼氏とクリスマスデートなの?ふうん、じゃあ俊介の世話はまかせてくれ」

仲良し夫婦で食事か〜。まああの夫婦だったらそれもアリなんだろうな。
俊介はお兄ちゃんがしっかり育てるから大丈夫だ。

「……高耶さん……あの、今の会話ですが……24日はもしかして子守に……?」
「うん。実家で子守。直江も一緒に行くだろ?俊介と過ごせるぞ?」
「……俊介さんと……。サンタ姿の可愛い俊介さんがお出迎えですか……」
「いや、サンタ姿かどうかは……」

でも俊介の初クリスマスイブを過ごせるなんてお兄ちゃんは幸せだな〜。
プレゼントは何がいいかな〜。哺乳瓶でもしてやろうかな。いや、それよりあったかい服か毛布か……。

「クリスマス連休が……」
「いいじゃん、24日は橘夫妻に赤ちゃんが出来たんだと思えば楽しいよ?」
「はあ……」

オレだって直江とロマンチックな旅行がしたかったさ。でも城巡りってどうかと思うわけ。
なんでクリスマスに日本の城なんだ。

「25日のレストランだけは譲りませんからね……」
「オレだってレストランは楽しみなんだから譲らなくていいよ」

今年のクリスマスは賑やかだぞ〜!!

 

 

そんで譲、千秋との約束を普通にこなした。直江はずっと落ち込んでた土日だったけど城巡りなんて言い出す方が悪い。
24日、昼からデートの両親を実家で送り出して俊介と直江と楽しいクリスマス留守番をした。

「俊介さんのミルクは冷凍庫ですか?」
「うん、パックして冷凍してあるはずだから鍋であっためてから哺乳瓶に移して」

直江が俊介のミルクとオムツを担当。オレはあやすの担当。

「最近やっと俊介さんに泣かれなくなって安心しました。そんなに私の抱っこは怖かったんですかね?」
「赤ちゃんてのは匂いで安心できる相手かどうか判断することあるってゆーからな。直江の香水が嫌いだったんじゃないかな?」
「ああ、そういうことですか。じゃあ慣れたんでしょうか?」
「たぶん。それに俊介に会う時はあんまりつけてないんだろ?」
「今日は何もしてませんよ」
「……オレは……直江の香水好きなんだけどなあ……」

俊介を抱っこしてソファに座ってる直江の隣りにくっついて座った。クンクンやってみたら今日は無臭だった。
オレと同じお日様の洗濯物の匂いしかしない。
こーゆー直江も自然体でかっこいいんだよな〜。

「なんか本当にパパみたい」
「直パパですから」

……直パパか……こっちはいまだに慣れないネーミングだ。
まあいいけど……。

そんでその日は俊介連れて買い物しに行って、テキトーに夕飯作って食っておしまい。
買い物の時に直江がベビーカーを押しながらヘラヘラしてたのは、自分とオレの子供のような気が嬉しいってことだった。
だけどそのヘラヘラ顔は生徒には見せられないぐらいアホっぽかった。
オレの旦那さんはやっぱりちょっとバカかもしんない。

「俊介さんと過ごすクリスマスイブなんて素敵ですねえ……」

夕飯後、ちょっとビールを飲んで気持ちよくなった旦那さんはしみじみそう言った。
俊介はおねむでソファの上でスヤスヤ寝てる。あと少ししたらお腹減ったって泣き出すかもしれない。

「大きくなったら私たちより彼女と過ごす方がいいって言い出すんですから、今のうちですよね」
「そうだな〜」
「はあ……それにしても本当に可愛らしくて……目の中に入れても痛くないってこういうことでしょうか」
「良かったな」
「はい」

直江はオレより子煩悩タイプらしい。
オレは俊介を目に入れたら痛いと思うぞ。

「ただいま〜」

もう少し遅くなるかと思った父さんたちが帰ってきた。まだ10時にもなってないのに。

「早かったな」
「やっぱり俊ちゃんが心配でねえ。お父さんも早く帰って俊ちゃんにチューしたいって言うから」
「ふーん」

その父さんは俊介にチューして泣かせてるし。直江は俊介を取り戻されて寂しそうだ。

「ところであなたたち」
「ん?」
「明日は家でクリスマス?二人きりで?」

嫌な予感が……。

「……ええ、二人きりでクリスマスですが……」
「今年はねえ、夫婦二人でこうしてデートできたから満足したいところなんだけどねえ、プレゼントって言うの?そういったものを貰ってないのよねえ……」

はっ!そういえば忘れてたかも!つーか毎年そんなものあげてないじゃん!

「きっと明日、サンタさんが届けてくれるに違いないのよね〜。もしサンタさんが来ないのであればサンタの家に押しかけるしかないんだけど〜」
「……ふ、ふーん……そうなんだ……?じゃ、じゃあオレたち帰るから。直江、さっさと帰ろうぜ」
「え、はい。ええ、帰りましょう、帰りましょう。ではまた」

帰り道で直江と相談して、プレゼントは直江が学校帰りに買って届けておくことになった。
それで邪魔されないなら多少の面倒は我慢するって。
まったくどこの世界に子守まで頼んでデートして、プレゼントの要求する親がいるんだってーの。

 

 

「高耶さん!!今から出かけますから用意して!!」
「は?!」

直江が学校から帰って来たのが午後4時。今日は終業式だから早めに帰ってプレゼントを買ってオレんちに届けたそうだ。

「早く!!」
「なんで?!」
「黒サンタが来てしまいます!」

黒サンタってゆーと……オレの家族か!!また邪魔する気か!!

「だってプレゼント渡したんだろ?!」
「渡しましたよ!ちゃんとベビー毛布を!!」
「え?」
「そうしたら俊介さんへのプレゼントじゃなくて、自分たちへのはないのか、と聞かれまして!」
「……だから……?」
「絶対に突撃してきますから早く!!」

今日、レストランに着て行くつもりだったスーツ2着を車に放り込んで、家の戸締りを厳重にして車で出た。
これで二人きりのクリスマスを確保できた直江はホッと小さな溜息をついた。

「どこ行くの?」
「ホテルに部屋を取りました。予定が狂いましたが許容範囲内ではあると思いますよ」
「うん、ならいいや」

今日行くレストランから少し遠くなるけど、いいホテルだから我慢してくれって。
いくらでも我慢するさ!初めての二人きりのクリスマスのためなら!
で、着いてビビッた。

「……スイートルーム……?」
「いえ、セミスイートです」
「どっちにしろとんでもない部屋なことは確かだよな……」

リビング、寝室、でかい風呂場……こんな部屋オレ、テレビでしか見たことないぞ……
つーかクリスマスによくこんな部屋が突発で取れたな……

「高耶さんの実家の帰りに急いで兄に電話して、部屋を確保してもらったんです。あれでも兄は顔が広いので多少の無茶はどうにかなるんですよ。やっと今年は二人きりのクリスマスになると思ったのに邪魔されそうだって泣いて頼んだら、コネを利用して部屋が取れたと、こういうわけです」
「でもセミスイートなんてよく空いてたな〜」
「ここのホテルは急なVIPのために必ずセミスイートを一室空けておくそうですよ。もう時間が時間なので大丈夫だろうと提供してくれたんです」
「は〜、しかしこんな部屋、主婦の敵ってぐらい高いんじゃないか?」
「財布は相当寒くなりましたが……これも私たち夫婦の幸せのためですから……」

たぶん城巡り二人旅に3回は行けるぐらいの値段だ。
直江のヘソクリはこうしてなくなっていくんだろうな〜。
気の毒に。

「せっかくのセミスイートですから楽しむことだけ考えましょう!ね?!」

そう考えないとやってらんねー!みたいなヤケクソ丸出しで直江が乾いた笑いをした。
うん、確かにやってらんねーよな!じゃあオレも楽しむか!!

「レストランまでに時間あるからイチャイチャしよーぜ!」
「はいっ!」

部屋の値段分だけでもイチャイチャしてやる!
ベッドも風呂もウチより全然でかいし、リビングのテーブルには高そうなウェルカムフルーツもあるし、無料で飲めるワインも冷蔵庫にあるし、やりたい放題やっちまえ!!

「こうなりゃヤケだ!メリークリスマス!直江!」
「メリークリスマス、高耶さん!!」

レストランの予約時間になるまでオレたち夫婦は全力でイチャイチャした。
それには当然エッチも含まれる。風呂場も寝室もリビングも、全部オレたち夫婦のための興奮材料だ!
どうだ、参ったか、黒サンタ連中の大バカヤロウ!!

んで。
おかげでレストランで食事の時にはすでにラブラブモード全開で、なんか開き直っちゃってハートを飛ばしながら食事した。
たぶんウェイターさんはラブラブに気が付いてただろうな。
恥ずかしいけど今日ぐらいはいいってことで。

「3年目にしてようやく二人きりで過ごせましたね」
「毎年ホテルで過ごすようにしないと無理かもな〜」
「……それはそれで素敵でしょうね……フフフ」

あ、直江のヤツ、エロい笑いかましてる。
そりゃそうか。つい1時間前までは裸でイチャコラしてたんだもんな。

「でもまだ夜はこれからですよ?」
「……うん……」

やっぱりいつまで経っても直江のこーゆー恥ずかしいセリフには慣れないもんだな。
嫌ではないけど恥ずかしくてドキドキする。

「これからも一緒にクリスマスを過ごしましょうね?高耶さん」
「うん♪」

セミスイート大奮発&奥さんのワガママ聞いてくれる優しい旦那さんでよかったな〜。
クリスマス以外だったら歴史旅行にも嫌がらずに付き合ってやろっと。

「来年のクリスマスはどうしよっか?」
「じゃあ古墳巡りなんかどうでしょう!」
「………………ヤダ…………」

そーゆーこと言ってんじゃねえって何度言ってもわからないらしい。
オレがロマンチックを目指してるなんて知る由もないってか。

「やっぱ来年もオレが決める!古墳も城も古戦場も寺も神社もナシだ〜!!」

歴史マニアの旦那さんなんか持つもんじゃねえな!!
ついでに息子夫婦の家に『くさや』を送ってくる黒サンタな家族も持つもんじゃねえよ!!
オレが平和にロマンチックにクリスマスを過ごせる日はいつ来るんだ!!

 

 

END

 

 
   

あとがき

ちなみに直江からの
プレゼントはDSと
戦国時代クイズのソフト。
高耶さんは嬉しくなかった
そうです。

   
   
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