奥様は高耶さん |
||||
実家にオレ宛の往復ハガキが来たから、持って帰って直江に見せた。 「クラス会だってさ」 高校を卒業して約1年。もうクラス会なんかやる時期になったのか。いくらなんでもまだ1年なのに。 「じゃあ私の実家にもお知らせが来てるかもしれませんね」 可愛いことを言ってくれますね、なんて喜んでたけど、オレが行くってゆったのは直江に色目を使う女がいるかもしれないからだ。 「幹事は誰ですか?」 橘学級で大評判の美人コンビだ。 「……新発田さんですか……」 なんでそんな深読みするんだ?橘先生が誘惑されるかも、ってのは深読みじゃなくて事実だろうけど、オレが誘惑されるなんて有り得ない。 「けど行くんだろ?オレにも出席して欲しいんだろ?」 そんなこんなでクラス会に出席することになった。夫婦揃って。
会場はファミレスだった。学校からバスで少し行ったところに安いファミレスがあって、そこの一区画を借りたらしい。 直江と一緒に家を出て、バス停まで歩いた。 「夫婦揃って出てくるなんてマズイんじゃないの?現に俺に目撃されてるし」 3人で話しながらファミレスのあるバス停に着いた。 「直江」 ヒソヒソ。 「おまえ、絶対オレの隣りだからな。それか譲の」 譲は「そりゃ無理だろ」なんて諦めてたけど、オレの旦那さんの自覚があるならそうすべきだっつーの。 「橘先生〜〜!!」 そんなキンキン声が初っ端からした。不安満載なクラス会になりそうだ〜。 「みなさんお久しぶりです。元気でしたか?」 久々の橘先生モードを見た。う〜ん、やっぱかっこいいな。 「先生、こっち座って!」 おい、女ども。橘先生はオレの隣りだ。勝手に決めるな。 「先生はうるさい女の席なんか行きたくないってよ。な、オレと譲と座ろうぜ」 そんな女どもの声を無視して区画の入り口の空いてる4人がけテーブルに座った。 「先生、ここいい?」 その1席に堂々と挑んで来たのがなんと新発田。幹事だから色々動き回らないといけないから、入り口近くがいいって。 「新発田さん、キレイになったねえ」 いや、すごくキレイになった。化粧してるからってのもあるけど洗練されてて大人っぽくて美人だ。 「成田くんと仰木くんこそ男らしい顔つきになったよ」 譲は……確かに男らしい顔つきになったかも。可愛いってイメージが少なくなったな。 「先生は全然変わらないね」 うん、直江はかっこよくて若々しい。たまにオッサンぽいところが出るけど、加齢臭はまだないし。 「先生、結婚したんでしょ?奥さんがしっかり旦那さんの管理してるから相変わらずかっこいいんだよね?」 その新発田の発言に、近くにいた女子が騒ぎ出した。 「先生、いつ結婚したの?!」 ふん、橘先生はもう3年前からオレと結婚してんだよ。おまえらが歴史の授業を習ってた時にはもうオレの旦那さんだったんだ。 「奥さんてどんな人?!」 ガンガンと質問されて直江が困りだした頃に全員が揃ったのか、ウェイトレスさんと新発田と宇佐美で飲み物を配りだして乾杯になった。 「じゃあ再会を祝してかんぱ〜い!」 乾杯後にもまだ質問攻めだった直江。奥さんがどんな人か聞かれて、聞き流したり説明したり。 「奥さんは美人というよりは可愛いですよ。家事も一生懸命やってくれますし、いい奥さんです」 なんで女子はこーゆー質問が好きなんだろうか?家事や外見がそんなに大事か? 「奥さんのことどのぐらい好き?」 そうそう!こーゆー質問してくれないと!!横で聞いてる奥さんとしてはコレが聞きたかったわけだ! 「どのぐらい、ですか?さあ?どのぐらいでしょうねえ。間違いなく言えるのは、私は奥さんがいないと人生に意味がないって思えるぐらい好きなことは確かです」 橘先生の本気のノロケに周りにいた全員が笑った。譲も笑った。 「オレ、トイレ行ってくる」 泣きそうになったのを誤魔化すためにトイレへ。個室に入って鼻水を啜ってたら直江が来た。 「高耶さん?」 ドアを開けて直江を引きずり込んで、ギューしてもらった。 「なんで泣いてるんですか?」 チューもして甘えた。やっぱ直江はいい旦那さんだ。 「そろそろ戻らないと変に思われますよ?帰ったらたくさんチューしましょう。だから今は戻りましょうね」 最後にもう一回チューしてトイレを出た。みんなに「オレが橘先生の奥さんだ!」って叫べたらスカッとするだろうけど、直江が先生やってられなくなったらイヤだから絶対叫ばない。 それから直江はあっちへ行ったりこっちへ行ったりした。 「仰木くん」 大好物の鶏の唐揚げをモシャモシャ食ってたら新発田に話しかけられた。 「あのさ……聞きづらいんだけど、聞いていいかな?」 そーいや門脇先生が言ってたなあ。オレが子供引き取って女を捨てたとかなんとかいう噂のこと。 「お母さん、若いんだよね?」 弟の話をしてたら女が数人集まった。譲はとっくに違う席に行っててオレが女に囲まれてる珍しい図だ。 「仰木くんの弟なら可愛いんだろうね〜。目なんか真っ黒でさあ」 知らない。 「今だって仰木くんかっこいいじゃない」 おおおおおお!!もしかして今がモテ期のピークか!! 「ダメよ、仰木くんは彼女いるんだもん。私、それで振られたんだから。ねえ?」 昔も今も直江とは仲良し夫婦だも〜ん。いつまでも仲良しでいられる自信あるも〜ん。 「なーんだ、彼女持ちか〜」 高校の時は女子の存在は旦那さんとオレとの間の邪魔者だったけど、今こうして再会してみると、みんな大人になってて冗談もたくさん出て、意外と話しやすかった。 しばらくモテ男のオレと女子で喋ってたら(オレの子育ての話題が多かった)テーブルに大きな影が。 「みなさん楽しそうですね」 声も口元も優しい感じだけど、目とこめかみが怒ってる旦那さんの登場だ。 「橘先生も座りなよ〜」 真ん中に来て〜と女子に甘えた口調で言われた直江はオレの隣りに優雅に座った。 「いっ!」 直江に脇腹をつねられて痛いなんて言えるわけないじゃんか。 「今ね、仰木くんの弟の話してたんだよ。先生、仰木くんに弟が生まれたの知ってる?」 知ってるどころか直パパだから。一番俊介を甘やかしてるのがこの橘先生だから。 「ええ、何度か仰木くんと駅前で会いましたから。まるで親子のようで微笑ましいですよね?」 なんだこのおかしな会話は。いくら誤魔化すためだからって、オレは親子に間違えられたことはないぞ。 「先生んとこは赤ちゃんまだ生まれないの?」 それは俊介のことだろう!そんな嘘ついてこれからどうするんだよ! 「奥さんと赤ちゃんと、楽しく3人で暮らしています」 なんかもうここにいたくない……。直江はおかしな嘘つくし、女子は浮かれてるし……。 「お店はもう出ないといけないけど、みんな久しぶりだろうからここからは各自楽しんでくださいね!じゃあ解散〜!」 譲に男子だけでどこか行かないか聞かれたけど、もうそんな体力も精神力もなくて帰ることにした。 「橘先生はどうすんの……?」 みんなで外に出て、バスを待ったりしながらダラダラ話してた。 「高耶さんがモテモテで心配しました」 楽しかったクラス会のことを話しながらバス停から家まで歩いた。 「どしたの?」 寝転んだ直江に跨って、エッチするときみたいな姿勢になった。直江は何を勘違いしたのか腰に手を添えてくる。 「いくら妬いたからって奥さんにDVしやがったな」 直江の脇腹を力こめてギリリとつねって、トドメに捻りを加えた。これで黄色い痣が出来るはずだ。 「奥さんにDVしようなんざ100年早ぇんだよ!!」 ドメスティックバイオレンス。略してDV。 「もう二度としないか?!」 これで終わったと思ったのか、直江は息を整えて起き上がろうとした。 「そのまま聞け。おまえの赤ちゃんてのはどこの誰のことだ?」 あ、って顔をして気付いたらしい。 「だって俊介さんは私が息子のように可愛がろうと……」 泣きそうになってる。まあ今回は卒業生だから、すぐに噂が広まるわけじゃないし許してやるが。 「反対側の脇腹を出せ」 反対側の脇腹もさっきと同じようにつねってやった。痛そうだったけど、これは旦那さんへの躾だ。 「いたたたた……高耶さん、可愛い顔してなんてこと」 直江にかぶさってチューした。 「……高耶さん!」 時々感情に流されてバカになっちゃう旦那さんだけど、オレは大好きだからいいんだもんね。
END
|
||||
あとがき |
||||
ブラウザでお戻りください |
||||