今、美弥のクラスで歴史の授業をしてる橘先生はお兄ちゃんの旦那さんで義明さん。
義明さんは超ハンサム先生で、学校中の女子から絶大な人気を誇ってる。しかも超優しいから男子からも好かれて、校内新聞の先生人気投票は過去5年間1位の座を譲らないとか。
そんなステキな先生なのに、結婚したのが能天気で天然でおバカで特に秀でたところのない美弥のお兄ちゃん。
なんでそんな男子と結婚したのかわからないけど、義明さんにとっては最高の奥さんだってゆーから、まあ結婚なんてそんなもんか、って感じ?
それにしても先生なんかやって真面目な橘先生もエッチはするんだよね〜。あのお兄ちゃんとさ〜。
お兄ちゃんが言うには義明さんはドエロらしいんだけど、そんなふうには見えないな〜。
大宝律令がどうとか言ってるあの口でお兄ちゃんにエロいチューをしたりとか、チョークで達筆な文字を書くあの指でお兄ちゃんのアレを触ったりとか、きれいな立ち姿を支えるあの腰でお兄ちゃんにガンガン突っ込んだりするとか、そんなの考えるとけっこう萌えるわ〜。
ま、美弥には義明さんなんか眼中ないけどね。
顔も体型も文句はないけど、なんたって問題は年齢よ。30代のオジサンを好きになれるかってゆったら無理。
美弥は若くてイケメンな男子が好きなんだもん。
そんな美弥は実はけっこうモテモテだったりする。
ま、美少女なんだから当然っちゃ当然よね。それに美弥はお兄ちゃんと違って可愛げがあるって言われて義明さんのお母さんにだって気に入られてるほどの性格良し。
何?ただのお調子者ですって?違うわよ。美弥のは『計算し尽くされたお調子者』なんだから。
そこらへん間違えないで欲しいわ。
「仰木さん!」
「ん?」
移動教室のために渡り廊下を歩いて理科室に行くとき。背後から声をかけてきたのはうちのクラスの男子Aくん。
顔は普通、背も普通、勉強は美弥より上、真面目で成績優秀なのにオシャレだから、女子からの人気は上の下ってとこかしら?
「どうしたの?」
「あの……ええと、僕」
言いにくそうだったから仲良しの友達2人に先に行ってもらって、Aくんと二人で話した。
「僕、仰木さんのこと前から好きで!」
「ええ?」
やっぱりね。前々からなんとなく気が付いてたんだよね。
「もし付き合ってる人がいないなら……!」
「ちょ、待てよ!」
どこかのアイドルだか、そのモノマネしてる芸人だかに似てる話し方をする人が乱入してきた。
この人は美弥が所属してるテニス部のB先輩で、2年生男子。
テニスはいつも補欠、勉強はまあまあ、強いていいところがあるとすれば顔と背丈かな?
「おまえ、美弥ちゃんになにコクってんだよ」
「そんな……!僕が僕の気持ちを仰木さんに言うのの何が悪いんだ!」
「悪いっつーの。美弥ちゃんは俺の彼女だぜ?」
違うから。彼女になった覚えは一切ないから。
「本当?仰木さん!?」
「ううん、付き合ってないよ。告白された覚えもないし」
「そんな、美弥ちゃん!」
うざ。
この先輩は休み時間になると2年生の校舎まで来て美弥を見つけては話しかけてくるのよね。
だからこうして渡り廊下で会っちゃうのも珍しくないんだけど、なんでこんな場面に都合よく登場するのかしら。
まったくいい加減にして欲しいわ。
「付き合ってないって言ってるじゃないですか!嘘ついて何になるんですか、先輩!」
「うるせえな!とにかく美弥ちゃんはおまえとなんか付き合ったりしねえんだよ!」
「そんなの聞いてみないとわからないじゃないか!」
あーあーあーあー。うるさーい。
どっちとも付き合うつもりなんかないっつーのよ。
「てめ、いい気になってんじゃねえよ!」
「そっちこそ!」
あらら。ケンカが始まっちゃった。殴りあうのは勝手だけど美弥のせいにされたらたまらなーい。
「やめて!やめてよぅ!」
とりあえずいい子になって止めるとしますか。
まったくお兄ちゃんと義明さんの痴話ゲンカの方が見てて面白いからよっぽどマシだわ。
「美弥のためにケンカなんかしないでぇ!二人とも怪我しちゃうからやめてぇ!停学になっちゃうよぅ!」
一応ね、目をウルウルさせて止めておけばどっちも「美弥のために」やめると思うのよ。
なんでこう男ってバカなのかしら?勝手に停学にでも何でもなればいいんだけど、逆恨みされたらたまらないでしょ。
だから一応止めるふり。口でのみね。
そもそも美弥には彼氏がいるんだけどな〜。
確かに学校じゃそんな話をしないようにはしてるけどさあ。
今付き合ってる彼氏は中学の同級生で、顔ヨシ、頭ヨシ、体格ヨシ、性格ヨシで、これがまたさらに将来性バツグン。
シニアリーグじゃエースで四番だったから、甲子園常連高校の野球部に入部して1年生ながらレギュラー入り。
将来はメジャーリーガーも夢じゃないってほどの逸材なんだから。
あんたたちが逆立ちしたって敵う相手じゃないわけよ。
「お願い!美弥のためにケンカをやめてぇ!」
生徒がザワザワと集まってきたところで嘘泣きをして叫んだら止まった。
ふん、このぐらいでケンカが収まるならお安いご用ってなもんだわよ。
「どうしたんですか、皆さん!」
「橘先生!ケンカです!」
うわ、ヤバ。義明さんが来ちゃった。
「ケンカっていったい……!み、仰木さん。どうしたんです、そんなに泣いて」
仕方ないわね。こうなったら義明さんも泣き落として丸く収めるしかないわ。
「ひっく……美弥が……美弥がやめてって言ったのに……」
「Aくん、Bくん、ケンカは停学だって知ってるでしょう?とにかく今から職員室にいらっしゃい。仰木さんもですよ」
「橘先生……」
周りの野次馬が「仰木さんは悪くないよ」って庇ってくれた。
そしたら義明さんは困った顔をして、事情を聞くだけだから大丈夫って。
そんで美弥は顔も知らないお人好しの先輩(女)に慰められながら職員室に。AくんとB先輩は義明さんに連れられて。
その日の学校帰りにお兄ちゃんのところに寄った。義明さんが事情をきちんと話しなさいって言うから。
今まではお兄ちゃんの旦那さんだったから美弥の方がえばってたんだけど、今回はさすがに学校のことだから義明さんも強気に出てきた。
ま、義明さんなんかに負けないけどね。
「そんで直江が帰るまで待ってるのか」
「うん。たぶん親の前じゃ聞きにくいからじゃない?」
「おまえ何したんだよ」
「あとで白状するよ」
義明さんが帰ってきたのは午後6時。美弥がちゃんと来てるのに安心して、お兄ちゃんを連れて着替えに寝室へ。
美弥、別に逃げも隠れもしないのに。
戻ってきた義明さんとお兄ちゃんは隣同士で座って美弥にお説教しようと構えてた。
「美弥さん、今日の事情をちゃんと話してください。事細かに」
「いいよ。ほとんど学校で話したのと同じなんだけど、あの二人が勝手に美弥を取り合ってただけなの」
とりあえずあの二人は取っ組み合いのケンカしたってことで停学になって、美弥はお咎めなし。
だって関係ないもん。
「それは二人から聞きましたが……Bくんの方は美弥さんと付き合ってて、そこにAくんが告白したから頭にきたって言ってましたよ。どうなんです、そこらへんは」
「もしかして美弥って魔性の女ってやつか?」
「違うよ。先輩はただ部活の先輩ってだけで、部活の帰りに家まで送ってくれたり、誕生日のプレゼントにネックレスくれたり、たまに帰りに二人でカラオケ行ったり、その程度だもん」
「……微妙に誤解されやすい行動だと思うんですが……」
なに言ってんの?こんなのたいしたことじゃない。
彼氏とはチューだってしてるんだから、先輩と行くカラオケとかは友達の範囲でしょ。
「Aくんも美弥さんが自分のことを好きだと思ったから告白したって言ってましたよ」
「え〜?なんで〜?そんなの妄想じゃないの?」
「下校時に一緒に帰ろうって言ったりとか、図書室で二人で勉強したりとか、自分に向ける笑顔が他の人に向けるものと違っていたって」
「帰りはたまたま一緒になったからで、勉強はAくんが頭いいから教えてもらったの。笑顔なんかその時その時で作ってるからわかんないよ」
お兄ちゃんが口をあんぐり開けて美弥を見た。なんで?
「おまえ……マジで魔性ってゆーか、鬼ってゆーか……人間としてどうかと思うようなまねを……」
「そう?」
「そうだ!」
「高耶さん」
「ん?」
先生の顔からいきなり旦那さんの顔になった義明さんが、お兄ちゃんに向かって真剣に言った。
「高耶さんだって天然で魔性なんですよ?わかってます?」
「オレ?」
「ええ。あなたも美弥さんと同じで他人に思わせぶりな態度で接して好意をもたれてたりしてたんですよ?」
「うっそだ〜。そんなことないよ〜」
「いいえ、そうです」
ありゃりゃ。矛先がお兄ちゃんに行っちゃった。
もう美弥、帰っていいのかな?
「義明さん、もう美弥帰っていい?」
「ええ、もういいです。美弥さんより高耶さんの方が無意識なぶんだけ罪作りってことがわかりましたから、そのお話をしなくてはいけなくなりました。今回のことはあの二人が勝手に妄想したってことで、美弥さんに落ち度はありません。本当の彼氏と仲良くしてください」
「うん。じゃあ帰るね。お兄ちゃん、頑張って!」
「何を頑張るってんだ!」
「何をって、義明さんからのお説教と言う名のエッチに決まってるじゃん。じゃあね!」
「美弥〜〜〜〜!!!」
あー、よかった。美弥の疑いが晴れて。
翌日の歴史の授業。義明さんは妙に機嫌よかった。
美弥だけが気付いてることだけど、たぶん昨夜はお兄ちゃんとエッチしたのよ。それもたくさん。
やたら血色良くて、ホッペなんか緩んじゃって、たまにニヤニヤしちゃって、間違いないと思うのよね。
今回は美弥のおかげでお兄ちゃんと満足いくまでエッチできたんだから感謝して欲しいわ〜。
もしかしたらお兄ちゃんが高校生のときも、こうしてエッチたくさんした翌日はニヤけてたってこと?
だとしたらお兄ちゃん、授業受けにくかったんじゃないかな?
ああ、だから成績悪かったのか。
あははは。かわいそうにねえ。
美弥は成績下げないように気をつけなくちゃ。下がっても別に彼氏からエッチされたりしないけどさ!
お兄ちゃんみたいに学校の先生なんかと結婚しないもんね〜。
絶対に玉の輿に乗ってやるんだから。
美弥、がんばりま〜す。
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