新年度に入って直江は2年生の担任と学年主任と生活指導をやっている。
前年度もそうだったからオレとしては何も変わることはないと思ってたんだけど、今年は新任教師の指導も兼ねてるとかで忙しいみたいだ。
「はあ……」
「なに、その溜息」
珍しく早く帰って来れたから一緒に夕飯を食って、終わってからテレビで歴史番組を見てた直江が突然溜息をついた。
「え?溜息なんか出しました?」
「出したよ。すっごいオッサンみたいだった。人生に疲れた中年男かって思うぐらいに」
「……そうですか……」
「オレで相談乗れるようなら聞くよ。奥さんなんだからさ」
直江にコーヒーを出してやりながら目を覗いたら、柔らかく笑ってオレの頭を撫でた。
「大丈夫ですよ。ちょっと体が疲れてるだけです。別に悩みもありませんし、順番に仕事をこなしていけば夏休み前にはいつもの生活に戻れますから、高耶さんが心配するようなことはありませんよ」
「そう?」
「はい」
んー、だったらいいや。
「じゃあさ、今夜は寝る前にマッサージしてやる。少しぐらいマシになるだろ?」
「ええ、お願いします」
「まかせておけ!」
そんでその夜は寝る前にマッサージしてやって、ホットミルクを飲ませて寝かせた。
オレが思ってた以上に肩凝りもひどかったし、足も固くなってたし、背中も強張ってた。
先生ってのは苦労が絶えないんだろうな~。えらいな、直江は。
そんな状況で1週間。
直江はやっぱり毎日遅くに帰るし、疲れた顔もしてる。だから出来るだけ家では何もしなくていいように奥さんとして気を使ってるんだけど。
使ってるんだけど……使っただけ会話もなくなってくような気がしてるんだよな。
帰った直江に「先にご飯?お風呂?」って聞くと、「じゃあご飯で」とか、その程度の会話しかない。
ご飯食べてる間だって時間を無駄にしたくないからってニュース番組見ながらだし、お風呂だってササッと入って終わりだし、寝る前に仕事の残りを片付けてからだからオレとは別の時間に寝ることになるし。
結婚生活ってこんなものなのか?結婚3年目はヤバいって何かで聞いたけど、今がそれの時期ってこと?
「直江、今日さ、風呂一緒に……」
「ああ、ごめんなさい。まだまだ仕事があって風呂の時間も少し削りたいんです」
「……そっか……」
「高耶さんとお風呂に入ったら、余計なことしちゃいますからね。まあ、私としてもその余計なことがしたくてたまらないんですが、今は仕事を優先しないといけない時期ですから。今度の土日にでもゆっくりお願いします」
冗談めかしてそんなこと言うけど、先週の土日だって持ち帰りの仕事があったからオレと過ごした時間なんか
ほとんどなかったじゃんかよ。
ちょっとチューしただけであとは全部学校の仕事。
「うん、わかった……」
期待なんかしないもん。もう。
「本当にあと少しなんですよ。新任教師の研修が終われば半分ぐらいは終わります。それまで待っててください」
「うん」
先生の奥さんになっちゃったんだからこのぐらいは我慢しなきゃな。
オレだってもう子供じゃないんだからさ。
俊介の子守をしに実家に行って、陽気があんまりにもいいもんだから母さんと俊介と一緒に散歩に出た。
「義明くん、最近来ないけど元気にしてるの?」
「うん、まあまあ。忙しくて大変みたいだけど」
「俊ちゃんの子守がしたいってあんなに言ってたのに全然来ないから、社交辞令かと思ってたわ~」
「そんなことないよ。俊介の写真をケータイの待ち受けにしてるぐらいなんだから」
ベビーカーを押しながらテクテク歩いて、公園に寄ったり花がたくさん咲いてる庭を眺めて歩いてるうちに学校の近所に着いた。
「あら、学校ね」
「外からじゃ直江の様子はわかんないかな」
「……あれ、義明くんじゃない?」
「どれ?」
ちょうど休み時間になったところなのか、生徒がワラワラと校舎から校庭に出てきた。
その後ろから直江と新任教師らしき若者が3人ほど。何やら直江が設備を指差して説明してるらしい。
「元気そうね」
「だから元気だってば」
校庭の柵のところで見てたら、俊介が直江に気付いたらしくじーっと視線を送ってた。
「直パパがわかるのか?」
「ウー」
「俊ちゃんは義明くんのこと好きなのねえ」
俊介の可愛い反応に和んでたら、直江がこっちに気が付いた様子で目を向けた。
オレと母さんで手を振ってみたら、直江はちょぴりペコってお辞儀をしただけで、また新任教師たちとの話に戻ってしまった。
オレ、奥さんだよな?直江に愛されてる奥さんだよな?
手ぐらい振ってくれたっていいじゃんか。あんなにメロメロの俊介だっているのにそっけなさすぎないか?
「あらまあ。義明くんたら愛想のない。あんた、もしかしてケンカしてるの?」
「してないけど……」
「してないのにあんな態度なの?いやねえ、お父さんとお母さんですら出かけた先で偶然会えば手を振るどころか手を繋いでしばらくは喋ってるわよ」
「そりゃ母さんたちはバカップルだもん」
この前、母さんが俊介を連れてベビー服を買いに銀座に行ったとき、たまたま仕事で取引先に来てた父さんと銀座のど真ん中で会ったそうだ。
それが嬉しくて道端で手を繋いで10分ぐらい喋ってたんだと。本当ならお茶ぐらいしたかったそうだが父さんが時間なくてお茶は諦めたらしい。
「あんたたちって淡白ね」
「そうかな?」
「んー、まあ、義明くんには高耶よりも仕事が大事ってことなんでしょ」
え?!オレより仕事が大事?!そんなことないと思うけど……でも、最近の様子を見ると……。
チューしかしないし、会話もないし、出かけることもほとんどないし……。
「お母さんたちにみたいにずっとラブラブでいられる夫婦じゃなかったってだけの話よ。気にすることないわ」
気にするって!オレはずっとラブラブがいいし、いつまでもお互いが一番大事で最優先だって思ってたいし!
けど直江はそうじゃなかったってことなんだろうか……。
うう、泣きたくなってきた……。
散歩から帰ったオレはこのまま実家にいることにした。
どうせ直江は毎晩遅いんだし、自分の時間が大事なんだ。オレは家事だけやって直江の家政婦状態になってるって今頃気付いて、それがもう耐えられなくて実家にしばらく住むことに。
俊介だってオレがいれば嬉しそうにしてくれる。
あんな直江といるより俊介が必要と思ってくれるなら実家の方が全然いい。
「なんだ、高耶。里帰りか?」
「うん、しばらくこっちにいることにした。服も運んだ」
「ケンカか?」
「うーん、どうだろう」
父さんが帰ってきて、それから部活が終わった美弥が帰ってきた。
久しぶりに家族水入らずで夕飯を食べて、オレは俊介を寝かしつけがてら自分の部屋へ。そこに美弥が来た。
「いいの?義明さんを1人にして」
「いいんだよ。たまには」
「でも……今、学校のことで義明さんも大変なんだよ?」
「知ってるけどさ」
そう言ったら美弥がすっげー驚いた。なんでだ?
「なんで知ってるの?!義明さんが言ったの?!」
「え?当たり前じゃん。学年主任と新任教師の教育やってんだろ?」
「じゃあその新任教師の中に山田がいるのも知ってるってこと?!」
「え?!」
「知らなかったの?!山田、美弥の学校の社会科の先生なんだよ!毎日毎日義明さんに何かと付いて回って二人は付き合ってるんじゃないかって噂まであるんだから!」
「ええ~!!」
じゃあもしかしてオレの相手をしてくれないのも、今日の学校でのあの様子も、毎日帰りが遅いのも……!!
浮気か?!浮気なのか?!
「高耶~、さっきからケータイの着信音がうるさいんだけど~」
階段の下から母さんの声が聞こえた。ケータイ、そーいえばリビングに置きっぱなしにしてたっけ。
着信てゆーと、直江か?
俊介を美弥に任せてダッシュでリビングまで行ってケータイを見ると、直江からの着信が10件以上。
「……家政婦がいないからってことかよ……」
オレなんかどうせ都合のいい家政婦なんだろうよ!もう愛情なんかないんだろうよ!
くっそ、山田と浮気してるくせしやがって!!
また着信音がした。ディスプレイには直江の名前が。
「もしもし」
『高耶さん!やっと繋がった!どこにいるんです!連絡もしないでどこに行ってるんですか!』
「どこだっていいだろ……」
『良くないですよ!帰ったら誰もいないし、メモもメールもないし、夕飯の支度もされてないし!』
「……もういい!!直江なんか知らねえ!!勝手にメシでも風呂でもやれ!!オレはおまえの世話なんかしねえぞ!!」
怒鳴って切った。
まだ何度も着信はあったけど、もう出ないって決めたから電源も切った。
「ひーん!」
「離婚か?」
「別居だ!!」
「何があったかは知らないが、どうせ義明くんのことだからここに来るぞ」
「オレはいないことにしてくれ!マンガ喫茶にでも寝泊りしてることにしてくれ!」
靴を隠して部屋に引きこもり。
そしたら10分もしないうちに直江が来た。オレは部屋のドアを少し開けて玄関からする声を聞いた。
「たっ、高耶さんはいますか?!」
「あら、義明くん。どうしたの?」
「高耶さんがいなくなってて……何があったのかさっぱり見当もつかないんです。何か怒っているようなんですが原因がわからないことにはどうにも……それにケータイの電源も切ってしまったようで……」
原因?オレを家政婦にして自分は浮気してたんだろうが。
もう離婚したっていいもん。あんな旦那さんはいらない。
「高耶のことだからマンガ喫茶にでも行って寝泊りするんじゃないか?」
「じゃあ今からマンガ喫茶をしらみつぶしに探してみます!」
「ま、まあ待ちなさい、義明くん」
「まったくあの人はどうしてこんな時に困らせるようなマネを!」
直江が自分のことしか考えてないからだろ!オレが毎日気を使って色々やってても、オレのことなんか全然考えてくれないから!
「ちょっと待ちなさい、義明くん」
母さんの冷静な声がした。こういう時の母さんは鬼畜かと思うぐらい意地悪を楽しんでる時だ。
「どうして高耶が家出したか自覚はないの?」
「私のせいだって意味でしょうか?」
「それしかないでしょう。女が家出をする時は、って、高耶は男だけど、奥さんて意味じゃ女と同じよね。旦那に原因があるとしか思えないでしょう?」
「……私に何の落ち度が……いえ、その、落ち度ばかりな気もしますが……」
そうだそうだ!直江が全部悪い!
「高耶を探す前に、私たちにその原因を判断させてちょうだい。もし高耶をこれからも不幸にし続けるつもりなら離婚させますから」
「そんな、お義母さん!!」
「大事な息子なんだから当たり前でしょ」
もしも直江が「浮気をやめて高耶さんを大事にします!」って宣言したら戻ってやらなくもない。
でも思い出して毎日泣いたりしちゃうからダメかも……
そんで泣くオレに向かって直江は「ウザい!黙れ!」とか「泣くな!うるさい!」とか、精神的なDVを繰り返したりして……そして負のデフレスパイラルに。
ダメだ!そんなら戻らない方がいい!
リビングに移動した両親&直江はじっくり腰を据えて話すらしい。
んじゃコッソリ覗きに行くか……。
「今回ばかりは何も原因らしいものはなかったと思うんですが……」
「原因もなくて家出はしないわよ。義明くんが気が付いてないだけでしょ。それか隠してるか、どっちかね」
「隠し事なんかしてません」
「じゃあ気が付いてないだけね。いい?鈍感ていうのは場合によっては罪なのよ。高耶が何に悩んでるかを気付けない鈍感な旦那なんか捨てられたって当然なのよ」
うわ~。母さん、楽しそうだな~。
こういう時の母さんは面白がってわざときついこと言って相手の落ち込む姿を見て楽しむんだよな~。
オレも何度やられたことか……。
「捨てられ……たんですか……?私が……?」
「そうとしか言えない状況じゃない?」
「え……そう、そうかもしれません……」
「じゃあもう離婚ねえ」
「それだけは!!離婚だけは死んでも嫌です!!お義母さん!!お願いします!!どうにかして高耶さんに戻ってきてもらえるように協力してください!そのためなら何でもします!高耶さんさえ戻ってくれれば私はもう何もいりませんから!!」
「じゃ、学校やめたら?」
「え?」
ああ、この展開はちょっとヤバいかも。
美弥が母さんに山田の話をしてるに違いないもんな。
「あなた、学校で浮気してるらしいじゃないの」
「はあ?!どこでそんな出任せを!」
「してないの?美弥が言ってたわよ。新任教師の女と学校でイチャイチャしてて、あの二人は付き合ってるんじゃないかって噂まで流れてるって」
「イチャイチャって……そんなことは……。向こうがベタベタ触ってきたりはしてますが……」
やっぱイチャイチャしてんじゃねえか!!オレ以外の人間に触らせるなんてこと自体が浮気の第一歩だってことぐらいわかるだろうに!!
「そんな話が奥さんの耳に入れば家出したって当たり前だと思わないの?」
「…………でも」
「は~ぁ、これだから男はねえ……鈍くて勝手でダメよねえ……その点、うちのお父さんは私を大事にしてくれるから困らないけど……義明くんのような旦那さんじゃなくて良かったわ~」
確かに父さんは母さんを大事にしてるけど、それはそれで息子としては、見ててキモい時もあるんだぞ。
子供たちの前でチューとかされるんだから。
「とにかく離婚したくないなら高耶に事情を説明して謝って、自分が奥さんをないがしろにしてるのを認めて、何もかも高耶を優先するって約束したら戻るんじゃないかしら」
「しますとも!私にとって高耶さんほど大事な人はいません!何から何まで高耶さん優先です!」
「だから!!それが高耶に伝わってないから家出されたんでしょってさっきから言ってるじゃないの!口先だけなら何とでも言えるのよ!これだものね、男はまったく!!」
母さんのものすごい勢いの怒鳴りに直江が怯んだ。
それから可哀想なぐらいションボリしちゃった。あんな小さくなった直江は珍しい。
「じゃあどうしたら……」
「まず家事をやりなさい。今から帰って夕飯を作って、お風呂を沸かして、台所を片付けて。仕事が大事なのはわかるけど、今日みたいに奥さんが手を振っているなら振り返すぐらいしなさい。それからおかしな噂が立つような言動は一切やめなさい。これは美弥に観察させます」
「しかし山田先生の行動は私が左右できるようなものでは……」
「じゃあ山田って先生に冷たくして嫌われたらいいでしょう」
「……はい……」
「外でいい顔して好かれたいと思ってるから奥さんを困らせる結果になるってこと自覚しなさい」
「はい……」
母さんにとっちゃ直江の扱いは赤子の手を捻るようなものだ。
あの恐ろしい母さんが自分の母親って方が直江の浮気よりショックかもしれないよ、オレは……。
「高耶に連絡がついたら、義明くんの所に戻るように私から説得するわ」
「よろしくお願いします……」
「あと、今後も高耶を家政婦代わりにしたら……わかってるわね?」
「わかってます……」
話が終わったらしく直江が立ち上がって頭を下げた。
ヤベヤベ。見つかっちまう。隠れなきゃ。
「じゃあ……高耶さんをよろしくお願いします」
「はいはい」
「では……」
やっと直江が帰ってって、オレは母さんと父さんのいるリビングへ。
「直江のことあんまりいじめるなよな」
「あんたの代わりに言いたいこと言ってやっただけでしょ」
「そうだけど、あれはちょっと言いすぎ」
「そうかしら?で、あんたはどうするの?」
「……もうちょっとしたら戻るよ」
あんなに落ち込んでる直江を見たら可哀想になっちゃった。
浮気もしてないみたいだし、本当に仕事よりオレの方が大事だってゆってたし、もう家政婦代わりにしないって母さんに脅されてたし。
落ち着いたら帰ろうっと。
「ただいま」
帰ったのに直江からの返事がなくてちょっと心配になった。
玄関にも出てこない。
「直江?」
いないのかと思ったらキッチンにいて、包丁を持ちながらオレを驚いた顔して見てた。
も、もしかしてその包丁で無理心中しようってゆーんじゃ……オレに家出されたのを苦にして……!
「早まるな!」
「高耶さん!おかえりなさい!高耶さ~~~ん!!」
「来るな!」
包丁片手にオレに向かって走ってくる。このままじゃオレ、刺されちゃうから!
「どこでなにをしてたかなんて聞きません!帰ってきてくれたことだけで充分です!」
「だから包丁持ってこっち来るなってゆってんだろ!」
「高耶さん!!」
抱きつこうとする直江、抱きつかれて刺されまいとするオレのジリジリした攻防があってから、直江はようやく自分の手に包丁があったのを思い出したかのように、ゆっくりとローテーブルに置いてからまた近づいてきた。
「抱きしめてもいいですか?」
「……いいけど、殺さないなら」
「まさかそんなことしませんよ」
「ん」
ギューギューされてチューされて、直江に愛されてる実感を感じながらスリスリした。
そうそう、最近はチューしかしてくれないからダメだったんだな。ギューギューもスリスリもなかったし。
やっぱ直江はこうじゃなきゃ。
「なあ、オレのことちゃんと奥さんだって思ってる?」
「思ってますよ。だから結婚したんじゃないですか」
「……仕事と奥さんを比べるのは無理なのわかってるけどさ、奥さんは仕事と違って直江が大事にしてくれないと寂しがるし、他に大事にしてくれる人がいなくなるんだよ?」
「はい。そうですね。私がわかってなくて、高耶さんに寂しい思いをさせました」
どうやら直江は母さんにこってり絞られてわかったらしい。
今までずっとオレがいい奥さんをやってこれたのは、直江が大事にしてくれてるってゆーのを毎日感じてたからで、それがちょっとでも無くなったら家政婦になった気がするんだって話したら、これからは気をつけるってさ。
「そんで、包丁持って夕飯でも作ってたのか?」
「ええ、少しは自分でやらないとと思って。まだ出来ませんけど、完成したら一緒に食べましょうね」
「うん」
今日の夕飯は直江の手作り。そーいえば直江の夕飯なんか食ったことないな。
どんなのが出来るんだろ?
お風呂が沸いてるから先にどうぞって言われて、夕飯が出来るまでに入ってホカホカして出たら完成してた。
「お待たせしました。どうぞ」
「……これはなんだ?」
「ハンバーグです」
丸くて焦げた肉団子が目の前にあった。これはハンバーグって言うには程遠いような気がするんだが。
付け合せのニンジンもグラッセっつーよりはどうも茹でただけっぽいし。
「まあいいや……いただきます」
食べてみたら案外うまかった。見た目は悪いけど味はまあまあ。
味噌汁はダシが足りなくてイマイチだけど、ご飯は普通だしハンバーグはまあまあだし、60点てとこか。
「おいしいですか?」
「うーん、普通」
「そ、そうですか……やっぱり私は家事がヘタなんですね……高耶さんにばかりやらせまいとこれからは頑張るつもりでいたんですが……」
「いや、いいよ。たまに手伝ってくれる程度でいいから、直江は先生の仕事を頑張ればさ」
これ以上、毎日まずいものを食わされたらたまらないからな。掃除とか洗濯とか手伝ってくれさえすればそれでいいや。
全部キレイに食べてからイチャイチャした。今日はもう仕事しないんだってさ。自分も寂しかったのに仕事なんかやってられるかって言ってた。
「あ」
「どうしたんですか」
「……山田が新任教師なんだってな」
「う」
痛いところを突かれて直江が黙った。青い顔しちゃってビクビクしてる。
「なんで黙ってたんだ?」
「その……余計な心配をさせるので……言えなくなってしまって……」
「まあいいけど。でもおかしな噂が立つってのは、直江にも隙があったってことなんだからな。気をつけろよ」
「はい……」
「もしマジで浮気したら……どうなるか予想ぐらいはついてるよな……?」
「予想も何も、私は絶対に浮気はしませんから!」
そこだけはハッキリと宣言した直江。これなら信用できる。
「じゃあ明日から、山田にくっつかれたら嫌われるような行動をしろ」
「お義母さんと同じこと言うんですね……さすが親子……」
「で、どうなんだよ。出来るのか?」
オレの質問というか命令に直江はクスクス笑ってチューしてきた。
「出来ますよ。ええ、やればいいんでしょう、やれば」
「そうだ」
可愛いワガママをありがとうって言いながらまたチューされた。オレも笑ってチューした。
こういう直江を見てると安心する。オレのやることなら何でも許してくれるんだもんな。
山田のことは美弥が観察してくれるんだから経過は美弥から聞くことにしよう。
とりあえず今は直江とイチャイチャしなきゃな!せっかく仲直りしたんだから!
「もっとチューする」
「じゃあ寝室でどうですか?」
「うん!!」
その夜は直江にたくさんマーキングしておいた。オレは家政婦じゃなくて奥さんなんだから、このぐらいはしてもいいと思うんだ。
だって直江はオレのもんだもんね!一生誰にも渡さないぞ!
END |