奥様は高耶さん



第15


元旦とオレ

 
         
 

 

どうせオレたち夫婦の正月に平和なんかないんだ。
そう思って今年は夫婦のんびり、なんて甘い考えは捨てて、誰が来てもいいように準備をした。
おせち料理だって母さんとたくさん作ったし、餅だって大量に買い込んだし、お酒もジュースも用意した。
どんと来い!!

 

 

年末は直江と二人で掃除だの買い物だの忙しく過ごして、大晦日の夜だけは紅白見ながらソバ食ってまったり出来た。
除夜の鐘を聞きながら神社に言ってお参りして、帰ったら今年最初のチューとエッチをしてから寝た。
ここまでは毎年同じなんだよ。
でも元日は毎回違うんだよな。誰かしらやってくる。
今年は直江のお父さんか、うちの家族か……。

なんてことを考えてたら玄関のピンポンが鳴った。

「来ましたね……」
「今年は誰かな……」

恐る恐る直江がモニターをオンにすると画面に映ったのは千秋だった。

『あけおめ!』
「……千秋先生、いったいなんの御用でしょうか?」
『橘センセー、新年の挨拶ぐらいしてくれよな』
「あけましておめでとうございます。ではさようなら」
『待てって!!』

仕方なくオレが玄関まで行ってドアを開けた。
直江は憮然として座ってる。これが家族だったらOKなんだろうけど、千秋じゃさすがにな。

「高耶、あけおめ!」
「あめおめ。で?どうしたんだ?」
「いや、退屈だったからさ。だからってタダでメシ食おうなんて思ってないぞ。ほら、栗きんとん。作ったんだ」
「うわ、うまそう!」

千秋がタッパーに入れて持ってきた栗きんとんはマジで黄金色だった。
オレや母さんが作るやつより数倍うまそうでヨダレが出そう。

「あと酒な。大家さんに世話になってるからってウチの母親が持ってけってさ」
「サンキュー!」
「おまえは飲むなよ?」
「少しぐらいいいじゃん」
「ダメだ。これでも俺は高校教諭だからな」

色々と教師が取り沙汰されてる今の時代、未成年に酒を飲ませてバレたらどうすんだって言われた。
でもそしたら直江はどうなっちゃうんだろ?生徒と結婚した不道徳な教師じゃん。

「ま、入ってよ。今年はお客さんがたくさん来てもいいように準備してあるからさ」
「おお、気が利くね〜」

ソファで不機嫌を晒してる直江に笑顔で挨拶をして、千秋はテーブルについた。
なんだか今日はヤケに機嫌いいな。

「何かいいことあったのか?」
「俺?まあな」
「なに?」
「綾子がしんたろうとケンカしたらしくてさ、俺と初詣行ったんだ。そしたらおみくじで縁談のところが『もうしばらく待て』でさあ。これでまだまだ結婚は先延ばしだな」

なんだ、そんなことか。シスコンめ。
恋愛要素がないなら門脇先生が誰と結婚しようがいいじゃねえか。

「直江とオレのおみくじも良かったよな?」
「ええ、二人とも大吉でしたね。確か恋愛は……私が『他にないほど良し』でした」
「オレは〜……ええと『至宝の愛を得る』だったか。やっぱオレたちっていい夫婦ってことだよな!」
「そうですよ」

ようやく直江の機嫌が良くなってきた。千秋も直江の操縦がうまくなればいいのに。
直江の機嫌取るのなんか簡単なのにな〜。

「それで門脇先生は何してんの?」
「家でゴロゴロしてんじゃね?」

そんな話をしてたらまたもやピンポンが。
今度は話題の門脇先生だった。

「どしたの、先生!」
「ムシャクシャするから美味しいお酒でも飲もうと思って。橘先生んちならいいお酒たくさんありそうだし」
「……ああ、そう……」

リビングに入ってきた門脇先生は中にいた千秋にビックリした。

「なんでアンタがいるの!」
「だってご近所さんだもんよ。つーか綾子がどうして橘先生んちに来るんだよ!もしかして橘先生に惚れてるのか?!」
「んなわけないでしょ。ラブラブ夫婦の間に入れると思うほうがどうかしてるわね」

まあな。オレと直江の間に入ってこようなんてするバカがいたら徹底的に排除してやるっつーの。
地球が四角くなったってオレと直江の愛は変わらないんだから。

「しんたろうさんとケンカしたんでせっかく作った料理が無駄になっちゃったのよ。それでどうしようかと思って仰木くんの顔を思い出したってわけ」

門脇先生は持ってきた紙袋の中からタッパーを出した。ビーフストロガノフだそうだ。
作ったおせち料理は実家で食うらしい。

「仰木くんならたくさん食べるでしょ?だから一緒に食べようと思ったの。ついでに橘先生とお酒を飲もうと」
「まあそういうことならいくらでも愚痴聞きますよ。いつもお世話になってますからね」

オレと直江は山本先生のことで門脇先生にはすっごいお世話になってる。だから直江は門脇先生には優しくしてやってるそうだ。
それにオレもたまに門脇先生に結婚に関して相談乗ってるから仲いいし。

こんな感じで4人で食ったり飲んだり話したり人生ゲームやったり。
オレ以外はけっこう酔っ払ってた。

「そーいえばさー、アンタ、赤ちゃん抱っこして買い物してるって噂があるけど何なの?」

俊介のことかな。

「弟だよ。母さんが妊娠してたの聞いてない?」
「聞いてないわよ。うちの料理部じゃアンタが女の子を妊娠させて赤ちゃんだけ引き取ったってもっぱらの噂よ」
「マジで?超悪評じゃん!」
「大丈夫大丈夫。誤解はあたしが解くから〜。でも赤ちゃん連れて買い物なんて奥さんみたいね〜」
「……オレ、一応奥さんなんだけど」
「あ、そっか。アンタがこの橘先生とねえ……」

酔った門脇先生は直江を無遠慮にじーっと見た。
見られてる直江は居心地悪そうに目を逸らしてる。いくら酒が入ってるとはいえ恥ずかしいのかも?

「確かにハンサムではあるわよね。で、どこが好きなの?」
「え?」
「どこに惚れたのかって聞いてんのよ」

けっこう酒癖が悪いらしくてすごいあからさまな質問だ。
だから酔っ払いは嫌いなんだ。

「おう、俺も知りたいな、そりゃ」
「どこに惚れたんですか?」
「直江まで……」

なんで教師3人に囲まれて旦那さんの好きなところを告白しなきゃなんねえわけ?
オレまだ19歳なんだけど?
しかもこの人たちの元生徒なんだけど?

「早く言いなさいよ」
「高耶さん」
「言っちまえよ、オラ」
「うう〜」
「全部、なんて陳腐な言葉は聴かないからね。ひとつひとつ揚げ連ねて欲しいわ」

意地悪だ!門脇先生は意地悪教師なんだ!!

「えっと〜、優しくて〜、何しててもかっこよくて〜、それから……えーとえーと」
「それだけ?」
「橘先生、実はあんまり愛されてないんじゃね?」

千秋が言った不用意な言葉に直江がいきなり涙ぐんだ。まずいぞ、こりゃ!
酔っ払ってる直江は感情的になりやすいんだ!!

「高耶さん!他にはないんですか?!」
「他に?!えっと、お金持ちでテレビ買ってくれてドライブ連れてってくれて家も買ってくれて!!」
「所詮金かよ」

違う!!

「所詮お金なんですか?!」
「えーとえーと!甘やかしてくれて大事にしてくれてハンサムで!!」
「あら、結局自分の都合と外見?」

違ーう!!

「結局自分の都合と外見なんですか?!」
「あとはあとは〜!チューとかエッチとかが上手で!!」
「んまあ、いやらしい!欲望ってだけ?!」

まったく違う!!

「私は体だけの相手ってことですか?!」
「そんなこと言ってないだろ〜!」
「こんなに愛しているのに!」
「オレだってちょー愛してるってば!頼もしくて守ってくれてたくさん愛してくれて!!直江じゃなきゃダメってぐらい愛してるんだってば!!もうマジで全部!!」
「……高耶さん……高耶さん!!愛してます!!命かけて愛しています!!」

力いっぱいギューされた。苦しくてオエってなった。
でもオレも直江のこと思いっきりギューしてやったからオアイコ。

「……おまえら、よくそんな恥ずかしいセリフを他人の前で吐けるよな……」
「いいんだもん」
「事実ですからね」
「アホくせ」

直江にスリスリされてたら門脇先生がグアッと立ち上がって拳を突き上げた。

「アタシ帰る!!」
「は?綾子?」
「しんたろうさんに謝るわ!それで橘先生たちみたく愛してるってたくさん言ってやるの!ギューだってチューだってたくさんするの!」

言ってる言葉の割りに男らしいポーズだった。そこが門脇先生の門脇先生たる所以だ。
うん、好きな人には好きだって言えるようにならないとな!

「応援してるから!幸せになるんだぞ、門脇先生!」
「私も応援してます!結婚式にはぜひ私たち夫婦を呼んでください!」
「おまかせあれ!じゃあまたね!仰木くん、橘先生!おじゃましました!」
「お、おい、綾子!」
「修平も早く彼女作りなさい!」

バタバタと急いで帰っていった。いや〜、かっこいいな〜。
恋する女ってのはキレイだしかっこいいし、オレは応援したくなるね!直江に惚れてる女以外は!
直江に惚れてる女は絶滅しろ!

「……しんたろうめ〜!!」
「千秋もさあ、心配かけないように早く彼女作りなよ」
「それがいい。そうしろ、千秋」
「そしたらオレと直江みたく毎日ラブラブできるんだぞ?な〜?」
「はい」

ラブラブしてぬくぬくしてチューしてイチャイチャできるってのはホントに幸せなのに。
千秋だって顔は悪くないんだから彼女すぐ出来るだろうに。ま、性格は問題あるけどさ。

「直江、チューしたい」
「じゃあそろそろ千秋先生にも帰ってもらいましょう。私たちのラブラブは千秋先生には目の毒でしょうからね」
「うん。千秋、帰ってくれ。つーか帰れ」
「………………言われなくても帰ってやらあ!このバカップルが!!」

暴言を吐いて帰ってった。
まあその暴言も今のオレたち夫婦には賞賛にしか聞こえないわけで。
なんたって世界一愛し合ってる夫婦だもんね。

「直江、愛してる」
「私も心の底から愛してますよ」
「ん〜」

チューしまくって直江の腕の中にガッツリ収まってスリスリした。
そしたらフワ〜っと抱き上げられて寝室へゴー。

「まだ時間早くない?」
「愛し合う夫婦に時間なんか関係ありませんよ」
「そうだな。うん、そうだよな!」

お正月に揃えたものはお酒や食事だけじゃない。寝室グッズもたくさん揃えた。
毎年夫婦二人きりでのんびりできるお正月じゃないけど、夜は二人きりでラブラブできるようになってんだ。
今年もたくさんエッチできる年になりそうだ。
オレたちちょー幸せ!!
今年もよろしく、旦那さん!!

 

 

END

 

 
   

あとがき

ノロケで始まる一年は
最後までノロケで終わる
ということでしょう。

   
   
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